戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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そろそろ夏季休暇も終わるので、週刊投稿に移る前に数を投稿しておかねば。
実は大まかなあらすじはAⅩZまでできているのです。
雷の精神状態の切り替わりには法則性がありまして、不幸なことの原因がはっきりしていてそのうえで自業自得ならば正常なままですが、原因が不明か、理不尽な物であれば自分の所為だと思って自傷に走ります。自殺に走るときは悪いことや不安なことを不安定な時に思い詰めてるときです。


完全聖遺物の力

「大変長らくお待たせしましたぁ!」

「了子君!」

 

 基地内の緊迫した雰囲気とは裏腹に、了子は謎のテンションで帰還する。広木防衛大臣が暗殺されたのだ、ついさっきまで彼にあっていた了子を心配するのも当然だろう。手にトランクを持っているあたり、別れた後に襲われたのだろう。複数の革命グループから犯行声明が出ていて、詳しいことは全く理解できていない。

 

「目下全力で調査中だ」

「了子さんに連絡が取れないからみんな心配してたんです!」

「んえ?」

 

 了子がポケットから携帯端末を取り出して確認し、苦笑いを浮かべる。

 

「・・・壊れてるみたいね」

 

 その報告に弦十郎と響は安心した顔を浮かべるが、雷だけはけげんな顔をしていた。

 

(こういうところで使われている端末ってそんな簡単に壊れるのか?それに恐らく狙いはそのトランク・・・。大臣の通るルートは分かるのに、受け渡しの時間が分からないのが引っかかる・・・)

「どうしたの?何か気になる?」

「ッ?!い、いえ、なにも!」

 

 思考中にいきなり了子に詰め寄られ、今まで考えていたことが霧散する。彼女はトランクをソファーに置き、中からチップを取り出した。

 

「政府から受領した機密指令も無事よ。任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

 そのトランクの死角に大臣の血がついていることは、誰も気づくことが出来なかった。

 

 デュランダル移送計画。その計画に響は了子と共に車での護衛、雷はケラウノスが遠距離攻撃能力を持つためにヘリからの上空支援が充てられた。

 

○○○

 

 リディアン寮内。自分たちの寮室に戻った二人は未来からの説教を受ける。

 

「ちょっと!朝からどこに行ってたの?!いきなり修行とか言われても!」

「あぁぁ~と、えーと、その・・・つまり・・・」

「なんって言ったらいいのかな~」

 

 二人そろって誤魔化そうしていると、未来が詰め寄ってくる。

 

「ちゃんと説明して!」

「あははは!もう行かなくっちゃ~!」

「未来・・・。話せるようになったら話すから、今は許して・・・」

 

 響は慌てて、雷は申し訳なさそうに謝罪を言いながら玄関から飛び出す。その後ろ姿を未来は見つめることしか出来ない。

 

「心配もさせてもらえないの・・・?」

 

 未来のつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。

 

○○○

 

 二課の通路で雷と響の二人はソファーに座り込んでいた。

 

「絶対未来怒らせちゃったよね・・・」

「問題を先送りにして逃げてきちゃったもんね、私達」

 

 こんな気持ちで寝られるわけもなく、目の前に置いてあった新聞を手に取り、開く。そこには年頃の少女にとっては過激な写真が載せられていた。咄嗟に新聞と顔をそらす。

 

「「うひゃあ?!」」

「お、男の人って、こういうのとかスケベ本とか好きだよね・・・」

「う、うん」

 

 そう言いながらもそのページをチラ見する二人、別のページには翼が過労で入院しているとの記事が載せられていた。

 

「情報操作も、僕の役目でして」

「緒川さん・・・」

 

 上から声をかけられた。緒川だ。彼は翼のマネージャーも兼任しているため、二課の装者として動く翼との整合性を保つためにも行動しているのだ。

 

「翼さんですが一番危険な状態を脱しました。ですが、しばらくは二課の医療施設にて安静が必要です」

 

 彼の報告に二人は笑顔を浮かべるが、その後に続いた言葉に表情を曇らせる。緒川もソファーに座る。

 

「月末のライブも中止ですね。さて、ファンの皆様にどう謝るか、二人も一緒に考えてくれませんか?」

 

 響が落ち込み、雷が頭を撫でる。翼が絶唱を使って意識不明の重体になってしまったのは自分が至らなかった所為だと思っているからだ。慌てて緒川が謝罪する。

 

「ああ、いや・・・。そんなつもりは・・・。ごめんなさい、責めるつもりはありませんでした。伝えたかったのは、何事も、たくさんの人間が少しずつ、いろんなところでバックアップしているということです。だから響さんも、もう少し肩の力を抜いても、大丈夫じゃないでしょうか」

「優しいんですね、緒川さんは」

「・・・いや、こんな人に限って内面は鬼畜かもしれないよぉ~」

「あ、雷さん!からかわないでください!ひ、響さん僕は・・・」

「分かってますよ、雷がからかうっていうことは優しい人ですので」

「響ぃ~、バラすなよぉ~」

 

 からかう雷に心外だと言わんばかりに訂正を入れようとするが、雷のことを良く知っている響は逆に安心する。内心をばらされた雷は口をとがらせてぶつくさ言っているが、これも信頼しているからこそである。急に緒川が真面目な顔をする。

 

「・・・怖がりなだけです。本当に優しい人は他にいますよ」

 

 雷と響は立ち上がって緒川に礼をする。

 

「少し楽になりました。ありがとうございます。私、張り切って休んでおきますね!」

「あと、からかってごめんなさい」

 

 二人は緒川を置いて通路を駆けていく。一人残った緒川がつぶやいた。

 

「翼さんも、響さんや雷さんぐらい素直になってくれたらなぁ」

 

○○○

 

 明朝五時、移送作戦、了子曰く『天下の往来一人占め作戦』が開始され、響は了子、デュランダルと共に車へ、雷は弦十郎と共にヘリへと乗り込む。大臣殺害犯を検挙する名目で検問を敷き、一気に駆け抜ける作戦だ。ルートの選択は了子が担当したようだ。

 移送中、橋の一部が崩れ、四台の護衛の車のうち一台がそれに巻き込まれる。弦十郎がレシーバーで報告する。

 

「敵襲だ!まだ確認できていないがノイズだろう!」

『この展開、想定していたよりも早いかも?!』

 

 市街地へと突入し、マンホールがしたからものすごい勢いで跳ね上がって車を一台吹き飛ばした。

 

「下水道だ!ノイズは下水道を伝って攻撃してきている!」

 

 さらにもう一台が吹き飛び、デュランダルを守る車は一台だけになってしまった。

 

『弦十郎君、ちょっとヤバいんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたら、デュランダルはッ・・・』

「分かっている!雷君、狙えるか?」

 

 すでにケラウノスを纏った雷は雷の矢を展開し、すぐに射出できるようにしているが肝心のノイズの姿が見えないので打つことが出来ない。

 

「姿が見えないので、何とも・・・」

「そうか・・・。さっきから護衛車を的確に狙い撃ちしてくるのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されていると見える!狙いがデュランダルの確保なら、あえて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって算段だ!」

『勝算は?!』

「思い付きを数字で語れるものかよぉ!雷君は了子君たちが薬品工場に滑り込んだら、彼女たちに合流してデュランダルの防衛に当たってくれ!」

「はいッ!」

 

 すると突然マンホールからノイズが飛び出し、護衛車に取り付く。乗っていたエージェントたちは車から飛び降り、制御を失った車はタンクにぶつかって爆発した。ノイズはデュランダルの損壊を恐れているのか襲ってこない。

 

『狙い通りです!』

 

 響が喜ぶのもつかの間、彼女らの乗った車はノイズによってひっくり返ってしまう。響と了子は車から這い出るが、周囲をノイズに囲まれてしまった。

 

「南無三ッ!雷君!」

「はいッ!」

 

 雷がヘリから飛び降り、両腕から展開された雷の矢をノイズに向けて乱射する。

 

    『雷乱神楽』

 

 矢が多数のノイズを貫くがそれ以上に数が多く、車への攻撃を許してしまい、爆発する。爆風でデュランダルを抱えた響と了子が吹き飛ばされる。

 

「二人とも!」

 

間髪入れずに行われるノイズの攻撃に対し、了子は立ち上がると右腕からエネルギーバリアのようなものを展開した。それにノイズが触れると、シンフォギアに攻撃されたように粉々に砕け散った。

 

「なにそれ?!・・・二課の人たちにとってはこういうのが普通なのかな?」

 

 雷は驚いた後に翼と自身の攻撃を受け止めた弦十郎のことを思い出し、強引に納得する。

 

「しょうがないわね。あなたのやりたいことを、やりたいようにやりなさい」

 

 その言葉に響は意を決した。

 

「私、歌います!「Balwisyall Nescell Gungnir Tron(バルウィシャル ネスケル ガングニール トロン)』」

 

 ガングニールを纏った響は、弦十郎との特訓で身に着けた格闘技の構えをとり、歌う。ノイズの攻撃を避けるがヒールが邪魔をし、うまく動くことが出来ない。ノイズを殴り貫きながら雷が叫ぶ。

 

「響!ヒール外して!」

「わかってる!」

 

 地面に当ててヒールを蹴り外し、構えを改める。そこへ突っ込んできたノイズを正拳突きの衝撃で破壊し、続いて打ち下ろしてもう一体のノイズを粉砕する。雷も今までのような防御や回避のことを考慮しない戦い方から、それらのことを考えながら今まで通りに戦うスタイルへと進化している。響からは戦う力が感じられ、雷からは危うさが無くなっていた。

 二人の歌に反応し、デュランダルを保護していたケースのロックが解除される。その時、ネフシュタンの少女が鞭で響を狙ったが、事前に「あり得るだろう」と予測していた雷が稲妻を放ち、弾く。

 

「やっぱり来た!」

「今日こそはモノにしてやる!」

「ぐぅッ?!」

 

 鞭の攻撃こそ弾かれたものの、少女の蹴りが響の顔面に直撃する。すると突然デュランダルがケースを突き破り、空中で静止すると、金色に輝き始めた。

 

「覚醒?!起動?!」

「こいつがデュランダル」

 

 少女はほくそ笑み、デュランダルを奪取すべく飛び上がる。それを雷は妨害すべく飛び上がり、車輪のように回転しながら稲妻を纏った踵落としを背中に思いっきり叩きこんだ。衝撃で少女の体は地面に叩きつけられ、雷が叫び、響が呼応する。

 

「響!」

「渡すものかぁぁ!」

 

 響がそれを掴んだ瞬間、光が一層増して輝き始める。その光は輝きを超え、一筋の光の帯となる。その光の奔流の中でデュランダルは元の形を取り戻し、本来の力を解き放った。

 

「こいつ、何をしやがった?!」

 

 鎧の少女が驚きの声を上げ、了子のほうを一瞬だけ向いた。彼女は取り付かれたような笑みを浮かべている。確定的な証拠を雷は響に気を取られて見逃してしまう。

 

「そんな力を見せびらかすなぁ!」

「君も似たようなのを使ってるじゃないか!」

 

 杖を構えた少女に対して咄嗟に動いた雷が相対し、杖を使うのを阻止する。それに反応したのか、デュランダルを構えた響が振り向き、剣を振り下ろした。

 

「響?!」

 

 雷は電光刹那で回避し、少女は一瞬臆したがすぐに直線上から回避する。響の振り下ろした光の奔流は、直線上にあったすべてのものを破壊していく。それは工場そのものをも巻き込み、大爆発を引き起こした。

 雷はその衝撃と爆炎を全力で展開した斥力フィールドで防御し、気絶した響は了子の謎のエネルギーバリアで守られている。そんな響を見て、了子はほくそ笑む。

 

「まさか、デュランダルの力なのか!」

 

 ヘリで弦十郎がつぶやいた。

 

○○○

 

「響!響!!」

 

 雷の声で響が目を覚ます。体を跳ね起こして周囲を見渡す、そこには響を抱きしめる雷と髪を結いなおしている了子、そして手にはデュランダルとそれによって生み出された瓦礫の山が出来上がっていた。

 

「コレがデュランダル。あなた達の歌声で起動した、完全聖遺物よ」

「あの、私・・・。それに了子さんの、アレ・・・」

「私も見ました。あれは・・・」

 

 髪を結い終わった了子はヒビの入った眼鏡をかけなおして言う。

 

「いいじゃないの。三人とも助かったんだし!ねっ!」

 

 突然了子の携帯が鳴り、それに出る。二人は顔を見合わせて、同時に首を傾げた。




ケラウノス
轟理論で開発された唯一のギア。二課のデータベースにギアと理論の情報がほとんどなく、『かつて開発計画があった』程度の記録しか残っていない。その為存在しないものとして扱われていたが、雷が起動したことにより、表舞台へと飛び出すことになる。(おそらく雷が起動しなかった場合、形見のペンダントとして扱われていたであろうことは想像に難くない)
アームドギアは稲妻。形がないため雷のイメージによって形を変化させることが出来、応用で磁場や斥力を展開することも可能。弦十郎の教えを反映して基本は徒手空拳で扱われる。
音楽ベースはシンセサイザーのような電子系。
技名カットインは稲妻のエフェクトと共にエレキギターが鳴り響く。
まだまだ秘密があるようだが・・・?

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