戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
・・・もっとしっかりと考えて書かなきゃ。
絶唱を発動した翼は二課直営の病院へすぐさま担ぎ込まれ、緊急手術の結果、絶対安静、予断を許さない状況になっていることが分かった。弦十郎は執刀医に頭を下げ、ネフシュタンの捜索へと当たる。
近くのソファーで雷と響の二人は座り込んでいた。そこへ、緒川が歩いてきて、携帯で自販機のドリンクを買いながら口を開く。
「あなた達が気に病む必要はありませんよ。翼さんが自ら望み、歌ったのですから」
「緒川さん・・・」
自販機がカップにドリンクをそそぐ音を聞きながら、話を続ける。
「ご存じとは思いますが、以前の翼さんはアーティストユニットを組んでいまして」
「ツヴァイウイング・・・ですよね」
注ぎ終わったドリンク、その三つのうちの二つを雷と響に差し出し、同じくソファーに座る。如何やら、二人はココア、緒川はコーヒーのようだ。雷は家庭の事情でツヴァイウイングのことを良く知らなかったし、響の事情ということを察したので、黙ってココアを啜る。
「その時のパートナーが、天羽奏さん。今はあなたの胸に残る、ガングニールのシンフォギア装者でした。二年前のあの日、ノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑えるため、奏さんは、絶唱を解き放ったんです」
「絶唱・・・。翼さんも言っていた・・・」
緒川が絶唱とはどういうものかを説明していく。
「装者への負荷をいとわず、シンフォギアの力を限界以上に打ち放つ絶唱は、ノイズの大軍を一気に殲滅せしめましたが、同時に奏さんの命を燃やし尽くしました」
「それは・・・。私を救うためですか?」
その質問に緒川さんは答えず、一度コーヒーを啜ってから一拍置いて話を再開する。
「奏さんの殉職、そしてツヴァイウイングは解散。一人になった翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべくがむしゃらに戦ってきました。同じ世代の女の子が知ってしかるべき恋愛や遊びも覚えず、自分を殺し、一振りの剣として生きてきました。そして今日、剣としての使命を果たすため、死ぬことすら覚悟して歌を歌いました」
ゆっくりと朝日が昇り、夜が明ける。
「不器用ですよね。でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」
響は体を震わせ、頬を涙が伝う。雷は飲み干したカップを握りつぶし、歯を食いしばる。
「そんなの・・・ひどすぎる・・・」
「そして私は、翼さんのことを何も知らずに、一緒に戦いたいだなんて・・・奏さんの代わりになるだなんて・・・」
泣き震える響を雷が抱き寄せ、自分が泣いたときにいつもしてくれるように頭を撫でる。それを見ながら、緒川が話を続ける。
「僕も、あなたに奏さんの代わりになってもらいたいだなんて、思ってはいません。そんなこと、だれも望んではいません。雷さんなんか特にそうです。聞きましたよ、代わりになると響さんが言ったあの日、とても怒っていた、と。雷さんにはどのような経緯があったのかは聞きませんが、代わりになる、が何を意味するか、分かっていたのでしょう」
緒川が身を乗り出す。
「ねぇ、響さん、雷さん。僕からのお願いを、聞いてもらえますか?」
「へ・・・」
「お願い・・・ですか」
二人は顔を上げて、緒川を見つめる。
「翼さんの事、嫌いにならないでください。翼さんを、世界に一人ぼっちになんて、させないでください」
「はい・・・!」
響が返事し、雷が頷く。
○○○
屋上で二人はベンチに並んで座っている。
「代わりだなんて」
俯いた響がボソッと呟き、火傷のせいで包帯が増えた雷は目を閉じて軽く上を見ている。何か考え事をしているのだろう、時折「うーん」と唸っている。響の中に会議のことが蘇ってくる。
弦十郎が話題を切り出す。
「気になるのは、ネフシュタンを纏った少女の狙いが、響君と雷君のギアだということだ」
了子がタブレットをいじりながら返事をする。
「それが何を意味しているのかは全く不明」
「いや、個人を特定しているならば、我々ニ課の存在を知っているだろうな」
「内通者・・・ですか」
了子の答えを弦十郎が否定し、藤尭が補足した。
「なんで、こんなことに」
雷に慰められ続けている響は、内海着ながら声を上げる。
「私の至らないせいです。シンフォギアなんて強い力を仕えても、雷みたいに強くないから・・・私自身が至らないせいで・・・!」
響がゆっくりと立ち上がりながら言う。
「・・・翼さん、泣いていました。翼さんは強いから戦い続けてきたんじゃありません。ずっと、泣きながらも、それを押し隠して戦ってきました。悔しい涙も、覚悟の涙も、誰よりも多く流しながら、強い剣で、あり続けるために。ずっとずっと、一人で・・・!」
涙を流しながら、響が勢い良く振り返って、叫ぶ。
「私だって守りたいものがあるんです!だからっ!」
響が目を開ける。となりでは未だに雷が目をつぶってうんうん唸っていた。昨日の少女のことと、データで見たライブの事件のことを想起しているのだ。
(ノイズはあの杖を使えば操れる・・・ネフシュタンが奪われたときのライブで大量のノイズが現れた。で、あの子が鎧をまとっていたことを鑑みるに人為的なものと考えるのが妥当。見た感じの年齢的に彼女はやってない、先兵的な感じかな?その少女の狙いは響と、ケラウノス・・・。響はよくわからないけど、天羽々斬じゃなくてケラウノスなのは轟理論を使っているから?でも、鎧と杖を使い方を知っているあたりそういうのに明るい人がバックにいるのかな・・・たしか、轟理論の根幹は櫻井理論と同じだから、ケラウノスを狙っているのは櫻井理論を知っている人・・・)
一人だけ該当者がいたが、あり得ないだろう。と、首を振って頭から考えを追い出す。
「二人とも!」
「未来・・・」
「おはよ、未来」
横から未来が声をかけてきた。
「おはよ、雷。最近二人でいることが多くなったね?今まで仲たがいしてた分くっついてるのかな?」
あわてて響が未来に答える。
「そ、そうかもしれないね。一か月分の雷との触れ合いをまとめて補給してるんだよ!ほ、ほら!それに雷って未来とは別の方向で賢いじゃない?今までできなかった触れ合いついでに相談にのってもらってたんだ!」
雷が拘束で頷いていると、未来が雷と響の間に座って両方の手を握ってきた。
「やっぱり未来に隠し事は出来ないや」
「だって響、無理してるんだもの」
二人そろって観念したような顔をする。
「でもごめん。もう少し二人で考えさせて。・・・これは、二人で一緒に考えなきゃいけないことなんだ」
「・・・わかった」
未来は一拍置いて返事をすると、重ねていた手をほどき、しっかりと握りしめる。
「ありがとう、未来・・・」
少しの間そうしてると、未来が手を放し、立ち上がった。
「あのね、響、雷。どんなに悩んで考えて、出した答えで一歩前進したとしても、響は響のままでいてね。変わってしまうんじゃなく、響のまま成長するんだったら、私も応援する。だって、響の代わりはどこにも居ないんだもの、いなくなって欲しくない。雷は、今響の力になれるのは雷だけなんだから、響がほかのだれにもならないように導いてあげて」
響がはっとした顔で立ち上がり、病院のを見つめる。座ったままの雷が未来と小声で話す。
「わかった。ありがとう、未来。やっぱすごいや、私じゃ何とか変わらないようにさせるのがやっとなのに、未来が言ったら前に進めるんだもの」
「そんなことないよ。私は最後の一押しをしただけ、そこまでもっていってくれたのは雷だよ?」
響が二人のほうを向いて、手を握りしめる。
「ありがとう。雷、未来。私、私のまま歩いて行けそうな気がする!」
それを聞いて二人はにっこりと笑う。そして未来がふと思い出したかのようにポケットからタブレットを取り出した。
「そうだ!こと座流星群見る?動画でとっておいた」
「ホント!」
雷と響は二人で、頬がくっつくほどの距離で画面を見るが、そこには何も映ってない。
「・・・壊れちゃった?」
「・・・光量不足だって」
「「駄目じゃん!」」
二人は未来にツッコミを入れ、おかしくなって三人そろって笑う。響の顔に涙が流れ、それをぬぐいながら話し始める。
「おっかしいなぁ、もう。涙が止まらないよ。今度こそは三人一緒に見よう!」
「約束、次こそは約束だからね?」
「わ、わかってるよ~」
三人をそよ風が撫でる。
(私だって、守りたいものがある!私に守れるものなんて小さな約束だったり、何でもない日常くらいなのかもしれないけれど、それでも、守りたいものを守れるように、私は、私のまま強くなりたい!)
響が決意を新たにしていると、雷の耳元で未来がささやいた。
「流れ星にしっかりと、二人が仲直りできますようにって祈ったからね」
「ありがとう。だったら仲直りできたのは未来のおかげだね」
○○○
「「たのもー!!!」」
とある和風屋敷の前で雷と響の二人は叫ぶ。
「うおぉ?!なんだ、いきなり」
「私に、戦い方を教えてください!」
「私は、私の体のことを伝えに来ました!そのうえで、私も鍛えてください!」
「この俺に・・・君たちが?」
「はい!弦十郎さんなら、きっとすごい武術なんか知ってるんじゃないかと思って!」
その家の主は風鳴弦十郎。二課の指令にして人類最強の男である。その男が腕を組み、少し考えてから口を開く。
「オレのやり方は、厳しいぞ」
その言葉に雷と響の二人は顔を合わせ、もう一度弦十郎の顔を見て返事をする。
「「はい!」」
返事を聞いて、弦十郎は目を細めて二人に質問する。
「時に二人とも、君たちはアクション映画などはたしなむ方かな?」
「へ?」
「タブレットで、洋画を少し・・・」
雷は体のことを響に支えてもらいながら弦十郎に話し、無理のない程度の特別な特訓メニューが組まれた。雷は体力と防御、回避を中心に、響は全体的に鍛え上げるのだ。弦十郎と二人の厳しい特訓が始まった。
○○○
三人でリディアンに登校しているとき、響が未来に何も映ってない流れ星の動画を見せてもらおうとしたので、雷も便乗する。
「雷も?やっぱり二人は変わった娘」
「そんな私達と付き合ってる未来はもっと変わった娘~」
にんまりと笑った雷が未来に振り返って言う。その時、未来の足が止まった。
「あ、あのね二人とも」
「何?」
「うん?」
神妙な顔で未来が口を開く。
「流れ星の動画をとっていたこと、響と雷に黙っているのは、少しだけ苦しかったんだ。二人にだけは、二度と隠し事したくないな」
雷と響を見てにっこりと笑う。そんな未来に、二人は苦笑いすることしか出来ない。
「私だって・・・」
「・・・未来に隠し事なんて・・・しないよ」
実は雷。精神状態が安定していると、かなり思慮深かったりします。