戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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GⅩ編最終回!
あと、重大発表があります。


明日へ

 キャロルとの決戦を終え、碧の獅子機が爆発する際に発生した小型の太陽とも呼べる膨大なエネルギーによって壊滅した都心部で、緒川の他、黒服たちが行方不明となったキャロルの捜索に当たっている。が、一向に進展がないまま時間が過ぎるばかりだ。

 現状を緒川が新造された本部潜水艦ブリッジにいる弦十郎に報告する。

 

『すでに決着から七十二時間経過しています。これ以上の捜索は……』

「分かった。捜索を打ち切り、帰投してくれ」

『了解しました』

「保護された響ちゃんが無事だったことから、生存していると考えられますが……」

 

 キャロルの手を取った響は、炎に飲み込まれる直前、雷の放った斥力フィールドによって軽傷で済んでいた。そのおかげでファウストローブを纏っていなかったキャロルも無事だとは誰もが思っているのだが、影も形も見つからないことに不安を覚えていた。敵であったとは言え、最後は響の手を取ったのだ。それに、境遇からも装者たちと同じく他人で見ることが出来ないでいた。

 それに、他にも問題はある。

 

「気がかりなのは、キャロルの行方ばかりではありません」

 

 藤尭が言う気がかりなこととは、腹部から出血し、意識を失っていたエルフナインの事だ。今、彼女の元には装者たちと未来が集まっている。

 エルフナインは病室のベットに横たわっていた。

 弱々しい声で彼女は、

 

「来てくれてうれしいです……毎日、すみません……」

「夏休みに入ったから大丈夫」

「夏休み……?」

「楽しいんだって、夏休み……!」

「あたし達も初めてデス!」

 

 調と切歌は初めての夏休みにウキウキと楽しそうにしている。

 響が頬に絆創膏を張った顔を笑顔でエルフナインに向け、

 

「早起きしなくていいし、夜更かしもし放題なんだよ?」

「それは響のライフスタイル……」

「あんまヘンなことを吹き込むんじゃねえぞ?」

 

 響は未来とクリスの言葉をわざと無視し、エルフナインに夏休みの良さを説き続ける。

 

「夏休みはねぇ、商店街でお祭りもあるんだ!焼きそば、綿あめ、たこ焼き、焼きイカ!ここだけの話、盛り上がってくるとマリアさんのギアから盆踊りの曲が流れるんだよ!」

「因みに盆踊りが流れてくると翼さんがどこからか持ち出した太鼓をたたき始めます」

 

 爆心地に近かったため、重症なエルフナインよりもさらに見た目が重症な雷がノリに乗る。今回の一件でいろいろ吹っ切れた彼女だったが、流石に大爆発を喰らうのはどうしようもなかったようだ。しっかりと防御を固めたうえでこれだったのだ。雷帝を使えば無事だっただろうが時間がなく、発動できなかったのだから仕方がない。

 他のみんなも助けようとした結果こうなった。と、割り切っている。

 響にからかわれたマリアは顔を赤くして、

 

「そんなわけないでしょう?!だいたいそういうのは翼のギアから流れてセルフでやるのがお似合いよ!」

 

 マリアの流れるようなツッコミとボケに病室が笑いで包まれる。

 だが、面白くないのは笑われている翼だ。彼女は頬を引きつらせ、

 

「なるほどなるほど……?皆が天羽々斬についてどう認識しているか、よーくわかった……」

 

 笑いすぎて目に涙を浮かべたエルフナインは指でそれを拭き、

 

「僕にはまだ知らないことがたくさんあるんですね……!世界や、皆さんについてもっと知ることが出来たら、今よりずっと仲良くならますでしょうか?」

「なれるよ!」響が真を開けずに彼女の手を取る。「だから早く元気にならなくっちゃ!ね!」

 

 装者たちと未来はエルフナインに挨拶してから病室を出た。

 

「私、ちょっとトイレに!」

 

 そう言って響は走り出した。切歌たちが待とうとするが、マリアや翼、クリスがそれをたしなめ、引っ張っていく。雷と未来は、響の背中を見つめ、すぐに彼女の後を追った。

 彼女がトイレに走った理由は一つ。泣き顔を見せたくないのだ。エルフナインはもう長くない。何とか延命しているものの、そう長くは持たないだろう。

 手洗い場で涙を流す響の背中を二人は見つめる。

 鼻の詰まった声で響が、

 

「ゴメン、私が泣いてたら、元気になるはずのエルフナインちゃんも、元気になれないよね……?世の中、拳でどうにかなることって、簡単な問題ばかりだ……。自分に出来るのが些細なことばかりで、ホントに悔しい……!」

「そうかもしれない」未来が歩み寄り、涙を流す響の手に自身の手を重ねる。「だけどね?響が正しいと思って握った拳は、特別だよ?」

「特別……?」

「世界でいちばんやさしい拳だもの、いつかきっと、嫌なことを全部解決してくれるんだから」

「そのいつかの日が来るまで、私が、私達が頭でも手でもなんでも貸してあげる。響の手は、握るだけじゃないんでしょ?」壁にもたれて腕を組んでいた雷が笑って言う。

「未来……雷……」

 

 響が涙と共に未来に抱き着いた。それを見た雷が襟に指をかけて豊満な胸に風を送りながら、「お~お熱いこって」と呟くと、響が右手でこっちに来て。のジェスチャーをした。仕方ないと言うように雷が笑いながら響たちのほうに向かって行く。

 

「ありがとう……。やっぱり二人は、私の陽だまりだ……」

 

 いつも間にか雷も響の陽だまりになっていたようだ。因みに響と未来の二人は内心、雷の事はいろんな事を教え、実現させる(実らせる)ことから『稲妻』だと思っているのだが、口にすると小恥ずかしいので言わないのだ。後、陽だまりと並べるとなんとなく物騒と言うイメージもある。

 洗面台に張られた水に、波紋が三つ、広がった。

 

○○○

 

 夜、誰もが寝静まり、エルフナインも例外なく眠っていた。命の終わりが近づいているのか、呼吸音が荒い。そんな彼女の病室のドアが開いた。面会時間はとっくに過ぎている。そんなあり得ない時間帯に来訪者が現れた。キャロルだ。

 空気の抜ける音と足音で目を覚ましたエルフナインは、顔だけをキャロルのほうに向ける。

 

「キャロル……」

「キャロル……それがオレの名前……」

「記憶障害……。思い出のほとんどを焼却したばっかりに……」

 

 記憶のほとんどを失ったキャロルは、記憶の断片を頼りに病室にやって来たのだ。彼女はベッドのそばまで近寄って言う。

 

「すべてが断片的で、霞がかったように輪郭が定まらない……。オレは、いったい何者なのだ……?目を閉じると瞼に浮かぶお前なら、オレのことを知っていると思いここに来た……」

「君は……もう一人のボク……」

「オレは、もう一人のお前……?」

「ええ……二人で、パパの残した言葉を追いかけてきたんです……」

「っ……パパの言葉……そんな大切なこともオレは忘れて……」

 

 父親の言葉すら焼却してしまったキャロルはそれが何だったのかを思い出せず、狼狽える。そして跪き、自身の知らない父親の言葉を知るエルフナインに乞う。

 

「教えてくれ!こうしている間にも、オレは、どんどん……!」だが、その瞬間、エルフナインはせき込み、抑えた指の間からは赤い飛沫が飛ぶ。「お前!」心配そうにキャロルが声をかけた。

 さらに弱々しい声で、

 

「順を追うとね……、一言では伝えられないです……。ボクの体も、こんなだから……」

「俺だけじゃなく、お前も消えかけているんだな……」

「……うん……」

 

 悲し気な返事が病室の虚空にこだまする。

 

「世界を守れるなら……消えてもいいと思ってた……」彼女の目から涙が零れ落ちる。「でも……!今はここから消えたくありません……!」いくらそう思っても、願っても、自身の体はホムンクルス。再生機能など搭載されていない。故に彼女は届かぬ願いに涙する。

 そしてその涙を見て、キャロルは決断する。

 

「ならば、もう一度二人で……!」

 

 キャロルはエルフナインと口づけを交わした。指を絡めさせ、強く握る。記憶の光が輝き始めるとともに、命を示す心電図が平坦となった。

 エルフナインが死亡した。その報告を聞いた響たちは跳び起きて服を着替え、病室へとかける。ドアを開けるとそこには、月光の中にキャロルが立っていた。エルフナインの姿はない。

 

「キャロル……ちゃん……」響が思わずこぼす。

 

 キャロルはゆっくりと首を振り、彼女達の方を振り向いた。

 

「ボクは……!」

 

 エルフナインが言う。響が真っ先に抱き着き、未来が涙を流し、雷は調と切歌に抱き着かれて抱き着き返し、クリスが笑い、翼とマリアが微笑み合った。

 

○○○

 

 響が洸と仲直りに向かっているため、少し広くなった部屋の中、雷はテーブルにのしかかり、頬杖をついて浮かない顔をしていた。

 向かいに座る未来がマグカップをテーブルにおいて、

 

「もう。いつまでそんな顔をしてるの?」

「だってぇ~、何が悪かったのか分かんないんだもん……」

 

 頬杖をついていない逆の手でテーブルに『の』の字を書く。実は少し前まで調と切歌の宿題を見ていたのだが、突然、切歌が慌てた様子で「クリス先輩のところに行くデス!」と言って残りたそうにしていた調を連れて出て行ってしまったのだ。

 それからずっとこの調子なのである。

 

「集中できる環境づくりも考えられる限り完璧だったし、実際にレベルアップしてたのに……何がいけなかったのかなぁ……」がっくりと額をテーブルに着ける。

 

 未来はちょっとうらやましそうにした後、落ち込む雷をカメラで映しながら、あははと笑った。

 一方、雷たちのところから脱出した切歌と、名残惜しそうにしていた調はクリスの家で宿題をしていた。クリスはソファーにの転がり、アイスを食べながら、

 

「お前ら、あのバカ二号のところに居たんじゃなかったのか……?」

「いやぁ、実際はかどってたし、頭にすらすらと入っていったんデスけど……。環境が快適すぎたんデス!」

「いや、悪いよりかいいじゃねえか……」ソレの何が悪いんだと言うようにうつ伏せになって首をかしげる。

「いいってレベルじゃないんデスよ!何かこう……人間性と引き換えに学力を手に入れてる様な……「切ちゃん」……何デスか調?」切歌の魂の訴えを調が遮る。

「私は……ダメになりたかった……」真顔のまま恍惚とした表情を浮かべている。そんな調の肩を切歌が掴んで揺すり、「クリス先輩!調を叱って正気に戻してほしいデス!」

「お、おう!」

 

 クリスが何とか調を引き戻し、調は何とか人間性を喪失することなく宿題に取り組み始めた。

 翼とマリアはロンドンへと戻り、弦十郎と八紘は今回の『魔法少女事変』の見解を出し、エルフナインを新たにメンバーに入れたS.O.N.G.はウェルから受け継いだデータチップの解析に当たる。

 まだまだ課題は山積みだが、それでも一歩一歩、未来(まえ)へと進むのだ。

 

 

 

           戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~

 

                      




AXZ編より新章突入!

タイトルは!

戦姫絶唱シンフォギアDENOVA(読みはデノヴァ)!

お楽しみに!


※作品タイトルは変わりません。

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