戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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今回は少し短め。そしてセリフ多め


翼の目覚め

 早朝、異変に気付いた未来が目を覚ます。いつも自分の左側で並んで寝ている響と、その間でどっちかの腹に頭を押し付け、丸まって寝ている雷が居ないのだ。

 

「響・・・雷・・・?」

 

 そこで未来は、枕元に置いてあった置き手紙を発見する。何やら雷と響の二人の面影があるイラスト付きだ。

 

『修行。ガッコ―お休みします。先生によろしく言っといてね!』

「なんなの・・・これ?」

 

○○○

 

弦十郎宅。そこには弦十郎指導の下、サンドバックにパンチを打ち込む響と、謎のマシン相手に回避や防御の特訓をしている雷が居た。腰の入っていない響のパンチに弦十郎からの指導が入る。

 

「そうじゃない!稲妻を喰らい!雷を握りつぶすように打つべし!」

「それは・・・稲妻を使う私への当てつけですか?!」

「そんなつもりはない!」

 

 ジャージをボロボロにした雷が茶々を入れる。最初は時折回避や防御のことが頭から抜け落ちていた彼女も、今ではそれらを織り込んだ状態で同じようなことが出来る様になっていた。体力面も改善し、余程のことが無い限りへばることはないだろう。

 響はそんな雷に対して焦ることはなく、自分のまま強くなるために自分のペースで努力している。長い間弦十郎のもとで特訓しているが、それでも時々彼の言っていることがよくわからない時がある。

 

「言ってる事全然わかりません!でも、やってみます!」

 

 グローブをはめたこぶしを握り締め、心臓の鼓動に合わせた一撃をふるう。それはサンドバックに突き刺さり、その衝撃で吊り下げていた枝が折れ、後ろにあった池に落下する。響のほうを見ながらも、しっかりと攻撃を避け続ける雷が感嘆の声を上げる。

 

「すっごい・・・」

「こちらも、スイッチをいれるとするか」

 

○○○

 

「立花さん!轟さん!轟さんはともかく、立花さんはいつものお節介でまた遅刻ですか?!」

 

 先生の怒鳴り声に対し、二人のルームメイトの未来が手を上げて答える。

 

「先生!響・・・立花さんは、雷・・・轟さんが通学中に道路に飛び出してしまって、その付き添いに行きました!」

(ゴメン雷!)

 

 未来は雷のことを言い訳の材料にしたことに罪悪感を感じたが、二人を休みに対する言い訳がこれ以外思いつかなかったので、それを口にし、心の中で彼女に謝罪した。先生はどうやら納得したようである。

 

「はぁ・・・なら仕方ないですね・・・」

 

 普通は二人掛けなのだが、学校側の配慮で特別に三人掛けになった自分の隣の開いた二つの椅子、雷と響の椅子を見て頬を膨らませ、小さくつぶやいた。

 

「ウソつき」

 

 一方そのころ。特訓を一時中断した雷と未来は二人そろって二課のソファーに倒れ込み、弦十郎が反対側のソファーにどっかりと腰を下ろす。

 

「ふぁ~。朝からハードすぎますよ~」

「流石あの鬼隊長が科すだけのことはある・・・めっちゃしんどい」

「頼んだぞ!明日のチャンピオン達!」

 

 友里が二人にドリンクを持ってくる。

 

「はい。ご苦労様」

「すいません!」

「ありがとうございます!」

 

 それを受け取ると、二人はゴクゴクの飲んでいく。その時、ふと思い至った疑問を響が弦十郎に投げかける。

 

「あの、自分でやると決めたくせに申し訳ないんですけど、何もうら若き女子高生に頼まなくってもノイズと戦える武器って他にないんですか?外国とか・・・」

「うーん・・・お父さんとお母さんの書いてた研究ノートにはシンフォギアのことしか書いてなかったけど・・・。それは私も気になります」

 

 両親のノートの中身を思い出しながら雷が同調する。

 二人に視線を向けられた弦十郎が答える。

 

「公式にはないな。日本だって、シンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だ」

「やっぱり、ですか」

「えぇぇ・・・。私、気にしないで結構派手にやらかしているかも・・・」

 

 雷はノイズ対策が進んでいないことに落ち込み、響は機密事項を派手に振り回していることを心配した。友里がフォローを入れ、藤尭が念を押す。

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

「だけど、時々無理を通すから、今や我々のことを良く思っていない閣僚や省長だらけだ。特異災害対策起動部二課を縮めて『突起物』って揶揄されてる」

「情報の秘匿は、政府上層部の指示だってのに・・・やりきれない」

「いずれシンフォギアを、有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろう」

「EUや米国は、何時だって改定の期を窺っているはず。シンフォギアの開発は、基地の系統とは全く異なるところから発生した理論と技術によって成り立っているわ。日本以外の他の国では到底まねできないから、猶更ほしいのでしょうね」

「確か、アメリカに研究施設があるって聞いてますけど・・・。今の状況を見るに進んでませんよね、研究」

 

 雷も会話に参加し、味方が居なくなった響はソファーに寝そべって言葉をこぼす。

 

「結局やっぱり、いろいろとややこしいってことですよね・・・」

 

 そこで雷が誰かが居ないことに気づき、弦十郎に質問する。

 

「アレ?弦十郎さん、了子さんはどこに?」

「永田町さ」

「永田町?」

「政府のお偉いさんに呼び出されてね。本部の安全性、および防衛システムについて関係閣僚に対し、説明義務を果たしに行っている。仕方のないことさ」

「ホント、何もかもがややこしいんですね」

「ルールをややこしくするのはいつも、責任を取らずに立ち回りたい連中なんだろう。それでも、広木防衛大臣は・・・了子君の戻りが遅れているようだ」

 

 弦十郎は腕時計を確認し、了子が時間になっても帰ってきていないことに疑問を持つ。どこかで彼女がくしゃみをしたが、そんなことを二課が知る由もない。

 

○○○

 

 病院で翼が目を覚ます。周りの医師たちが周囲を駆けまわり、翼はそれを気にせずに思う。仕事や任務以外で学校を休んだこと、そのことで皆勤賞は取れないことを思い、自分の中にいる奏に真面目じゃないからぽっきり折れたりしないことを伝える。

 彼女の頬を涙が伝った。




雷の精神状態
正常な時は基本的にさっぱりとした感じで思慮深い面が目立つが、不安定になるとそれらの面が鳴りを潜め、臆病で自罰心の高い面が出てくる。
正常な面(冗談を言う、よく笑う、頭が回る他)
 ↓
不安定な面(よくどもる、泣き虫になる、自殺・自傷に走る他)

今まで体のことをばらさないようにしていたので友人関係を作っておらず、謝り方を知らないために響とのいざこざが発生した。
謝ることがが出来たのは不安定な面が一時的に収まり、正常な面が出てきたからである。

因みに、深層心理は不安定寄りで、元々は正常な方の性格だったが、叔父や叔母にそういう風に調教されてしまっている。寝てるときはそれが顕著で、丸まって頭を押し付けて眠るのは自分の身を守るためと、信頼する人から守ってもらえるという安心感を得るためである。

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