戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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雷とエルフナイン。二つの頭脳が活路を開く!


亜空間の檻

 スマホを見ている未来の背中に、会議を終えた響が駆け寄って声をかけた。そんな彼女の後を、眉をㇵの字にして珍妙な表情で唸っている雷が歩いてきた。

 

「未来ー!お待たせ!」

「翼さん達は大丈夫だった?……どうしたの雷」

「いや……さっきまで何かとても重要なことを考えてたはずなんだけど……」

 

 雷は腕を組み、顔を右へ左へ傾けながらさっきまで考えていたことを必死に思い出そうとしている。が、考えていたことの一かけらも思い出すことが出来ないでいた。うんうんと唸っている。

 そんな雷を見て、響がニヒヒっと悪戯っぽく笑う。

 

「実はね未来。雷ってば考え事のし過ぎで話聞いてなくて、師匠に怒られちゃったんだよ」

「もう、考え事するのはいいけど、人の話は最後まで聞いたほうがいいよ?」

「それ、弦十郎さんにも言われた……」

 

 呆れながらも笑う未来に弦十郎と同じことを言われ、がっくりと肩を落とす。

 三人が集合したのはこれから行くところがあるからだ。肩を落とす雷は気を取り直し、忘れたものはまたいずれ思い出すと見切りをつけて、目的とカフェへと向かった。

 カフェについた三人は、雷が宇治抹茶、未来が苺のかき氷、響がお茶を注文する。ここに来た理由は一つ。未来に今朝の相談事を聞いてもらうためだ。未来の対面に響と雷が並んで座る。

 未来がかき氷の山を軽く突き崩し、

 

「それで?今朝のの続きを聞かせて?」

「うん……。バルベルデでのこと、話したでしょ……」

「私のミスで、現地の男の子が足を無くしたってやつ……」

 

 雷は闇を背負うことで悪いことを自分の所為だと決めつけず、自罰行為をしなくなってはいるのだが、今回は流石に責任を感じていた。自分がしっかりとアルカ・ノイズを殲滅できていれば、ステファンは足を失わず、ソーニャは悲しまず、クリスは落ち込まなかった。

 ぐるぐると回り、熱くなっていく思考を雷はかき氷をかきこむことで冷却する。キーンと頭は痛くなったが、今はそれが心地いい。

 響が先を続ける。

 

「クリスちゃん、あれから落ち込んでるんだ……。何とか元気づけてあげたいんだけど……」

「大きなお世話だ!」

「「うぇぇっ?!」」突然背後から現れたクリスに二人は驚愕する。驚きのあまり雷は白玉を一つ落としてしまった。それに気付いた彼女は肩を落として落胆する。

「その言い草はないだろう、雪音。三人はお前を案じているんだ」

「うぇー?!翼さんもいるー!」

「私達だけでなく、みんなが雪音のことを心配している」

 

 クリスはちゃんと席に着き、テーブルに肘をついた。

 

「分かってる!けど、ほっといてくれ!あたしなら大丈夫だ!ステファンの事はああするしかなかったし、同じ状況になれば、あたしは何度でも同じ選択をする!」

「それが雪音にとっての、正義の選択というわけか」

「ああ……。だからバカ二号も気にすることねえぞ!お前がいくら天才だからって、人間である以上失敗はするんだからな!」

「……分かった」

 

 クリスは目を伏せて後ろに座る雷に言った。雷は少し困ったようにしていたが、納得して頷く。響は背もたれから身を出し、気になったワードをオウム返しに聞いた。

 

「正義の……選択?」

「そ~いやお前、まだ夏休みの宿題を提出してないらしいな?」

 

 クリスの言葉が場の空気を変えた。響は女の子が出してはいけないような声を出して未来と雷に向かって手を合わせて懇願する。

 

「そぉだったぁ……!どうしよう未来ぅ雷ぁ……」

「頑張るしかないね」掬った宇治抹茶をぱくりと食べる。

「誕生日までに終わらせないと」

「立花の誕生日は近いのか?」

「はい!十三日です」

「はぁーん?あと二週間もないじゃねえか。このままだと、誕生日も宿題に追われッ……」

 

 クリスの言葉を通信機から鳴るアラートが遮った。全員が素早くポケットから取り出し、耳に当てる。案の定、アルカ・ノイズが出現したのだ。即ちそれは、錬金術師たちが行動しているということを意味する。

 

「はい!響です!」

『アルカ・ノイズが現れた!位置は第十九区域、北西Aポイント!そこから近いはずだ!急行してくれ!』

 

 指示の通りに向かうと、そこにはすでにあたり一面を埋め尽くさんとするほどのアルカ・ノイズが召喚されていた。響はペンダントを掲げ、ガングニールを起動させる。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」

 

 雷たちも続き、シンフォギアを身に纏う。

 彼女たちにとってアルカ・ノイズなど道端に生える雑草と同じ、たわいもない相手だ。その証左に見る見るうちに数を減らしていく。

 四人の歌が戦場を貫いていくのを、近くのビルの上からカリオストロとプレラーティが見下ろしていた。彼女たちの背後にテレポートの転送用錬金陣が展開され、そこからサンジェルマンとヨハンが現れる。

 

「漸く到着と言うワケダ」

「首尾は?」

「まだ誘い出したところよ」

「ほら、これ」

 

 ヨハンがトランクの中から巻物のような、ダイヤルが組み込まれたものをサンジェルマンに手渡す。

 

「試作に終わった機能特化型だ。今が使いどころだろう」

 

 中身はアルカ・ノイズだ。全てヨハンが設計、製作したモノであり、あまりに使いどころが限られるために試作止まりになったモノだった。

 サンジェルマンはそれを黙って受け取り、ダイヤルロックを解除して中から三つのアルカ・ノイズを封じ込めた石を取り出した。彼女は真ん中のものを選択する。

 

「その力、見せてもらいましょう」

 

 手に取ったそれを戦闘区画に放り投げた。

 落下地点からはこれまでとは比較にならない赤い輝きが装者たちを照らす。

 

「あれはアルカ・ノイズか?」

「新手のお出ましみたいだな!」

 

 それと同時に巨大なアルカ・ノイズが出現し、プラネタリウムの様に星々を投影。そして投影した空間に装者たちを閉じ込めてしまった。

 本部でもその様子がとらえられ、カメラで状況を確認できず、ギアに搭載された収音機で何とか状況を把握している状態だ。

 想像を絶するアルカ・ノイズの手法に装者たちはうろたえる。

 

「さっきまで街中だったのに……」

「結界を張ったのか……?」

 

 そんな装者たちの横っ腹から無数のアルカ・ノイズが接近してきていた。どこであろうとアルカ・ノイズを殲滅するという任務は変わらない。翼は防人故に一切うろたえることなく二振りの剣で斬り裂いた。だが、アルカ・ノイズは撃破されず、切り口から接合して復活した。響の打撃も雷の稲妻もクリスの弾幕も一切効果がない。

 本部でもその原因を究明しているが、アンチリンカーと言う適合率を下げるようなアイテムは使われていない以上、こちらの攻撃力を下げることなく守りを固めているということだ。

 

『四人とも!聞こえるか!』

「おっさん!どうなってやがる!」

 

 弦十郎が解析した情報を装者たちに通達する。

 

『そこはアルカ・ノイズが作り出した、亜空間の檻と見て間違いない!』

「亜空間の檻……ですか……?」

「そうか!最初に現れた奴を撃破すれば!」

「だったら最大威力でぶち抜くだけ!」

「呪いの剣、抜きどころだ!」

「「「「イグナイトモジュールッ!抜剣ッ!」」」」

 

 四人は背中合わせで一か所に集まり、イグナイトモジュールのウイングスイッチを押し、モジュールを起動させる。

 それと同時に、本部からエルフナインの通信が入った。彼女はこの空間の仕組みを解明したのだ。

 

『皆さん!そこから空間の中心地点を探れますか?!こちらで観測した空間の形状は半球!であれば、制御期間は中心にある可能性が高いと思われます!』

「クリス!」

「ああ!」クリスが回転しながらガトリングで弾丸をばら撒いていく。

「クリスちゃん?!闇雲に撃ってもッ!」

「歌い続けろ!ばら撒いたのは、マイクユニットと錬づするスピーカーだッ!」

「空間内に反響する歌声は私が拾って計算するッ!」

「そうか!ソナーの要領で、私達の配置と空間内の形状を把握できればッ!」

 

 四人は歌い、戦闘を再開する。これによってマイクユニットが拾った歌声がスピーカーから流れはじめ、雷のティアラが反響する歌声を拾い、彼女の高速演算によって隠れていたアルカ・ノイズの居場所を割り出した。

 雷がクリスに指示を出す。

 

「クリス!七時方向ッ!」

「おおよッ!」

 

 クリスは指示通りに振り返り、腰部アーマーを展開して小型ミサイルを投射した。弾頭は不可視の存在を視認できるようにするためのペイント弾だ。

 

       『MEGA DETH PARTY』

 

 人型から胴体部分を切り抜いてくっつけたような、奇妙な形のアルカ・ノイズが可視化する。こいつがこの空間を展開したあるかノイズだ。ならばやることは一つ。

 

「立花ッ!乗れッ!」

「はいッ!」

 

 翼は剣の上に響を乗せて両刃の大剣へと変形させ、カタパルトを成型。クリスが翼の背後に立ち、大剣に横に大型ミサイルを装填した。雷は地面を踏み割るようにして広域に電磁力場を展開し、アルカ・ノイズの侵入を拒みつつ一番最後尾で構えた。響がクラウチングスタートの体勢に入る。

 

QUATERNITY RESONANCE

 

「勝機一瞬ッ!この一撃に全てを賭けろッ!」

 

 翼の号令を受けて、雷はクリスの背中に両手で掌底を叩きこむ。それによって地面に展開されていた力場が収束し、レールガンの要領で装者三人を弾丸のようにアルカ・ノイズに打ち込んだ。一直線に加速し、猛烈な速度の中、クリスが優れたバランス感覚でブースターを操作し、水平を保つ。

 さらに響がカタパルトを使って前方に飛び出し、跳び蹴りでアルカ・ノイズを貫き、その後を翼の大剣が斬り裂いた。

 この亜空間を展開していたアルカ・ノイズが撃破されたことで元の場所に戻り、残党をクリスと雷が狩りつくす。

 本部でもその様子を捉えていた。ブリッジでは調と切歌が手を繋いで笑顔で飛び跳ね、アルカ・ノイズ撃破の立役者の一人であるエルフナインの肩にマリアがポンと手を乗せた。

 

「マリアさん!皆さんからもらった諦めない心は、僕の中にもあります!だからきっと、リンカーを完成させて見せます!」エルフナインは小さな手をグッと握りしめ、意気込みをマリアに示す。

「待っているわ」

 

 マリアはエルフナインの意気込みを受け、待つことを決めた。

 ビルの上で戦況を眺めていた錬金術師たちは面白く無さげな表情をしているようだった。そもそも、試作品止まりのアルカ・ノイズにそこまで期待していないのだが、

 

「あわよくば、と思ってたけど仕方ないわね。でも、目的は果たせたわ」

「ふーん?そんなにのんきでいいの?」

「ティキ。アジトに残るよう言ったはずよ」

 

 命令を無視して現場に来ているティキに向ける顔色は良くない。サンジェルマンたちにとってティキは計画達成に必要なアイテムである。決して彼女たちは子供の御守りをするためにいるのではない。

 ティキは自分優先の考えを口にする。

 

「だってぇ、アダムにあえるかとおもってぇ。でもおこらないで?いいことがわかっちゃったの!」

「何?」

 

 くるくると回る。プレラーティなんかは今にも飛び掛かりそうなほどに頭にきているようだ。ティキに向ける視線が異常に鋭い。

 だが、天体運航を観測するオートスコアラーであるティキの言った言葉は、計画をさらに進めるものであった。

 

「なんと!ここはわたしたちがかみさまにけんかうるのにぃ、ぐあいがよさそうなところよ!これいじょうないってくらいにね?」

 

 ティキの瞳に観測した星の運航がうつる。

 ヨハンは彼女の話をしっかりと聞きながら、下にいる装者たちの一人を楽し気に見つめていた。




クリス「アタシも飛ぶのかよぉぉッ?!」

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