戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
一人称視点は伏線を仕込みづらいから苦手なんですよね。
シュルシャガナを纏った調が降下しながら両手のヨーヨーを遠投してその直線上に存在するアルカ・ノイズを切り裂いた。さらにツインテールバインダーを展開、中から無数の小型鋸を発射し、鋸を雨のように降らしていく。
『α式・百輪廻』
同じくイガリマを纏った切歌が空中で鎌を振り回し、分裂した二枚の刃をブーメランの要領で投擲した。回転する刃が空を駆け、シュルシャガナの鋸と同じく飛行型を両断する。
『切・呪りeッTぉ』
二人は同タイミングでパヴァリアの錬金術師が運用している航空戦艦の上に着地した。二人の様子からシンフォギアからのバックファイアは確認できない。つまりリンカーが完成し、調と切歌、そしてマリアの装者としての安定した運用が可能になったということだ。
「シュルシャガナとイガリマ!エンゲージ!」
「協力してもらった入間の方々には、感謝してもしきれないですね」
「バイタル安定……。シンフォギアからのバックファイアは、規定値内に抑えられています」
「こっちもよく間に合わせてくれた。感謝するぞ、エルフナイン君!雷君!」
「ふう……」
マリアの広大な脳領域から特定の領域を見つけ出し、エルフナインの電気信号を寸分狂わずそこに送り込むという演算処理能力に優れた雷をもってしても体力の限界がきてしまい、実験室のエルフナインとマリアが眠っていたベッドで泥のように眠っている。あと半日は目を覚まさないと断言できるほど深い眠りだった。
共にリンカー完成に尽力したエルフナインは自身のラボで一息ついていた。テーブルの上にはさっきまでリンカーの製造に使っていた器具が転がっている。モニターにはリンカーの原子配列を立体的にしたものが映し出されていた。彼女はそれを眺めている。
(リンカー完成に必要だったのは、ギアと装者の間を繋ぐ脳領域を突き止めること。その部位が司るのは……自分を殺してでも、誰かを守りたい一生の思い)
エルフナインは自身の手のひらを胸に当てる。
「それを一言で言うのならば!」
「愛よッ!」
調達と同じく完成した新型リンカーを投与したことで、安定してアガートラームを纏えるようになったマリアが友里の報告でリディアンに先回りし、短剣を抜刀して待ち構える。報告通り、こちらに飛翔してきていたドラゴン型の一匹が目の前にやって来た。
マリアは叫びと共に跳躍し、短剣を蛇腹状に変形させ、リーチを伸ばすことで真っ二つに両断する。
『EMPRESS†REBELLION』
響たちのような爆発力こそないものの、適合係数を除いて翼以上の練度を誇る彼女がギアを安定運用できるようになり、雷の使うケラウノスと同じく全領域にアガートラームは対応しているため、装者たちの戦術の幅が広がった。
アルカ・ノイズを両断し、変形させていた短剣を元に戻してマリアは別の錬の屋根の上に着地する。
「最高……なんて言わないわ」
マリアがゆっくりと立ち上がる。
(あなたは最低の最低よ。ドクターウェル……)
航空戦艦に着地した切歌は一度鎌を大きく振り回して巨大化させ、刃を二枚追加する。
「デースッ!」
そして目の前にいる母艦型に向かって肩のブースターを吹かせて肉薄し、真っ二つに斬り裂いた。切断後、発生した爆発によって飛び散った肉片を足場にして甲板に帰還する。
調もバインダーをアームのように変形させて先端の大型鋸を高速回転させながら母艦型に投げ放つ。真っ直ぐに飛んでいった鋸はアルカ・ノイズを喰い破るように切り裂き、爆散した。
そんな調の足元に火炎弾が撃ち込まれるも、彼女はジャンプして回避した。
ここは錬金術師の所有する航空戦艦の上。つまり、錬金術師たちが迎撃にやってこない理由はない。調に火炎弾を放った張本人であるプレラーティが両腕に火を灯し、ボールのように投げつけた。
調はバインダーから放った鋸で迎え撃ち、視線が彼女のほうに向いているうちに切歌が鎌を振り下ろす。プレラーティはそれをギリギリで回避するが、切歌が追撃を仕掛けてきた。
だが、錬金術師も一人ではない。カリオストロが光弾を発射して切歌の足を止め、掌底を放つが切歌はそれを柄で受け止める。鍔迫り合いのような状態だ。
「結局、お薬頼りのくせして」
「リンカーを、ただの薬と思わないで欲しいデスッ!」
「みんなの思いが完成させた絆でッ!」
調が回転で威力を引き上げたヨーヨーをプレラーティに投擲する。彼女はカエルのぬいぐるみを通して防御陣を展開することでヨーヨーを弾き飛ばし、五つ展開した水の錬金術による氷の槍を放った。調は槍を踊るように回避しながらプレラーティに接近し、スカートを鋸に変化させる。
『Δ式・艶殺アクセル』
プレラーティは難なく防御陣で受け止める。だが、反応こそできたもののかなり攻撃が重いようだ。こめかみを冷や汗が伝い、防御陣が耐えきれず破壊された。
カリオストロも攻撃を押し返され、切歌が肩アーマーをアンカーのように飛ばした攻撃に咄嗟に防御陣を展開するも破壊され、吹き飛ばされてプレラーティと背中がぶつかってしまう。
「「ッ」」
「きっと勝利をッ!」
「むしり取るデェスッ!」
調と切歌はジャンプした後調は脚部から高速回転する鋸を、切歌は先の鋭い三日月形の鎌を展開し、跳び蹴りをプレラーティ達に放った。やらせるわけにはいかないとサンジェルマンが両者の間で防御陣を広げ、ヨハンがサンジェルマンの背後にいる二人を抱え離脱した。
「離脱しろサンジェルマンッ!」
「ですがッ?!」
「優先順位を忘れるなッ!」
ここで失ってはならないのはこの戦艦ではなく自分たち。ヨハンに諭されてそれを思い出したサンジェルマンは防御陣を閉じて離脱する。
遮るもののなくなった調と切歌の蹴りは艦首の部分を貫通し、そこから連鎖的に大爆発を引き起こした。爆炎の中から勢いよく二人が飛び出し、地面に土煙を巻き上げながら着地する。
「アイツ等は何処デスか?!」
土煙で見えない中を切歌はキョロキョロとあたりを見回して探す。すると突然煙の向こう側から銃声が聞こえてきた。錬金術師たちはファウストローブを纏い、サンジェルマンの放った弾丸が切歌に向かって真っすぐに飛来する。
「その命、革命の礎に……!」
「切ちゃんッ?!」
切歌は反応できなかったが、体力を回復した響が弾丸の前に立ちはだかり、手のひらで受け止めた。威力を失った弾丸が地面に落下した。
「何……?」
「響さん!」
「間違ってる……。命を礎だなんて!間違ってるよ!」
「四対三なのに……」
「吾輩は出んぞ」
数的優位を誇るカリオストロだったが、それを良しとしないヨハンに遮られてしまった。咳払いをする。
「……気を取り直して、三対三になったからって」
「気持ちが大きくなってるワケダ……」
「「ッ?!」
「フム、撤回する。吾輩も戦列に加わろう」
上から接近してくる気配に気づいた。四人は跳躍して避けると、さっきまでいた場所に紅い光の矢が降り注いだ。
響たちが後ろを向くと、クリスと翼、マリアと頼りになる先輩たちがやって来ていた。
「いいや!これで六対四だ!」
「翼さん!クリスちゃん!」
「「マリア!」」
「ッ」
近距離担当である翼と全距離対応しているマリアが先に降りてきた。次いでクリスも降りてくる。
翼が錬金術師たちに切っ先を向ける。
「いい加減聞かせてもらおうか、パヴァリア光明結社。その目的を!」
「人を支配から解放するっていたあなた達は、一体何と戦っているの?!あなた達が何を望んでいるのかを教えて!本当に誰かのために戦っているのなら、私達は手を取り合えるッ!」
「手を取るだと?傲慢な」
サンジェルマンは響の叫びを両断した。
「我らは神の力をもってして、バラルの呪詛を解き放つッ!」
「神の力で……バラルの呪詛をだと?!」
「月の遺跡を掌握するッ!」
サンジェルマンが顔の前で拳を力強く握る。それは、彼女の大願に対する力強い意志の表れだった。
雷ちゃんは泥のように眠っている!