戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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キャロルの計画が動き始め、それと同時に雷の計画も動く。


計画始動

 クリス達がウェルの落としたメモの意味に頭を悩ませていると、深淵の竜宮が大きく揺れ始めた。危険を知らせるアラートが鳴り響いている。そしてそんな一刻を争う事態に陥った時に限ってクリス以外ののギアが解除された。リンカーの制限時間が切れたのだ。

 本部では、大人たちが冷静に対処を開始する。

 

「深淵の竜宮、被害拡大!クリスちゃん達の位置付近より、圧壊しつつあります!」

「この海域に接近する巨大な物体を確認!」

 

 深淵の竜宮だけでなく、ここ本部潜水艦のアラートもなり始めた。藤尭が正体不明部隊が接近して来たことを弦十郎に伝え、メインモニターにとらえた映像を投影する。

 

「これは……!」

「いつかの人型兵器か!」

 

 そう、あの時は何とか振り切ったものの、今回も上手くいくとは限らない。何故ならクリス達の小型潜水艇を回収した後、脱出しなければならないからだ。彼女たちを待ってる間にも、人型兵器『レイアの妹』がだんだんと近づいてくる。

 

「走者たちの脱出状況はッ?!」

 

 ギアが解除された調と切歌を肩に担ぎ、クリスがエレベーターシャフトの壁を蹴って潜水艇を停泊していたハッチまで急行する。

 調が担がれたまま、

 

「駄目、間に合わない……!」

「さっきの連携は、無駄だったデスか……?」

「まだだ!諦めるなッ!」

 

 何とか崩壊までに潜水艇に間に合ったクリスは、ギアを纏っていない後輩二人を先に乗り込ませた後、自身も乗り込んだ。

 レイアの妹に取り付かれる前に潜水艦に帰投する。

 

「潜航艇の着艦を確認!」

「緊急浮上!油圧を気にせず、振り切るんだッ!」

 

 可能な限りの速さで潜水艦が浮上をはじめ、これを沈めるためにレイアの妹が猛追を開始する。もしもの時を考え、弦十郎は友里に指示を飛ばした。

 

「総員をブリッジに集め、衝撃に備えろ!急げ友里ッ!」

 

 素早く、しかし焦りを見せずに友里がコンソールを弾く。

 丁度太陽が昇り始める。響が病院から太陽を見つめた。

 

「決戦の朝だ……」

 

 職員全員がブリッジに集まり、捉えられる前に完全に浮上しきる。が、すぐ後にレイアの妹が海面から現れ、本部潜水艦を真っ二つに叩き割った。大爆発が起きる。

 発生した爆発と衝撃で、友里の頭上に会った照明が落下した。

 

「危ない!」

 

 エルフナインが彼女を助けるために飛び掛かる。

 ギリギリのタイミングでブリッジを潜水艦から切り離し、イグナイトを維持したままのクリスを搭載したミサイルは発射した。ミサイルの外装がパージされ、中からクリスが躍り出る。彼女は空中でアームドギアを弓の形に変形させ、取り出した矢をつがえ、打ち放った。

 

       『ARTHEMIS SPIRAL』

 

 放たれた矢は弦の反発で圧倒的な初速を得、矢そのものがロケット弾でもあるため後部ブースターでの加速も相まってとてつもない速度でレイアの妹の腹部を穿ち貫いた。遅れてレイアの妹が爆発する。爆発の衝撃で発生した波が切り離したブリッジを襲うが、転覆するような様子はない。揺れるブリッジにクリスが着地した。

 

「本部が……。連中は、何もかもをまとめてぶっ飛ばすつもりで……!」

 

 ブリッジ内は崩壊、とまではいかなかったが、凄惨な状態だった。天井の一部が崩れ落ち、照明も非常電源になっているせいか薄暗い。友里が目を覚ました。

 

「う、うぅ……。?!エルフナインちゃん?!」

 

 自分の体にエルフナインが力の抜けたまま覆いかぶさっている。そのことに気づいた彼女はすぐさま声をかけた。エルフナインは、力を振り絞るように口を開く。

 

「僕は……誰に操られたんじゃなく……」

「エルフナインちゃん?!」

 

 とだけ言って、力なく友里に崩れ落ちた。角度的に見えていなかったが、腹部を見れば白いワンピースが鮮血で赤く染まっている。すると彼女たちのそばに、調と切歌が駆け寄ってきた。如何やら彼女たちには怪我はないようだ。

 

「大丈夫デスか?!」

「早く手当しないと!」

「目を開けて!エルフナインちゃん!エルフナインちゃん……!」

 

 だいぶ血を流しているようだ。友里の呼びかけもむなしく、エルフナインは目を閉じたままだ。

 

○○○

 

「悪いな……腹、減ってたんだ」

「うん……」

 

 響は自分たち家族を捨てた父、洸と再び会うために、前も来た喫茶店で顔を合わせていた。初手から父親に食事を奢っているが、思い返してみれば今の彼が定職についておらず、国連で働いている自分のほうが所得が多いため、仕方がないといえば仕方がない。前なら文句の一つや二つ言っていただろうが、雷と未来、二人に説得された今なら大丈夫だと響は思う。

 響は応援メッセージ代わりに受け取った二人からの『へいき、へっちゃら』が表示されたスマホ画面をチラリと盗み見る。まだ不安は残るが、頑張れる気がしてきた。

 響は腹をくくり、

 

「あのね、お父さん……」

「どうした?」

「本当に、お母さんとやり直すつもり……?」

「ホントだとも、お前が口添えしてくれたら、きっとお母さんも……」

「だったら!はじめの一歩は、お父さんが踏み出して……。逃げ出したのはお父さんなんだよ?帰ってくるのも、お父さんからじゃないと……」

 

 洸は浮かせていた腰を落とし、

 

「そいつは嫌だなぁ……。だって、怖いだろ……?」

 

 洸は困惑する響の目を見つめ、

 

「何より俺には、男のプライドがある」

「私、もう一度やり直したくて……勇気を出して会いに来たんだよ……?」

「響……」

「だからお父さんも、勇気を出してよ!」

「だけど……やっぱり、俺一人では……」

 

 いつまでも情けない父親の姿に、響は失望の色を見せる。

 

「お父さんはもうお父さんじゃない。一度壊れた家族は、元に戻らない……」

 

 洸は何か声をかけようとするが、書ける言葉が見当たらず、思わず窓の外を見てしまう。そこには、小さな子供とそのこと手を繋ぐ母親の姿があった。そのあとすぐに子供が転び、その拍子に握っていた赤い風船を手放してしまい、泣きじゃくっている。赤い風船が空に上がっていく。風船を目で追って空を見上げると、あまりに異常な事態が発生した。空が割れたのだ。そして空が割れるのと同じタイミングで響の通信機が鳴る。

 

『響君聞こえるかッ?!キャロルの進攻が開始されたッ!』

「キャロルの?!」

 

 なぜすぐさま探知できたのか?

 それはフォトスフィアがファラに強奪される前、藤尭が雷の頼みで追跡用プログラムをスフィアにインストールしていたからだ。普段、キャロルの居城は異空間にあるために探知不能だが、少しでもこちらに現れたならすぐさま探知できるように仕組んだものだ。先をとれない今、後の先だけは取って見せるという雷の計略の一つだ。

 響は通信機を耳に当てたまま、喫茶店を飛び出した。彼女の後を洸が追う。

 

○○○

 

 シャトー内部、ワールドデストラクターのシステムを起動させるため、ウェルはコンソールにネフィリムの左腕を突っ込んでいた。

 

「ワールドデストラクターシステムをセットアップ。シャトーの全機能をオートドライブモードに固定……」

 

 すべての工程を完遂した証として、ウェルは左腕を引き抜いた。そして彼はそのまま下卑た笑みを浮かべ、

 

「どうだ!僕の左腕は!トリガーパーツなど必要としない!僕とつながった聖遺物は、全て意のままに動くのDA!」

「オートスコアラーによって、呪われた旋律はすべてそろった……。これで世界はバラバラにかみ砕かれる」

「あぁん?世界を……かみ砕くぅ?」

 

 高笑いしていたウェルが、拍子抜けしたとも、想定していたとも取れるような声を上げる。彼の言にキャロルは頷いた。

 

「父親に託された命題だ」彼女の中で父、イザークの言葉が蘇る。そして彼女は、かつての『キャロル』のようなかわいらしい、不気味な声で、

 

「分かってるって!世界をバラバラにするの!解剖して分析すれば、万象の全てを理解できるわ!」

「つまり至高の叡智!ならばレディは、その知をもって何を求めるぅ?」

「何もしない……」

「あぁん?」

 

 ウェルは膝を曲げ、キャロルと視線を合わせた。

 

「父親に託された命題とは、世界を解き明かすこと……。それ以上も以下もない」

「oh……レディに夢はないのかぁ……?英雄とはあくなき夢を見、誰かに夢を見せる者!託されたものなんかで満足してたら、底も天辺もたかが知れるッ!」

 

 

 ウェルの言葉が、キャロルの怒りの事先に触れた。彼女はウェルを睨みつけ、

 

「なんか……といったか?」

「僕の選択は正解だったか……」

 

 殺意を向ける彼女に対し、場違いなほどにウェルの表情は穏やかだった。




ウェルの真意とは?!
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