戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
消耗戦を耐え抜くチーム
雷たちがリンカーの最後にピースを探している間、特にすることが無く、暇を持て余していた響たちは大きな公園の中で開催されていた出店の並ぶオープンマーケットにやって来ていた。
途中で未来も合流、切歌がピース探しの成功を祈願してチョコ明太子味のクレープなるものを購入し、それを手に取って見つめているうちに買ったことを若干後悔し始めていた。何故かクリスも同じものを手にしている。
「うぇぇええぇぇ……」
「切ちゃん、何でそんなの買っちゃったの……?」
「お、思わず目についちゃったんデス!……うぐぐ」
「チョコ明太子味なんて大冒険するから……」
と言って大きくかぶりついた。明太子の辛さとチョコの甘みが口の中で暴力的に広がる。
そんな彼女を見てクリスは呆れながら、
「アタシのおごりを残すなよ、常識人。……ん?美味いじゃねえか」
「これが……美味しい……?」
クリスに味覚にはうまくはまったようだ。調がこの名前からしてハズレ感が漂うクレープを美味いと言ったクリスを信じられないようなものを見る目で見ている。因みに調はチョコバナナと安牌だ。
そんな三人を隣のテーブルに響と並んで座っている未来が見つめ、微笑んだ。そして響のほうに顔を戻すと、ソフトクリームを手にしたままどこか上の空な彼女が映る。
「響……ねぇ響!」
「え?何……?」
「溶けちゃってるけど?」
「うわぁぁ?!」
クリームが溶け、コーンの部分に垂れ下がっているのを未来が指摘した。指摘された響は慌ててクリームを口にする。当然口よりもクリームのほうが大きいので口の周りがべとべとになっていた。未来はポケットからハンカチを取り出し、響の口の周りをぬぐう。
「話を聞いたり、溶けたアイスをぬぐうぐらいはしてあげる。だから、何かあるときは頼ってよね?」
「ありがとう未来。やっぱり未来は私の陽だまりだ」
そんな時、近くにあった巨大なモニターから聞き覚えのある名前が聞こえてきた。響、クリスがモニターに顔を向ける。するとそこには、車椅子に乗って日本へとやって来ていた少年、アルカ・ノイズによって足を失ってしまったステファンの姿があった。如何やら最新の義足をつけるべく、日本で手術を受けるらしい。
真剣な眼差しでモニターを見つめるクリスに、響が言う。
「良かったね、あの子。またサッカーできるようになるんだね」
「だといいんだけどな……」
「……」
「悩んで下した決断が、いつも正しいわけじゃない。それどころか、はじめっから正解がないなんてこともザラにある」
○○○
本部ブリッジでは、雷とエルフナイン、マリアがピース探しをしているころ、東京湾にアルカ・ノイズの反応を検知いていた。それは八岐大蛇のような首が何本にも分かれたドラゴン型であり、サイズも超大型とほぼ同じくらいだろう。
「空間を切り取るタイプに続き、またしても新たな形状……。しかもかなり巨大なタイプの様です……!」
「まかり通らせるわけには……行きますッ!」
翼がブリッジから離脱する。
そしてドラゴン型のアルカ・ノイズの後方、光学迷彩によって姿を隠したバルベルデと同型の航空戦艦の甲板に、ドラゴンの頭を模した杖を携える錬金術師たちがいた。
杖を所持するカリオストロが腰に手を当て、
「オペラハウスの地下には、ティキ以外にも面白いものがごろごろ転がっていたのよねぇ」
「もったいぶってなんていられないワケダ」
「そう。我らパヴァリア光明結社は神の力をもってして、世の理をあるべき形へと修正する……」
そう言ったサンジェルマンの脳裏に響との会話が蘇る。まだ踏ん切りがついていない彼女であったが、それをおくびにも出さない。だが、彼女の師匠であるヨハンだけは、サンジェルマンの中にある迷いに気づいていた。しかし、例え彼女の中に迷いがあったとしても、彼女自身が表に出さなければ意味がない。これはサンジェルマンの願いなのだ。ヨハンが口を出すわけにはいかない。
一度切り替えるためにサンジェルマンは目を伏せ、開くことで世界を切り替える。
「大義は……いや、正義は我らにこそあるわ。行く道を振り返るものか!たとえ一人で駆けたとしても!」
「一人じゃない」
「っ」
「一人になんてさせないワケダ」
「サンジェルマンのおかげで、あーしたちはここに居る」
「師匠が弟子よりも先に倒れてたまるか。錬金術を授けた以上、君の大願が成就するまで見届けてやる」
三人に言葉で背中を押され、サンジェルマンは真っ直ぐに正面を見つめる。
一方、アルカ・ノイズの出現と対応を本部から指令を受けた響たちが行動を起こす。
「分かりました!すぐヘリの降下地点に向かいます!」
「もたもたは後だ!行くぞ!」
「私達は本部に!」
「マリア達の様子が気になるデス!」残っていたクレープを一口で食べきり、調と共に本部へ向かった。
「未来も、学校のシェルターに避難してて!」
「響!」
響は未来にそう言ってすぐにクリスの後を追う。
だが、後ろから未来に声をかけられた。響が足を止めて振り向かずに言う。
「……誰だって、譲れない思いを抱えてる。だからって、勝てない理由になんてならない……」
「勝たなくてもいいよ」
「へ……?」未来から聞こえてきた予想外の言葉に、思わず響が振り返る。
「だけど絶対に、負けないで……」
続いた未来の言葉は響の胸に深く響き、うれしさから頬が赤くなって涙が目尻にたまる。すると今まで心の中にあった自分たちが勝つことで相手の思いを踏みにじってしまうのではないかという悩みがスッと消え、暖かな思いが込みあがってきた。
響は胸をどんとたたく。
「私の胸には歌がある!」
未来からもらった自信を胸に、響は再び指令通りにヘリの降下地点へと駆け出した。
○○○
サンジェルマンが航空戦艦の甲板の上で宣言する。
「人類が、この星の完全なる霊長となるためには、支配される存在であってはならない。完全を希求する錬金の理念。シンフォギアなどに、阻まれるわけにはいかない!」
ドラゴン型アルカ・ノイズの口と脚部から小型のアルカ・ノイズが生み出され、進撃を開始する。
そしてそんなことはさせまいと本部からやって来たヘリに響とクリスが乗り込んで翼と合流、プロペラの回転数が上がり、あっという間に上空の指定されたポイントに到着した。響がドアを開けて飛び下り、ガングニールを起動させる。
「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」
同じく天羽々斬を起動させた翼と共に、イチイバルを纏ったクリスによって発射されたミサイルの上に乗る。
ミサイルの上で剣を構えた翼が、
「気になるのは錬金術師の出方だ。抜剣を控え、イグナイト抜きで迎え撃つぞ!」
「何のつもりか知らねえが、たくらんだ相手に遅れはとらねぇッ!」
『BILLION MAIDEN』
クリスがアームドギアを四門の三連ガトリング砲へと変形させ、展開される弾幕によって航空型を撃破していく。この弾幕を抜けきったアルカ・ノイズを響の振りぬいた拳が粉砕する。
「この身を防人たらしめるのは!血よりも熱き心意気ぃッ!」
騎乗するミサイルを母艦型に向けて突撃させ、激突する直前でジャンプして回避すると、空中で脚部ブレードに搭載されたスラスターを点火、高速回転しながらブレードでアルカ・ノイズを切断する。
『逆羅刹』
まだミサイルが生きているクリスと、翼を後ろに乗せた響は今のところの大トリであるドラゴン型のところに向かった。子のアルカ・ノイズを基点にわらわらと小型のアルカ・ノイズが放出されている。
「こうも奴らをうじゃつかせてるのは、あいつの仕業かッ!」
「つまりは狙いどころ……!」
「ぶっ放すタイミングはこっちでッ!トリガーは翼さんにッ!」
二人はミサイルから飛び下り、翼は剣を大剣に変形させ、響は右のバンカーユニットを最大展開して内部機構を高速回転させることで螺旋の破壊エネルギーを生み出す。
「目にもの見せるッ!」
二人の息の合った連撃は巨大なドラゴン型アルカ・ノイズを四分割にした。しかし、それだけでは終わらない。
「そしてあたしは、片づけられる女だァァッ!」
『MEGA DETH INFINITY』
十二機もの大型ミサイルが一気に展開され、それらがすべてドラゴン型に向けて発射された。ドラゴン型は爆炎の中で悲鳴を上げ、後には赤いプリマ・マテリアだけが残る。……筈だった。ドラゴン型は破壊された箇所から再生し始め、一体が三分の一のサイズになったドラゴン型が三体になった。
その光景に翼が驚愕する。
「まさか?!仕損じたのか?!」
今回のアルカ・ノイズは驚異的な再生能力を付与されたもので、装者たちの分断が目的として課せされているようだ。幸いなことに数は増え、分断されてしまったもののサイズは少しばかり小さくなっており、一対一での対応が可能だ。それっぞれが後を追う。
「これ以上、みんなを巻き込むわけにはッ!」
響の追った個体は空港の滑走路にアルカ・ノイズを吐き出していた。そうはさせじと響は跳躍し、腰部ブースターで拳と蹴りを見舞うことで首の一つを飛ばすことには成功したものの、空中では碌に防御も取れず残っていた首の攻撃によって吹き飛ばされてしまった。
響の体が滑走路を転がる。そうしている間にも、ドラゴン型はまたアルカ・ノイズを吐き出した。
「キリがない……!」
翼の追った個体は工場地帯へと進んでいた。
彼女は大剣を振るい、跳躍後空中で加速して首を一閃した。だが、先ほどと同じく一体が今度は二体に分裂し、数を増やす。
「くッ!やはり、さらなる分裂ッ……!」
クリスの物は翼を槍のように変形させ、すさまじい速度で彼女に襲い掛かる。それをクリスは横移動とジャンプで回避すると、腰部アーマーから小型ミサイルを展開し、発射した。一か所に向けて放たれたソレは狙いを外すことなく命中し、アルカ・ノイズを真っ二つに破断する。
だが、他と同じく二体に分裂し、口から放った光線でクリスを攻撃した。爆風に吹き飛ばされるも大したダメージにはならなかったようだ。クリスは直ぐに立ち上がる。
「何処まで頑張らせるつもりだ……!」
疲れを知る装者たちに消耗戦を仕掛けてきている。ドラゴン型は首が最後に一本になればそれ以上分裂することはないが、そうこうしている間にアルカ・ノイズは生み出され、数は増え、ドラゴン型を倒すだけで疲労困憊の装者たちに追い打ちをかける。
最後の一体を響が仕留めにかかる。
「分裂したってッ!増殖したってッ!はぁッ!」
伸びてきた首を蹴り上げ、バンカーユニットを展開した。当然威力は最大だ。
「何度だってぇ!叩き潰すッ!」
ユニットに搭載されたスラスターで加速し、一気に殴り抜いた。最後の首が消し飛び、本体ごと爆散する。しかし、どこまでも往生際が悪いのか、尻尾を切り離して首に変え、蛇のようにのたうちながら戦闘区域から離れていった。
「何度だって……!」
疲れから膝が抜けるも、すぐに立ち上がって最後の一首を追い、何とか追いついたがその最後の一匹も生き汚かった。小型化したため機動力の上がったドラゴン型が更に分裂し、プラナリアの様に数を増やすのだ。
「分裂したってぇッ!……しまったッ?!」
突進してきた個体を響は受け止め、アンカージャッキを地面に突き刺して体を固定、地面に投げ捨てる。投げ捨てた後に頭部を思いっきりジャッキを起動させて踏み抜き、逃げた個体のほうを向く。
だが、響の頭上を影が覆った。空を見上げると、光学迷彩を解除した航空母艦が現れる。それは翼たちも観測していた。
「今逃げた奴を追いかけなきゃ!……あれは、バルベルデで墜とした……」
戦艦の上でカリオストロが杖の頭を撫でる。
「いくらシンフォギアが堅固でも」カリオストロが杖にキスをし、
「装者の心はたやすく折れるワケダ」プレラーティがカエルのぬいぐるみの首を絞め、
「……」ヨハンが外していたサーベルを携える。
「総力戦を仕掛けるわ」サンジェルマンの指揮により、母艦型アルカ・ノイズが召喚される。
『アルカ・ノイズ、第十九区域方面へ進攻ッ!』
「それって……リディアンのほうじゃ……!」
響のもとに届いた報告は衝撃的なものだった。
クリスがガトリング砲で弾幕を敷き、アルカ・ノイズを迎え撃ちながら、
『ぼさっとしてねえでそっちへ向かえッ!」
「クリスちゃん?!』
「空のデカブツは、あたしと先輩で何とかするッ!』
『で、でも、それじゃあ……!」
「アタシ等に抱えられるもんなんてたかが知れているッ!今ここで行かねえと、本部で頑張ってるバカ二号になんて言われるか分かんねえぞッ?!』
クリスの叱責を受け、響の中で未来の笑顔が蘇った。
『お前はお前の正義を信じて握りしめろッ!せめて、自分の最善を選んでくれッ!』
「ありがとう、クリスちゃん……。だけど、私……!」
「待っていたのは、この瞬間!」
響がイグナイトモジュールの起動スイッチに手を添えたのを見て、サンジェルマンが笑みと共にラピスの嵌められたピストルを構える。
「イグナイトモジュールッ……!」
『その無茶は後に取っとくデス!』
『我が儘なのは、響さん一人じゃないからッ!』
調と切歌の声が割って入った。轟音と共に本部が使用要請をしていたハリヤーが空を斬り裂き、航空戦艦の頭上で二人が脱出、降下した。
調がシュルシャガナを起動させる。
「Various Shul Shagana Tron」
切歌のイガリマと共に戦線に加わる。二人からはシンフォギアを纏うことによって発生する負荷が見えない。つまり、リンカーが完成したのだ。
やっぱりオリジナル要素が少ないとカットしたくなっちゃう。