戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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「覚悟」とは!!暗闇の荒野に!!進むべき道を切り開く事だッ!
さぁ、「覚悟」しようか。さすれば光は見えるだろう。

途中で計算を変更して百話にこの話をぶち込みました。この物語のターニングポイントだからね。

次の話と組み合わせることで一話になる設計。なので穴があります。


深き闇に差す光

 本部ブリッジにて、ダインスレイフの呪いにのまれた雷の姿がモニターに、彼女の状況がバイタルとして表示される。あまり考えたくなかったとは言え、予めこうなることは覚悟していたが、改めて現実として直視すると来るものがある。

 特に彼女のバイタルを確認している藤尭の反応が芳しくない。弦十郎が何度も報告しろと指示を出しているが、彼は肩を震わすだけで答えない。情報がないという焦りから、自ら雷のモニターを確認する。

 そして、絶句した。

 

「まさか……この数値は……」

「はい……。このままいけば……、雷ちゃんは精神崩壊を引き起こしますッ……!」

 

 すでに通信が装者にもつながっている。

 藤高が言った言葉を聞いて、全員の中に激震が走った。弦十郎が「まさか、これほどだったとは……」と呟いた。

 通信で響が、

 

『師匠ッ!』

「うむ……!響君、マリア君は雷君の救出!翼、他装者たちはルシフの足止め、及びアルカ・ノイズの撃破だ!」

『了解ッ!』

 

 装者たちの声がそろう。

 弦十郎の指示通り響たちが闇にのまれた雷と、翼たちがルシフ及びアルカ・ノイズと相対した。響が拳を、マリアが短剣を構える。背後から翼たちの奮闘する声が聞こえてきた。

 

「雷を傷つけたくないのは私も同じよ。でも、今やらないと、あの子は二度と戻ってこない!」

「分かってますッ!」

 

 暴走しているにもかかわらず、その場から一歩たりとも動こうとしない雷に、響は右の拳を振りぬく。

 狙うは顎。ここを揺らすことで脳震盪を引き起こし、出来るだけ傷つけずに戦闘不能にすることが狙いだ。確かな技量を持って放たれたソレは、雷の顎に吸い込まれ、確実に脳を揺らす。誰もが、響すらそう思っていた。そう確信を抱いた。その瞬間、雷が動いた。顔を少しだけ、後ろに傾けたのだ。

 当然、響の拳は空振りに終わる。

 

「ッ?!」

「……」

「不味いッ!早く避けなさいッ!」

 

 マリアの悲鳴が聞こえてくるが、響には周囲の光景がスローに見えていた。危機的状況が、そう見せているのだ。

 右の拳を振り抜き、そして躱されたのだから、当然右側はがら空きとなる。そして人体の右側には何があるのか?そう、肝臓である。そこにめがけて、雷の鋭い拳が突き刺さった。咄嗟に左側に跳んで衝撃を逃がし、ギアのプロテクターが致命打にはさせないが、それでも決して低くはないダメージが入る。

 

「ぐッ?!」

「こんな機械みたいな動き……、これが本当に暴走なの……?」

 

 マリアの疑問はもっともだ。暴走しながら、暴れまわるのではなく、最小限の動きで最大限の効果を生み出す機械のような動き。

 それは、雷の中にある『破壊』の捉え方の違いにある。彼女は、これを暴れまわることでものを壊すのではなく、少ない手数で確実に壊すことと捉えていた。故に、これほどまでに動きに差が出るのだ。

 マリアも短剣を振りかざし、コンパクトに攻め入る。大振りで行けば、確実にカウンターを喰らうと見たからだ。

 

「はぁッ!」

「……」

 

 今度は避けず、マリアに向けて拳を突き出し、短剣を持つ手を殴り抜いた。いくら武器を持っていようと、持つことが出来なければそれは武器成し得ない。マリアは短剣をとり落としてしまう。そして彼女の鳩尾にアッパーを放ち、体が軽く宙に浮いたところを回し蹴りが強襲した。

 

「がぁッ?!」

 

 マリアの体が吹き飛ばされ、地面の上を転がる。そんな彼女を、雷は上から見下ろしていた。

 

○○○

 

 私の闇が、私の心を塗りつぶしていく。

 叔父さんの家に預けられた日。お正月とか、いろんな催し物で会った時は、優しい叔父さんだなって思ってた。でも、実際は、プライドだけは高く、昔から頭の良かったお母さんと―勝手に―比べられてると思い込んで劣等感を募らせてたらしい。(警察から聞いた)そんな時に、家族が殺された私が、叔父さんのもとに転がり込んだんだ。

 私の顔はお母さん似だから、絶対敵わなかった嫌いな姉が、絶対に歯向かえないようになったと思っていたみたい。

 叔母さんは、お母さんの同級生だったらしく、昔から頭もよく、男性人気も高かいうえにそれらを歯牙にもかけなかったお母さんを嫌ってた。たぶん、嫉妬なんだと思う。

 暴力とか、傷ついた心に罵倒を叩きつけるとか当たり前、殺されるかもしれないと思ったことは何度もあった。

 お風呂の順番もいつも最後。その時には湯船のお湯は全部抜かれ、シャワーも湯を使うことは禁止されてた。夏場はともかく、冬場は凍傷になりながら、いつか凍え死ぬんじゃないかと怯えながらだった。

 小学高学年になって、第二次性徴が始まったころ、私を見る叔父さんの目がすごく怖くなった。お母さん譲りで胸も大きかったからだと思う。

 

 私の心が悲鳴を上げる。いやだ!見たくない!怖くて怖くて記憶の奥底に抑え込んだはずなのに……!

 

 深夜、部屋の外鍵が外れる音がして、私は目を覚ました。薄目を開けると、下着姿の叔父さんが入ってきて、私の上にのしかかってきた。叫び声を上げたり暴れるけど、大人と子供、しかもこちらは女だ。勝てるわけがない。

 最初と二、三回は怖くて痛くて叫んだけど、途中から何も感じなくなった。大事には至らなかったけど、これは叔父さんたちが逮捕されるまで続いた。

 

 吐き気がこみ上げてくる。吐けるものなんて何も入っていないのに。頭を抱えてうずくまる。それでも、私の闇は私を逃がしてはくれない。

 

 小学校の時は心配してくれた同級生だったけど、中学校に進学すると初めて私を見た生徒の流れにのまれ、私を虐める側に回ってた。包帯まみれで怪我だらけの同級生なんて気味が悪かったんだと思う。

 まだ残る幼児性から化け物退治と称して私を攻撃し、年齢を重ねたことによる意地汚さで先生に見つからないようにしてた。

 でも、私は知ってる。先生も見て見ぬふりをしてたどころか、私を攻撃する側に回っていたことを。

 机に花瓶とか、椅子と一緒に捨てられるとか、教科書や筆記用具、上履きを引き裂かれるとか、当たり前。トイレに入ってるときに頭から水を、教室に入った瞬間にチョークの粉をかけられたり、先生も知ってるはずなのに、授業中に私のせいにして掃除させたりした。

 階段を歩いている時が一番怖かった。だって後ろから引っ張り倒されたり、前から押されたりして何度か落ちたことがあるから。

 お母さんを真似て長くしてた髪を、散髪と称して勝手に切られたりもした。

 まだ私も幼かったから、こんな時でも私を助けてくれる王子様みたいな人がいると思ってた。だから、クラスのカッコイイ男子が私を助けてくれた時は、本当に有頂天になってた。見え透いた罠だということにも気づかずに。

 次の日、廊下中に張られた記事を見て、私はもう、自分以外信じなくなった。

 この日、私から感情が消えた。

 

 私は泣いてすがる。

 何でこんなもの見せるの?思い出したくなかったのに……。何で?なんで?ナンデ?

 ぐちゃぐちゃになっていく私に、闇はさらに突きつけてくる。

 目の前に、叔父さんや叔母さん、中学の同級生たちが現れる。私を攻撃する人達。私を壊した人達。私を……殺そうとする人達。

 だから……私もシていいよね?

 

 刺殺したい撲殺したい絞殺したい焼き殺したい溺死させたい殺す殺そう殺した殺してやる殺したい殺す殺そう殺した殺してやる殺したい殺す殺そう殺した殺してやる殺したい殺す殺そう殺した殺してやる殺したい……。

 

 暗く、沈んでいく私に、優しい光が差した。そして、誰かが私の手を取った。私の手を包む、良く知っている、温かくて優しい手。弱くても、自分らしくあろうとする力強い手。

 二人の手が、私を闇から助け出してくれた。

 

○○○

 

 ルシフの戦闘能力は圧倒的だった。それに加え、アルカ・ノイズの数が装者たちを圧殺する。翼とクリスは膝をつき、調と切歌は倒れ込んでいた。

 

「これほどの物とはッ……」

「打つ手なしかよッ……!」

「あはははHA☆!もうおしまⅠ☆?じゃ、全部引き取んじゃE~☆!」

 

 ルシフは嘲る様に言った後、手のひらを頭上に突き出し、エーテルの大型錬金陣を展開した。金色の、回転するまばゆいエネルギーが周囲を照らす。

 そしてそれを、装者たちに向けて、打ち放った。圧倒的な威力を持つエネルギーの光に、全員が飲み込まれ、全てが終わる……はずだった。

 見えない壁のようなものに阻まれ、翼たちの前で光が消滅する。

 

「HE……?」

 

 気付くと腹部に衝撃が走り、ルシフは宙に浮いていた。

 視界には、漂うアルカ・ノイズが撃破されたことを示す赤い粒子。空気中を走る稲妻。漆黒のギアと稲妻を纏った装者の背中。そして……首のない、自身の体。

 決着は、一瞬だった。




愉悦部は愉悦できましたでしょうか?非愉悦部は耐えきれたでしょうか?

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