戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
いやぁ、自分(まだ酒も飲めない)よりも年下の子の才能に打ちひしがれ、「主人候補生をください」と天に祈ったが拒絶されていました。ああ、私の形状記憶メンタルは復活したのでご安心を。
で、その過程で短編、『『』の部屋』を書いてました。
私は元気です。
翼、マリア、緒川の三人は、風鳴八紘の館、その門の前に立っていた。
弦十郎と通話していた緒川が通信を切る。
「分かりました……、クリスさん達も、まもなく深淵の竜宮に到着するそうです」
「こちらも伏魔殿に飲み込まれないように気を付けたいものだ」
翼がそう言い終えると同時に木で作られた両扉の門がゆっくりと開く。その様子は、まるで三人を巨大な怪物が飲み込まんとしているようだった。
翼が先陣を切る。玄関へと続く道を歩き始め、その途中で足を止めた。庭に鎮座する、巨大な石のほうを向く。
「要石……」
「あれが……」
「翼さん」
そして間を置かずに、着物を着た男。翼の父、八紘が黒服を引き連れてやって来た。緒川の言で二人は彼のほうを向く。
「お父様……」
「ご苦労だったな、慎次」八紘は翼に目も向けず、緒川にねぎらいの言葉を賭けた。声をかけられた緒川は黙ってうなずく。
「それにS.O.N.G.に編入された君の活躍も聞いている」次はマリアだ。
「は、はい……」
「アーネンエルベの神秘学部門より、アルカ・ノイズに関する報告書も届いている。後で、開示させよう」
「はい」
八紘が自分と顔を合わせないことに翼は俯く。八紘は結局翼に一声も掛けることなく、彼女に背を向けて自身の館へと戻っていった。
翼は思わず、
「ッ……お父様……!」
その声に八紘は脚を止めた。話を聞いてくれると思った翼は、続ける。
「沙汰もなく、申し訳ありませんでした……」
「……お前がいなくとも、風鳴の家に揺るぎはない……」
「ッ」
「務めを果たし次第、戦場に戻ればいいだろう」
その父親とは思えない言動にマリアの我慢の限界が来た。相手は政府の重鎮だというにもかかわらず、我慢ならんとマリアが啖呵を切る。
「待ちなさいッ!あなた翼のパパさんでしょ?!だったらもっと他にッ……!」
「マリア!いいんだ……!」
「でもッ?!」
「いいんだ……」
他でもない翼本人がいいといっているのだ、これ以上続けるわけにはいかない。八紘はもう話すことはないと言うように先ほどと変わらぬペースで屋敷の中に消えていった。
突然、庭の脇にある小さな池の前の大気が揺らめいた。その揺らめきに気づいた緒川は懐から即座に拳銃を取り出し、発砲する。が、放たれた弾丸は強力な風にかき消され、その風の中心からオートスコアラーが一体、風の錬金術を操るファラが姿を現した。
彼女はしとやかに、
「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに」
「あの時のオートスコアラー?!」
緒川の他にも八紘の身を守る黒服も拳銃を構えた。効くことはないというのは分かっているが、主を守るためだ。
ファラはポーズをとるために頭上に挙げていた手を下ろし、
「レイラインの解放、やらせていただきますわ」
「やはり狙いは要石かッ!」
「ダンス・マカブル!」
フランス語で『死の舞踏』を意味する言葉を言いながら、周囲に召喚ジェムをばら撒いた。それらは地面にぶつかって砕け、召喚陣を展開。そこからアルカ・ノイズが姿を現す。
「ああ、付き合ってやるともッ!」
翼は不敵な笑みを浮かべ、ペンダントを握りしめてファラの誘いに乗る。そして彼女のドレスコードである天羽々斬を身に纏うべく聖詠を歌った。
「Imyuteus Amenohabakiri Tron」
バッグミュージックは『Beyond the BLADE』。蒼き剣のシンフォギアを身に纏い、剣の円舞をファラと踊る前の前座としてアルカ・ノイズに一閃を走らせる。
同じくシンフォギア、アガートラームを身に纏ったマリアは、アームドギアの手甲から無数の短剣を取り出し、一気に投擲。アルカ・ノイズに突き立てた。次いで手に持つ短剣を蛇腹剣に変形させ、蛇のように波打つ刃で切り裂いていく。
「ここは私が!」
「うむ!務めを果たせ!」
そう言って八紘は戦線を離脱する。彼に防人としてではなく、娘として声をかけられたかった翼は一瞬表情を暗くするが、それもつかの間、すぐに切り替えて倒すべき敵に刃先を向ける。
ファラは足元に竜巻のように錬金術を展開し、
「さあ、捕まえてごらんなさい」
周囲を飛び回りながら翼を巻き込み引き倒そうと体当たりを仕掛けた。
地上にいる翼では攻撃が届かない。そこで彼女は埒を開けるために剣を大剣に変形させ、エネルギーの斬撃を斬り放った。
『蒼の一閃』
ファラはその一撃をソードブレイカーの一振りで相殺する。
が、そこは歴戦の防人である翼。一撃で済むとは端から思っていない彼女は着地後すぐに剣を上空に放り投げて自身も跳躍、さらに巨大な両刃の大剣へと変形させ、脚部のブースターを点火して落下の速度に上乗せしながら突き放つ。
『天ノ逆鱗』
「ふふ、何かしらぁ?」
巨大で重く、鋭い一撃にファラはうろたえる様子すら見せず、携えたソードブレイカーの剣先でそっと振り来る大剣を受け止めた。すると閃光と共にソードブレイカーの刀身に紋様が走り、それと同時に受け止めた大剣が赤黒く変色していく。
「なにっ?!」
そして触れ合っている剣先から天羽々斬に亀裂が走り、砕け散った。
(剣がッ……砕かれていくッ……)
強大な光が周囲一帯を包み込んだ。
「うあぁッ?!」
「翼ッ!」
衝撃に弾き飛ばされ、翼は地面に叩きつけられた。
共に戦う彼女の身を案じ、マリアが声をかける。翼は地面に横たわっていた。
この状況を引き起こしたファラは何食わぬ顔でその場に立ち、
「私のソードブレイカーは、『剣』と定義される物であれば強度も硬度も問わずかみ砕く哲学兵装……。さ、いかがいたしますか?」
ソードブレイカー。その名の通り相手振るう刃を受け止め、峰に備え付けられた櫛のような部分を利用しててこの原理で剣を手折る剣殺しの剣。ファラはその名を冠した哲学兵装を、己を文字通り『剣』としている翼に指し向けた。
「強化型シンフォギアでも敵わないのか……?!」
「ぜああぁぁぁッ!」
「無駄よ……?」
ソードブレイカーを振るい、その剣筋に捉えられた瞬間マリアが投擲した短剣は残らず砕け散った。威力が衰えず、自身に迫る一撃をマリアは間一髪で回避するが、その射線上にあった要石に攻撃が直撃し、砕け散った。
「あら?アガートラームも剣と定義されてたかしらぁ?」
「哲学兵装……。概念や呪いに干渉するゲッシュに近いのか……?」
「ごめんなさい?あなたの歌には興味が無いの」
ファラは旋風を巻き起こし、
「剣ちゃんに伝えてくれる?目が覚めたら改めてあなたの歌を聞きに伺いますって」
そう言い残し、目の前に吹き荒れる旋風は周囲に霧散した。そこにはファラの姿はない。
雨が降り始めた。
○○○
本部潜水艦は、深淵の竜宮に向かうべく、海中を潜航していた。
緒川から通信が入る。
『要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません……』
「二点を同時に責められるとは……」
『二点?まさか……!』
「ああ、深淵の竜宮にも侵入者だ!セキュリティが奴らを補足している」
カメラには、監視システムがとらえた先を歩くレイアと、復活したキャロルが厳重な警備を難なく突破しているところが映し出されていた。
「キャロル……」
「ッ閻魔様に土下座して蘇ったのか?」
「先に行かれたのは小癪だが、ヤントラ・サルヴァスパを先に取られるわけにはいくまい……。クリス君は、調君と切歌君と、一緒に言ってくれ」
「応よッ!」
弦十郎の指令にクリスが威勢よく答える。ここからはスピード勝負。ここをどう制するかによって、カウンター計画の作戦行動と難易度が変化するのだ。
モニターに映るレイアが、監視カメラをコインで撃ち抜いた。
シンカ・雷帝顕現の発動条件
「Apple」の旋律を胸の中に奏でること。
簡単そうに見えるがかなり難しい。既にシンフォギアによって胸の奥から歌があふれている状態の上から、別口でしなければならない。
いうなれば、自分以上の実力を持つ相手と戦闘しながら(当然、負けないように)、そばで大音量で流している曲に合わせて歌を歌い、それとは別の曲を頭の中で流せというようなもの。
シンカしたことによるデメリット。
意識を保ったままでいられるようになったことで戦術に組み込むことが出来る様になり、任意解除からの戦闘継続が可能になったが、そのデメリットは大きい。
今までは意識を失ってるところに受けていた熱量を意識を保ったまま受けている。
即ち、熱した密着する鎧を着たまま、火傷による痛みを意志の力で封じ込めながら戦わなければならない。深い怪我を負っていれば焼いて塞ぐこともできるが、失神する可能性も否めない。