戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
バルベルデ
夏の夕暮れの日差しが差し込む教室で、響は力なく机に伏していた。この日は登校日。この日が期限の宿題や、日々の生活の報告と言った、ありていに言えば学生にとって面倒極まりない日である。
響はぼやく。
「夏休みの登校日って、もっとこう……テキトーだったはずだよねぇ……。なのにこの疲労感……お説教の満漢全席とは思わなかったよぉ……。ほへぇ、気持ち~」未来が差し出した冷たいりんごジュースを額に当てられ、情けないダレた声を出す。
「全く~……今日が期限の課題が終わってないんだから、当たり前でしょ?」
「私が出来たか出来たかって何度も聞いたのに、返事だけはいっちょ前なんだから」
未来が呆れ、雷が珍しく一つ結びにした髪を揺らしながら腰に手を当ててため息をついた。この日は特に気温が高く、自傷や自殺衝動はなくなったとはいえ古傷の有る肌を隠す目的で包帯を巻いている彼女には特にきつい。その為、少しでも涼しくするために髪をまとめているのだ。
未来が響に呆れながらも雷のおさげを下からポンポンと持ち上げて遊んでいる。
そうしているうちに響が机に手をついてゆっくりと起き上がった。
「何とか始業式まで伸ばしてもらったけど、お願い二人とも!手伝ってぇ!出ないと終わらない、間に合わない!」二人のほうを向いて両手を合わせ、頭を下げる。
「確かにこのままだと……」
「間に合わないよねぇ……」
「いいよ、手伝ったげる」未来が手伝うことを響に伝え、隣で何やら指折り数えていた雷が、「このままだと響の誕生日までもつれ込みそうだもんね。夏休み明けにテストもあるし、突貫工事で行くよ!」拳をグッと握りしめて宣言した。
そんな二人に響は跳んで抱き着く。
「ほんとぉ~?!やっぱ二人は心のアミーゴだよぉ!」
響が言った途端、窓の外にS.O.N.G.所有のヘリが接近した。スライド式のドアが開き、中からクリス、調、切歌が顔を出した。何か言っているようだが、ヘリのローター音でかき消され、何を言っているのか分からない。
『続きは家でやれ!』
『本部から緊急招集!』
「え?!なんていってるの?!」
『デスデスデース!』
「言ってること全然……「とにかく行くよ!」う、うん!」
何の生産性もないやり取りに耐えきれず、雷が響の手を引っ張って校庭に出る。その後を未来が追った。
「未来!ちょっと行ってくるけど、心配しないで!課題も任務も、どっちも頑張る!」
「私が見ておくから、心配しないでね!」
「うん!頼りにしてる」
二人はヘリに乗り込み、ヘリはローターの回転数を上げて飛翔する。窓から未来に手を振りながら、本部へと向かった。
○○○
ここは南米、バルベルデ共和国。
非常に不安定な軍事政権国家であり、小国でありながら常に強大な危機・脅威が発生する住みたくない国トップランカーである。
そんな国のジャングルで、直進で発生する爆発が起きた。バイクの駆動音が大地をかける。
それを旧式のパソコンが並ぶ駐屯地で、軍服を着たいかにもな軍人がとらえていた。
「高速で接近する車両を確認!」
「対空砲を避けるために陸路を強行してきた?だが浅薄だ、通常兵装で我々に太刀打ちできるものか」グラサンをかけた上官が余裕を見せる。
地面に設置された先ほどのパソコンとはいくつもの世代差があるマシンが起動し、中から石のようなものを吐き出す。その石の正体はアルカ・ノイズを召喚するジェム。この国の軍の余裕の根源であり、国連が自分たちの軍だけでなくS.O.N.G.の出動を要請した原因である。
ジェムが割れ、中から無数のアルカ・ノイズが出現する。だが、バイクは止まらない。設置されたカメラに映る。
「接近車両モニターで捕捉!」
「こいつは……!」余裕がものの数秒で砕け散る。何故なら敵は、
「敵は……シンフォギアです!」これらの敵に対処するために存在する、S.O.N.G.なのだから。
バイクにまたがる天羽々斬の装者、翼は一切の速度を緩めることなく突進し、バイクの前方に展開したブレードで斬り裂いていく。
グラサン上官が叫ぶ。
「対空砲には近づかせるなァッ!」
だが、彼の叫びもむなしく翼はたやすく対空砲の元へと到達し、バイクを回転させ、ブレードを前後に展開して伐採した。
『騎刃ノ一閃・旋』
舞台は整った。翼が叫ぶ。
「緒川さんッ!」
緒川はタコを使って空を舞い、彼の両脇にはギアを纏った響とクリスがいた。雷は電磁操作の応用で自力で飛んでいる。
装甲車からの機銃掃射を受けるも、雷が真っ先に降下して超広範囲に電磁パルスを照射、EMPで戦車の駆動部や自動装填機、その他電気を使うすべてのものを破壊する。
それを確認した緒川たちはタコから跳び降り、彼の投げた煙玉の我上げる煙の中に向かってクリスが矢を降らせる。その隙間を、響と雷が駆け、殴り抜いた。
緒川はムササビの術で一度落下の速度を殺し、高速移動と手刀による当身によって装者たちが対処しづらい武装した人間を処理していく。
雷の雷撃と蹴りが、響の拳が、クリスの矢が、翼の剣がアルカ・ノイズによって支えられていた戦線を一瞬にして瓦解させる。
銃弾も砲弾も効かず、特に戦車は雷のEMPによってほぼ鉄の棺桶と化している。装者三人はほぼ使い物にならない戦車の破壊やアルカ・ノイズの撃破。雷は特にためらいがないので対人においても電磁波を利用して兵士たちの意識を刈り取っていく。
本部は戦況を確認する。
「敵戦力の損耗率、七十四パーセント!」主な損耗は電子機器である。
「雷ちゃんの放ったEMPの効果が覿面です!」
「国連軍の上陸は十五分後!それまでに迎撃施設を無力化するんだ!」
電子機器を破壊されようと、手動で使えるものはいくらでもある。次はそれの無力化が任務だ。
軍駐屯地では戦況を判断する方法がないため、下っ端の軍人は残っているものの、グラサン上官は我先にと逃げ出していた。
「隊長?!どちらに行かれるんですか隊長ッ?!」
装者たちが一か所に集まる。
すると突然地面から光が宙へと放たれ、大型召喚陣が展開される。そこから紫電と共に現れたのは、最新鋭技術の塊、巨大航空戦艦であった。
「フィクションから抜け出してきたのかな?!」
「空に、あんなのが……!」
「本丸のお出ましか!」
『あなた達!ぐずぐずしないで、追うわよ!』
マリアが操縦するヘリとその他二機が響たちの目の前に現れた。雷は例によって自力飛翔である。
「ふぅん!ヘリか!ならば直上からの攻撃をしのげまい!」
グラサン上官はスイッチを押し、船体下部に搭載された爆弾を投下する。ヘリの真上で爆発したのをモニターで確認し歓喜に叫んだ。
「やったぜ狂い咲きィッ!……ッ?!」
巨大な爆発音が船体を大きく揺らし、段々と高度が落ちていく。何が起きたかを確認すると、電光を迸らせる巨大な竜がメインエンジンを喰い破った。
『雷竜降顎撃』
雷はヘリに乗っていない事、電磁操作をしていた事。この二つによってレーダーが捕捉できず、致命打を与えることが出来たのだ。
さらに放った爆弾もクリスのガトリング砲に破壊され、三機とも健在である。
グラサン上官は焦りながらも軍人らしく最後まで抵抗する。スイッチを破壊するように叩き、ミサイルハッチをオープンさせて発射。
クリスがガトリングで撃墜している内に、
「立花ッ!しんがりは雪音に任せるんだッ!」
「うえぇ?!」
ミサイルの上を走り、航空戦艦へ向かう。が、クリスの破壊速度のほうが速く、背後に爆発が迫ってきた。
「こっちで抑えてるうちにぃ!ほかの二機はさっさと戦域を離脱してくれぇ!」
応えるように二機が離脱するが一発がそちらに向かって行ってしまった。フレアを撒くも効果はなく、真っ直ぐにこちらに向かってきている。パイロットが、
「駄目だ!間に合わないッ!」
だが、シンフォギア装者は諦めない。
「行くよ!切ちゃん!」
「がってんデェスッ!」
調と切歌は同時にドアを開け、その間をミサイルが通過する。そして通過したミサイルをクリスが撃墜した。
「やればできる」
「あたしたちデェス!」
二人はそろってサムズアップした。
翼が遂に戦艦に到達した。雷の一撃によって高度の落ちた戦艦の正面に構え、剣を巨大化させる。
「初手より奥義にて仕る……!」
戦艦とほぼ同等サイズになった大剣を振り下ろし、ブリッジの直前まで切り裂いた。グラサンが真っ二つに割れる。そして斬り裂いた隙間に響きが降り立ち、バンカーユニットを変形、回転させ、ドリルの様にしてブースターを点火しながら割れたグラサン上官の襟をつかみ、装甲を内部からぶち破って離脱した。
すべてのミサイルを撃墜したクリスが背部から十二基の大型ミサイルを構築し、航空戦艦に打ち放った。
『MEGA DETH INFINITY』
大小問わず大威力のミサイルが直撃し、跡形もなく爆散する。
空中に飛び出したはいいもの、跳ぶことが出来ない響を飛翔する雷が受け止めた。
「響、怪我はない?」
「うん!ひとまず任務は完了だね!」
「そうだね!後は国連に任せようか!」
横を見ると、国連所属のヘリが向かっているのを確認した。二人と割れたグラサン上官はゆっくりと地表に降りていく。
初手電磁パルスブッパする雷ちゃん。
軍人じゃなく兵器でもないので条約なんて知りません。