戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最初は雷で行こうと思いましたが整合性を考えて結局クリスになりました。

あぁ……AXZ編以降はオリジナルの介入や進行が多くなるから受け入れられるか不安だ……。


取り返しのつかないミス

 軍事施設の所長が逃げたとされる村に雷は到着していた。ケラウノスのヘッドギア、ティアラのような部分で微弱な電磁波を照射、反射してきたものを受信することで状況を確認する。このレーダーは特殊なもので、電磁波の種類を調節することで建物を透過し、人体にのみ反射する物を放っていた。

 建物の影から状況を確認していた雷は、

 

(複数の村人が一か所に……アルカ・ノイズが囲っているとみて間違いない。恐らく所長とみられる奴が誰かを抱いている……反応から見て要救助者。……行けるな)

 

 ヘッドギアに搭載された通信からはマリア達が謎の竜に錬金術師と交戦していることが入ってきたが、自分にとって今はこちらが最優先だと決めて思考の外側に追いやる。適合係数が低い以外は総合的に能力が高いため、心配する必要はないだろう。少なくとも、生きて必ず帰ってくる。

 響たちがこちらに向かってきていることも確認し、行動に移した。

 雷は乾いていた唇をぺろりとなめて湿らせ、両腕部ユニットを展開、左腕で発生させた雷球を右手で殴って打ち上げる。球体はすさまじい速度で宙を進み、強烈な閃光と共に村人を囲っていたアルカ・ノイズを落雷が貫いた。

 

       『雷轟招来』

 

「なっ?!なんだっ?!」

「セイヤァァッ!」

「ぐはっ?!」

 

 まばゆい閃光の中、雷は跳躍して屋根を跳び越え、所長を跳び蹴りで蹴り飛ばした。

 

「怪我はない?!」

「は、はい!」

 

 そして着地した雷は彼が人質としていた少女の無事を確認した後、いまだ健在のアルカ・ノイズに向かって突っ込んでいく。

 回し蹴りに踵落とし、最小限かつ最大限の効果を得る彼女の新たな戦闘スタイル……いや、本来のスタイルに戻ったというべきだろう。イグナイトの暴走に飲み込まれたときに見せた戦い方こそ、雷が最も得意とする戦い方だった。

 アルカ・ノイズの撃破に集中しすぎて村人を危険にさらすような愚行を雷はしない。戦いながら斥力による防御フィールドを展開し、もしもの時に備えていた。

 確認出来る限りのアルカ・ノイズを殲滅した雷をヘッドライトの明かりが照らした。

 

「轟!状況は……聞くまでもないな」翼が真っ先に降りてきた後、雷の周りを見てフッと息を吐いた。

「問題ありません。周囲にいる確認出来る限りの敵性はすべて排除したので」

「だが、油断は禁物だ。管理者を捕縛した後、本部に連絡だ」

「はい!」

 

 翼と雷が任務報告をしている間に、響とクリス、ステファンは村人の解放と負傷者等の確認にあたっていた。怪我をしている者はおらず、雷によって放たれた閃光によって目がくらんでいる者もいるが、少し経てば回復するだろう。

 だが、一つの誤算があった。

 それは、雷がレーダーに使っていた電磁波は生物にこそ反射するが無生物は透過するということだ。アルカ・ノイズは無生物。死角から現れたソレはたまたま近くにいた少年、ステファンの足にその解剖器官を伸ばしていた。

 

「うあぁぁぁぁッ?!」

「ステファン!」

「?!」

「しまっ……!」

 

  ステファンに右足が分解されていく。真っ先に気づいて声を上げた女性にクリスが反応した。既に敵性を排除したと思っていたため、最初から纏っていた雷と、外部から近づく敵性に対して遠距離攻撃能力を持つクリスしか纏っていない。

 雷が焦った表情で稲妻の矢を放って分解しようとしていたアルカ・ノイズを撃ち抜き、

 

「くそったれがァァっ……!」

「―――――ッ!」

 

 既に分解され、無事なところを侵食していく膝から下をクリスが撃ち抜いた。ステファンは足を撃ち抜かれる痛みに声にならない叫びをあげる。その叫びは、夜の闇を斬り裂いた。 

 

 翼が状況を本部に報告する。雷、クリスの二人はギアを解除していた。

 

「プラントの管理者を確保。ですが、民間人に負傷者を出してしまいました……!」

 

 木で組まれた担架に足から血を流すステファンが横たわり、うなされていた。雷が手慣れた様子で包帯を巻いているが出血が止まらない。彼の横では一人の女性が、

 

「ステファン!ステファン……!」

 

 と、彼の名を呼び続けていた。

 誰よりも責任を感じている雷が額の汗をぬぐい、包帯では埒が明かないと判断してか一度ほどき、今この場に用意できる有り合わせのもので止血を開始する。

 雷は自傷の経験からどこをどうすればどのくらいの出血するのか、そしてどう処置すればいいのかも知っていた。だが、足を切断されるのを処置するのは初めてだ。結果、民家にあった清潔なロープで足を縛り上げ、強引に止血することとなった。

 両手をつき、荒い息を吐く雷の横で、彼の名前を世に続けていた女性が、

 

「どうしてこんな……」

「ソーニャ……」

「ッ?!……クリス……。あなたが弟を……あなたがステファンの足を……!」

「違うっ!クリスは悪く無い!……私の責任なんだ!」

 

 雷が自分の所為だと主張するが、ソーニャと呼ばれた女性はクリスのほうを向き続け、クリスは彼女の怒りを粛々と受け入れる。実際、ステファンの足を撃ち抜いたのは彼女だ。そもそもは雷の探知ミスなのだが、いくらケラウノスと言えど建物だけを透過してアルカ・ノイズを補足するなど不可能。

 その事情を知っているがゆえに、撃ち抜いたのは自分だという事実がクリスを襲う。

 雷はクリスは悪く無いと息も絶え絶えに主張するが、クリスは彼女を遮り、

 

「ああ……。撃ったのは、このアタシだ……」

「クリス……!」

 

 その罪を自らのものとした。

 

○○○

 

 どれほどダメージを与えてもそれを無かったものとしてしまう無敵の竜から何とか逃走を成功させ、藤尭と友里、マリア達は本部へ帰還していた。

 

「観測任務より帰還しました!」

「ご苦労だった」

「ふう……。やっぱり本部が一番だぁ……。安心できる……」

 

 藤尭が心の底から縛りだしたかのように言った。弦十郎がそんな彼に楽しそうにくぎを刺す。

 

「だが今夜は眠れそうにないぞぉ!」

「ええ、死ぬ思いをして、手に入れたデータサンプルもありますしね。そのつもりです!」

「それにつけても、無敵の怪物の出現か……パヴァリア光明結社を表舞台に引きづりだせたものの、一筋縄ではいかないようだ」

 

 因みに無敵の怪物ことヨナルデパズトーリの無敵性の解析にはエルフナインと雷が当たることとなっている。さも当然の様に深夜シフトに強制的に、しかも知らぬ間にぶち込まれる彼女である。もっとも、彼女は無敵性の解析を喜んで取り掛かることだろう。

 ダインスレイフの呪いを克服した際に彼女の深層心理も正常化したとはいえ、今回の一件は彼女の心に深い傷跡を残すだろう。だが、雷が喜びそうな―組織としては喜ばしくないが―事象を研究させることで、メンタルを癒そうとしているのが弦十郎の狙いだ。大事な参謀役を機能不全に陥らせるわけにはいかない。

 弦十郎の不安を調が一蹴しようとする。

 

「心配ない」

「そうデス!次があれば必ず……」

「……」

「「あ」」

「ごめんなさい……。リンカーが十分にそろっていれば、次の機会なんていくらでも作れるのに……」

 

 そう、ウェルのレシピが解析できていない今、彼女達に合ったリンカーを製造することが出来ないのだ。この解析にも雷は組み込まれている。

 切歌は落ち込むエルフナインの誤解を解こうとする。

 

「あ、あう、そ、そう言うつもりじゃなくてデスね……」

「やっぱりボクにレシピの解析は……わ、何をするんですかぁ?!」

 

 切歌の言葉は右から左へと流れている。そんな落ち込む彼女の頬をマリアは引っ張った。餅のようににょい~んと伸びる。突然の事に反応が遅れたが、彼女は頬を赤らめながらその指から逃れ、頬を手で押さえる。

 マリアは妹のような彼女に視線を合わせ優しく諭す。

 

「ボロボロで帰還しても、まだ負けたとは思ってない。誰も悪く無いんだから、エルフナインが謝る必要はないわ」

「そうね。私達はまだ、諦めてないもの」

「ごめんなさいよりも応援が欲しい年ごろなのデス!」

 

 切歌が両手を腰につき、胸をそらす。

 

「ごめんなさいより欲しい……?」

「そう……」

 

 優しく微笑み、エルフナインの頭を撫でた。

 エルフナインは顔を俯かせ、少し悩んだ顔をする。答えを見つけるのはもう少し先のようだ。




旋律ソロリティ……いいですよね。
雷の戦闘スタイル
 今までの死に場所を求めるような無茶な戦い方はせず、相手を観察して次の一手を打たれる前に打つ戦闘スタイルに変化(回帰)した。
 また、基本的にノーガードだが防御を捨てたわけではなく、構えによって動きが制限されるのを防ぎ、一手を打ちやすくするため。

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