飼っていた芋虫がモスラとして異世界召喚された話 作:GT(EW版)
少女の夏休みは終わり、あれから三年の時が過ぎた。
それは小学五年生だった少女が中学二年生になる移ろいであり、平凡な公立校の制服に身を包んだ
大好きな家族がいて、仲の良い友達もいて、何ら不満の無い充実した学校生活を過ごしている。この一年の間に女子としては遅めの成長期を迎えたことで、元々容姿が整っており穏やかな性格をしていた最羅は色を知り始めたクラスメイトたちからも人気があった。
そんな彼女だが元々引っ込み思案な性格であり、人付き合いが上手い方ではなかった。友達と遊ぶことよりも家で昆虫の研究をしていたりする方が好きなぐらいであり、この年頃の少女としては珍しい趣味であったことから同性の理解者もあまりいなかったものだ。
ただ、彼女はそう言った自分の世界に頑なに閉じこもることはしなかった。
趣味は趣味として今も続いているが、それはそれとして人付き合いも積極的に行っている。
親友と呼べるほど深い仲になった相手はまだいないけれど、それでも会話を弾ませたり、放課後には色々なクラスメイトと共に帰る程度には広い付き合いをするようになった。
それは三年前までの彼女を知る者からすれば、驚くに値する変化だった。
──もう、三年も前のことになってしまったのだ。
夏が訪れる度に、最羅はあの時のことを思い出す。
モスラは無事か……あの世界はゴジラの危機を乗り越えられたのかと。放課後にはいつも、そんなことを考えながら外を眺めて黄昏れていた。
そんな彼女の元に、クラスの友人から奇妙な噂が届いたのはその時だった。
「最羅ちゃん、私服はいつもあんな感じなの?」
「えっ?」
昨日、風変わりな民族衣装のような服を着ている最羅の姿を見かけたと。
それを聞いた途端、最羅は目を見開いて食いかかり、彼女に詳しい話を聞き出したものである。
最羅は鞄も持たずに駆け出し、血相を変えてその場所へと向かったのだった。
──そこは人気の無い閑散とした海沿いの道だった。
釣りスポットとしては知る人ぞ知る名所として一部の現地民たちから人気のあるその場所には、最羅がかつて一匹のカイコの幼虫を購入した釣具店がある。
まさかと思い、潮風にスカートと髪が振り乱れるのも厭わず、最羅は手当たり次第、しらみつぶしにその辺りを探し回った。
しかし、捜し人の姿はどこにもない。
もう日は沈み、辺りは暗くなり始めたところで、最羅は捜索を諦めかけたその時──歌が聴こえた。
三年前のあの日以来、聴くことが無かった……もう一度聴きたいと思っていた少女の歌声が。
船着場の方から聴こえてきたその歌声に、最羅は蜜に吸い寄せられる蝶のように、疲れた足でふらふらと向かっていく。
そこには──いた。
クラスの友人から聞いた通りの、風変わりな民族衣装──インファント島の族長衣装を身に纏った、自分と同じ背丈の、同じ顔をした少女が。
儚げな横顔を見せて、穏やかな波がさざめく海を切なそうに見つめていた。
そんな少女は、近づいてくる最羅の姿に気づくと──花の咲くような、満面の笑みを浮かべた。
そして彼女の傍らには、飛べない筈の羽で宙を舞い、白い羽を虹色に輝かせている一匹のカイコガの姿があった。
あの時よりもさらに美しくなった、彼女がいた。
カイコガは最羅の姿に気づいた途端、まるで主人を見つけた子犬のような挙動で彼女の元へ擦り寄り、彼女がおもむろに差し出した両手の上にゆっくりと降り立っていく。
その柔らかな感触を、覚えている。
堪らず、最羅は涙を流して──祝福の言葉を告げた。
「おかえりなさいっ……! レオちゃん……モスラレオ!」
女王は在るべき場所へと舞い戻り、かくして二人の巫女は再び巡り会う。
一つの世界を救ったイモムシの、静かな凱旋だった──。
子供の頃は 感じていた
目に見えないその パワーを
だけど確かに信じている 大きな意思の力が ある
君を好きになって 今 思い出した ことは
あの 深い森の中で ボクたちは泣いて いたね
涙、ちぎれたボクらの愛 空に 宇宙に あり続ける
いつか 再び出会えるなら……
久遠の 神話は蘇る
涙、ちぎれたボクらの愛 空に 宇宙に あり続ける
涙、再び出会えるとき 愛する勇気を 取り戻す
久遠の 「神話」のまま──
【飼っていた芋虫がモスラとして異世界召喚された話 〜終〜】
こんなにも長く……時間がかかってしまった。忘れた頃に本当に申し訳ありません。
最終話でやり切った感があったのと、書き起こしたエピローグが短かったこともあってどうかなと思っていましたが、スクリーンにモスラが帰ってきたので投稿する勇気が湧きました。やっぱりモスラがNo. 1!