先生とぐんちゃん   作:黒姫凛

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ぐんちゃんを妹にしたい(切実

目指せほのぼの


新たな先生

今日も鬱な一日が始まる。

目が自然と覚め、少し怠い身体をゆっくりと起こし、ふと()()()()の時計を見つめる。

丁度7時を指した針にため息を吐き、もう一度ゴロンと布団に寝転がる。

 

今日は新学期初日。5年生に上がり、新たな小学生生活が始まる。

前日が春休みだった事もあり、もっと休みたいと憂鬱になりながらも自然と身に染みた生活リズムが憎たらしく、もっと寝たいという欲求が悶々と頭を過る。

 

が、彼女はそれ以上に嫌になる事があった。

普通、新たな学年に上がる子供達はワクワクとドキドキでいっぱいだ。友達と一緒のクラスになれるのか、好きなあの子はどのクラスなのか、どんな先生なのか。真新しい事がやって来ることに楽しみで仕方がない。

 

しかし彼女は違う。

彼女は、一言で言えばいじめを受けていた。母親の不倫から始まった事件が、身内内から一気に広がり、町中に広がってしまった。

それによって大人達からは蔑まれ、子供達からはいじめの対象として認識され、辛い思いを日々していた。

 

無論、子供達は楽しいからしているという、子供の頃特有の感情によるもので決して悪気があってやっている訳では無い。ただ単純に楽しいからやっているだけ。

それ故に彼女は心に傷を負う出来事になっている。

 

「…………」

 

まるで()()()()()ような静けさの中、彼女は身体を再び起こして隣にあるゲーム機に手を伸ばす。

友達のいない彼女にとっては、それが唯一の娯楽である。

登校時間までの時間、()()()()()ただひたすらゲームに勤しむ。

それが彼女、郡千景(こおりちかげ)の生活風景の1面であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5年2組。それが今年の彼女の教室であった。

既に他の子供達は新しい教室に入り、そこで見つけた新しい同級生達と話をしたり、手遊びなどで距離を縮めていた。

 

千景は登校時間ギリギリに登校。

無論その輪のどれかに入る事など出来るはずもなく、廊下に張り出してあった席に音もなく座る。

 

その姿は教室の誰もが目にし、馬鹿にしたような目で、蔑むかのような目で千景を見つめ、小さく、それでいて本人にも聞こえるかのような声でボソボソと話し始める。

 

「また『いんらん娘』は1人だぜ」

 

「クハハッ、腹痛てぇよ」

 

「なんであの子と一緒のクラスなのよ……」

 

「あーあ、あの女と一緒かよぉー」

 

耳に入れたくなくても入ってくる嫌味の数々。

耳を塞ぎたいが、それだと何をされるか分かったものでは無い。目を瞑ろうにも、前に石を投げられた事もあって目も瞑らない。

ただひたすらじっとするだけ。何も言い返す事もせず、何もしない。

早く放課後になれと、心の中でずっと呟く。

 

ボロボロになった上履き。鋭利な刃物で傷つけられた赤色のランドセル。洗濯する人がいないので自分で洗濯したしわくちゃの服。

これを見るだけでも、彼女はどれだけ周りから被害を受けているのかは明白である。

しかし、誰も味方しない。全てが敵である。

 

今年も憂鬱な1年が始まるのだと、千景は諦めを込めて脱力した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8時15分。先生がやってくる時間だ。

春休み前の終業式で転任する先生とその入れ替わりで入ってくる先生達の紹介を受けていたが、どの先生がやってくるかは分からない為、千景を抜いたクラスのメンバーはワクワクでいっぱいであった。

 

千景がその一人でないのは、先生達自体イジメに対して何もしない体。見て見ぬ振りをし、まるで居ないかのように扱う始末。

何故そんなにも酷い扱いが出来るかは神のみぞ知るが、千景にとっては物凄く迷惑極まりないのである。

 

自然と席に座る子供もチラホラ出てき始め、話題は全て新しい先生の話。千景に対する話題でないことが、千景にとってはとても有難いことである。

 

 

ーーーガラガラッ

 

 

不意に今日の扉が開く。子供達の視線は扉に向けられた。

 

「ーーーよーし、みんな席に着いて!!」

 

入って来たのは男の先生。少し黄色がかった長い茶髪後ろに纏めたオールバック風の髪型。少し焼けた肌にがっちりとした体格。春先で少し肌寒さも感じる中で、半袖半ズボンというラフな服装。完全に体育会系の先生だと分かる見た目の先生であった。

顔立ちも中々にいいと思う。クラスの女子達が頬を赤める程にはいい顔をしているのだろう。

 

しかし千景にとってはとても嫌な相手であった。

この手の先生は千景だけに生き恥をかかせることが多い。体力が無い千景は、体育でビリだと他の子と比較される事が前に何回かあったのを思い出す。

それがどれだけ辛かったのかは本人しか知らないが、千景にとっては嫌な先生である。

 

壇上に立った先生は、教卓にクラス名簿をおき、チョークを手に取って黒板に板書し始める。

 

「えー、先生の事を見たのは多分春休み前の終業式だと思うけど、覚えてるかな?」

 

板書しながら話す先生。書く文字はとても大きく男らしい。

 

「まぁ改めて自己紹介するから思い出さなくてもいいんだけどね」

 

最後の一画をしっかりとした払いと共に、チョークを置いた先生はにこやかな笑顔で振り向く。

 

「今日から1年間、このクラスで教鞭する事になった()()()だ。去年まで香川県の中学校で教師をしてましたが、今年から高知県にやって来ました。好きな食べ物はうどん。趣味はスポーツ全般とうどん作り、ちょくちょくゲームも齧ってるかな。君達に教える教科は体育と国語、後はクラスでやる学活。どうぞ1年間よろしく!!」

 

ぱちぱちとクラス中から拍手が巻き起こる。無論千景も小さくだが拍手をする。

だが千景の予想通り体育を教鞭すると来た。千景にとって宜しくされたくないのが若干の本音である。

 

「じゃあ何か質問あるかな?あったら手を上げて、当たったら名前をフルネームで言ってから質問してください」

瞬間にバッと手が多く上がる。何度もハイハイッと手を上げたり、立ち上がってアピールする子もいる。

まるで幼稚だと千景は呆れ、机に突っ伏した。

 

「じゃあそこの元気のいい君にしようかな」

「うっしゃーっ。えーと、すずきしょうたです!!サッカー好きですか?」

 

「サッカーね。先生はサッカーよりも野球とかが好きかな。でも昼休みとかの時間にやるなら先生も誘ってくれると嬉しいかな。はい次」

 

入れ替わるように手が上がる。

先生は今度は教卓に近い女子を当てた。

 

「あの、櫻木亜子って言います。彼女さんとかいますか?」

 

「うわぁー、流石にそれは生徒の前では言えないなー。まぁ言っちゃう。彼女はいないよ」

 

少し笑いを交えた話に、クラスの子供達は自然と惹かれていっている。

冗談交じりに話す犬吠埼先生はとても親しみやすいんだろう。面白いことに惹かれる子供にとってはとてもいい先生だと思うが、千景は次第に膨れ上がる胸の痛さに顔を顰める。

これ以上クラスの中が1つになって行くと、余計に千景のいる場所がなくなっていく。無性に腹立たしく、それでいてとても辛い。

もどかしい感情が千景の心を強く苦しめる。

 

それから幾つか質問を受けた先生は笑いと冗談を交えて答えた後、時計を確認して質疑応答を打ち切った。

 

「じゃあそろそろ時間なのでここで終わります。次は学年集会だから体育館に移動するぞ。その後教科書とか配るからなー。今日は重たいランドセルを背負う事になるぞー」

 

ええーっと肩を落としたクラスの声。新学期初日はこれがあるから鬱になるのだ。

先生は生徒達の姿にまるで意地悪成功と言わんばかりの笑顔になる。

 

「じゃほら、廊下に並べ。先生がこのクラスになった以上、どのクラスよりも1番になるぞ」

 

『はーい』

 

子供達は次第に机の横にかかった体育館シューズを手に取り廊下に出始める。

千景もそれに習い、他の子達が居なくなり始めた頃に動き出したのであった。

 




多分次で先生と絡むかもしれん

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