戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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ティキって錬金術師(特にプレラーティ)をイラつかせてる存在だと思う。見返してそう思った。


無敵破りの証明

 統制局長アダムのテレパス能力が実体化したダイヤル式固定電話をサンジェルマンが取る。錬金術師として上位になると普通なら脳内で行うテレパスを実体として発現させることが出来るのだ。それによってテレパス能力を持たない非錬金術師でも同等の事が行える。

 ヨハンもテレパスを手紙という形で発現させることが出来るが、アダムは電話だ。それだけでアダムはどれほど錬金術師として上位にいるかが分かるだろう。

 サンジェルマンは少し煩わしそうに受話器を耳に当てた。

 

「局長……」

「え?!それなに?!もしかしてアダムとつながってるの?!」

「あ……」

 

 だが、横からいきなり現れたティキがサンジェルマンの手から受話器を横取りした。サンジェルマンとヨハンは組織人としてここに居るが、ティキは完全に彼女らの組織のトップに恋する小娘であり、遊びに来て厄介ごとを増やす面倒な子供だ。

 電話という物が良く分かっていないにもかかわらず、ティキは取り上げた受話器を上下逆さに耳に当てる。

 

「アダムー!いるのー?!」

『久しぶりに聞いたよ、その声を』

「やっぱりアダムだ!あたしだよ!アダムのためならなんでもできるティキだよ!」ティキは受話器を正しい向きに持ち替える。

『姦しいなぁ、相変わらず。だけど後にしようか?積もる話は』

 

 アダムのしゃべり口は独特で、倒置法を使って話している。

 自分本位な感情を最優先するティキをサンジェルマンとヨハンは非常にめんどくさそうな目で見降ろす。彼女は四百年ぶりに愛する人と会話出来て有頂天になっていた。

 

「アダムのいけずぅ!つれないんだからぁ!そんなところもすきだけどね!」

 

 話の相手が自分でないと分かったティキはもう用はないと言うように素っ気なくサンジェルマンに受話器を返した。

 サンジェルマンがそれを受け取る。

 

「申し訳ありません、局長。神の力の構成実験には成功しましたが、維持にかなわず喪失してしまいました」

『やはり忌々しいものだな、フィーネの忘れ形見、シンフォギア……』

「疑似神とも言わしめる不可逆の無敵性を覆す一撃。そのメカニズムの解明に時間を割く必要がありますが……」

『無用だよ、理由の解明は。シンプルに壊せば解決だ。シンフォギアをね……』

「了解です……。カリオストロとプレラーティが先行して討伐作戦を進めています。私達も急ぎ合流します」

 

 サンジェルマンの申し出はすげなく却下された。

 アダムは錬金術師としては異端であり、錬金術の基礎の一つである『解明』を行おうとせず、自身の恵まれた能力で上から破壊しようとすることが多い。逆に彼女の師匠であるヨハンはそこを最優先する質だった。

 ヨハンの得意とする『置換錬金』は存在の価値を理解せねば十全な強さを発揮しない。錬金術師としてサンジェルマンが彼女を尊敬しているのはここだ。今は自分が能力差で上に立っているが、彼女は幹部になっても基礎の基礎を怠るようなことはしない。

 故にアダムによって原因究明は無駄とされた今でも、彼女は無敵性が破壊された要因を思考している。

 サンジェルマンはテラスから戻り、ソファーで寝そべっている彼女に声をかけた。

 

「ヨハンさん。あの神を殺す一撃、何かわかりましたか?」

「いんや、何にも。まさしく迷宮入りさ。あの二人のうちどちらか、もしくは両方が神を殺すような力、ないしそれに類する力を持っているとしか言いようがないね」ヨハンは起き上がり、顔にかぶせていたノーブルハットを頭にかぶりなおす。

「報告によればあれはガングニールとケラウノスのシンフォギア。聖遺物由来のものという可能性は……」

 

 ヨハンは顎に手を当て、

 

「うーん。ガングニールに神を殺したなんて話はないし、ケラウノスは巨人ならまだしも竜だからねえ……。世界を破壊する!なんて逸話もあるけど、それは完全なケラウノスと一体化したゼウスが使えばの話。シンフォギアと言う欠片で、しかも神ではなく人間がそんなことすれば逆に焼き尽くされるよ」

「ヨハンさんも同じ答えですか……」

 

 一応、サンジェルマンも無敵破りの証明を進めて行き詰っており、おおよそ五十年長く生きるヨハンなら何かわかるかもと思っていたのだが、流石の彼女もお手上げのようだった。

 

「ま、とにもかくにも情報が少なすぎる。後は現地収集しかないね」

 

 ヨハンが茶色い革のトランクケースを手に立ち上がる。二人の錬金術師の間を海風が吹き抜けていった。

 

○○○

 

 帰国のためにプライベートジェットに乗っていた翼とマリアであったが、着陸の直前にアルカ・ノイズの襲撃を受けていた。召喚したのはもちろん、先行していたカリオストロとプレラーティだ。彼女たちは管制塔の上に立ち、羽から赤いプリマ・マテリアを出しながら高度を落としていくジェット機を眺めている。

 

「うふふふ!命中命中。さて、攻撃の二段三段と行きましょうか!」

「出迎えの花火は、派手で大きいほど喜ばれるワケダねぇ」

 

 彼女たちの思惑に呼応するようにアルカ・ノイズがコクピットを攻撃し、パイロットたちが分解される。客室でマリア達が立ち上がった。

 

「着陸直前の無防備な瞬間を狙われるなんて……!」

「日本まで追って来たということか……!」

 

 アルカ・ノイズの一体が機体側面を分解し、爆発。爆発によって発生した亀裂から彼女たちが持ち帰ったケースが外に飛び出していく。

 それに気づいて反応するが、翼は間に合わないとみてマリアが飛び掛かった。

 

「ケースがッ?!」

「はぁぁっ!」

 

 だがギリギリで間に合わなかった。マリアはケースの取っ手を掴んだもののそのまま外に頬りだされてしまったのだ。生身で助けに行くのは不可能。ならばと翼は天羽々斬の起動聖詠を口にする。

 

「Imyuteus Amenohabakiri Tron」

 

 遂にアルカ・ノイズの群れが機体全体を破壊した。だが、間一髪で間に合った翼は爆炎の中から飛び出すと手に携えた二振りの剣を組み合わせて大剣に変形させ、大振りの一閃を放った。

 

       『蒼ノ一閃』

 

 空を裂く一閃はマリアを襲おうと飛んできていたアルカ・ノイズを切り伏せ、翼はさらに大剣の振りを基点に空中を踊るように駆け、斬撃を飛ばしながらアルカ・ノイズの数を減らしていく。だが、下は海。このままではシンフォギアを纏っている翼はともかく、生身のマリアは海面に叩きつけられるだろう。

 そんな時、本部からの通信が入る。

 

『翼ァ!マリア君をキャッチし、着水時の衝撃に備えるんだ!』

「そうはさせないワケダ……」

「たたみかけちゃうんだからー!」

 

 背後から攻撃を加えてくるアルカ・ノイズを斬り裂いていく翼だったが、数体を取り逃がし、マリアのほうに向かわせてしまった。冷静に彼女だけを避けて斬撃を放つが、それでも残った者たちがマリアに群がっていく。

 

『マリアさん!』

『加速してやり過ごすんだッ!』

 

 大の字に体を広げて落下速度を落としていたマリアだったが、弦十郎の指示に合わせて体を真っ直ぐにし、空気抵抗を落として落下速度を上げる。速度を上げたおかげでアルカ・ノイズの攻撃を間一髪でやり過ごすことが出来た。履いていたハイヒールのヒール部分が分解される。

 その隙をついて脚部ブレードに備わったブースターを点火してマリアを抱え、空に大剣の切っ先を掲げる。すると蒼き閃光と共に無数のエネルギーで構成された剣が雨のように降りしきり、残存するアルカ・ノイズを全て斬り裂いた。

 

       『千ノ落涙』

 

 何とかすべての攻撃をかいくぐった翼たちは海面に着水し、ホバークラフトの要領で海岸へと向かう。

 その光景をプレラーティがつまらなそうにつぶやいた。

 

「流石にしぶといワケダ」

「癪だけど、続きはサンジェルマンが合流してからねぇ」

 

 お姫様だっこの状態で翼に抱かれているマリアが、

 

「手厚い歓迎を受けてしまったわね……」

「果たして、連中の狙いは私達装者か、それとも……」

 

 マリアが今所持している、持ち帰ったケースの中身か、だ。

 本部に帰還した二人にリディアンにいた残りの走者たちが駆け寄る。

 

「センパイ!」

「翼さん!」

「翼さん!マリア!」

「マリア!」

「デス!デス!デース!」

 

 一番最後に入ってきた切歌がマリアに抱き着いた。マリアは彼女を首から下げたまま、

 

「大騒ぎしなくても大丈夫。バルベルデ政府が保有していた資料は、この通りピンシャンしてるわよ」マリアは平気そうにケースを見せるが、彼女達が心配しているのはそっちではない。

 

「そうじゃなくて!敵に襲われたんですよね……?ホントに無事でよかった……」

「帰国早々心配かけてすまない。気遣ってくれてありがとう」

「だが、安心してばかりじゃいられないのが現状だ。これを見てほしい」

 

 弦十郎が親指で背後のモニターを指し、そこに友里たちが見つけた水晶と仲に眠る人形、ティキが映される。

 

「これは……?」

「私達がバルベルデ政府に潜入した際に記録した、人形の映像よ」

「ついでに言うとオートスコアラー」解析に加わっていた雷が情報を追加する。

「前大戦時、ドイツは、化石燃料に代替するエネルギーとして、多くの聖遺物を収集したという。そのいくつかは、研究目的で当時の同盟国である日本にも持ち込まれたのだが……」

「私の纏うガングニール……」

 

 それを聞いて、雷の中に電流が流れた。彼女の脳内で一つの仮説が組みあがっていく。恐らくは、錬金術師たちの現時点での切り札。ヨナルデパズトーリを、神の持つ不可逆の無敵性を完全に殺すことのできる仮説。この仮説が立証されたとすれば、あの時に無敵性を無効化した理由に証明がつく。

 

(かの独裁者はキリストを刺した槍『ロンギヌスの槍』を欲したという……。それをすでに彼が手に入れていて、もしも、万か億かに一つの確立だけど……)

「……注意を怠らないで欲しい。……雷君」

「は、はい!」

 

 思考に夢中で全く話を聞いていなかった雷は、肩を跳ねさせて返事をした。緊張状態だったメンバーの間にあった糸が程よく緩む。

 ちょっと困った顔をした弦十郎は苦笑いを浮かべ、

 

「全く、君の頭の回転の速さと思慮深さ、それに対する集中力は称賛に値するものだが、話は最後まで聞くべきだぞ」

「はい……」

 

 弦十郎に叱られた雷ががっくりと肩を落とした。




サンジェルマン内での信用度
ヨハン≧カリオストロ・プレラーティ>(越えられない壁)>アダム

雷ちゃん。考え事のし過ぎで話を聞かないの巻。

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