戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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コロナの所為ですさまじい勢いで(暇潰しに買ったデモンベインをプレイしつつ)執筆が進む。

すごい勢いで誤字報告が来るのがすごく申し訳ない。


少女たちは諦めない

 人形、恐らくオートスコアラー、少なくとも同系統の存在が封じ込められている橙色の水晶の塊のようなものをサンジェルマンたちは見つめていた。

 彼女達、特にリーダー格のサンジェルマンはこの人形と相まみえるのは四百年ぶりだ。サンジェルマンはその時のことを思い出す。

 はるか昔、フィーネが遺した異端技術を収斂させ、独自に錬金術を編みだしてきたパヴァリア光明結社だったが、それ故に異端技術を独占し、優位を保とうとするフィーネとの激突は避けられなかった。

 彼女を凌駕するためにサンジェルマン達のボス、統制局長アダムは、神の力を形とする計画を進めていた。しかし、その計画の要である目の前の人形、ティキを失ってしまい、計画は水泡に帰したどころか歴史の裏側へと追いやられてしまったのだ。

 

「四百年の時を経て、フィーネは消滅した。そして米国政府を失墜させた私達は、遂に、回天の機会を繰り寄せた……」

「あとはこのお人形をお持ち帰りすれば、目的達成ってワケダ」

「それはそれで面白くないわ……」

 

 カリオストロが先の戦いでマリアによって負わされた怪我の上に張った絆創膏を撫で、恨みがましそうに言った。

 その言葉をサンジェルマンは受け止めつつ、話を続ける。

 

「天体運航観測機であるティキの奪還は、結社の計画遂行に不可欠。何より……」

「この星に、正しく人の歴史を紡ぐのに必要なワケダ……。そうだよね、サンジェルマン」

「人は誰でも支配されるべきではないわ……」

「じゃあ、ティキの回収はサンジェルマンにお任せして、あーしは頬っぺたのお礼参りにでも洒落こもうかしら」

 

 カリオストロは持たれていた柱から体を起こし、地上へと続く階段の方向を見つめる。そんな彼女をサンジェルマンが咎める。

 

「ラピスの完成と、ヨハンさんの到着を前にして、シンフォギア装者との決着を求めるつもり?」

「勝手な行動をするワケダ……」

 

 パヴァリアに所属する錬金術師の幹部、その最後の一人であるヨハンの到着は、もうすぐだと手紙として現れた彼女のテレパス能力によって伝えられている。

 それでも、カリオストロは止まらずに階段へと向かう。

 

「それでも、ヨナルデパズトーリがあれば、造作もない事でしょ?今までさんざっぱら嘘をついてきたからね。せめてこれからは、自分の心には嘘をつきたくないの……」

 

 内に秘めた熱い決意を声に出し、やられた分はやり返すと地下倉庫の中を進んで行った。

 

○○○

 

 雷たちは負傷したステファンと彼の姉であるソーニャを響たちが来た時に乗っていた車の荷台に乗せ、運転を担当する翼以外も荷台に乗り込んで都市部の病院にへと戻っていた。

 任務自体は完了したが、全員の表情は暗い。何せ間に合わなかったならともかく、目の前にいて助けることが出来なかったのだ。

 落ち込む雷を、響がそっと撫でる。そんな彼女の顔も明るいわけではなかった。

 クリスはどうやらソーニャと顔見知りのようだった。装者たちの中でも一番気まずそうにしている。それもそのはず、彼女はクリスが両親と夢を叶えるためにここに住んでいた時、その夢に賛同し、まだ小さかったクリスの面倒を見ていたからだ。

 クリスはソーニャに言われた「私はあなたが許せない」という言葉を思い出し、正しい選択をしたにもかかわらず彼女の心はどんよりと曇っていく。

 だが、足を失い、息を荒くしている一番つらいはずのステファンが、思い詰めるクリスの足に手を添えた。安心させようとしているのだ。その思いを組んだクリスは、彼に触れるかどうかを躊躇いながらもゆっくりとその手を握った。

 運転席にいた翼は、本部から来た通信を繋ぐ。相手は弦十郎だ。

 

「翼です』

『エスカロン空港にて、アルカ・ノイズの反応を検知した!現場にはマリア君たちを向かわせている」

「マリアさん達は、リンカーの効果時間内で決着させるつもりです!』

『了解です。都市部の病院に負傷者を搬送後、私達も救援に向かいます」

 

 ところ変わってエスカロン空港。そこは、アルカ・ノイズによって炎が燃え盛る地獄と化していた。駐在していた軍人たちが突然味方だった超常の存在が敵となったことで、混乱しながら抵抗するもあっけなく分解される。

 そんな惨状を、滑走路にある倉庫の上からカリオストロが見下ろしていた。

 

「派手に暴れて装者たちを引きずり出すワケダ」彼女の横にプレラーティが並び立つ。

「アラ、手伝ってくれるの?」

「私は楽しい事優先……。ティキの回収はサンジェルマンに押し付けたワケダ……?」

 

 プレラーティは目を閉じ、そして上空から聞こえてきたヘリのローター音を聞いて気だるげに目を開ける。

 見上げるとヘリの中にマリアと調、切歌の姿が見える。カリオストロはウインクし、

 

「待ち人来たり」

 

 落下する三人の到着を待った。

 マリア達が降下し、それぞれギアを纏うための聖詠を口にする。

 

「Seilien Coffin Airget-Lamh Tron」

 

 マリア達はアームドギアを振るい、ブースターを点火してマリアが錬金術師と交戦、切歌、調がアルカ・ノイズの殲滅に当たる。遠距離攻撃技を多く所有する調は空中でバインダーを展開し、そこから小型の鋸を乱射した。

 

       『α式・百輪廻』

 

 放たれた無数の鋸がアルカ・ノイズを斬り裂き、塵へと変える。

 マリアは効果の勢いを殺すことなく踵落としを敢行するが、カリオストロはバックジャンプ、プレラーティは隣の倉庫に飛び移ることで回避した。

 プレラーティはジャンプした拍子に手を離したカエルのぬいぐるみを頭に乗せ、

 

「のっけからおっぴろげなワケダァ……ならば早速ぅ!」

 

 手をかざして錬金陣を器のように展開、その中に白く輝く球体を乗せてヨナルデパズトーリを召喚しようとするが、回り込んでいた切歌が背後から肩部アーマーのアンカーを飛ばし、召喚前に彼女を後ろ手に拘束する。

 

「早速捕まえたデェス!」

「もう!何やってるのよう!……ああん!」

 

 カリオストロが速攻で掴まっているプレラーティに呆れるが、マリアが減らず口を叩くなと言うように斬りかかった。カリオストロは相対するマリアと向き合い、ジャンプしながら腕を振るって光弾を発射した。マリアが雨のように降りしきる光弾をダッシュでかいくぐりながら距離を詰める。

 本部でも彼女たちの様子を捉えていた。

 

「アガートラーム!シュルシャガナ!イガリマ!敵と交戦!」

「適合係数、安定しています」

「皆さん……」

 

 バックステップで距離をとろうとするカリオストロをマリアは加速することで逆に距離を詰める。

 

「今度はこっちで、無敵のヨナルデパズトーリを!」

 

 プレラーティと同じく召喚しようとしたが、マリアの左の拳が顔面に突き刺さった。彼女の顔が無様なまでにひん曲がる。

 握った拳に力を籠め、

 

「攻撃の無効化!鉄壁の防御!だけどあなたは無敵じゃないッ!」

 

 振り切った。カリオストロは吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 一方、切歌に拘束されているプレラーティは一切の焦りを見せずに目を閉じる。すると彼女の体が発光し、錬金陣を展開して拘束を引きちぎった。

 更に手のひらに防御陣を展開し、正面からくる調のバインダーをアームに変形させた大型鋸による連撃と、ブースターの加速によって素早い動きで背中をとる切歌の鎌を受け止める。

 一度吹き飛ばされて本調子にはいったのか今度は距離をとることなく、マリアの短剣による高速斬撃を捌いていく。

 

(繰り出す手数で、あの怪物の召喚さえ押さえてしまえばッ……!)

 

 マリアが力づくだがカリオストロの防御陣を粉砕する。もう一手を打ち込もうとしたその時だった。装者三人の体を激痛が貫いた。適合係数が低下し、ギアが彼女達に牙をむいたのだ。

 

「適合係数急激に低下!まもなくリンカーの有効時間を超過します!」

「ッ?!指令!シュルシャガナとイガリマの交戦地点に、滑走中の!」

「航空機だとぉ?!」

 

 彼女たちの真正面からジャンボジェット機が滑走していた。サブパイロットが戦う彼女たちを見てメインパイロットに報告する。

 

「人が!割とかわいい子たちが……!」

「構うな!止まったらこっちが死ぬんだぞ!」

 

 そう、彼らも追われているのだ。ジェット機の後方を見ると、タイヤのように転がるアルカ・ノイズが赤いプリマ・マテリアを巻き上げながら接近してきている。

 正面にいる切歌が調に提案する。

 

「調!」

「切ちゃんの思うところはお見通し!」

「行きなさい!後は私に任せて!」

「了解デスッ!」

 

 マリアがカリオストロたちを抑え込むと宣言し、彼女を信じて切歌がプレラーティを引きはがして調と共にジェット機の離陸を支援する。

 プレラーティは地面に落ちたぬいぐるみの腹を掴み、

 

「あの二人でどうにかなると思っているワケダ……」

「でもこの二人をどうにかできるかしら?」

 

 カリオストロ、プレラーティ。二人の錬金術師にマリアが単身立ちはだかる。勝利条件は倒すことではなく足止めと、召喚をさせない事だ。

 切歌と調はマリアを信じ、ジェット機を追うアルカ・ノイズに攻撃を撃ちこむ。見る見るうちに数は減っていくが、その中から二体が攻撃をかいくぐり、タイヤを分解した。このままではバランスを崩してしまう。が、調が脚部の鋸を高速回転させ、切歌はスキーのように足裏にブレートを展開して肩のブースターで加速することで下から機体を支えることで解決した。

 本部からモニター越しに、何時ギアが解除されるかわからないにもかかわらず行動に移す彼女たちを見て、エルフナインは感銘を受ける。

 

(諦めない心……あれはッ!)

 

 そして足止めを担当しているマリアに淡い輝きを視た。マリアは額に汗を流したが、エルフナインから繋がった通信に耳を傾ける。

 

『皆さん!もう一瞬だけ踏みとどまってください!その一瞬は、僕がきっと永遠にして見せます!僕もまだリンカーのレシピ解析を諦めていませんっ!だから……諦めないでッ!」

 

 エルフナインの叫びに彼女たちは答えない。だが、頷き合い、心で通じ合っているからこそ分かる。調は切歌に支えるのを任せ、加速して前へ進む。切歌がアーマーを変形させてジャッキのようにして支え、鎌の柄を前にいる調に伸ばす。調は脚部鋸を大型化させてタイヤのようにし、後ろから伸びてきた鎌の柄を肩越しに掴む。

 そしてタイヤにスパイクを形成して強引にブレーキを掛け、切歌はさらに加速して強引に持ち上げて目の前にあった管制塔を飛び越した。

 マリアは短剣をガントレットの後部に接続し、変形させて砲台を作り出す。

 

       『HORIZON†CANNON』

 

 光線が発射され、カリオストロたちを飲み込んで爆発した。爆炎が黙々と昇っていく。

 

「流石です、皆さん……」

 

 エルフナインが感嘆した。

 それとほぼ同タイミングでマリア達のギアも解除される。マリアは荒い息を吐くが、眼前で起きたことに驚愕した。

 確実に直撃のはずだったのだ。それにもかかわらず、二人の錬金術師は健在。しかも傷一つない。カリオストロは「ちっちっち」と指を振っている。

 

「まだ戦えるデスか?!」

「でも、こっちはもう……」

 

 リンカーがない以上、三人は戦うことが出来ない。そしてそれはい即ち、カリオストロたちに無敵の竜、ヨナルデパズトーリの召喚を許すことを意味していた。

 カリオストロが手を伸ばす。

 

「おいでませ!無敵のヨナルデパズトーリ!」

 

 手のひらから現れた白き球体から竜の姿が天に昇り、まばゆい光と共に体の透けた、しかし前回に現れたソレと同じ力を持つ竜が出現した。

 

「時限式ではここまでなのッ?!」

「「うおぁぁぁッ!」」

 

 暗い絶望がマリア達を襲う。筈だった。暗き夜の闇から二つの叫びと一つの炎、一つの電光が二つの光跡を描きながらヨナルデパズトーリに直撃する。光跡の正体はガングニールを纏った響と、ケラウノスを纏った雷だ。

 無駄な一撃だとプレラーティはあざ笑う。

 

「ふふん。効かないワケダ……」

 

 だが、響の拳と雷の蹴りが突き刺さったところは修復の兆しを見せない。破壊のエネルギーが膨れ上がる。

 

「ッ?!」

「なぁ?!」

 

 無敵性を打ち破られた錬金術師たちは驚愕し、

 

「それでも無理を貫けば!」

「道理なんてぶち抜けるデス!」

「はぁぁぁッ!」

「でやぁぁぁッ!」

 

 響の拳が。雷の蹴りが。錬金術師が誇る無敵の竜を貫き、粉々に粉砕、破壊した。装者たちは歓声を上げる。

 

「どういうワケダ……」

「もう!無敵はどこ行ったのよう!」

 

 プレラ―ティは破壊されたという現実が受け止めきれず、カリオストロは体をくねらせてふざけたように疑問を口にした。

 二人が着地し、並び立ち、響は構える。雷はノーガードで脱力した状態だ。

 

「だけど私は、ここに居るッ!」

「今の私はすこぶる虫の居所が悪いんだ……!」

 

 雷と響、二人の双眸が錬金術師たちを正面からとらえた。




「そもそも連中が来たせいで私達がこんな目に遭ってるんじゃないか!」と気付いた雷さん。ブチギレである。
そろそろ本編にヨハンさんを出しましょうか。

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