戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
奇跡のカタチを見届け、エルフナインの呼吸が荒くなる。もう体が限界に近いのだ。彼女を抱きかかえる洸が声をかけ続ける。
「君!大丈夫か?!ッ……涙?」
エルフナインはその目じりから、一筋の涙を流していた。
七と七十億の絶唱を力と変え、エクスドライブへと移行した装者たちの前に、キャロルが浮遊して向かい合う。
「単騎対七騎……」
「錬金術師であるならば、彼我の戦力差を指折る必要もないであろう?!」
「おまけにとどめのエクスドライブ!これ以上はもうしまいだぁッ!」
一目見ただけでも分かるこの戦力差。誰もがこちらの勝ちを確信していた。だが、キャロルの余裕は崩れない。彼女は鼻で笑って一蹴し、
「奇跡を身に纏ったくらいでオレをどうにかできるつもりか?」
「みんなで紡いだこの力を!」
「奇跡の一言で片づけるデスか?!」
「片づけるともッ!」
調、切歌が反論するが、キャロルが怒号をもって正面からねじ伏せる。未来を諦め、過去を燃やし、現在を蹂躙すると決めた彼女にとって、この程度は奇跡の産物でしかない。
「奇跡など、あの日、蔓延する疫病より村を救った俺の父親は、衆愚によって研鑽を奇跡へとすり替えられた。そればかりか資格無き奇跡の代行者として、刎頸の煤とされたのだ……!」エルフナインに命題の答えを教えられた今も、父親を殺した人々への恨みは消えない。
「万象に存在する摂理と術理。それらを隠す覆いを外し、チフォージュ・シャトーに記すことがオレの使命!即ち万象黙示録の完成だった……!だったのに……!」
キャロルは恨みがこもった憎悪の瞳でその計画を破壊した張本人、雷を睨みつける。だが彼女は、答を教えられた今も間違いにすがる彼女を憐憫を込めた瞳で睨み返した。
雷に向けて断言する。
「奇跡とは、蔓延る病魔に似た害悪だッ!故に俺は殺すと誓ったッ!」
「違うッ!奇跡とは、重ねた研鑽の上に立つ努力の結晶だッ!君が奇跡を殺せば、君のパパさんの研鑽を殺すことになるんだぞ!」
両親の奇跡の、努力の結晶たるケラウノスを纏う雷が、否定させるものかと言い切った。それを反論することが出来ず、一度は動きを止めたキャロルだったが、怒りと共に続ける。
「知ったような口をきくなッ!オレは、奇跡を纏うものだけには負けられんのだぁッ!」
キャロルはそう叫び、数多のアルカ・ノイズ召喚ジェムをばら撒いた。それに展開された強大な召喚陣から輸送型の大型アルカ・ノイズが現れ、地上からはビルと同等の大きさのものが姿を現した。それらの足元や体内から、さらに小型のアルカ・ノイズまでが出現する。
レーダーにはノイズの存在を示す点があり得ない速度で増加していた。
この状況に友里、藤尭が驚愕する。
「まだ、キャロルは……」
「これほどまでのアルカ・ノイズを……」
「チフォージュ・シャトーを失ったとしても、世界を分解するだけなら不足はないということかッ?!」
「この状況で、僕達に出来るのは……」
「響……。響ッ!』
「その声、お父さん?!」
洸が叫び、通信を伝わって響のもとに声が届く。
『響!泣いている子が、ここに居る!』
「ッ」
響はキャロルの目を正面から見つめる。彼女の目尻には、涙がたまっていた。響は構えていた拳を下ろし、
「泣いている子には、手を差し伸べなくちゃね!」
「何もかも、壊れてしまえばァッ!」
キャロルの叫びと共に、アルカ・ノイズが一斉に動きだした。周囲の建物を分解し、破壊していく。響が並び立つ翼に声をかける。
「翼さんッ!」
「分かっている、立花!」鞘から刀を抜刀する。
「スクリューボールに付き合うのは、初めてじゃねえからな!」アームドギアを変形させ、まさに武器庫となった。
「やっぱりいつものだね!」全身のユニットを展開し、電光を身に纏う。
「そのためにも散開しつつ、アルカ・ノイズを各個に打ち破る!」胸から剣を抜き出し、正面で構えた。
響がアームユニットを槍へと変形させ、正面から突撃。腕を振るって殲滅する。
『あの子も、私達と同じだったんデスね……』
『踏みにじられて、翻弄されて……だけど、何とかしたいともがき続けて……!』
調と切歌はアームドギアを合体させ、鋸の回転と鎌を利用したギロチンで地上の小型アルカ・ノイズを刈り取っていく。
マリアの剣筋に沿って光が伸び、その光に沿って複製された剣が大型アルカ・ノイズを両断する。
『違っていたのは、一人だったこと……ただそれだけッ!』
『いわば、みんなに出会えなかった私達……』
雷が電光と共に加速し、エクスドライブとケラウノスそのものの生み出す圧倒的速さが残像を生み出し、複数の大型アルカ・ノイズを蹴りぬいた。
クリスが両腕のビーム砲で巨大な航空型を複数撃ち抜き、さらに砲身を展開して拡散ビームをばら撒き、大小問わず撃ち抜いた。
『救ってあげなきゃな……。何せアタシも救われた身だ!』
『その為であれば!奇跡を纏い、何度だって立ち上がって見せる!』
翼は鞘を振り回してもう一刀の刀へと変形させ、両足ブレードを大型化させて急降下、真下にいた母艦型を斬り裂く。
『そのために私達は!この戦いの空に、歌を歌うッ!』
天にこぶしを突き上げ、一気に刺し貫く。
マリアの振るった両手の件から何本もの剣が射出され、ビットの様に彼女の思考に従って飛び回り、光線を放って焼き尽くす。調と切歌も合体技で大型アルカ・ノイズを斬り刻み、雷が天に指を突き立て、空から招来した落雷で焼き尽くす。
七つの光が輝き、召喚されたアルカ・ノイズを全て殲滅した。
キャロルは装者たちがアルカ・ノイズと戦っている間、各属性の錬金陣を多重同時展開し、エネルギーを増幅する。
「さっきのアルカ・ノイズは時間稼ぎ?!」
「もう全部やり切っちゃたみたいだねぇ……!」
「残った思い出丸ごと焼却するつもりなのか?!」
キャロルの目からは涙を通り過ぎ、怒りのままに血の涙を流していた。
「何もかも壊れてしまえ……。世界も、奇跡も、オレの思い出もぉッ!」
咆哮と共に今までの中で最も巨大な錬金陣から極光が放たれる。そしてそこから放たれる風圧が装者たちを襲った。その威力は圧倒的。これほどの光の中から何が生まれるのか、想像もつかない。
このまま好きにはさせないと翼とマリアが飛ぶ。
「救うと誓ったッ!」
「おおとも!共にかけるぞマリアッ!」
二人は重なり、六本の剣を束ねて回転を加えることでドリルの様に突き進む。が、キャロルの防御陣が防ぎ、弾き飛ばした。
「センパイッ!」
「マリアッ!」
「何、あれ……」
そしてキャロルの背部から弦が伸び、塊となって装甲を形作る。それは緑の外装に金色の角、爪を持った獅子のカタチをしていた。
碧の獅子機。それは、カオスの原物質にしてその口から放たれる炎は万物の完成、即ち終焉をもたらす存在である。それを、キャロルは全ての記憶と引き換えに召喚したのだ。
キャロルは獅子機の中で、
『すべてを無に帰す……。なんだかどうでもよくなってきたが、そうでもしなければ臍の下の疼きが収まらん……!』
「仕掛けてくるぞッ!」
天を割る雷と共に獅子機が咆哮し、口から炎を吐き出す。その炎は圧倒的で、直撃したビルを跡形もなく消し飛ばした。しかもそれは一つだけではない、湾岸部まで炎は浸食していた。
「あの威力……何処まで……!」
「だったらやられる前に!」
「やるだけデス!」
「無策だ行くなッ!」
調と切歌が突っ込むが、さしたるダメージを与えることもできずに吹き飛ばされる。飛ばされた彼女たちを雷がその身とアンカーで受け止め、戦線離脱を阻止した。
体勢を整えたマリアが言う。
「あの鉄壁は金城。散発を繰り返すばかりでは突破できないッ!」
「ならば!アームドギアにエクスドライブの全エネルギーを収束し、鎧通すまでッ!」
「そのエネルギーは私が重ねる!共振増幅したエネルギーならッ!」
「身を捨てて拾う、瞬間最大火力ッ!」
「ついでにその攻撃も同時収束デェスッ!」
「御託は後だッ!マシマシが来るぞ!」
獅子機の口内から光が輝く。それに対し、響を除いた装者たちは各々のアームドギアを構えた。放たれた光の雨を、響の槍が受け止めた。
「私が受け止めている間にッ……!」
「やるぞッ!」
「チェンジセプテットッ!オーバーライズッ!」
雷が叫び、装者たちは装甲をエネルギーへと変換した。共振増幅されたエネルギーを打ち放ち、獅子機の放った光線を斬り裂きながら直撃させた。額の装甲を撃ち抜き、キャロルのいるコアを露出させたものの、撃破には至らない。
キャロルは冷や汗を流しながらも笑みを湛え、
「アームドギアが一振り足りなかったな……ッ?!」
キャロルは目の前の光景に驚愕する。何故なら、響の槍に光が集まっているからだ。
なぜ六重奏ではなく七重奏だったのか。それは、一発目でキャロルの壁を粉砕し、二発目で響の手をとどかせるためだ。想いを繋ぐ、力によって。
キャロルは拒絶の意を示す。
「奇跡は殺す!皆殺す!オレは奇跡の殺戮者にィィッ!」
その拒絶は光線となって放たれ、響に直撃する。だが、響はもらったエネルギーを誇大な腕へと変化させ、キャロルの拒絶を受け止めていた。
「ッ?!」
「繋ぐこの手が、私のアームドギアだッ!当たると痛いこの拳……。だけど未来は、誰かを傷付けるだけじゃないって教えてくれたッ!」
「枕をつぶすッ!ッ?!こんな時に、拒絶反応?!違う……!これは、オレを止めようとするパパの思いでぇッ……!」イザークがキャロルに微笑んだ暖かいかの日の記憶がよみがえり、暴走する彼女をさいなませる。だが、それでもキャロルは止まらない、認めない。「認めるかッ!認めるものかッ!オレを否定する思い出などいらぬぅッ!全部燃やして力と変われェッ!」
駄々をこね続けるキャロルは、自身を止める最後の扉だったイザークの記憶すら焼却してしまう。記憶を錬成したことで、さらなる威力を持つ光が獅子機に満ちる。だが、響も引き下がらない。東から思いを託され、繋ぐと決めたのだ。一度アームドギアを分解し、巨大な拳へと組み替える。
そして獅子機の放った光線と、響の拳が激突する。
「ウオァァァァァッ!」
「ウオォォォッ!」
だが、キャロルのほうが力が強い。押し負けそうになる響だったが、彼女にはいるのだ。背を押してくれる仲間が。
「私達の思い、全部もってけ!ケラウノスッ!」
「天羽々斬ッ!」
「イチイバルッ!」
「シュルシャガナッ!」
「イガリマッ!」
「アガートラームッ!」
七つのアウフヴァッヘン波形が重なり、一つとなる。そしてそれを受けた響の拳は、遂に拳をキャロルへと届かせた。
「ッ?!」
「ガングニーィィィルッ!」最後の一振りを、響が叫ぶ。
『Glorious Break』
だが、獅子機の中に満ちる膨大なエネルギーが暴走し、太陽としてすべてを焼却せんと空へと上昇する。
本部が状況を通達する。
「行き場を失ったエネルギーが、暴走を始めていますッ!」
「被害予測、開始しますッ!」
「エネルギー臨界到達まで、あと六十秒ッ!」
「このままでは、半径十二キロが爆心地となり、三キロまでの建造物は深刻な被害に見舞われますッ!」
「ぬぅぅぅっ!」弦十郎が唸る。
「まるで、小型の太陽……」
これはキャロルの、最後のあがきだった。歌では何も救えないと響に刻み付けるために。
「お前に見せて刻んでやる……。歌では何も救えない世界の心理を……」
「諦めないッ……!奇跡だって手繰って見せるッ!」手を伸ばそうとするが、キャロルが弦で拘束しているために身動きが取れない。
「奇跡は呪いだ、すがるものをとり殺すッ!」背後で爆発が起きる。暴発まであと二十秒、限界はすぐそこまで近づいていた。翼たちも動きたかったが、ギアをエネルギーとして打ち放った今、纏うことが出来ない。
爆発の衝撃でキャロルの髪がちぎれ、空へと投げ出される。すぐに動き出そうとした響だったが、爆発によって弦が更に複雑に絡み合う。
「どうすればッ……!」
「響ィィッ!」
「雷ッ?!」
誰よりも早くギアを再装着した雷が宙を飛翔し、腰にに手を当て、居合の形をとる。そして稲妻の刀で弦を焼き切り裂いた。
『武御雷』
出遅れた響の背中を最大速度で押し、発破をかける。
「手を伸ばすんだ響ッ!キャロルを救うためにッ!」
「うんっ!」
レールガンの様に雷に打ち出された響が、キャロルに手を伸ばす。だが、それでも響自身に限界が近いためか、思うように速度が出ない。キャロルに手を取る気がないというのもあった。
響は全力で手を伸ばす。
「手を取るんだッ!」
「お前の歌で救えるものか……誰も救えるものかよぉッ!」
「それでも救うッ!」モジュールに手を伸ばし、起動する。「抜剣ッ!」エルフナインの思いをのせたダインスレイフの力で純白のエクスドライブが漆黒に染まる。そんな何よりも優しい黒を身に纏い、響はさらに手を伸ばした。
『キャロルッ!』思いが見せるエルフナインの手。そして、もう一つ。『キャロル。世界を知るんだ』父、イザークの手。
「パパ……!」自分が否定したはずの父親が自分に手を伸ばすことに驚愕する。だが、父親とはそういう物だ。どれだけ拒絶されようと、泣いている娘に手を伸ばすものだから。
『いつか人と人が分かり合うことこそ、僕達に与えられた命題なんだ』
「うん……!」
『賢いキャロルにはわかるよね……?そしてそのためにどうすればいいのかも……』
「パパァァァァッ!」
キャロルは涙と叫びと共に手を伸ばし、その手を響はとった。爆発が二人を包み込む。
前章で雷はあんまり活躍できませんでしたからね。今回は大活躍でしたよ。