戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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誰だ!インテレオン×エースバーンなんてカップリングを作ったやつは!私の性癖を捻じ曲げやがって!




到達まであと一歩

 人っ子一人いない街のど真ん中で、大小様々な数がいるアルカ・ノイズの前に復調したばかりの調と切歌がいた。この場には適合係数を補うリンカーなしで戦える響たちの姿はなく、当然彼女たちの使うリンカーもない。だが、それでもここを戦い抜かねばとリンカーの補助なしでシンフォギアを纏う。

 切歌がイガリマの起動聖詠を口にした。

 

「Zeios Igalima Raizen Tron」

 

 緑の鎌を武器とするシンフォギア、イガリマを纏い、相棒の調もピンクの鋸を武器とするシュルシャガナを身に纏った。この二つは元々一人の女神ザババが使用していたもの。この特性によって雷無しでもフォニックゲインを重ねることが出来るため、二人のフォニックゲインの高まりによる爆発力は装者随一だ。

 ギアを纏ってすぐに跳躍した切歌は鎌を大振りに振りかぶり、三つに分割した刃をブーメランのように投擲した。高速回転する刃はアルカ・ノイズを真っ二つに切断していく。

 ついでもう一本の鎌を取り出し、携える二振りを融合させ、対称的に配置された三日月型の刃が特徴的な鎌を形作る。

 

       『対鎌・螺Pぅn痛ェる』

 

 調はツインテールバインダーをアーム上に変形させ、先端に搭載された大型の鋸を手足の様に振り回し、蹂躙していく。

 

(シュルシャガナの刃は、全てを切り開く無限軌道ッ!目の前の障害もッ!私達の、明日もッ……!)

 

 リンカーなしのため騙し騙し戦っているが、やはり適合係数の低さから負荷の発生がひどいようだ。ギアからは拒絶反応による放電が発生し、歌声からも辛さがにじみ出ている。

 それでも調は足を止めず、プリマ・マテリアの中を突っ走り、アルカ・ノイズの群れのど真ん中でスケートのように高速回転し、鋸に変化させたスカートで斬り裂いた。

 

       『Δ式・艶殺アクセル』

 

 調べに負荷がかかっているということは、同タイミングでギアを纏った切歌にも負荷がかかっているということだ。それでも彼女は迷うことなく鎌を振るう。

 

(絶対鋭利のイガリマはその気になったらッ!幽霊だってッ!神様だってッ!真っ二つデェスッ!)

 

 そして二人が交戦を続けてる中、まだ回復しきってはいないとはいえ彼女たちの事が心配なマリアと、全身を包帯でぐるぐる巻きにした雷が包帯を引きずりながら本部潜水艦の通路を走っていた。

 

「あの子達、無茶を重ねてッ!」

「病み上がりだっていうのにもう!」

「マリアさん!雷さん!」

「もういいのか?!そっちだって大変だったんだろ?!」

 

 雷たちの後をエルフナインと響、クリスが追う。

 切歌たちも大詰めだ。バナナのような大型アルカ・ノイズにかたから打ち出したアンカーを巻き付けて拘束し、両足の刃を接続して作り出したギロチンで斬り裂こうとする。が、ついに限界が来たようで、両足のギロチンが砕け散った。彼女は真っ逆さまに地面に激突する。

 

「切ちゃん!」

 

 慌てて調が切歌に駆け寄った。

 それと同時にアルカ・ノイズのホログラムが消失する。今までの事は実戦ではなくホログラム投影による戦闘訓練だったのだ。目的は当然リンカーなしでの戦闘の熟練である。

 うずくまる切歌に心配そうに調が声をかける。

 

「大丈夫……?」

「しらちゃん!切ちゃん!」丁度そのタイミングで雷たちがシミュレーションルームに入ってきた。

「リンカーもないのに、どうして……」

 

 マリアの心配も当然といえる。

 状況が状況なら、アルカ・ノイズに分解されてしまうこともありうるし、拒絶反応の激化によって体が耐えきれなくなってしまうこともありうるからだ。

 マリアの問いに調が応える。

 

「私達が、リンカーに頼らなくても戦えていれば……あんな……」

 

 調の思いも尤もだ。

 自分たちが戦えていれば、響達と共に錬金術師を打倒できたかもしれないし、アダムの妨害をできたかもしれない。そうなれば雷が前線に来ることなく、リンカーの解析に集中することが出来、もしかしたらリンカー製造に一歩近づいたかもしれない。

 答えられないマリアの代わりに、クリスが一歩前に出た。

 

「だからって……!」

「平気!」

「ッ」

「それより、訓練の続行を……」

「リンカーに頼らなくてもいいように、適合係数を上昇させなきゃデス……」

「駄目だよ。そんな事、私が絶対に許さない」

「姉さん……!」

 

 走ったことでほどけかけた包帯を巻きなおしながら、雷が断固たる態度で言い切った。いつも自分たちの事を気にかけてくれていた雷が(だからこそ)反論したことに、調は驚愕した後になぜわかってくれないのかと鋭い目を向ける。

 それがショックだったのか、調は彼女に辛らつな言葉を投げかけてしまう。

 

「私達と違って、何もなしにギアを使えるからそんなことが言えるんだよ……」だが、そんなことを言われても引き下がるような雷ではない。二人のことが好きだからこそ、彼女は正面から向かい合う。

「私が消えそうだった時、二人はどうだった……?それと同じくらい、私は二人にもしものことがあったらなんて考えたくない。そんな目に遭って欲しくないから、私はリンカーの解析を続けてるんだ」

「でも……いつまでも味噌っかす扱いは、死ななくたって、死ぬほどつらくて、死にそうデス……!」

 

 沈黙が彼女達の間に満ちる。

 何としても役に立ちたい調と切歌。命を失うような目に遭って欲しくない雷。両方ともお互いがどれほどの思いを向けているのか理解している。しているからこそ、引けないのだ。

 だからその沈黙を、マリアが斬り裂いた。

 

「やらせてあげて」雷の肩に手を乗せる。

「でもマリア……」悲痛な目をマリアに向けた。

「二人がやりすぎないように、私も一緒に訓練に付き合うから……ね?」

「適合係数じゃなく、この場のバカ率を引き上げてどうする?!」

「いつかきっとリンカーは完成する。だけど、そのいつかを待ち続けるほど、私達の盤面に余裕はないわ」

 

 マリアの言葉に、まだ完成のめどが立てることが出来ていないエルフナインが顔を俯かせた。

 大切な妹分だけでなく、マリアにも雷が食って掛かった。マリアの襟をつかみ、額を彼女の腹部に押し付ける。

 

「だったら!私がその盤面に余裕を作って見せるから!だから……!」

「雷はもう解析に任についてるでしょう?あなたをこれ以上酷使させるわけにはいかないわ」

「……方法はあります!」

 

 必死の懇願をマリアが受け止めていると、同じくリンカーの解析に当たっているエルフナインが割って入った。

 

「リンカーの完成を手繰り寄せる、最後のピースを埋めるかもしれない方法が……」

「最後のピース……」

「本当デスか?!」ようやく見えた光明に調と切歌が立ち上がる。

「ウェル博士に渡されたリンカーのレシピで、唯一解析できていない部分。それは、リンカーがシンフォギアを、装者を脳のどの領域に接続し、負荷を抑制しているか……です。フィーネやF.I.S.の支援があったとはいえ、一からリンカーを作り上げたウェル博士は、いろいろはともかく、本当に素晴らしい生化学者だったとは言えます」

「素晴らしい……ぞっとしない話ね」最も近くで彼を見ていたマリアが納得する。

「あ、あの、難しい話は早送りにして、最後のピースのとこまで飛ばしてよ……」

 

 話を理解できていない響がエルフナインに提案する。雷が少し残念な目を彼女に向けていた。

 エルフナインは提案通り、最後のピースのところまで省略する。

 

「鍵は、マリアさんの纏うアガートラームです」

「白銀の……私のギアに?!」いきなり自分のギアの名が出たことにマリアは驚きを隠せない。

「アガートラームの特性の一つに、『エネルギーベクトルの制御』があります。土壇場にたびたび見られた発光現象……。あれは、脳とシンフォギアを行き来する電気信号が、アガートラームの特性によって可視化、そればかりか、ギアからの負荷をも緩和したのではないかと、ボクは推論します」

「確かに、アガートラームの特性を鑑みれば、あり得ないことはないか……」

 

 エルフナインの推論を聞いて、その推論の整合性を思案していた雷も同調した。彼女たちは共同で解析に当たっていたものの、最後のピースを探す方法はお互いが別ベクトルでアプローチしていたため、雷もエルフナインの推論を聞くのは初めてだったのだ。因みに得意分野からのアプローチであり、雷が科学方面から、エルフナインが錬金術方面からである。

 同業者の納得に頷き、一層確信を強めたエルフナインは続ける。

 

「これまでずっと、任務の間に繰り返してきた訓練によって、マリアさん達の適合係数は少しずつ上昇してきました。……恐らくは、その結果だと思われます」

「マリアの適合係数は、私達の中で一番高い数値。それが……!」

「今までの頑張り、無駄ではなかったというわけデスか?!」切歌が期待に目を輝かせる。

「ええ!マリアさんの脳内に残された電気信号の痕跡をたどっていけば」

「リンカーの作用している場所が解明する……。だけど、そんなのどうやって?」

 

 そう。一番の問題はその電気信号をどうやってたどっていくかだ。最新鋭の医療技術があるS.O.N.G.でも、そんなことが出来るものは存在しない。だが、思い当たる、それどころかもろに携わっていた雷は理解していた。

 

「ついて来てください」

 

 エルフナインは真剣な表情で歩き出した。向かった先は、エルフナインの研究室だ。




お互いを想っているからこそのきりしらと雷の言い争い。なお、原因は直ぐに解決する模様。


 GⅩ編はイグナイトモジュール攻略とキャロルの策を打開する方法を中心に考えてたけど、今回は一期から仕込んでた伏線の云々を中心にしてるからなぁ……。AXZ編のイベントは全部重要度が高いですから。

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