戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
水の錬金術でエルフナインを通してブリッジに現れたキャロルだったが、弦十郎たちのエルフナインを庇うという予想外の事―そもそもすでにバレている―に舌打ちを打ち、錬金陣を解除する。
錬金陣の残滓が舞う中、自身を見つめるウェルの存在に気が付いた。彼は顎に手を当て、何やら値踏みするような視線をキャロルに向けている。
その視線を煩わしく思ったキャロルは、鋭い目つきで彼を睨み、
「何を見ている……?」
「いやぁなに、僕が英雄になる算段を考えているだけですよ」
「フン……。勝手に考えていろ……。……使われる道具の分際で……」
そして顔を体と同じ方向に向け、自身の手中から離れたエルフナインに腹立たしい苛立ちを吐露した。道具として廃棄したはずなのに、『人間』という枠組みにいる彼女のことが気に食わないのだ。
そうしていると、背後から複数の足音が迫って来ていた。装者たちだ。キャロルは脚を止めていたからだと思っているようだが、実際には足を止めていなくとも雷の策略によって追いつけている。どちらかと言えば足を止めた所為で予想のコースを外れ、クリス達がコース変更を余儀なくされたところだ。
走りながら装者の一人、調が口を開く。
「ここまでよ!キャロル、ドクター!」
「さっきみたいにはいくもんかデス!」
「だがすでに、シャトー完成に必要な最後のパーツの代わりは入手している」
キャロルは余裕の表情を崩すことなく、ゆっくりと振り返りながらノイズ召喚ジェムをばら撒いた。最後のパーツとはつまり、ネフィリムの左腕を持つウェルの事だ。彼の腕ならばシャトー内の複数の聖遺物と同化することで掌握し、ヤントラ・サルヴァスパと同じように扱うことが出来るからだ。
ジェムが割れ、赤い輝きと共にアルカ・ノイズが召喚される。
ウェルが装者たちを煽るように、
「子供に好かれる英雄も悪く無いが、生憎僕はケツカッティンでね?!」
「誰がお前なんか!」
切歌がキレる。
そうこうしている間に、無数のアルカ・ノイズが完全に召喚され、キャロル達とクリス達の間に並んだ。戦闘開始の合図として、切歌がイガリマの起動聖詠を歌う。
「Zeios Igalima Raizen Tron」
そしてそのまま彼女の体躯に似合わぬ大鎌を振るい、アルカ・ノイズを真っ二つに両断した。同じくシンフォギア・シュルシャガナを纏った調は跳躍して高さをとり、ツインテールバインダーから無数の小型鋸を打ち放つ。
『α式・百輪廻』
跳躍したことで上から降るように放たれた鋸が、召喚された無数のアルカ・ノイズを次々に斬り裂いていく。クリスはアームドギアのボウガンをピストル型に変形させてノイズの群れの中に降り立ち、自身を中心にして周囲一帯に存在するノイズに風穴を開けていった。
これ以上好きにはさせないとレイアはコインを錬金術でトンファーに形作り、ターゲットと見定めていたクリスに接近する。彼女はトンファーと長い脚を武器とし、クリスの放つピストルを弾くことで攻撃をかわしながら自身のリーチへと侵入する。
クリスも歴戦の装者。距離を詰められた程度では狼狽えたりはしない。バックジャンプで距離をとりながらピストルを連射する。が、レイアはそのさらに上を行く。踊るようなステップで銃撃をかいくぐり、クリスの足元の地面にコインを数枚ばら撒いた。
そこを基点に土の錬金術が発動し、巨大な岩石が油断していたクリスの足元から隆起する。
「がはッ?!」
「あとは私と、まもなく到着する妹で対処します」
「オートスコアラーの務めを……」
「派手に果たして見せましょう……」
オートスコアラーの務め。自身にダインスレイフの呪いの旋律を刻み、喜びの感情を得ること。即ち自身の死を意味するその務めを果たすため、キャロルの言葉にレイアは笑いながら返す。
キャロルがこの場から離脱するためにテレポートジェムを地面に放り投げ、転送用の錬金陣が彼女とウェルの足元で輝く。
ウェルが手を振り、
「ばっはは~い」
白衣のポケットから何やらメモのようなものを落としながら、その姿を消した。
「待ちやがれッ!」
クリスは彼女たちを追いかけようとするが、行く手をレイアに阻まれ、隙だらけとなった顔面をトンファーで殴打されてしまう。彼女の体は殴られた衝撃で宙に浮き、地面に叩きつけられた。
ウェルの落としたメモに目ざとく気づいた切歌はそれを回収しながら、
「不味いですッ!大火力が使えないのにまともに飛び出すのはッ?!」
「駄目ッ!流れがよどむッ!」
追撃を仕掛けるための布石としてレイアはコインを空中にばらまき、ばら撒かれたコインがマシンガンのように放たれた。切歌は何とか踏ん張って耐えるが、空中にいた調はコインの弾丸をまともに喰らってしまい、切歌に受け止められる。そこを好機と踏んだレイアは二つのコインを大型化し、それらで調と切歌をはさみ、押しつぶした。
そしてコインが霧散し、押しつぶされた二人は地面へと崩れ落ちる。そんな時、地面に倒れ伏していたクリスがゆっくりと目を開けた。その瞳の中に、崩れ落ちた調と切歌の姿がうつる。自分の不甲斐なさのせいでこうなってしまった。と、勝手に自分自身を追い詰めてしまい、クリスの目に涙がたまる。
「一人ぼっちが……仲間とか友達とか、先輩とか後輩なんて求めちゃいけないんだ……。でないと……でないとぉ……残酷な世界がみんなを殺しちまってぇ……本当の一人ぼっちになってしまうッ……。なんで……世界はこんなにも残酷なのに……パパとママは歌で救おうとしたんだ……」
悲しみのあまり声がかすれる。
が、このような状況を敵であるレイアが許すはずもない。
「滂沱のいとまがあれば、歌えッ!」
レイアは跳躍し、落下の勢いをつけたトンファーをクリスに振るう。その一撃がクリスに振り下ろされんとするその時、倒れていたはずの調がバインダーから延ばしたアームで、切歌が大鎌で彼女の一撃を防いだ。
「なッ?!」
驚愕するクリスを背にして顔だけで振り返り、
「一人じゃないデスよ!」
「未熟者で……半人前の私達だけど……!そばにいれば、誰かを一人ぼっちにさせないくらいはッ……!」
「ッ!」
「「うわぁぁッ?!」」
「二人とも……」
レイアがさらに力を籠め、元々満身創痍だった二人の体は地面に倒れ伏した。だが、それでもめげない。
「後輩を求めちゃいけないとか言われたら、ちょっとショックデスよ……」
「私達は、先輩が先輩でいてくれること……頼りにしてるのにッ……!」
「あ……そっか……私みたいなのでも先輩やれるとするならば、お前達みたいな後輩がいてやれるからなんだな!」
空気が変わった。それを感知したレイアは構えをとる。
再起したクリスは立ち上がり、
「もう怖くない!イグナイトモジュールッ!抜剣ッ!」
ウイングスイッチを押しながらコンバーターを引き抜き、光の刃を展開したモジュールが宙を舞う。そしてその刃が、クリスの胸を貫いた。彼女の中を呪いと闇が駆け巡る。
一人では耐えられないかもしれない。だが、今は調と切歌の二人がいる。
(あいつらがッ……あたしをギリギリ先輩にしてくれるッ……!そいつに答えられないなんてェ……他のだれかが許してもッ……アタシ様が許せねぇってんだァァァッ!)
そしてクリスは呪いをねじ伏せ、その身に纏う力と変える。ギアの装甲の一部がはじけ飛び、黒く鋭角的の物へと変化した。まさに攻撃的。と形容するのが正しいだろう。
イグナイトモジュールを乗りこなすクリスは、ボウガンから放たれる矢をレイアに向けて発射した。だがそこはレイア、トンファーを回転させ、盾代わりにしてやを次々と叩き落していく。聞かないとなれば弾速と手数を上げるまでと言わんばかりにクリスはボウガンをピストルに変え、接近戦を挑んでくるレイアと正面から組み合う。銃で接近戦を行うすべは弦十郎から教わっていた。
攻撃をかわし、トリガーを引きながらクリスは思う。
(失うことの怖さから……せっかく掴んだ強さも暖かさも全部、手放そうとしていたアタシを止めてくれたのは……)
背後に立つ後輩たちをチラリと振り向かずに見る。レイアの虚を突くためにバックジャンプで距離をとり、ピストルを組み合わせてロングライフルを形作った。
接近戦をしているのにライフルを取り出したクリスに対してレイアは困惑の色を浮かべ、
「ライフルで……?」
「殴るんだよぉッ!」
『RED HOT BLAZE』
銃身を握り、銃底をハンマーのようにしてレイアの側頭部を殴打する。
(先輩と後輩。この絆は、世界がくれたもの……!世界は大切なモノを奪うけれど、大切なモノをくれたりもする!そうか……!パパとママは、少しでももらえるものを多くするため、歌で平和をッ……!)
せっかく掴んだ好機、見逃す手はない。クリスは即座に大型ミサイルを作り出し、点火した。
『MEGA DETH FUGA』
猛烈な速度で放たれる二つのうちの一つをレイアは殴り壊し、爆発させる。その爆炎に巻かれながら、
「もろともに巻き込むつもりで……?!」
そしてその爆炎の中を、もう一発のミサイルに乗ったクリスが肉薄する。レイアも迎撃のためにコインを乱射するが、それを読んでいたクリスがガトリング砲で相殺している。破壊することは不可能と即座に断じ、跳躍して爆発から逃れようとするが、クリスがミサイルの起動を変える。跳んだことが仇となった。空中に逃げ場はない。
「ミサイルを曲げてッ?!」
このままではクリスも爆発に巻き込まれてしまう。だが、今の彼女は一人ではないのだ。切歌の放ったアンカーを空中で受け取り、戦線から離脱する。
クリスの乗っていたミサイルはそのままレイアのほうへ向かい、彼女は笑みを浮かべて直撃を喰らう。そして調が爆発が始まる前にバインダーを展開し、
「スイッチの位置は覚えてるッ!」
小型の鋸がスイッチを撃ち抜き、隔壁が閉じる。もう少しで完全に閉じ切ろうとする直前で、クリスが回収された。
上手くいったことに切歌がガッツポーズを決め、
「やったデス!」
「即興のコンビネーションで、まったくもって無茶苦茶……」
「その無茶は、たのっもしい後輩がいてくれてこそだ」
クリスは調達の手を取り、
「ありがとな」
調達はその言葉に笑顔を浮かべる。そしてすぐに切歌は何かを思い出したかのような顔をして、
「そ、そう言えば!」
「どうしたの?」
「ドクターがこんなものを落としていったデスよ!」
「なんだこれ?暗号か?」
「……姉さんならわかるかな?」
切歌が取り出したメモを、クリス達がのぞき込む。そこには……
『BYH』
と、記されていた。
BYH……一体何を意味しているんだ……。」