戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
ミスっちゃって上げ直しです。一部編集入ってます
ウェルと接触すべくシャトー内に侵入したマリア達であったが、内部の防衛システムに行く手を阻まれていた。目の前に壁が進路をふさぐように落下してくるのだ。
「時間がないっていうのに!」
「でも、今は迂回するしか……!」
「とってもとっても、罠っぽいデスよぉ!」
世界解剖の光がシャトーの中へ放たれたことで、この事件に関係する全員の計算が狂わされていた。あのキャロルが自身の計画を失敗するなど考えられない。雷の計画ではマリア達が乗り込んでからのはずだが、それでは時間的につじつまが合わない。だが、立案者である彼女はキャロルに勝ちを宣言している。
彼らの中で最も混乱していたエルフナインが腹部の傷を抑えながら、
「あのキャロルが計画にミスを……?」だが出血がひどいせいか足元がふらつく。それを背後から娘から目をそらさないためにブリッジにやって来ていた洸が受け止める。
「ひどい怪我じゃないか……!」
「キャロルを止めることがボクの戦い……。だけど、こんなのって……」
雷の計画、それは、二段構えで構築されている。誰も、もう一つの計画には気づけないでいた。
○○○
キャロルの計画の阻止と彼女の撃破は別の事。故に雷たちはキャロルとの交戦に入った。これには、マリア達が戻ってくるまでの時間稼ぎも兼ねている。
今まで長きにわたって建造してきたシャトーが一瞬にして崩されてしまったという絶望の所為か、彼女の動作は鈍く、荒い。だが、それでも錬金術とフォニックゲインを重ね合わせたゴリゴリの力押しは強大だった。
クリスが悪態をつく。
「何で、錬金術師が歌っていやがる……!」
「七つの惑星と七つの音階……。錬金術の深奥たる宇宙の調和は音楽の調和。ハーモニーより通ずる絶対心理……!」怒りと絶望に喉を震わせながらも答える。
「どういうことだッ!」翼が剣を杖にしながら問うた。
「その成り立ちが同じである以上、おかしなことではないと言っているッ!」
「親戚同士だから仲がいいってかよ……」
雷が分かりやすくまとめた。内心、仲の悪い親戚だったらいいのに。とか思っていたが、無いものねだりは意味がない。ニヒルに笑いながら視線をキャロルに向けた。
計画を破壊した張本人であるからか、先ほどからキャロルの攻撃は雷に寄っているように見える。ケラウノスの高い防御性能と機動力、即座に最適解を探し出す彼女の頭脳が無ければ跡形もなかっただろう。
キャロルは続ける。
「先史文明期、バラルの呪詛が引き起こした相互理解の不全を克服するため、人類は新たな手段を探し求めたという……。万象を知ることで通じ、世界と調和するのが錬金術ならば、言葉を超えて、世界とつながろうと試みたのが……」
「歌……」
「錬金術も歌も、失われた統一言語を想像するために生まれたのだ!」
「「「まさか!」」」
「フィーネか……」
雷の中に統一言語を取り戻すために月を破壊しようとした女の事を思い返す。そして彼女の一言で、響たち全員の脳裏にも蘇った。
マリア達はウェルを探すためのシャトー内を走り続けていた。
「罠なら、仕掛けてきてもおかしくない頃合いなのデスが……!」
「ッ罠以下の罠……」
見慣れた白衣を着た男、ターゲットでもあるウェルの姿が見えたとたん、姉と慕う雷の願いを知りながら思わず調は悪態をついてしまう。
「もしかして、あたし達を誘導していたのは……!」
「御覧のありさまでねぇ……。血が足りずシャトーの機能を完全掌握することもままならないから難儀したよ……!さあ、英雄となった僕を湛えるがいい!」
「英雄……となった……?」
マリアが首をかしげる。彼女からすれば敵となった彼が何故いきなり世界を救ったような口をしているのか理解できなかった。
ウェルが腹部を抑えながら眉を顰める。
「ああん?あの英雄嫌いから何も聞いていないのかぁ?!」
「英雄嫌いって、姉さんの事?」
ウェルは左手でやれやれとジェスターをしながら首を振り、
「何も聞いていないようだなぁ?!この僕が英雄となる計画の事を!」
時は遡って雷が弦十郎に計画の事を話す前の事。
雷はハッキングで竜宮内に侵入し、ヤントラ・サルヴァスパの存在を把握していた。だが、それだけならば弦十郎。もしくは彼を通して八紘なりなんなりから聞けばいいだけの事。彼女の本来の目的は、犯罪者として、聖遺物として隔離されているウェルとの接触にあった。
与えられた部屋は防音であったため、音を気にする必要はない。緊急事態でない限りこの部屋には誰も入れないようにしている。それを再度確認してから、雷はウェルの同房のスピーカにアクセスした。
「あーあー。英雄モドキ、聞こえてる?」
『モドキではない!僕は本物の英雄だ!……その声は、僕の邪魔をした英雄嫌いか!」
『大正解。で、その英雄嫌いから提案なんだけど、ウェル、英雄になりたくはない?』
「英雄だぁ~?ヘン!僕はもう英雄なんだ!すでになってるものに誰が……」
『違う違う、ただの英雄じゃなくて、世界を救った英雄だよ』
ただの英雄ではなく世界を救った英雄。たったそれだけのことだが、ウェルは雷の提案に食いついた。
「……聞くだけ聞いてやろうじゃないか」
『ありがとう』
そう言って雷は、キャロルの世界解剖計画の大まかな概要を話した。音声でしかわからないが、声色的にはかなり乗り気なようだ。そもそも、世界を救うと聞いて乗る気にならないようでは英雄たりえない。雷はその心理をついていた。
「なるほど……、で、僕に何をしてほしいんだい?英雄の僕に、してほしいことの一つや二つあるんだろう?!」
『ああ、あるとも。まず一つは、キャロルの味方になって欲しい』
「ああん?!」
ウェルが怒声を上げる。英雄になる気はないかと聞かれてイエスと言えば敵になれと帰ってきたのだ。腹の一つは立つだろう。
怒る有ウェルとは反対に、雷は冷静に続ける。
『トロイアの木馬だよウェル。味方になったと見せかけて内側から崩すんだ。悪くはないだろう?』
「オデュッセウスもしたことだ。いいだろう。君たちをうまく焚きつけて騙してやるよ。で、その後は?」
『ノリいいね……。後は簡単さ。ネフィリムを使って解剖のターゲットを地球からシャトーに変更してほしい』
「僕はその後どうなる?!英雄を見殺しにする気かぁ?!」
『もちろんそんなつもりはないよ。マリア達を君のところに送る。その時にリンカーのデータを渡してほしい……これで終わりさ』
雷は自身の計画を伝えたが、さっきまでノリのよかったウェルのレスポンスが返ってこない。黙って待っていると、やけに落ち着いた彼の声が返ってきた。
「ひとつ聞きたい」
『なんだい?』
「何故君は英雄が嫌いなんだ。レディの事は良く分からないが、白馬の王子様ぐらい夢想したりはするだろう?」少しの沈黙の後、雷が答えを返した。
『私は中学の真ん中まで、虐待といじめを受けていた。死にたくて死にたくてたまらなくなるほどのね。誰も助けてはくれなかった。どんなに手を伸ばしても、叫んでも、誰も来てはくれなかった……』
「だから英雄が信じられないってかぁ?!」
ウェルはしんみりとした空気を打ち破るように、さっきまでと同じく気の振れたような喋り口で、マリアに言った。
「だから僕は言ってやったんだ!あの英雄嫌いに!“Become Your Hero”ってなぁ!」
“Become Your Hero”。その意味は、
「“お前の英雄になってやる”……」マリアがつぶやいた。
「ああ!メモに書いてた『BYH』って……」
「それの頭文字だったんデスかぁ?!」
残したメモに真意に二人が気付いた。そう、ウェルは最初から味方だったのだ。そして彼は全てを打ち明けた後、白衣からメモリーチップを取り出して、マリアに投げ渡し言った。
「何故、自己中心的なお前が……」
「愛、ですよ……!」
「何故そこで愛?!」
マリアはウェルを抱え、調と切歌と共に光が内部まで満ち始めているシャトーから脱出するために走り出す。シャトー崩壊はすぐそこだ。
この世界のマリアさんは雷と笑って暮らせる世界を作るためにフィーネやってたので罪の意識とかあんまりありません。結果的に傷つけちゃってた彼女にも許されてますし、現在進行形で世界救ってますからお釣りが来ます。
あったとしても精々黒歴史ノート書いた後悔ぐらいですね。