戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
小説で男を主人公にして書く気が湧かぬ……。だって、可愛い女の子を書いてる方が楽しいじゃん?!画面が華やぐんだよぉ!※要は私の書く作品のオリキャラは全員女の子
深淵の竜宮内にある様々な文字の羅列や図形、計算式が部屋一面に書きなぐられたとある一室。そこに、一人の男の姿があった。
彼の名はウェル。かつてフロンティア事変を引き起こした犯罪者であり、その身に聖遺物、ネフィリムを宿した人でありながら聖遺物……という存在である。
そんな彼の牢獄をクリスが引き起こした爆発の衝撃波が襲う。ウェルは一切うろたえることなく、穏やかな声色で、
「花火が上がった……。クククッ、騒乱が近い……。ならば、求められるのは……英雄だッ!」
彼の名はウェル。人であり聖遺物。そして、英雄になろうとする者。
そんな彼の部屋をふさいでいた牢が二度目の爆発で吹き飛ばされ、丁度飛んできていたミサイルをネフィリムの左腕で受け止め、吸収した。
ウェルは腰に手を当ててふんぞり返り、
「へへーん。旧世代のリンカーぶっこんで、騙し騙しのギア運用という訳ね」
「くッ……!」
「「うえ~……」」
クリスはプランがB、しかも最悪のルート2を視野に入れなければならないことに苛立ちを覚え、実行担当になるかもしれないことと、普通にウェルに苦手意識を持つ調と切歌は湿り気のある視線を向けた。
そんな視線を向けられていることを気にせず、ウェルは言葉を垂れ流し続ける。
「優しさでできたリンカーは、僕が作った物だけぇ~!そんなので戦わされてるなんてェ……不憫すぎて笑いが止まらぁァァん!」
「不憫の一等賞が何を言うデス!」
「アタシの一発を止めてくれたなァ……!」
切歌がウェルの物言いに反論するが、クリスの様子がおかしいことに気づいた。
(後輩の前でかかされた恥は、百万倍にして返してくれるッ!)
彼女は焦っていた。何時ものクリスであれば、冷静に調と切歌に指示を出し、自身も動くということが出来たはずだ。だが、彼女は背後にいる後輩に良い格好をしなければならないという一種の強迫観念に駆られており、まともな判断がつかなくなっているのだ。
さらに相手がウェルであることが、彼女の頭の中から計画の事を喪失させている。錬金術で受け止められるなら兎角、最も大嫌いな人間に受け止められてしまった故に頭に血が上り、冷静さを欠かせている。
「待つデスよ!」
「ドクターを傷つけるのは……」
「何言ってやがるッ?!」クリスが怒鳴る。
「だって、リンカーを作れるのは……」
「それに、今ならルート1にまで軌道修正できるかも……」
調と切歌の二人が弱気になったのを好機と見たのか、ウェルがいつもの英雄らしくない増長を見せる。
「そうとも!僕に何かあったら、リンカーは永遠に失われてしまうぞぉ?!」
「ぽっと出が、話を勝手に進めるな」
いきなり現れたウェルに命を助けられたにもかかわらず、礼も言わずにノイズ召喚ジェムを地面にばらまいた。ジェムが砕け、中の赤いコアから召喚陣が展開、アルカ・ノイズが姿を現す。
「二人が戦えなくとも、あたしがぁッ!」
両腕のアームドギアを変形させたガトリング砲で無数のアルカ・ノイズを迎え撃つ。放たれる弾丸の射線上にキャロルがいるのだが、彼女は防御陣を展開。ウェルはさっきまでの尊大な態度をかなぐり捨て、情けなくも素早い身のこなしでキャロルの展開した陣の後ろに身を隠した。
レイアは機械的に、
「その男の識別不能。マスター、指示をお願いします」
「敵でも味方でもない……英雄だッ!」
「だったら英雄様に……さっきよりもでかいのまとめてくれてやるッ!」
先ほど放った技は数で圧倒するタイプであったが、今回は数こそ少ないものの威力は絶大だ。二本の超大型ミサイルを背部から展開し、キャロルたちに向ける。
が、ウェルが怒鳴った。
「このおっちょこちょい!」
「っ」
「何のつもりかは知らないが、そんなの使えば、施設も!僕も!海の藻屑だぞぉ!……なんてね?」
体だけをキャロルのほうに戻し、軽くおどけてみせる。
キャロルは全く反応を見せず、
「レイア、この埒を開けて見せろ」
「即時、遂行」
レイアは跳躍し、超大型ミサイルを格納したクリスと再度交戦を開始する。彼女はクリスの銃撃を前転で回避し、ターゲットを散らしていく。
(後輩なんかに任せてられるかァ!ここはセンパイの……あたしがぁぁッ!)
レイアの動きは攪乱に挑発も兼ねていた。乱射による硝煙で煙幕が出来上がり、頭に血が上ったことによる体の鈍りから照準が徐々にズレてきている。
「ばら撒きではとらえられない!」
「落ち着くデスよぉ!」
二人の声は全くクリスの耳に届かない。それどころか、彼女の放つガトリングの砲門が調のほうを向いた。が、それを切歌が許すはずがない。ノータイムで鎌を振るい、調に向きかけていたガトリングを上に引っ掛け上げる。
思わずクリスがトリガーから指を外した。
切歌は鎌でガトリングを持ち上げながら、
「もろともに、巻き込むつもりデスか……!」
「ッ……!……あいつらはッ?!どこに消えたッ?!」
周囲には硝煙と、アルカ・ノイズが撃破されたことを示す赤いプリマ・マテリアしか漂っていない。そんな中、調が一つの大穴を見つけた。
「きっと、ここから……」
「逃がしちまったのか……」
「ごめんなさい……ウェルに何かあれば、姉さんの計画がルート2で確定しちゃうし、リンカーが作れなくなると思って……」
「でも、もう惑わされないデス!あたしたち三人が力を合わせれば今度こそ……!」
気合を入れ直し、次は失敗しないと意気込んで切歌はクリスに近づくが、彼女は右手で切歌を突っぱねた。
「後輩の力なんてあてにしない!お手手つないで仲良しごっこじゃねえんだ。アタシ一人でやって見せるッ!」
クリスの必死の形相に二人は何も言うことが出来ない。
(一人でやり遂げなければ、センパイとして後輩に示しがつかねえんだよ……!)
戦闘管制を行っている本部潜水艦ブリッジでも、キャロル一行の動向を消失していた。
「侵入者ロスト……。大きな動きがない限り、ここからでは捕捉できません……」
「これでほぼ確定してしまった……か」弦十郎は計画のことを気にしている。
「ドクターウェル。雷ちゃんのおかげでいるのは分かっていたとはいえ、このタイミングで出てくるなんて……」
「ネフィリムの力が健在というだけでよかったと思うべきか、悪かったと思うべきか……」
「追跡の再開、急げ!」
落ちていく士気を引き上げるため、弦十郎が厳格に指示を飛ばした。そんな中、エルフナインが真っ二つに切断されたヤントラ・サルヴァスパをモニター越しに見つめている。
「ヤントラ・サルヴァスパが失われたことで、チフォージュ・シャトーの完成を阻止できました。なのに、キャロルはまだ……」
エルフナインはキャロルに情報が筒抜けと言うことを鑑みて、計画の詳細をまったく知らされていない。故に、ヤントラ・サルヴァスパが破壊されたとしても、賭けにこそなるがチフォージュ・シャトーを完成させることが可能であることを知らないのだ。
エルフナインは、キャロルの計画を知った時のことを思い出ていた。自分たちの父、イザークは世界を解剖することなど望んでいないのだと訴えかけた。だが、キャロルは断固として聞き入れない。だから贋作躯体の癖に正規躯体である自分にたてついたエルフナインを、キャロルはシャトー建造の任から解任したのだ。
「っ……オレは、堕ちていたのか……?」
「またしても拒絶反応です。撤退の途中で意識を……」
夢の途中、キャロルは目を覚ました。気絶している間に抱きかかえてくれていたレイアから離れ、一人で立ち上がる。
マスターであるキャロルを心配するレイアは続ける。
「高レベルフォニックゲイナーが複数揃う僥倖に、はやるのは理解できますが……」
「杞憂だ」
キャロルは手を見つめ、閉じたり開いたりしながら体の状態を確認する。そして、背後に立つウェルに声をかけた。
「……知っているぞ、ドクターウェル。フロンティア事変関係者の一人、そんなお前が何故ここに……」
「わが身可愛さの連中が、フロンティア事変も、僕の活躍も、寄ってたかって無かったことにしてくれたぁッ!人権も存在も失った僕は、『人』ではなく『モノ』。回収されたネフィリムの一部として、放り込まれていたのさ!」
そう言って融合した左腕を人型から活動状態にし、また人型に戻した。キャロルは左腕に表情を変えることなく少なくない興味を見せる。
「その左腕が……」
「イチイバルの砲撃も、腕の力で受け止めたんじゃない。接触の一瞬にネフィリムが喰らって同化!体の一部として推進力を制御したまでの事!」
つまり受け止めているように見せていたのは完全なパフォーマンスということになる。そんな彼の説明を聞き、頭はいいかもしれんが大馬鹿だ。と断じたキャロルは、
「面白い男だ、よし、付いてこい」
「ここから僕を連れ出すつもりかぁい?だったら騒乱の只中に案内してくれぇ」
「騒乱の只中?」
ウェルは大袈裟なポーズをとりながら、
「英雄の立つところだァ……ん?」
そういうウェルにキャロルは黙って左手を差し出した。ウェルは白衣で左手を拭き、その手を握る。
「ネフィリムの左腕、その力の詳細は、追っ手をまきつつ聞かせてもらおう」
「脱失を急がなくてもいいのかい?」
「奴らの把握済み、時間稼ぎなぞ造作もない」
キャロルは慢心からか鼻を鳴らしてにたりと笑う。
彼女の考えが、すでに読まれ切っていることも知らずに。すでに踊るための舞台と楽曲の決定権が、その手のひらの上にないことも分からずに……。
クリスが切歌を突っぱねた時の事。
「ハッ?!」
「どうしたの?」
「誰かが切ちゃんとしらちゃんの思いを無下にした気がする……」
「えぇ……」