戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
・・・仲直りのシーンがあっさりしすぎてないか心配・・・。
指令室のモニターに少女の纏う完全聖遺物、ネフシュタンが表示され、弦十郎が声を上げる。
「バカな?!現場に急行する!何としても、鎧を確保するんだ!」
了子が返答として頷く。
○○○
「ネフシュタンの・・・鎧?」
翼が驚きの声を上げる。ネフシュタンを纏った少女が煽るように言葉を放つ。
「へぇ?てェことはアンタ、この鎧の出自を知ってんだ?」
「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか!何より!私の不手際で失われた命を忘れるものか!」
翼の中に二年前の事件の事、ネフシュタンの事、そして、天羽奏のことが蘇る。手に持つ大剣を構え、少女は杖のようなもの展開する。
(奏を失った事件の原因と、奏の残したガングニールのシンフォギア。時を経て、再びそろって現れるというめぐりあわせ。だがこの残酷は!私にとって心地いい!)
少女を睨む翼のそばに、気絶した雷を抱えた響が駆け寄る。
「やめてください翼さん!相手は人です!同じ人間です!」
「「戦場で何を馬鹿なことを!」」
響の言葉を、敵対し合う両者が同時に一蹴し、二人は向き合いニヤリと笑う。
「むしろ、あなたと気が合いそうね!」
「だったら仲良くじゃれ合うかい?!」
ネフシュタンから延びる鞭を少女が振るう。翼は抱きかかえられた雷ごと響を突き飛ばし、戦場から遠ざけると自身は跳躍する。その時の衝撃で雷の体は地面に叩きつけられ、目を覚ます。彼女は状況を慌てて理解すると、大慌てでギアを纏う。少なくとも生身でいるよりかは安全だろう。
翼は上空から大剣を振り下ろす。
『蒼ノ一閃』
ネフシュタンから伸びた鞭で翼の放った蒼き斬撃の横っ腹を叩くことで逸らす。この時点で少女にはそれ相応の実力があることがわかる。そらされた斬撃はそばにあった森で爆散する。爆光の中、少女はニヤリと笑った。
そのことに驚愕した翼は着地を決めるとすぐに少女に向けて連撃を決める。しかし、その攻撃は全て、バク転を使った回避や、鞭による防御で阻まれてしまい、逆に鳩尾に蹴りを叩きこまれてしまう。
(これがっ!完全聖遺物のポテンシャルッ?!)
その翼の内心は、少女の一言で粉砕される。
「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよなぁ?あたしの天辺は、まだまだこんなもんじゃねえぞぉ!」
少女は言ったのだ。身に纏うものの力ではなく、ただの実力差であると。ネフシュタンから延びる鞭は翼を追いかけて周囲一帯を薙ぎ払い始める。響がたまらず声を上げた。
「翼さん!」
「お呼びではないんだよぉ。こいつらでも相手しッ?!」
少女はどこからともなく杖を取り出し、響へとそれを向けた瞬間。さっきまで響の横にいたはずの雷が雷光と共に杖と響の直線上に姿を現した。気絶している間と、シンフォギアを纏っていたことも相まって体力を回復していた雷は杖を抜いた瞬間に電光刹那で接近していたのだ。
「響はやらせない!」
「自分が喰らうのは考慮外なのかよ?!」
すでに腰のユニットを展開し、今のわずかな体力で打てる最大威力の技を至近距離から不意打ちで少女の杖を構えた右の横っ腹に直撃させるために、稲妻を纏った左足が斥力によって空間から強引に弾かれ、残光が三日月のような軌跡を描く。
『雷刃抜拳・滅神』
軽度とは言え火傷を負った身で自身への最も反動が強い技を放った雷は痛みで失神しそうになるが、歯をくいしばって耐える。杖を構えたおかげで防御が出来ず、現状攻撃技として最大速度、最大火力の滅神を受けたネフシュタンの右わき腹の装甲が砕け散る。
少女が叫ぶ。
「ネフシュタンが砕かれた?!てんめぇ!」
雷が食いしばった隙をついて少女がネフシュタンから伸びた鞭で首を縛り上げて響のほうへ放り投げ、地面に叩きつけられる前に何とか彼女を受け止める。少女の体にネフシュタンが食い込み、再生していく。脳内麻薬が出ているのか、痛みはないようだ。
「ぐっ?!・・・雷!だいじょうぶ?!」
「そこで仲良ししてなぁ!」
再び杖を構えた少女は二人に向けて光弾を発射し、ノイズを召喚する。
「ノイズが・・・操られて」
召喚されたノイズは雷を受け止めた体勢のままの響を粘液で拘束し、身動きをとれなくした。
「その子らにかまけて、私を忘れたか!」
翼が接近し体験を振り下ろす、少女は鞭でそれを受け止めるが翼が右足で少女の左足を払い体勢を崩す。その瞬間に、足についたブレードで二段蹴りを入れるが、一発目は回避され、二発目は受け止められる。
「お高く留まるなぁ!」
そのまま少女は翼の足を掴み放り投げ、地面に叩きつけられながら吹き飛んでいく。速度が落ちたタイミングで少女が翼の頭を足で踏みつける。
「のぼせ上がるな人気者ぉ・・・誰もかれもが構ってくれるなどと思うんじゃねぇ!」
翼は少女の顔を睨みつけることしか出来ない。さらに口を開く。
「この場の主役と勘違いしてるなら教えてやる。狙いはなっからこいつと、こいつのギアをかっさらうことだぁ」
親指で拘束されている響と雷を指さす。恐らく、こいつとは響の事、ギアとはケラウノスのことを指すのだろう。それを聞いて、響が驚愕し、歯を食いしばった雷の周りには小さく静電気が音を立て始める。
「鎧も仲間も、あんたにゃ過ぎてんじゃないのかぁ?」
「繰り返すものかと!私は誓ったッ!」
手に持つ大剣を天に構え、空から幾千本の剣が降り始める。
『千ノ落涙』
それを少女は距離をとって回避し、場所を変えて戦闘が再開された。今だノイズに拘束されている響は振り払おうとアームドギアを展開しようとし、雷はだんだんと放出している稲妻が太くなっていく。受け止められた時と同じ体勢のまま、雷は響に話しかける。彼女にとって、今しかないと思ったのだろう。
「・・・響、ごめんなさい」
「えっ?」
「こんな状況で言うのもアレだし、本当は三人で星を眺めながら謝るつもりだったんだけどね、今言わないと私、おかしくなりそうだから・・・。だから、ごめんなさい」
「こっちもごめん。雷の前であんなことはもう言わない」
「・・・私の事、ホントは煩わしく思ってたりしない?」
「しないよ。大丈夫」
「私を置いて、どこかに行ったりしない?」
「私が雷のそばを離れるわけないじゃない」
「・・・よかったぁ・・・」
雷は響に向かった満面の笑みを浮かべる。その笑みを浮かべたまま全身のユニットが展開し、放出された稲妻が拘束していたノイズを貫き、粘液を焼き尽くした。二人は意識を切り替えて立ち上がる。
「じゃあ二人で、翼さんを助けに行こう!」
「うん!」
いつの間にか目の前に戻ってきていた翼と少女の戦いで、少女が鞭の先端に禍々しいエネルギー体を形成する。その発動を阻止するために雷は右腕のユニットで雷の槍を形成し、思いっきり投擲する。
「当たれぇぇ!」
『天槍霹靂』
投擲した雷の槍は球体に直撃し、エネルギーの暴走で少女が吹き飛ばされる。その隙にボロボロになった翼が少女と雷、響の影にクナイを投げる。
『影縫い』
今までに負った怪我でふらふらになりながら絞り出すように話し始める。
「この身を一振りの剣と鍛えたはずなのに、あの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥をさらしてきたッ!だが、それも今日までの事。奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名をそそがせてもらう!」
「そうかい。脱がせるものなら脱がしてッ?!何?!こんなもので、あたしの動きを!・・・まさか、お前?!」
影に突きささったクナイが少女の動きを止める。それは、同じくクナイが影に刺さっている雷と響も同様だった。響がもがくが、一向にとれる気配がない。少女の取った反応に違和感を感じた雷が叫んだ。
「翼さん!何をする気ですか?!」
「月が覗いているうちに、決着をつけましょう・・・」
「歌うのか・・・絶唱をッ?!」
「翼さん!」
響が叫ぶが、振り返った翼がそれを超える声量で宣言する。
「防人の生きざま!覚悟を見せてあげる!」
手に持つ剣を響へと向ける。
「あなたの胸に!焼き付けなさいッ!」
向けていた剣を天へと掲げ、歌い始めた。絶唱と呼ばれる、滅びの歌を。そして少女の目の前で歌い切った。その歌は周囲一帯のノイズを消滅させ、至近距離で喰らった少女が吹き飛び、ネフシュタンも所々粉砕されている。鎧の再生能力が体を蝕んでいるのか、激痛が走っているらしい少女は撤退していく。そこには、絶唱の影響でズタボロの翼と、そばに駆け寄った雷と響、到着した弦十郎と車に乗った了子が集まっていた。弦十郎が叫ぶ。
「無事か?!翼!」
「私とて、人類守護の務めを果たす防人・・・。こんなところで、折れる剣じゃありません・・・!」
振り返った翼からは、目や鼻、口からおびただしい量の血を流し、静かにその場に崩れ落ちた。弦十郎がそばに駆け寄る。
「翼さぁぁぁんッ!!」
雷は目をつむって顔をそらし、大量に流れる血を見慣れていない響は絶叫した。
天槍霹靂
片方の腕のユニットを展開して使用する。稲妻の槍を形成するという単純明快な技。中距離では投擲、遠距離はレールガンのように発射、手に持って近距離と、全レンジに対応できる。
雷の戦闘スタイル
素人なのに攻撃に臆せず突っ込んだり、反応が速いのは、自分が攻撃を受けることによって発生するダメージを考慮していないため。要はダメージとか気にせずに突っ込んできて、腕が飛ぼうが足が飛ぼうが攻撃を叩きこんでくる。