飼っていた芋虫がモスラとして異世界召喚された話   作:GT(EW版)

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 GHIDORAH←ぜったいつよそう
 RODAN←かわいい
 GODZILLA←こわそう
 MOTHRA←やさしそう

 四大怪獣の英名ってそれぞれのイメージに合ってて秀逸なアレンジだとワイトは思います。



芋虫もそうだそうだと言っています

 

 

 

 話は聞かせてもらった。人類は滅亡する!

 

 ……藪から棒にすまないが、思わずそう叫びたくなる衝撃の事実を、吾輩たちは知らされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は、集落の中で最も立派な建造物。

 少女が先導する案内の下、兵士風の男たちが数人がかりで警護する霊堂のような屋敷に吾輩たちは迎えられた。

 ここの人々において、唯一吾輩たちと言語のやり取りができるドレスの少女――彼女は奥まった屋敷の広間の中で吾輩たちと向き合うと、護衛の者たちに解読不能の言語を告げる。

 おそらくは人払いの命令か。一同が屋敷の外へ退出すると、吾輩たちと彼女だけが広間に留まった。

 

「………………」

「あ、あの……」

 

 それから数拍、室内は沈黙に包まれる。

 躊躇いがちに向けられているモラの視線を流しながら、護衛たちが退出したことを確認した少女はふぅっと息を吐き、その頭に付けたベール付きのティアラを外しながら、再びモラと向かい合った。

 

 ……本当に、そっくりである。

 

 栗色の大きな目に色白の肌。端麗な顔立ちから体型、背丈まで、違うのは髪型と装いぐらいである。

 彼女はモラと同じ長い黒髪を真っ直ぐ腰まで下ろしており、フリフリのドレスを華麗に着こなした佇まいは気品に溢れた姫君のようだ。凛としたその姿は、荘厳とした霊堂のような造りをしているこの屋敷においてこの上なく似合って見えた。

 そんな彼女はじっとモラの目を見つめると、モラの手から様子を窺っていた吾輩の姿を一瞥し、口を開いて沈黙を破った。

 

『まずは自己紹介させていただきます。私の名前はベラ。この村の長を務めています』

「わ、私は最羅です! 馬原(マハラ) 最羅(モラ)と言います」

『マハラ・モラ……? それは、良い名ですね』

「い、いえそれほどでも!」

 

 同じ顔で見つめ合いながらお互いに名乗り合った二人は、片や優雅に微笑み、片や緊張に声を上ずらせていた。うむ、良き。

 第三者の立場にいる吾輩は対照的な二人の雰囲気を見比べながら、モラの手の上で慎ましく青葉を齧っていた。この葉は桑の葉ほどではないが、噛めば噛むほど味が出てくるな。

 

 ふむ、しかし少女の名はベラというのか……名前まで一文字違いとは、センチメンタリズムな因果を感じざるを得ない。

 あまりにも似過ぎているベラの姿に、寧ろ本当にモラの姉妹なのではないかと血縁関係を疑う吾輩であるが、モラの方は明らかに初対面の様子だった。

 自分と同じ顔を前にして未だ落ち着かない様相を見せるモラに対して、ベラは表情の読み取れない顔で言葉を続けた。

 

『私の召喚を受けたあなた方が、まさかあのような場所に降り立ったとは思わず……救出が遅れ、申し訳ありませんでした。モラ様、お怪我はありませんか?』

「だ、大丈夫ですっ、怪我はないですけど……って、あれ?」

 

 危険だらけのジャングル地帯を一人で渡り歩かせたことに頭を下げるベラに、恐縮な反応でモラが返す。

 しかしそこで一つ、ベラの発言の中に聞き逃せないものがあった。

 モラもそれに気づいたようであり、彼女はおずおずと聞き返した。

 

「あの、今「召喚」って……」

『ええ、そのことで私からあなた方に、感謝の言葉を贈らせてください』

 

 召喚――呼び出すという意味で扱われるその言葉に、吾輩はこれまでの状況と結びつけ、もしやと当たりを付ける。

 

 モラと共に突如として見知らぬジャングルへ飛ばされたあの時――吾輩たちは聴いた。神秘的なメロディーから響く、少女の歌声を。

 

 その声はまさしく今、目の前の彼女が発しているものと同じだったのである。

 

 もしや、吾輩たちがこの地に飛ばされたのは……このベラの仕業だと言うのだろうか。

 吾輩が疑念を抱いた瞬間、ベラはモラから視線を外すと、モラの手のひらで小腹を埋めている吾輩の姿を見ながら頭を下げて言い放った。

 

 

 

『モスラ、異界から遥々と、私の呼び掛けに応えていただきありがとうございます』

 

 

 

 

 

 ……む。

 

 

 ……ん?

 

 

 

 んんん?

 

 

 

 

 いや、待て。

 あいや待たれい、ベラ嬢。その身に覚えのない礼の言葉は、まさか吾輩に向かって言っているのか?

 モラではなく、飼いイモムシである吾輩に?

 明らかにこちらを見て礼の言葉を述べたベラに対して、モラが吾輩の気持ちを代弁するように問い掛ける。

 

「あの……今のは、レオちゃんに言ったの?」

『レオちゃん、とは? ……もしや、モスラ・レオ!? モスラ族の中で最も強い力を持つという、あの伝説の……! 何という……何という奇跡っ!』

「え……ええっ?」

 

 どういうことだ……? この少女はさっきから一体何を言っているのだ?

 頭に直接響いている声は吾輩にもわかる流暢な日本語なのだが、語っている内容は色々と飛躍しており要領を得ないものだった。

 しかも、「レオちゃん」という吾輩の名前を知った途端、ベラは先ほどまで身に纏っていたお姫様然とした気品はどこへやら、輝かんばかりの瞳を大きく開きながら、大股でモラの元へ詰め寄り吾輩に向かってずいずいと尊顔を近づけてきた。

 

 ……吾輩、そう近くで大声を出されると吹き飛んでしまうのだが。人間の息でさえ強風になるイモムシなのだ。差し出がましい話だが、もう少しボリュームを落としていただけると有難い。

 

 モラは彼女の剣幕を前に物理的に揺れ動く吾輩の身体を落ちないよう両手で支えながら、いきなり間近まで詰め寄って来たベラに向かって再度問い掛けた。

 

「あの……どういうことなの? ごめんなさい……貴方の言っていることが、さっきから全然わからなくて……」

『ハッ……も、申し訳ありません! 初めて見たモスラの姿に興奮してしまい、つい……順番にお話します』

 

 困った顔で説明を求めるモラに対して、我に返ったベラが即座に頭を上げると、同じ目線に立つ彼女を前に頬を赤らめる。ベラは客人の前で興奮した姿を見せたことに恥ずかしがっている様子であったが……その姿は年齢相応で微笑ましく見えた。

 思わずモラに近づきすぎていたベラは一歩後ろに下がり、呼吸を整えた後で改めてこちらに向き直る。

 

 そして彼女は、吾輩たちが求めていた情報を――衝撃的な事実を告げた。

 

 

『モラ様と、守護神モスラレオ……貴方がたを「この世界」にお呼びしたのは、私です』

 

 彼女がそう言い放った瞬間、吾輩は抱えていた懸念の一つが見事に的中していたことを思い知った。

 ベラは語る。それは吾輩たちが置かれた立場を語るに当たって第一に、前提として知っておかなければならない重要事項だった。

 

『まず最初に……ここは、貴方がたが暮らしていた世界ではありません。次元の壁を隔てた先にある並行世界の一つであり、貴方がたから見れば「異世界」と呼ぶのが相応しいでしょう』

 

 

 即ち――異世界召喚である。

 吾輩が言うのも何だが、真相は突拍子もない話だった。

 

 

「い、異世界……? そう……そうだったんだね……」

 

 これまでに突然の転移とヤゴの化け物との遭遇という体験をしてきたモラは、彼女から明かされた事実に対して驚きながらも理解は早かった。

 寧ろこれまでの異常体験から鑑みれば、ここは別の世界だとはっきり言い切ってくれた方が受け入れやすくさえある。

 我ながら能天気な話だが、その事実に感心している自分すらいた。

 

「なんだか、アニメみたい……こんなこと、本当にあるんだ」

 

 平穏な日常を送っていた少女が、ある日突然異世界に飛ばされる――サブカルチャーに溢れた現代日本ではそういった出来事をフィクションとして目にする機会は多く恵まれており、モラにも覚えがあったのであろう。溜め息を吐きながら、「帰れるのかな、私たち……」と呟いていた。

 そんな彼女に向かって、ベラは続けて言い放った。

 

『……モラ様、貴方はどうやらご自分の立場を理解されていないようですが……貴方はそのお方、守護神モスラの巫女に選定されているのです。故に私の呼び掛けにお応えしたモスラは貴方を巫女として伴い、あなた方の世界からこの世界へと来訪しました』

 

 それは、モラにとって理解しやすかった筈の話を、あえて拗らせるような説明だった。

 モラはその説明を聞きながら自分の頭で噛み砕くようにうん、うんと頷くと……やはり理解が及ばず、首を傾げながら訊ねた。

 

「えっと……よくわからないけど、貴方が何か不思議な力を使って、私とレオちゃんを召喚したってことでいいんだよね? その、魔法みたいにビュンって」

『魔法? いえ、私にそのような力はありません。人間の力で肉体を異世界へ瞬間転移させるなど不可能です。

 歌による呼び掛けを行ったのは私ですが……次元の壁を乗り越え、モラ様をこの世界へと転移させたのは、貴方が今抱えている守護神モスラです』

「え……どういうこと?」

 

 ほう、そうだったのか。

 

 では「モスラ」というその者が、モラをこの世界へと連れてきたのだな。次元の壁を越えた瞬間転移とは、何とも非現実的な力だ。

 モラの言う通り、それはまるでファンタジー世界の魔法である。そんなことが出来るとは、彼女が呼び掛けたモスラとやらは吾輩たちの想像が及ばぬ超常の存在のようだ。

 

 しかし、その守護神様とやらの仕業でモラが危険な目に遭ったのであれば、吾輩としては一言申さねば気が済まない。

 

 出てこいモスラとやら! じっくり話し合おうではないか! カイコとは言え、吾輩にも信念がある。心優しき飼い主様への忠誠心もな。たとえこの身が虚弱なイモムシに過ぎずとも、飼い主様を泣かせた以上、吾輩にも考えがある! …………ん?

 

 

 

 おや?

 

 

 

「モスラ……? 私が今抱えているって……」

 

 モラが自らの両手に目を落とし、そこに抱えているものを今一度確認する。

 吾輩もまたベラの言葉を頭の中で何度も反芻しながら、熱くなった頭を冷やし状況整理を行う。

 

 一つ、吾輩たちを呼び出したのはベラ。理由はまだわからないが、彼女が吾輩たちを召喚したらしい。

 

 二つ、召喚したのはベラだが、吾輩たちをこの世界へ転移させたのは彼女ではない。ややこしい話になるが、呼び出すのと連れてくるのとではまた別の話ということだ。

 

 三つ、モラはベラの声を聞き届けた「モスラ」のお力によって転移し、次元の壁を越えてこの世界へと渡ってきた。そしてそのモスラは今、モラの手の上にいる。

 

 四つ、彼女の手にいるのはカイコが一匹。ベラはそのイモムシを差して「モスラ」と呼んだ。

 

 

 

 

 えっ

 

 

 

 

 

「……その、さっきから貴方が言っているモスラって……もしかして、レオちゃんのこと?」

 

 

 つまりそれは、どういうことなのだ?

 わかるように説明してくれ、ベラ嬢。そんな意図を込めて、吾輩もモラと共に彼女の目を見つめる。

 そんな吾輩たちに対して、彼女は答えた。

 

『はい。その方こそが超常の力で次元を越え、私の召喚を受けて降臨したインファントの守護神――怪獣女王モスラです』

 

 

 吾輩、ただのカイコなのだが……嬉しそうな顔で、何を言っているのだこの子は。

 

 守護神だとか次元を越えただとか、その口ぶりではまるで吾輩が何かとてつもない存在であり、己の力で異世界転移を行いモラを巻き込んだようではないか。

 

 吾輩知らない。怪獣女王とかモスラとか、さっきから何やら大それたことを言っているが、吾輩にはまるで身に覚えがないぞ!

 そったらこと言ったって吾輩イモムシだし。

 

 

「あのね……この子はカイコっていう昆虫なの。そんなこと、できるわけないでしょ?」

 

 イモムシもそうだそうだと言っています。

 

 可哀想なものを見る目で彼女にカイコの生態を教えてやるモラの言葉に追従して、吾輩もブンブンと頭を振った。ついでに青葉を喰らう。うめぇ。

 

 しかしベラは、断固としてその言葉を受け入れなかった。

 

『いいえ、モスラです! そのお方こそが、あの伝説の……っ、本当に……ほんとうに、よく、いらして……っ』

「ベ、ベラさん!?」

 

 待て! 待つのだベラ嬢、何故ウルウルと目を潤わせている!?

 吾輩を見て君は、なにゆえ感極まっているのだ。何故そのような、絶望の果てで救世主に巡り会えたような反応をする!? まるで意味がわからんぞ!

 

 だが何かが決壊していくように、ベラはモラそっくりな顔を歪め、嗚咽と共に大粒の涙を流した。

 そんな彼女を前ににして、モラは激しく動揺しながらも目の前で泣いている人間を放っておくことが出来ず、吾輩を近くにあった円柱型オブジェの上に置いた後、彼女の背中をよしよしと擦った。

 

『す、すみません……っ、今の私たちにはどうしても……どうしても、あなた方のモスラの力が必要だったのです……』

「……ゆっくりでいいから。どういうことか、ちゃんと教えて?」

『はい……』

 

 未だ話は見えてこないが、彼女には何か並々ならぬ事情があるのだということはわかる。

 わからないなりにそのことを察したモラに優しく宥められながら、ベラはポツポツと詳しい話を語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――人間ではなく、溢れんばかりの「怪獣」たちが地上を支配する、この世界のあらましを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 世界観としてはだいたいガメラ3ぐらいな感じをイメージしていただければと思います。こう、怪獣カーニバル的な意味で

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