■ある日、目覚めると私は狼耳、狼尻尾が生えた状態で「迷宮」の中にいた。
 武器も防具も道具もなく、ステータスも表示されない異空間から脱出するため私は迷宮を探索する。

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夢の中の「迷宮」

  

 

 うつらうつらと、まどろむ

 

 

 そんな寝起き直後のぼんやりとした状態で()は目が覚めた。

 

 

 寝ぼけ眼で意識もはっきりしていない中、周囲の状況を探ると……

 

 

 私が今いる場所は長方形の大きな石をレンガ状に積み重ねてできた四角い部屋の中であり、私はその部屋の真ん中辺りで肘掛けのついていない黒に塗られた木製の椅子に両手を白いスカートの太ももの間に挟んだ格好で腰掛けていた。

 

 

 自分の今の格好をよくよく見てみると、白いズボンの上にぶかぶかの白いワンピースだかローブを着た格好となっている。なんとなく僧侶っぽい。ゲームとかの回復職、あるいはヒーラーなイメージだろうか……?

 

 

(──ここはどこ……? なんでこんなところに……?)

 

 

 疑問に思いつつも、なぜかそこが「ダンジョン」あるいは「迷宮」と呼ばれるものの一室だということが理解している。私は自分が置かれている状況を把握するため、椅子に腰掛けたまま首だけをせわしなく動かして部屋の中を観察する。

 

 

 ついでに頭の上についている()()()をぴこぴこ前後に動かしつつ、ふさふさの茶色の()()をぱたぱた左右に振る。

 

 

 学校の教室ほどの広さの正方形の部屋の四方にはそれぞれ縁が金属で嵌められた木製らしき扉があり、部屋の中心──自分が座っている椅子の真横には水を貯めている石造りの噴水のような丸い小さな貯水槽が設置してある。円の直径が腕を左右に思いっきり伸ばしたぐらいだろうか……? それに水が流れて循環しているわけでもないのに不思議と透明度がかなり高く、椅子に腰掛けたまま首を目一杯伸ばして中を覗き込むと底にある白いタイルが見える。ちなみに生き物がいる気配はない。

 

 

(……飲んで大丈夫? それ以前に触れて大丈夫かな?)

 

 

 飲んでみたら「毒」でした。触れてみたら「硫酸」でした。──じゃ、笑って済まされないので私は身の安全のためにその「水」には触れないことにした。ダンジョンに「罠」はつきものなのだ。……と、そんなことを思いながら両目をつむって腕を組むと頻りに頷いてみせる。

 

 

 今度は首を上げて上を見てみる。二階建ての建物に匹敵する高さがある。頭上の天井は部屋の壁と同様の石だが、一枚岩なのか、はたまた岩をくり貫いて作られたのか、継ぎ目が一切ない。それに照明器具のような物が見当たらない。部屋にあるのは扉と貯水槽。それ以外は文字通り何も無い。

 

 

 次に部屋を構成している石に注目する。石は苔のような緑色をしていて表面が自然石のようにゴツゴツしていて粗く、一つ一つが赤ん坊よりも大きい上にどういうわけか石自体がうっすらと発光している。そのおかげもあってか照明器具の類いがないにも関わらず部屋の中は真昼間とまではいかなくともそこそこ明るい。カーテンで仕切ったぐらいの明るさだろうか……?

 

 

 そして一通り観察を終えてやることがなくなった私は扉の向こう側に興味が沸く。……だが同時に「危険」だと己の直感が囁いて行動を鈍らせる。

 

 

(……ここにいてもしょうがない。行っちゃえ、行っちゃえ)

 

 

 心の内で葛藤したのもほんの束の間、すぐにそんな軽いノリと気持ちで椅子から立ち上がり、目についた木製の扉の一つに近づいて、その扉についている金属製のドアノブに手をかける。

 

 

 その時に頭の上についている狼の耳が音を拾う。

 

 

 複数の足音と、金属と金属がぶつかるような金属音

 そして、肉を切るような、肉を刺すような、そんな音が……

 

 

(……ここはダンジョン。モンスターや冒険者がいてもおかしくはない。……でも、いったい()()()()()()と戦っている?)

 

 

 私はドアノブにかけていた手をそっと引っ込めて、ゆっくりと扉に顔を近づけると、左耳を扉に当てるように顔の左半分を扉にピタッとくっつける。

 

 

 音はすでに消えていた。

 

 

(扉がダメなら床の振動は……?)

 

 

 ……と、今度は床に耳をつけてみる。端から見たら土下座しているように見えるかもしれないが構わず実行する。どうせこの部屋には自分以外の存在はいないのだから。

 

 

 だが、何も聞こえない。

 

 

 しばらく、その体勢を維持してどんな些細な音でも逃さない意気込みでやるも音を拾うどころか振動も感じない。

 

 

(……去った? もしかしたら止まってるだけかも……? それとも「ダンジョン」特有?)

 

 

 もはや音を拾うことを諦めた私はほとんど土下座の体勢から上半身を起こして正座の体勢に移ると、軽く握った両手を両膝の上に乗せてこれから先のことをしばし考える。

 

 

 そして、この部屋から得られる情報に限界を感じた私は扉を開ける決意をする。

 

 

 

 

 扉を僅かに開かせる。ほんの少し、それこそ片目ぐらいの隙間を、音も極力鳴らさないように慎重に慎重を重ねて開けていく。

 

 

 部屋の外、扉の隙間から見えるのは一本道の通路。扉の右側は通路になっており、どこかに続いているようだ。通路の壁も部屋の中の石と同じ材質らしく同じように光を放っているが、部屋の中と比べると若干暗く感じる。そのせいか奥に行くにつれてだんだんと暗くなっていき、最後には真っ暗になっていてその先が全く見えない。

 

 

「…………………………………………」

 

 

 その先の見えない真っ暗な闇を見て不安になった私は無言でそっと扉を閉めて部屋の中に戻った。

 

 

(──武器がない! 防具がない! 道具(アイテム)もない! それ以前になんか怖い! 特にあの通路の先! 何あれ!?)

 

 

 私は閉じた扉のすぐ後ろ、扉を背にして頭を抱えて蹲った。今更ながら私は身一つでここに放り出されたことを思い出したのだ。そこでふと思った。ここがダンジョンのあるファンタジーな世界ならステータス表示の類いがあるのでは? ……と、私は虚空に向かって試しにぼそっと呟くように言ってみる。

 

 

「……ステータス」

 

 

 ……が、しばらく経っても何も出ない。出てこない。出る気配がない。呼び方が違うのかといろいろな呼び名で試すが結果は同じ。そして私は悟る。

 

 

(この世界にはステータス表示の類いが一切無し!?)

 

 

 恩恵が全くといってない己の今の状態に私はその場で立ったまま頭を抱えた。

 

 

 私の冒険は前途多難が満ち溢れた苦難なものになりそうな予感がした。

 

 




( ´・ω・)にゃもし。

■おかしな夢を見る時ってない?
 これはそんな話。


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