戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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ムゲン団とか言う集団幻覚がダイレクトに好みにはまった私、ネットサーフィンをしまくるの巻。


トマトの味

 マリアと調、切歌をおばあちゃんのそばに移動させ、カリオストロの前にこの場で唯一シンフォギアを纏うことのできる雷が立ちふさがる。既にペンダントとは彼女の手の中にあり、何時でも起動することが出来る状態だ。

 カリオストロは四人に目をやってから呆れたように首を振る。

 

「あらら。まともなのは一人だけで後はいろいろザンネンな三色団子ちゃんかぁ」

「三?!」

「色?!」

「団子とはどういう事デスか?!」

 

 三人は憤慨する。因みにマリアのアガートラームが白。切歌のイガリマが緑。調のシュルシャガナが桃色だ。家族を馬鹿にされた雷が眉を顰める。

 

「見た感じよ?怒った?」

「これで怒ってないように見えるならね……」

「あらあら、たった一人で大丈夫なのかしら?」

 

 カリオストロの挑発にカチンと来ているのは事実だが、今彼女が冷静さを失ってしまえば事態は深刻になるだろう。彼女は自身に苛立ちの表情を見せることでカリオストロの視線を誘導し、後ろに回した右手でマリア達にハンドサインを出した。マリアの応答を知ることは出来ないが、彼女ならば確実に理解してくれるだろう。

 カリオストロは手のひらいっぱいのノイズ召喚ジェムを取り出し、周囲一帯にばらまいた。赤い陣が展開され、アルカ・ノイズが召喚される。

 すぐさま雷がペンダントを天高く放り投げ、起動聖詠を口ずさんだ。

 

「Voltaters Kelaunus Tron」

 

 回転する紅いペンダントが彼女の目の前で光を放ち、その光の中からケラウノスのギアを纏った雷が現れた。彼女は正面からアルカ・ノイズを見据えたまま、背後にいるマリアに叫ぶ。

 

「マリア!」

「ええ!」

 

 まさにツーカー。おばあちゃんを案ずる声と共に四人分の草を踏む足音が遠ざかっていった。しかし、流石の雷と言えど錬金術師にアルカ・ノイズを相手するのは骨が折れる。『シンカ・雷帝顕現』を使えば簡単に片付くだろうが、あれはそれほど容易に使っていいものではない。

 だが、彼女は一人ではないのだ。

 マリア達の後を追わせまいと雷がアルカ・ノイズを相手にしているところに、空の彼方から轟音と共にミサイルが飛来してきた。

 

「待たせたなぁ!」

「雷をお願い!……行きましょ!」

 

 クリスがミサイルに乗ったままボウガンから弾幕を張り、地上にいるアルカ・ノイズを蹂躙していく。

 他の装者たちの招集。これがマリアに出したハンドサインの正体だ。マリアはハンドサインの意味を理解した後、カリオストロの視線が雷に集中しているうちに仮設本部に小声で通信を回していたのだ。

 マリアはクリスに雷を頼んだ後、おばあちゃんを背負って戦線を離脱した。

 本部でもその様子を捉えている。

 

「クリスちゃん現着!」

「雷ちゃんと合流し、交戦状態へと移行!」

「錬金術士は破格の脅威だ!雷君と連携して翼たちの到着を……』

『そうも……言ってられなさそうだッ!」

 

 ミサイルで空を飛翔するクリスに向かってカリオストロの光弾が襲い掛かる。如何やら彼女はクリスを好敵手として見ているようだ。カリオストロの妨害にクリスは集中せざるを得なくなり、雷が単騎で未だ多く存在しているアルカ・ノイズを相手取る。さして脅威でもない相手だが、いかんせん数が多く、クリスの援護に回ることが出来ない。

 カリオストロが気を良くして光弾を投げ続ける。

 

「会いたかったわ!ああん!めぐる女性ホルモンが煮えたぎりそうよッ!」

 

 クリスがボウガンを放って光弾を相殺していくが、カリオストロが投げた最後の一発がミサイルの噴射部分を撃ち抜き、爆発した。爆発によって足場を失ったクリスは落下するも即座に着地し、ばら撒かれる光弾を回避する。

 カリオストロは歓喜し、

 

「やっと近くに来てくれたぁ!」

 

 と自身の周りに無数の錬金陣を展開し、大出力の光線を放った。クリスがバク転で距離をとって回避している間に、アルカ・ノイズを殲滅し終えた雷がカリオストロの無防備な横っ腹から強襲を仕掛ける。

 

       『AssaultForce』

 

 乱れ撃たれる光線の中を身に纏ったフィールドで強引に突破し、肉体の電気信号を強引に加速させてパワーと速度を引き上げたボディブローを思いっきり叩きこんだ。ギリギリで防御陣を展開して直撃は防いだようだったが、斥力とは反発する力の事。ダメージこそ削られてしまったが、カリオストロの体が弾き飛ばされる。

 

「ぐぅ?!」

「鴨撃ちよりも簡単だ」

 

 クリスが弓矢を展開し、力いっぱい張った弦の反発でロケットのようになっている矢を放ち、ブースターによってさらに加速し空中で身動きが取れないカリオストロを狙う。

 これも彼女は両手で強固な防御陣を展開することで凌いだものの、爆炎を割りながら響が肉薄し、力強い踏み込みからの肘打ちが完全に無防備となった彼女の鳩尾を貫いた。

 

「せえやッ!」

 

 装者三人の息の合った連携にカリオストロは吹き飛ばされ、地面の上を転がる。

 響は残心をとったまま、

 

「内なる三合、外三合より勁を発す。これなる拳は六合大槍ッ!映画は何でも教えてくれるッ!」

「くッ……!」

 

 カリオストロは近くにあった壁に手をつき、連携によって自身を吹き飛ばした三人に歯噛みする。そして、こんな開けた場所に壁があることに不信を抱き、目を向けると、その壁は鏡のように自分の姿を映していた。

 思わず疑問を口にする。

 

「壁……?」

「壁呼ばわりとは不躾なッ!剣だッ!」両刃の巨大な大剣の上から翼が見下ろす。

「信号機共がチカチカと……!」

 

 因みに響と翼、クリスがランプで雷は信号機そのものだ。

 さらに光線を続けようとするカリオストロの脳内に、サンジェルマンからのテレパスが届いた。

 

『私の指示を無視して遊ぶのはここまでよ』

「チッ……!」舌打ちを打ち、テレポートジェムを足元に投げ捨てる。「次の舞踏会は、新調したおべべで参加するわ。楽しみにしてなさい。ばぁあぁ~い」

 

 光の中で手を振りながら、彼女はその姿を消した。

 

○○○

 

 太陽が傾き、空に赤みが差してきたころ。おばあちゃんを連れて避難していたマリア達は退避場所である小学校に来ていた。

 トマトが入っている篭を背負ったままのおばあちゃんを背負っていたマリアが彼女を下す。

 

「ありがとね」

「いえ……」

「お水もらってくるデスよ!」

「待って切ちゃん!私も一緒に」

 

 物資を運んできていた自衛隊のもとに切歌が向かい、その後を調が追う。そんな彼女達を、おばあちゃんは孫を見るような優しい目で見送る。

 

「ほほ、元気じゃのう」

「お母さん、お怪我はありませんか?」さっきまで戦場にいたのだ。マリアがおばあちゃんに問う。

「大丈夫じゃよ。むしろあんたらのほうが疲れたじゃろうに……。わしがぐずぐずしていたばっかりに迷惑をかけてしまったねぇ……」

「いえ……私達に守る力があれば、お母さんをこんな目には……」

 

 リンカーが無ければ戦うことの出来ない自分に腹が立ち、表情を暗くして俯く。そんな時、おばあちゃんが何かを思いついたようにして、楽しげにかごの中からトマトを一つ取り出した。

 

「そうじゃ!せっかくだから……このトマト、あんたも食べておくれ」

「わ、私、トマトはあんまり……」

 

 マリアはトマトが苦手であった。やんわりと断ろうとしたが、おばあちゃんの有無を言わさぬような優しい微笑みの前に断り切れずに受け取ってしまう。

 

「では……ちょっとだけ頂きます」

 

 黙ってトマトを見つめる。少したってから目を瞑り、意を決して(小さく)一口齧った。だが、

 

「甘い……?!フルーツみたい!」

 

 口の中に野菜特有の青臭さが広がらず、甘さとすっきりとした酸味が口の中で広がっていくのを感じる。驚きのあまり目を見開いた。

 

「トマトを美味しくするコツは、厳しい環境においてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくれるもんじゃよ」

「厳しさに、枯れたりしないのですか?」自分の齧ったトマトをマリアが見つめる。

「むしろ甘やかしすぎるとダメになってしまう。大いなる実りは、厳しさを耐えた先にこそじゃよ」

「厳しさを耐えた先にこそ……」

 

 道が分からない子供に道を指し示すことこそ大人の、先人の務めだと言うようにマリアの悩む顔をおばあちゃんは満足げに見つめる。答えは見つかっていないようだが、道筋は見えたようだ。少なくとも、おばあちゃんにはそう見えている。

 彼女はマリアの膝に手を添えた。

 

「トマトも人間も、きっと同じじゃ」

 

○○○

 

 仮設本部にて遠隔で解析を続ける弦十郎たちであったが、どうも難航しているようだ。進行具合が芳しくない。ウェルのデータ解析に当たっているエルフナインが背後の弦十郎のほうを向き、

 

「解析は難航していますね……」

「ぬぅ……」

「指令……。鎌倉からの入電です」

「直接来たか……。繋いでくれ」

「はい……」

「?」

「出します」

 

 鎌倉……「人よりも国」という思想を持つS.O.N.G.指揮官、風鳴弦十郎と内閣情報官、風鳴八紘の父であり、シンフォギア装者である風鳴翼の祖父(血縁的には父親)である風鳴訃堂を首魁とするこの国の防衛と政治を裏から操る組織である。

 その組織の存在を全く知らないエルフナインは首を傾げ、彼女以外の大人たちは緊張の面持ちでモニターを見つめる。

 映されたモニターには、簾で姿を隠す筋肉質な老人の姿があった。

 

『無様な……。閉鎖区域への侵入を許すばかりか、仕留めそこなうとは!』厳格で力強い声が聞こえてくる。

「いずれこちらの詰めの甘さ、申し開きは出来ません」

『機関本部の使用は、国連へ貸しを作るための特措だ。だが、その為に国土安全保障の要を危険にさらすなどまかりならん!』

「無論です……!」

『異国の者を八島防衛、出所も分からぬ聖遺物の使用を特例で許可しているのだ。これ以上夷狄に、八島を踏み荒らさせるな』

 

 訃堂は言うだけ言って通信を切った。彼の息子である弦十郎は深く息を吐いた。翼と同じで彼も訃堂の事が苦手なのだろう。

 

「流石にお冠だったな……」

「それにしても指令。ここ松代まで追てきた敵の狙いは、一体……」

「狙いは、バルベルデドキュメント。または装者との決着。あるいは……」

 

 あまりにピースが少ないために対策を練ることも作戦を立てることもできない。受け身に回るしかなかった。




でたよ(可愛い女の子を侍らせたがっている)訃堂。

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