戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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大学生になったのに一切学校に行ってないと言うね。


賢者の闇払い

 アダムの黄金錬成の破壊力は圧倒的だった。地面は蒸発し、底の方はまだ赤熱化していた。ガラス化した地面がどれほどの高温であったかを示している。しかも、蒸発させられた場所以外は被害が全くないことから、彼が圧倒的なエネルギー制御能力を持っているのかは一目瞭然だ。

 単独での破壊力ならば、これを上回るのはフロンティア事変においてバビロニアの宝物庫内で交戦したネフィリム・ノヴァレベルだろう。

 その黄金錬成の範囲からギリギリ離れたところに響達がいた。気を失っていたクリスが何とか立ち上がる。

 

「何が……一体どうなって……」

「風鳴機関本部が、跡形もなく……」

「ッ……!マリアさん達は?!」

 

 響が自分たちを逃がしてくれたマリア達のことを思い出し、周囲を見渡す。

 丁度そのタイミングで大きな瓦礫がゆっくりと持ち上がった。瓦礫の下から緑のギアと金髪が見えてくる。イガリマを纏った切歌だ。

 彼女はイグナイトを使用した後、適合係数の低い体に鞭打って上から覆いかぶさっていた瓦礫を押しのけたのだ。

 

「デェス……!」

「切歌ちゃん!」

 

 響が声をかけた。

 彼女の背後には同じくギアを纏ったマリアと調もいる。怪我はなく、全員無事だ。だが、マリアの疲労は誰よりも大きいようだった。

 しかし、マリアには何よりも最優先すべきことがあった。目の前で太陽を破壊し、命からがら離脱する手伝いをしてくれた雷の存在だ。

 

「マリア……」

「私よりも……早く、雷を……」

 

 マリアのつぶやきは上空から聞こえてきたヘリのローター音で遮られてしまう。まばゆいライトが装者たちを照らした。その綱領にマリアは思わず目を閉じ、顔を背ける。

 

○○○

 

 アダムの襲撃から一夜明け、装者たちは仮設本部の装甲車に集合していた。

 指令である弦十郎が腕を組み、言った。

 

「敗北だ。完膚なきまでに」

「ついに現れた、パヴァリア光明結社統制局長、アダム・ヴァイスハウプト」

 

 モニターいっぱいに黄金錬成によって発生した小型の太陽を頭上に掲げる『全裸』のアダムが映し出された。それに次いでファウストローブを纏った四人の錬金術師が映る。

 

「錬金術師共のファウストローブ……」

「打ち合った瞬間に、イグナイトの力を無理矢理引きはがされたような、あの衝撃は……」

 

 翼たちの疑問に同じ錬金術師であるエルフナインが応える。

 

「ラピス・フィロソフィカス。賢者の石の力だと思われます……」

「賢者の石……確かに言っていた……」

「完全を追い求める錬金思想の到達点にして、その結晶体。病をはじめとする不浄を正し、焼き尽くす作用をもって浄化する特性に、イグナイトモジュールのコアとなるダインスレイフの魔力は、為すすべもありませんでした……」

 

 ダインスレイフの呪いによって能力をブーストするイグナイトモジュールにとって、原動力となる呪いを引きはがし、さらには焼き尽くすことによってダメージを与えることが出来るラピス・フィロソフィカスのファウストローブはまさに天敵と言えた。

 翼が拳を握る。

 

「とどのつまりは、イグナイトの天敵……!この身を引き裂かんばかりの衝撃は、強制解除によるもの!」

「決戦仕様であるはずが、こっちの泣き所になっちまうのか?!」

「東京に搬送された雷たちは、大丈夫でしょうか?」この場にいない親友たちを響が案じる。

「精密検査の結果次第だけど、奇跡的に大きなけがはないそうよ。雷ちゃんは一度倒れたけどその後は問題なく救援に向かっていたし、今のところ雷臨状態への移行によるバックファイア以外に目立ったところはないわ」

 

 雷は瓦礫の下で気絶しているのを発見され、病院へ救急搬送されていた。

 後でわかったことだが、突然倒れたため集中的に検査したがどこにも異常は見当たらず、『シンカ・雷帝顕現』の発動によって負った火傷の治療を受けている。黄金錬成を正面から迎え撃った弊害か、どうも今回は今までのよりもひどいらしい。

 儒教証拠によるものだが、胸の痛みは医者によるとエコノミークラス症候群ということだそうだ。

 解析に当たるためずっと椅子に座っていた彼女が仲間の危機に急に立ち上がろうとしたからだろう。という報告を受けている。本来なら命にかかわることだが、ケラウノスの稼働によって血の塊が破壊され、健康体に戻ったのだという。

 マリア達はギアの限界使用によって気を失い、最も黄金錬成の火の近くにいたため同じく治療を受けていた。

 仲間の危機にさらに不安が募るが、エルフナインがそれを払しょくする。

 

「きっと、無事です」

「そうだね……。大丈夫……絶対……!」

(リンカーを介さないギアの運用。ましてやイグナイトによる体への負荷……。絶唱級のバックファイアを受けてもおかしくなかったはず。なのに……)

 

 エルフナインはマリア達が無事であった原因を考察する。マリアが纏っていた淡い燐光がヒントなのは分かっているのだが、それが何なのか見当もつかなかった。

 沈む空気に逆らうように弦十郎が声を張る。

 

「風鳴機関本部は、現時点での破棄が決定した。各自、撤収準備に入ってくれ」

 

 得るはずだったものを根底からすべて崩されたことに、藤尭がたらればを言う。

 

「バルベルデドキュメントが解析できていれば、状況打開の手がかりがあったのかな……」

「……」

 

 データとして存在していれば、回復した雷がハッキングなりなんなりで引っ張り出してくるだろうが、そんなデータはなく、全て紙だったために今しがた焼却されたばかりだ。魔法少女事変のようにはいかないだろう。

 まぁ、そうであったとしても彼女であれば、想像もしないような奇策妙策怪策でもってして状況をひっくり返すぐらいしてくるのでは?というちょっとした期待も無きにしも非ずなのだが。

 と、そんなことを考えていると、緒川の通信機が鳴り始めた。内ポケットからそれを取り出すと、鎌倉のシグナルが点滅している。少しだけ驚いと表情を浮かべた。それに気づいたのは翼だけだ。

 緒川は弦十郎のそばに向かい耳打ちする。

 

「指令……、鎌倉への招致がかかりました」

「しぼられるどころじゃ済まなさそうだ……」

 

 既に腹をくくっているのか、弦十郎は笑ってみせる。

 

○○○

 

 都内の高級ホテルの一室に統制局長アダムを加えたパヴァリア光明結社の錬金術師たちの姿があった。

 愛する人に出会えたのが相当にうれしいようで、ティキが子猫のようにベッドで読書をしているアダムに歩を摺り寄せていた。

 窓際でサンジェルマンが腕を組んで結果を報告する。彼女の視線はアダムを刺すようなものだが、彼は一向に意に介さない。

 

「ラピスの輝きは、イグナイトの闇を圧倒。勝利は約束されていた……。それを……」

「下手こいちゃうとあーしたち、こんがり、サクジュワーだったわよ」

「しかもその上、仕留めそこなっていたというワケダ」

 

 プレラーティがかざしたその先に、車に乗り込む装者たちの姿が映し出されている。これは彼女の使役しているカエルの視界から送られてくるものだ。

 アダムに苦言を言う中、彼を愛するティキが反論する。

 

「みんな!せっかくアダムがきてくれたんだよ?ギスギスするより、キラキラしようよ!」

 

 使命を果たすためにここにきている錬金術師たちは、アダムが来たから仲良くしようとか言う気はさらさらない。むしろ逆だ。

 現にヨハンはアダムとティキがそろっている場にいるのが苦手なのか、街へと繰り出していた。名目上は敵情視察となっているが、錬金術師や騎士である以前に作家でもある彼女は、現代日本の文学巡りをしているのだろう。

 まったく返事のないサンジェルマン達にティキは叫ぶ。

 

「み~ん~な~!」

「どうどうティキ。だけどもっともだねぇ、サンジェルマン達の言い分は。いいとこ見せようと加勢したつもりだったんだ、出てきたついでにね」雷の『シンカ・雷帝顕現』に驚愕していた事実は部下の手前一切見せていない。彼は脱いでいた帽子をかぶり「でもやっぱり、君たちに任せるとしよう、シンフォギア共の相手は」

 

 そう言ってアダムはベッドから降り、ティキが腕に抱き着くのを気にせずに玄関に向けて歩き出した。

 そんな彼の背中からサンジェルマンが声をかける。

 

「統制局長、どちらへ?」

「教えてくれたのさ、星の巡りを読んだティキが……。ね?」

「うん!」

「成功したんだろう?実験は。なら次は本格的に行こうじゃないか、神の力の具現化を」

 

 アダムは怪し気に輝く瞳を、肩越しにサンジェルマンに向けた。




AXZ編はどんな奇策を叩きこむか……。そもそも無しで行くか……。うーむ。

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