先生とぐんちゃん   作:黒姫凛

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目指せホノボノ

そして伸びよこの小説!!


先生の思い

この学校に来て、少し違和感を覚えた。

別に何処も彼処も普通だ。唯一前の学校と違う点をあげるなら都会か田舎の違いによる生徒数だろうか。

緑豊かで空気も美味しいし、静かな所が意外と好きな俺にとってはありがたい学校であるのは確かだ。

 

しかし、どうにも解せないと思ってしまう。こう、喉元に引っかかって取れない感じがある。

クラスの雰囲気はいいと思う。が、どうにも違和感がある。

先生方も悪い先生では無いと思う。が、郡さんの一件からどうにも違和感を感じ始めた。

 

ただの思い過ごしだと思いたい。初めての土地で少し神経質になってしまったかもしれないな。

もう少し様子をみてみることにする。

 

 

 

 

この違和感をもう少し気にしていれば、俺は郡さんを傷付けずに済んだかもしれない。そう思った頃には、既に事は起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

給食の時間になった。

千景にとってはあまり好きではない時間。

確かにお腹は減っている。しかし、今日のいじめを考えると何をされるか分からないのでとても怖い。

しかも今日は給食当番だ。「いんらん娘がよそったものなんて食えるか!!」「俺の食べ物に触れるな!!」。何度も言われたその言葉。先生は先生でそんな状況を見て見ぬふりをし、早く仕事をしなさいと行ってくる始末。

給食の時間、しかも給食当番と言うダブルコンボ。給食当番の子の給食は他の人がやってくれるのだが、千景の分は誰もやることは無いと千景自身が理解している。

故に千景は手袋をして配膳する。こうすれば何も言われない。笑われるだけだ。まだマシだと、千景は心の中でそう言い聞かせる。

が、何故か千景の予想の斜め上を行く発言を聞く。

 

「ーーーおっ、郡さんは偉いな。流石学級委員。クラスメイトの為を考えてバッチリ手袋をして食中毒予防とは。先生じゃ考えられんな」

 

無論そう呟いたのは犬吠埼先生だ。

千景の前にお盆を持って立つ先生は、うんうんと唸って感心している様子。

 

「汚れを目立たせる為の真っ白な白衣。唾が飛ばないようにする為のマスク。髪の毛が入らないようにする為の帽子。食中毒や異物混入をしない為の装備にまだ新しい装備があったとは……。そうだな、これからは給食当番は全員手袋着用を義務付けようか」

 

まさかの義務付けになった手袋着用。

千景は思う。何故この人は無意識に私を助けてくれるのかと。どれだけ自分を見ているのかと。嬉しさの反面恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「えー、なんだよ先生。手袋なんてしなくていいだろー?」

 

「ふふふっ、甘いなお子ちゃま達よ。君たちの事だ、爪はあまり切っていないだろう?」

 

「えっ?そりゃー面倒だし……」

 

「爪には大量の菌がいるんだ。5ミリ単位でその量は何十倍となり、とても不衛生な部分になるんだぞ。もしその爪の菌が体の中に入ってみろ。お腹壊したり病気になるぞ〜」

 

「うぇー、病気なんかになりたくねぇ。今日の給食当番全員手袋しろよなぁー」

 

「はぁー?面倒だし嫌だよ。俺は昨日爪切ったから大丈夫だもんねー」

 

「でもお前手洗ってなかったじゃん!!」

 

「うわっ、きったねー」

 

一気に広がる手袋つけろ派とつけたくない派。

千景の予想だにしないことが何故か一人歩きで爆発した。

先生はこれを狙っていたのか。いや多分偶然だ。それこそ、まだ千景の現状を理解してない先生は、無意識で千景を褒めたのだろう。学級委員と言う立場を指し、千景を見習えとでも先生は言いたいのだろうか。どっちにしても、千景にとってはなんとも言えない気持ちが湧き上がる。

 

「取り敢えず配膳進めてくれない?郡さん、多めに頼むよ」

 

千景の今日の担当は副菜だ。1週間でローテーションして行う配膳。

副菜は1番子供が残すと言ってもいい。先生はそれを見越したのかそれともただ食べるのが好きなのか分からないが多めに注文する。

多分残るだろうと思った千景は山盛りに前菜を盛る。

 

「おっ、気前がいいな郡さんや。有難く食べさせてもらうよ」

 

そう言って先生は隣に移って行く。

その言葉がどうしようもなく千景の心をむず痒く刺激するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

配膳が終わった。

白衣等を脱ぎ、自分のロッカーに閉まった千景は自分席に着く。

案の定、机の上には()()()()()()

チラッと横目で周りを見る。殆どの子が隠れて笑っていた。

仕方のないことだ。慣れっこだ。だいたい給食当番の時はこうなる事が分かっていた。

だから何も言わない。何も言わない……が、千景の顔を伝う涙だけは抑えきれなかった。

 

先生に無意識にフォローされ、そんな自分の環境が変わっていることに嬉しさを感じたが、まるで谷底に突き落とされたような感覚。余計に淡い期待を持ってしまい、結果胸を苦しめるものとなってしまったのだと千景は思った。

 

どうしようもなく、悔しくて辛い、この現状に涙する千景。

無論近くの子達は手を指し伸ばしてくれることはない。

そう、()()()()

 

 

 

「ーーーんんん?おいおい。なんで郡さんは泣いているんだ?」

 

 

どうしようもない千景に声をかけたのは、誰でもない、犬吠埼先生だった。

食事中だった事もあり、少し今日のコロッケの匂いがするがそれは些細なこと。膝を着いて目線を合わせてくれる犬吠埼先生に、千景は更に涙を流すしか無かった。

 

「うぉっ、どど、どうしたんだ郡さん。何か悲しい事でもあったのか?って、おい。郡さんの給食が無いじゃないか。担当者誰だよ!」

 

千景の机の上に給食が無いことを知った犬吠埼先生は少し怒り気味に怒鳴る。しんと静まり返る教室内。そんな中、自分が担当だと名乗り上げる子などおらず、担当するはずだった子は口を瞑っている。

 

「えっと、郡さんの担当は……、小川ァ!!お前じゃねぇか!!」

 

「っ、はい!!ごめんなさい!!」

 

小川と呼ばれた子はビクッと身体を震わせた後、涙目になりながら声を枯らして返事をする。

 

「取り敢えずお前は放課後教室に残りなさい。幾つか聞かなきゃならないからな」

 

やらかした、誰もがそう思った瞬間だった。

あれほど優しく接してくれた先生が初めて見せた怒気の顔。

この先生を怒らせるのは間違いだと、多くの子供達が理解する。

 

「ほら、郡さん。涙を吹きな。先生と一緒によそおう」

 

ポケットからハンカチを取り出した犬吠埼先生は優しく涙を拭い、千景を立ち上がらせ、食缶の中を確認する。

 

「……全部殻かよ。仕方無いな、他のクラスから分けてもらおうか。行くぞ郡さん」

 

と、千景の手を握った犬吠埼先生はそのまま教室を出ていく。

残ったのは、今にも泣きそうな小川と呼ばれた少年と、静まり返った5年2組のメンバーだけであった。

 

 

 

 

 

それから全教室を周り、何とか一人分を用意犬吠埼先生と千景。

教室に戻ると、いつもとは違った活気のないクラスメイト達が俯きながら静かに給食を食べていた。

 

「さぁ郡さん。時間もあんまりないから早めに食べな」

 

「……はい。ありがとう…ございます…」

 

鼻をすすり、自分の席に着く千景。

ゆっくりだが食べ始めた千景を見た先生は、自分も給食を食べ始める。

その日は終始、一言も生徒は話さなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の授業が終わった。最後の担当の先生と入れ替わるように犬吠埼先生が入ってくる。が、その顔は少し不機嫌だと読み取れる表情をしていた。

生徒達もそれは十分理解していた。

給食での一件後、誰も彼もが借りた猫のように大人しくなった。

千景をいじめる事も誰もしていない。千景はその事に安堵しつつ、先生が笑顔を見せない事にやるせない気持ちになっていた。

 

「……取り敢えず、今日1日お疲れ様。昼は怒鳴ってすまなかった。が、俺の謝罪とそれとは別だ。まず小川、後でしっかり話すがお前は何が悪かったのか理解しているか?」

 

「……はい、してます」

 

「ならいい。次にだが、小川が郡さんの給食を用意していなかったことに気付いたのはどれくらいいる?」

 

先生の問いに、誰も手を挙げなかった。無論、用意されていない事を知っていた千景でさえ。

 

「……分かった。ちょっと聞き方が悪かったな。全員、机に伏せて目を瞑れ」

 

先生はそう言うと紙を取り出して何かを書き始める。

生徒達はおずおずと言った感じで机に伏せ、目をつぶった。

 

「顔が上がらないように両手で頭を抑えろ。絶対に上げたり目を開けたりするなよ」

 

両手を後頭部辺りに置き、ギュッと目を瞑る生徒達。

一見体罰のように見えるが、目を瞑ったままこういった事をすると意見が流れやすくなるので、誰も見えない状態で手を上げさせる方がより自分の意見に正直になれる。また友達関係も壊れないしいじめられるリスクも減る傾向がある。

犬吠埼先生はそれを見越してそうさせたのだった。

 

「次は真剣に答えろ。ほんとに知っていたのか、知らなかったのか、自分の中で考えろ。先生以外誰も見ていないから安心してくれ。じゃあもう一度聞くぞ。郡さんの給食が用意されていない事を知っていた人は頭の上で手を上げろ。難しいなら少し上がっているだけでもカウントするから大丈夫だ」

 

物静かな教室に、服の擦れる音が聞こえる。これが先生の服なのか、他の子なのか分からないが、誰かが動いたのは誰もが分かった。

数秒、数十秒と、まるで本当に手を挙げている人を数えるかのように時間が置かれる。

普段の生徒達なら、誰が手を挙げたと気になるところだが、今の先生をこれ以上不機嫌にさせるのは不味いと誰もが理解していたため大人しくしている。

 

「よし静かに下ろせ。………次に知らなかった人は手を挙げろ」

 

再び服の擦れる音。誰が手を挙げたと生徒達は気になって仕方無かった。

先程の問と変わらず置かれる間。時計の針だけが鮮明に聞こえる。

 

「よし、静かに下ろせ」

 

再び聞こえた服の擦れる音。

そして数秒だった後、先生から顔を上げろという指示が出る。

 

「別に今のを公開するわけじゃないから安心してくれ。何故そっちに挙げたのかも聞かない。事情があるのは理解出来るし、ほんとに知らなかった人もいるかもしれない。だけど、だけどもだ。理不尽なことを言うから申し訳ないと思うが、何故そんな状態を作ってしまったんだ?俺はこのクラスは皆仲がいいと思ったのが第一印象だ。だが一週間経って見てどうだ?どうして仕事を全う出来ない。どうしてそれを教えてあげない。君たちはクラスメイトだろ?なんの為にこんな大人数がこの教室にいると思う?そりゃ気付けなかった先生にも非がある。そこは先生も反省するし、次はこんな事にならないようにしたい。郡さん、気付いてやれなくてゴメンな」

 

犬吠埼先生は千景は申し訳なさそうに頭を下げた。千景はどうしていいか分からずオロオロしてしまう。

数秒経って顔を上げた犬吠埼先生は再び思いの丈を語る。

 

「この教室はみんな仲間だ。先生はまだ君達と関わって一週間。でも皆はもう5年目になるんだ。初めて話した子もいるかもしれないが、先生よりも長くその子達と近くで生活して来たんだ。皆協力し合って、助け合わなきゃ。今回の事でそれをしっかり学んで欲しい」

 

先生は静かに教卓から移動し、プリントを配り始める。

回ってきたプリントは自分の分も含め、初めて2()()あった。

 

「兎も角だ。今一度、5年2組の絆を深めよう。次誰かが仕事を忘れたり、困っていたり泣いていたりした時は、皆で協力し合いなさい。それが、まずこの一学期の目標とします。小川はそのまま職員室に来い。以上」

 

言い終えた犬吠埼先生は早歩きで教室を出て行った。

最後の最後まで誰も何も言わなかった。千景も同様だ。本気で自分の事を考えてくれる先生に嬉しさを感じる一方で、そんな先生を悩ませる自分がとても嫌で嫌で仕方無かった。

 

 

 

しかし、誰も気付かなかった。誰も分からなかった。

これ以上に、先生がブチギレる出来事が何度も起こるとはーーー。

 

 

 

 




給食って響き懐かしい。
毎日牛乳5本とどこからともなくやって来るお残しの食べ物の山を完食してダイソンの掃除機と言われた思い出があります。

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