戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
新たな躯体に記憶をインストールし、復活したキャロルは、普段通りに玉座に座していた。ふと、立ち上がると、体に激痛が走る。覚悟はしていたが、想像を絶する様な痛みだ。痛みを逃がすために背中を丸め、膝をつく。
「ぐぅうッ?!」
「マスター……」
「最後の予備躯体に不調ですか?」
「負荷を度外視した思い出の高速インストール……、さらに自分を殺した記憶が拒絶反応を起こしているようだ……」
自分を殺したはずなのに自分は生きている……。そんな思い出が自身の体を蝕んでいることを冷静に診断した。誰かに殺されたなら兎角、自分で殺しているのだから違和感も倍増だろう。
「いかがなさいますか?」体を心配してか、レイアが口を開く。
「無論まかり通る……!歌女どもがそろっている……この瞬間を逃すわけにはいかぬのだ!」
大粒の汗を流しながら、キャロルが計画の続行を宣言した。
体の事もあるが、キャロルは焦っていた。それは、ルシフの役目が遂行されていないからである。
彼女の役目は、体内にある高速回転するエーテルに彼女自身が破壊されるほどのエネルギーをチャージさせ、撃破されるタイミングでシャトーにそのエネルギーを転送することであった。そして転送された膨大なエネルギーを使うことで、目的である世界解剖を即座に行うのだが、ここに完全なイレギュラーが起きてしまっていた。
それはエーテルの回転よりも速く撃破の一撃を喰らってしまったうえ、破壊ではなく分解されたことである。つまり、肝であるエーテルがエネルギーを捕らえきれず、そもそも彼女の中にあったエーテルすらも分解されてしまえば意味がない。
よって、キャロルはプランをBに変更せざるを得ず、自らの体の事もあって焦っているのだ。
○○○
都内の病院の一室、そこに雷と響、未来の姿があった。そこから響の気の抜けた声と、未来の彼女に世話を焼く声、二人よりも少し遅れて病室に入ってきた雷の楽しげな声が聞こえてきた。
「ふへえぇ~……、前が全然見えないよぉ~お先真っ暗だって……」
「いいからほら、バンザイでして?バンザイ」
「ぶは……」
「どお?」
「いいなぁ~私もしてもらいたいな~」患者衣を着慣れていたために一足先に着ていた雷が、未来に着させてもらっている響を見て指を銜え、じっとりとした目を向ける。
「雷は着慣れてるでしょ?」未来は楽しげに言った。
「くぅっ……!病院通いだった昔の自分が憎い!」ベッドの上で胡坐をかき、灰色の髪をワシワシと掻き毟った。
雷の性格は過去を背負う覚悟を決めたことで本来の性格へと戻っていた。最初はマリア達を除いた今までの雷しか知らなかった響や未来たちはあまりの違いに戸惑っていたが、本質は変わっていないことにすぐ気づいたため、今まで通りの距離感の戻っている。
「もうただの検査入院なのに大騒ぎしすぎだよぉ~」
「響のせいで大騒ぎしてるんでしょ」
「あれだけ攻撃喰らっといて検査入院で済むのもどうかと思う。まぁやったの私なんだけど」
「暴走してたんだから仕方ないよ。それよりも戻って来てくれたのが私はうれしいし!」
申し訳なさそうに頭をかく雷に向けて、響がにっこりと笑った。その笑顔を見て、雷の顔がかぁっと赤くなる。未来はそんな二人のやり取りを微笑ましそうに見つめていた。
そんな時、響の携帯から着信音が聞こえてくる。それを手に取って画面を確認すると、『お父さん』と書かれていた。響は何も言わず、黙って着信を切った。
「検査、行かなきゃ」響は立ち上がる。
「響……」
「へいき……」
「へっちゃらじゃない!」未来は立ち上がって声を張る。響が立ち止まった。
「未来がいる……雷がいる……みんなもいる。だからお父さんがいなくったってへっちゃら!」
「響」
響はドアのスイッチを押そうとしたが、背後から聞こえてきた雷の声が動きを止めさせた。彼女の順番は響の次のため、念のため暇潰し用に持ってきていた青いブックカバー(二人からの誕生日プレゼント)付きの文庫本を膝に乗せ、少し躊躇いがちに言った。
「なに?雷」
「お父さんがいない私が言って、余計なお世話って思うかもしれないけれど、仲直りした方がいいと思う……」
「どうして……」
「だって響、携帯の履歴に『お父さん』ってつけたままだもん……。それに、呼び捨てとかじゃなくて、お父さんって呼んでるし……」
「ッ」
相変わらず聡い雷に無意識に言っていたことを突きつけられ、思わず息を呑んだ。そして黙ってスイッチを押し、検査室に速足で向かって行った。
そんな背中を未来は見つめ、雷は黙ってしおりを挟んでいた文庫本のページを開く。未来の視線が雷のほうに向いた。どう言ったらいいのかと躊躇っていると、雷が本から視線を動かさず、先に口を開いた。
「もっと別の言い方はないのかって、思ったでしょ?」
「……」未来は答えない。如何やら図星だったようだ。
「私ね、響と響のパパさんとの関係が、治ったらいいなって思ってるんだよ。私に家族がいないから、響にはいてほしいってのもある」
「なら……」
「例えば、響がパパさんの事を何とも思っていない、もしくは軽蔑してるなら何も言わないよ。でも、響はパパさんの事を『お父さん』ってずっと呼んでるんだ。それにパパさんの方だってどうにかよりを戻したいって言ってたんでしょ?なら、元に戻って欲しいんだよ」
「私も……そうあって欲しいけど……」
未来が俯きながら言った。
雷は視線を本から未来に戻し、にっこりと笑いながら、
「昔、お父さんが言ってたんだ。『男って言うのは子供が出来た時、何よりも大きな責任を負うんだ。それはどれだけ距離を置いても、どれだけ時間がたっても変わらない。子供を、家族を大切にし、守るって言う責任をね。呪いに見えるかもしれないけど、それは男にとって何よりも大きく、大切な祝福でもあるんだ』って、だから、響も、響のパパさんも、きっと大丈夫!」
「……そうだね!」
雷は下手なお父さんの声マネをはさんで言った。未来も目を丸くするが、彼女は雷の隣に座り、同意する。文庫本のページをめくる音だけが病室にこだました。
○○○
歴史を感じる日本家屋、武家屋敷とも称せる館の前に、緒川が運転するマリアと翼を乗せた車が停車した。ミンミンゼミの鳴き声がうるさいほどに聞こえてくる。
「ここが?」
「風鳴八紘邸……。翼さんの生家です」
「十年ぶり……まさか、こんな形で帰るとは思わなかったな……」
ここに来たのは、とある目的のためであった。時を少し遡る。
雷が病院に行く少し前の事。
「計測結果、出します」
「電力の優先供給地点になります」
モニターにオートスコアラーによって発電施設が破壊され、政府要所に絞られた電力供給図が表示される。
いくつか表示されるが、その中、海の中にひときわ供給を受けている施設があった。
「こんなにあるデスか?!」
「その中でも、ひときわ目立ってるのが……」
「深淵の竜宮……。異端技術に関連した、危険物や未解析品を封印した、絶対禁区……。秘匿レベルの高さから、俺にも詳細な情報が伏せられている。拠点中の拠点」
「うーん……見事に釣れましたね」
「ここまでは予想通り……ということか」
「ここを制するかどうかがプランの分岐点!」
雷の計画にはプランが二つあった。そのプランを最終決定するピースがここ、深淵の竜宮にあるのだ。
キャロルを倒したときに聞いた計画を弦十郎が思い返していると、
「ん?……そう言えば雷君!どうやって『あれ』がここにあると知ったッ?!」
弦十郎は納得しかけたが、途中でなぜ彼女が最重要機密事項を知っているのかを早口に問いただした。司令官である自分ですら中に何があるのかは細かく知らされていないのだ。それが何故、一隊員である雷が知っているのか?その答えは、すぐに分かった。
「それはぁ、データをちょいちょいって……」
「ハッキング……したのか……」
国家最重要拠点のデータをハッキングして入手したのである。
世界を守るためとは言え、平然と犯罪行為を行った雷に対し、弦十郎は言ってくれれば俺たちが何とかしたのに……と額に手を当てた。なお、藤尭は「すげぇ……」と呟き、友里の視線に貫かれていた。
因みに雷が部屋にこもって書きなぐっていた計算式や文字の羅列の中に、ここのハッキング経路が隠れているのだが、彼らはまだ知らない。さらに言えば、彼女は痕跡を完全に抹消していたため、捕まえようにも証拠がない。実に悪質だ。
「ぬぅ……、ともかく、いや、ともかくでは済まないが、襲撃予測地点はもう一つある」地図の中の一地点がマーキングされた。
「ここって……!」
「気になる出来事があったので、調査部で独自に動いてみました。報告によると、事故や事件による、神社や祠の損壊が頻発していまして、いずれも明治政府帝都構想で霊的防衛を支えていた龍脈……レイラインのコントロールを担っていた、要所になります」
「なるほど、レイラインに沿って世界解剖を行うつもりなのか」立ち上がった雷が心底嫌そうな顔をしながら言った。それほどまでにネタ被りが嫌だったらしい。
「風鳴の屋敷には、要石がある。狙われる道理もあるという訳か……」
「検査入院で響君と雷君が欠けるが、打って出る好機かもしれないな……」
弦十郎はエルフナインに目配せする。彼女は頷き、走者たちのほうを向いて言った。
「キャロルの怨念を止めてください」
そこにいた全員が、分かっていると言うようにうなずいた。
雷の計画とはどういう物なのか?期待が高まりますね!