ーーー昨日は雨が降っていた。
まるで雨に洗われたように青く美しい空は、葉の上で宝石のようにキラキラと光る雫を照らしている。
私は、雨が好き。
雨が降ったあとは、世界が洗われたみたいにキラキラするから。
…でも、曇りは嫌い。
青空を見せてくれないし、灰色のモクモクで世界をおおってキラキラをどんよりにしちゃうから。
今日は、私の8歳の誕生日。
多分、綾女さんと高次さんはそんなこと覚えてもいないだろうけど。
綾女さんと高次さんは、私の両親。
お母さんとか、お父さんとか呼んだらすごく殴られた。蹴られた。
私は目と口は綾女さんに、髪と鼻は高次さんに似ていた。
どこからどう見ても綾女さんと高次さんの娘なのに、それが嫌だって二人とも言いながらまた殴る。蹴る。
顔が見たくないって言われて、髪は伸びっぱなしでお風呂も入れてもらえないからボサボサ。こっそり川で洗ったりしてるけど、やっぱり気持ち悪い。
誕生日って、贈り物が貰えるらしい。
綾女さんが、いろんな男の人からいろんなものを貰っていた。
「お誕生日おめでとう」って。
だから、私のお誕生日の贈り物は雨で洗われたこの景色。
なんて嬉しい誕生日なんだろう。
初めての、贈り物。
ーーーさて、朝ごはんの用意をしよう。
今日は、何にしよう。
肉じゃがでいいかな。
そんなことを、思っていた時、耳をつんざくような甲高い悲鳴が聴こえた。
ーーー綾女さんの、声だ。
急いで家に戻る。
ーーー高次さんの叫び声が聞こえる。
何があったのかな。
家に戻ると、まずはじめに目に入ったのは鮮やかな赤。
そして、その赤に染まった綾女さんと高次さん。
ーーー死んじゃった、のかな。
私の両親が、死んじゃった。
それなのに、あんまり悲しくない。
なんでかなぁ。
そう思っていると、一人の少年が家から出てきた。
あやとりのようにして手に絡めている糸と同じ、白銀の髪。
糸からポタポタと血が垂れていて、ああ、この子が殺したんだと分かった。
とても美しい少年だった。
綾女さんと高次さんを踏みつけながら、ゆっくりとこちらに目を向ける。
「…君、この女と男の子供?珍しい毛色だね。僕と同じだ。」
無表情でそう言う少年ーーーいや、鬼はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「痩せこけて、汚らしいな。食べる気にならないよ。」
少し考える素振りをしながら足を止めた。
私は、その場にへたりと座り込む。
怖い。
殺されるんだろうか。
「ねえ、君は、家族が欲しい?」
何か楽しいのか、ニッコリ笑って聞いてくる。
さっきまでの無表情がうそみたいだ。
ーーー「家族って、どんなものなのか、分からないの。」
震える声でそう言うと、ニコリと笑い、こう言われた。
「君は、僕と似てるなあ。」