IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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#7 いやな予感しかしない

 時計の針はすでに5の部分を指しており、学生寮の廊下ではオフの時間を楽しむ生徒達の姿を見かける。

 いくつかの鍵を持ったご機嫌な本音が袖を振り回しながら歩いていく。時たま手から鍵が飛んでいってそれを拾いにいったり近くに居た生徒に当たったりしたこと以外は大きなトラブルもなく、寮内の一室の前に辿り着く。

 

 本音から鍵を手渡された緑葉が鍵穴に鍵を指し、施錠を解除しドアノブを回す。

 

「おぉ〜」

「これはまた、いい部屋じゃないか」

 

 部屋に入るとまず大きなベッドが2つ並べておかれており、テーブルの上にはお湯を沸かすポッドがあるし24型のテレビも設置されている。窓も大きめで丁度夕日が入り込んできている。

 Wifiのルーターもあるわバスルームもしっかり完備と、並みのビジネスホテルよりも高級である。もはやそれと比べるのもおこがましいぐらいに設備が良すぎる。

 龍驤がベッドを触ると生地に沈んでいき驚きの表情を浮かべる。

 

(触ったら分かる、これ起きれんやつや)

 

 テレビをつけたら夕方のニュースがやっており、リモコンを持った藤川は何気なくザッピングしていくと当たり前のようにBSとCSが観れる事に気づく。

 

(待遇良すぎないかコレ)

 

 想像以上の設備の良さに一同言葉が出ない中、本音は緑葉の手に2つの鍵を渡す。

 

「これはここと左隣の部屋の鍵、じゃあおやすみ〜」

 

 そう言い残した本音は部屋を出て行き、部屋の中には緑葉達が残った。

 しばらくの間は部屋中を見て、どこに何があるのかを確認した後、藤川は椅子に、龍驤と緑葉はベッドに腰掛けた。

 

「部屋割りはこっち2人藤川1人で決定ね、というかそれしかないし」

「そりゃ、勿論そうなるわな俺は」

「てか少し休まへん?疲れたわ」

「そうだねー、じゃあ7時ぐらいになったらご飯どうするか決めようか」

「それじゃあ俺は向こうに行くから」

「何かあったら連絡ちょうだいね」

 

 クタクタな龍驤はもぞもぞと布団に入り、藤川は自分の荷物を持って部屋を出る。同じく疲れていた緑葉もアラームをセットして少し仮眠を取ることにした。

 

「寝てるとこ襲ったらアカンで」

「大丈夫そんな余裕ないから」

 

 ジト目でこちらを見つめる龍驤に背を向けながら緑葉も布団の中に入り込み、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学生寮には消灯時間というものが設定されている。

 22時を過ぎると消灯時間となり、廊下の電気は全て消される。その間は原則として生徒達は特別な事情がない限り廊下を彷徨く事は基本的にNGである。なおたまに消灯時間が23時の時もある。

 

 今日も時計の針が22時を回った瞬間廊下の電気が消され、たちまち長い一直線の路線が闇に染まる。普段は生徒達で賑わう廊下もこの時間帯はどこか薄気味悪いものを感じる。

 

「真っ暗すぎて何も見えねぇよ」

「シッ、デカい声出さないでよヒゲ」

 

 両手に飲料水がギッシリ入った袋を持ちながら藤川が肩を落とす、横を歩いていた緑葉が小声で注意する。

 緑葉達が買い物を終え学園に戻ってきた時には既に電気は消され、今は重い荷物を担ぎながら長く暗い廊下を歩いていた。

 

 藤川がボヤく気持ちも分かる。本当に真っ暗なのだ。仕方のない事なんだけどせめてオレンジ色のあの薄明かりのやつにしてくれたっていいだろうに。

 これで見回りの先生とかに見つかったら確実に明日織斑先生の出席簿がしなる。アレを体験してるのはこの中で緑葉だけ、細心の注意を払いながら自分達の部屋へと急ぐ。

 

「エレベーターが動いてて良かったなぁ」

「これで動いてなかったら私は廊下で倒れるようにして寝てた」

「最悪もう車中泊かカプセルホテルだったぞ」

 

 エレベーターから降り、早足で自室まで急ぐのだが、緑葉らの部屋はエレベーターから結構距離があるのだ。

 

 そもそも何故買い出しにいかなければいけなくなったのか。実は緑葉達、あまりに疲れていたためすっかり寝入ってしまいアラームが鳴って止めて二度寝。3人の中で最初に目が覚めた龍驤が時計を見たら既に9時を回っていた。

 食堂は閉まり、手持ちの食べ物は緑葉がリュックの中に入れていたオヤツ用のあんぱんのみ。さすがにまずいと思い緑葉達は車を飛ばし、曰く「1か月立てこもっても大丈夫なほどの」食材を買い込むため最寄りのスーパーマーケットへ行ってきた。帰り道にあったラーメン屋で夕食を済まし、つい先程帰寮したというわけだ。

 

 肩で息をしながら部屋まで歩を進めていく緑葉だったが、ふと視界の端に何か影が過ぎ去っていった。

 思わず歩を止め影が通っていった方向を見るとどうやらその影は人影のそれだというのがエレベーター内からの明かりで確認できた。人影が乗り込んだエレベーターは緑葉らがいる階層から下に降りていき1階のところで止まった。

 

「うん……?」

 

 緑葉は首をかしげるが藤川と龍驤は気付いていないのか変わらずに歩き続けている。気のせいだと捉えるには無理があるほどハッキリと人影だと分かったし、ましてや霊とかの類いではない。

 

「これ持って部屋戻ってて」

「えちょちょちょ!?てか重ッ!待ってやどこ行くんや!?」

「ちょっとね」

 

 人影がどうしても気になった緑葉はその正体を確かめに行くため、両手を塞いでいた荷物を龍驤に預け、エレベーターに乗り込み、1Fと表示されているボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 真っ暗闇になった廊下を急ぎ足で歩く人影がひとつ。

 

 相川清香は周囲に細心の注意を払いながらとある区画へと急いでいた。

 その区画とは整備科がISの修繕や整備を行なうための格納庫であった。この時間帯は人が入らないように扉には鍵が閉められているのだが、一直線に扉の所へ向かった相川はドアノブに手をやり手首を捻る。

 

 ドアノブはゆっくりと回り、鍵が掛かっているはずの扉はあっさり開いた。閉まる時の音が鳴らないようにゆっくりと扉を閉めた相川は各ハンガーに掛けられた<打鉄>や<ラファール>など多種多様な機体の数々には目もくれず格納庫を走る。

 

 格納庫の端に差し掛かった辺りで相川は周囲を見渡し、自分以外に誰もいないことを確かめる。すると相川は何故か壁を軽めに2、3度ノックするように叩いた。

 しばらくした後壁の向こう側からトントンと音が響く。それを確認した相川は両手を壁に当て目一杯に押し込む。すると壁はゆっくりと、だが確実に奥へ奥へと動き、相川の身体は壁の向こう側へと吸い込まれるようにして消えていく。

 

 壁の向こう側に広がった秘密のスペースの一角には1機のISが鎮座されている。その機体の周りには仄かに灯りがともっており、脚部の辺りに膝をつきながら装甲を拭いている人物を見つけた相川は声をかける。

 

「南井先生」

 

 南井先生と呼ばれた女性は相川の姿を見ると微笑みを浮かべる。相川は手に持っていた袋を南井へと渡す。

 

「あ、相川さん。今日も来てくれたんですか?」

「これ、夜食のパンです。良かったらどうぞ」

「相川さんも、いつもありがとうございます」

「いえ……」

 

 相川と南井はハンガーに掛けられている機体に目をやる。

 流線形のフォルムにはまだ本塗装が塗られていない。しかしまるで今か今かと出番を心待ちにしているようにも感じ取れた。

 

「ついに、ここまできました…」

 

 南井が息をつき、感慨深げに呟く。彼女が感慨深げにしているのには理由があった。

 

 本機は「IS学園機体開発計画」において、IS学園設立当時の生徒達(1期生)の手で開発を進められた機体であった。

 しかし彼女達の卒業と共に計画は凍結、以後数年間学園内の倉庫の中にしまわれていたが縁あって先生という立場として再び学園へと戻ってきた元1期生の南井杏奈の手により無許可ではあるが開発が再開されたのだ。

 

 そんな中、偶然この計画を知ったのが相川であり、その時に南井からは他の人に知られたら面倒なことになるから誰にも言わないで欲しいと口止めをされた。

 南井の説得の甲斐あってか(相川自身も面倒ごとは避けたかった)相川は口止めをすると約束したのだが、その時に彼女は1つの交換条件を出した。曰く、

 

「私にも手伝えることがあれば手伝わせて欲しい」

 

 嬉しい誤算と言うべきか、パートナーが欲しかった南井はそのお願いを了承。

 以来彼女達は二人三脚でこのISの開発を進めてきていた。そして工程の9割を終え、残すは本塗装のみとなった。

 

「良かったですね、先生」

「えぇ」

 

 機体開発を手伝ってきた相川が労うように声をかけ、南井もゆっくりと頷く。

 

「やっぱり、先生が乗るんですか?」

 

 相川の質問に対し南井は考え込むように顎に手を当てる。

 まだ搭乗者が決まっていないのだ。極秘裏に開発を進めてきたから機体の存在を知る人が少ない為当然といえば当然である。

 

「そうですね、候補者はいるのですが…まぁそれは追い追い考えましょう。後は私がやりますので今日のところは相川さんは帰って休んでください」

「いいんですか?」

「もし他の先生に見つかったら私の名前を出してもいいので。では、おやすみなさい」

 

 先生にそう言われてもらってはお言葉に甘えさせて頂こうと、相川は南井へ向かい「おやすみなさい」と頭を下げ部屋を出る。

 

 相川は顔に微笑みを浮かべながら暗い格納庫内を歩く。足取りからしても上機嫌なことが窺える。あの機体が鮮烈にデビューする姿を見ることが待ち遠しい。そして南井には言えなかったが、本音を言えばやはり乗ってみたいのだ。

 

 一部の専用機持ちの生徒を除けば、普段の授業でも放課後の時でもISに触れる時間は限られている。そのため放課後は腕を磨こうと<打鉄>などの使用許可を求める生徒が多く、その競争率は熾烈を極める。何十分の1という確率で使用許可が取れたとして、それでも使える時間は限られてしまう。言うなれば専用機というのはIS乗りとしてはステータスの一種でもある。

 

 勿論、専用機を獲得するには其れ相応の腕前と努力、任せられるコネクションが必要となる。だからこそ世界各国から来賓が集まる場で結果を出すのは自ずと大事になってくるのだ。

 かく言う相川もイベント後の立食パーティーなどで企業や要人に自分のアピールポイントを売り込んだ事は1度や2度だけでは無い。尚、今のところ成果はナシである。

 

「早く帰って布団に入ろ…」

 

 他人には見せられないほどの大あくびをした相川はバレないように足音を立てない忍び足で格納庫から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 <打鉄>の影に隠れ、格納庫の扉を閉める相川の姿を見つめ妖しげな笑みを浮かべていた緑葉に気付くこともなく————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日朝5時。<ラファール>を使って練習を行おうと前々日から使用許可を申請し、なんとか許可が降りた生徒が朝の練習をするため格納庫を開けて自分が使用する機体へ向かおうとした時、<打鉄>の側で倒れこむ人物を発見し大騒ぎとなった。

 その倒れていた人物こそが緑葉。部屋に戻った後すっかり寝床についていた藤川と龍驤にとって、まさに寝耳に水といった様子であった。

 

 発見された時、生徒や先生らが辺りを確認する。緑葉はISに覆い被せる為のシートを4枚ほど剥ぎ取っており、うち1枚を丸めて枕にし、後の3枚を布団に、地面にはマットを敷き万全の体勢でぐっすりと熟睡していた。

 まだIS学園に来てから1日も経っていないにも関わらず珍事を起こしまくった緑葉に対し千冬は頭を抱えながら目覚ましと言わんばかりのデコピンを緑葉のおでこにおみまいした。

 

 

 

 

「で、何か弁解の言葉は?」

 

 場所を移し、時間を進ませ、現在緑葉達は緑葉らが泊まっている部屋へと戻り3人が顔を見合わせている。

 藤川と龍驤が醸し出す威圧感に恐縮しながら緑葉は身体を縮こませる。

 

「言っとくけど、ウチらめちゃくちゃびっくりしたんやで。あの後部屋戻って幾ら経っても戻ってこないから大丈夫なんかなぁ、でも大丈夫やろと思って、移動で疲れたしウチはすぐにシャワー浴びて着替えて布団に入って寝たんよ。

で、朝の5時過ぎくらいかに突然ドアをドンドンドンと叩かれてドアを開けたら山田先生が居たんや。緑葉も知っとるやろ?あの巨乳の副担任や」

 

 巨乳、と言うところを若干強めに言い、どこか顔を顰めながらも龍驤は続ける。

 

「どうしたんですか?と聞いたら、すぐ来てください!と言うから、何があったんやこんな朝っぱらからと思って外套羽織って山田先生についていったんよ。藤川ともなんでウチら呼び出されたんって思いながら行った先に緑葉が寝てたんや!」

「いや、私だってね、あそこで寝たくて寝てたわけじゃないから!部屋戻ろうとしたらどういう訳か開かないんだもん扉が!」

「そもそもなんで君はあんなところに居たんだい」

 

 なんとか弁明を図る緑葉であったがそれが言い訳にもならないことは緑葉自身よくわかっている。龍驤に重い荷物を預けてどこかへ消えた挙句何故そんなところにいるんだという場所で熟睡してしまっていたのだ。

 藤川からもツッコミを入れられる。しかしそこで緑葉はニッと笑みを浮かべる。

 

「…ところでさ」

「なんだい?」

「秋の学年別トーナメント、いつだっけ?」

「なんだいきなり話題変えて」

「いいから調べて」

 

 突然の話題転換に藤川は怪訝な表情を見せるが緑葉はあくまで主張を押し通す。

 

「来週辺りとは小耳に挟んだけどな」

「そう…」

 

 頭を掻きながら仕方なしに教えると、緑葉は暫し俯きながら考え込む素ぶりを見せる。龍驤が緑葉の顔を覗き込む、そして思わず彼女は呆れながら苦笑いを浮かべる。

 緑葉が浮かべていた笑みは、悪戯を閃いた子供のように無邪気なモノのそれであった。

 

「藤川くぅん、1つ会長に頼めないかな?」

「何をだ?」

「少し野暮なことよ。それとね……」

 

 緑葉は藤川と龍驤へ向けこっちへ寄れと手招きをする。そして自分の元へ寄ってきた2人の耳元で小声で、しかし一語一語はっきりと認識できるように囁く。

 その内容に2人は虚を突かれ驚愕の表情を見せる中、緑葉は静かにカレンダーを見据えた。

 




手直しを実行した結果、第8夜の内容がすっぽり第7夜に入ってしまい、8夜が消えてしまいました()
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