戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
家族が録画してたヒロアカを偶々見る。→同時に自分はクウガを見る→インスピレーションが湧く。→ある程度形にする。→次回作候補が増える→悩む(イマココ)
S.O.N.G.が基地とする潜水艦のブリッジにて、大人たちによる情報の整理、解明が行われていた。先の戦闘で勝負はつかなかず、勝利を収めることが出来なかった装者たちの落ち込みはあるものの、相手の目的を知ることが出来たのは組織としてうれしいことだ。
「パヴァリア光明結社の目的は、月遺跡の掌握……」
「そのために必要とされる、通称神の力を、生命エネルギーにより練成しようとしていると……」
モニターにはバルベルデでサンジェルマン達が使役したヨナルデパズトーリが映されている。あの時は響、雷の顕現前に打ちこまれた一撃によって無敵性を突破することが出来たが、二度三度同じ手が通じるか、また、打たせてくれるかわからない。
「仮にそうだとしても、響君と雷君の一撃で分解するほどの規模ではいくまい……。恐らくは、もっと巨大で強大な……」
「その規模の生命エネルギー……いったいどこからどうやって……」
「まさかレイラインでは?!」
「何?!」
友里が大規模の生命エネルギーと聞いて、少し前の魔法少女事変の事を思い出していた。
あの時は雷の―味方に言うような言葉ではないが―悪魔の策と称されるほどの作戦によって事前に防がれたものの、レイラインは世界中に血管のように張り巡らせており、文字通り地球の血脈、生命エネルギーの流れる場所といって差し支えない。
それをパヴァリアは利用するつもりではないかと友里は推察したのだ。
「キャロルが世界の分解・解析に利用しようとしたレイライン。巡る地脈から、星の命をエネルギーとして取り出すことが出来れば……!」
「パヴァリア光明結社は、チフォージュ・シャトーの建造にかかわっていた……。関連性は大いにありそうですよ」
「取り急ぎ、神社本庁を通じて各地のレイライン観測所を仰ぎます」
やはり弦十郎の右腕、緒川は有能だ。何の指示を出す必要もなく、彼は素早く次の行動をとった。
「うむ……。あとは、装者たちの状況だな。リンカーは問題なく作用したらしいが……」
そう、錬金術師たちが持つ賢者の石、ラピス・フィロソフィカスの存在が非常に厄介だった。
装者たちが自由に使うことのできるシンフォギアのブースト機能、イグナイトの使用が禁じられ、それどころか手痛いダメージを受けてしまうというのがあまりにも痛い。唯一雷のケラウノスが独自に持つ決戦機構『シンカ・雷帝顕現』は自由意思で発動できて強力だが、彼女の肉体にスリップダメージが入る上に三分の制限時間をオーバーするとギアが一定期間使用不可能となるのだ。
任意解除が出来るようになったとはいえ、錬金術師が発動後ノータイムで戦線を離脱という手を取ってきた場合、雷の肉体にダメージが蓄積していくだけの機能と化してしまう。しかもアダムもいるのだ。三分間で五連戦にアルカ・ノイズ殲滅も加えるとなるときついものがある。
そしてそれは、危うくイグナイトを起動しようとしていた調と切歌が一番良く分かっていた。雷が割って入ったことで不発に終わったものの、もしもを考えると気が重くなる。
「もっと強くなりたいデス……」
「あの時は姉さんの姿に安心と頼もしさを感じていたけど、今は疲労困憊の姉さんにものすごく無理させてたんだと思うと……」
そもそも自分たちがリンカーなしで戦うことが出来ればよかったのだという考えが二人の仲で渦巻く。
「戦う事とさえできればどうにかなると考えてたけど、甘かったわ……」
「クソッ!なんなんだよッ……!」
マリアの横でクリスが拳を自販機に叩きつける。翼は外、即ち海中を黙って眺めていた。
エルフナインが賢者の石攻略のためにラボにこもり、雷はメディカルルームで無理を押しての出撃だったため休息をとっていた。
装者たちの心象は、まだ荒れている。
○○○
雷は目を覚まし、S.O.N.G.本部から下船した後、響に「新発売の本を買いたい」といって本屋に駆けていた。相変わらず本が好きだねぇと呆れられたが、好きなものは仕方がない。
町で一番大きな本屋に駆けこみ、目的の新発売のもの以外に目についた面白そうな本を両手いっぱいに積み上げていく。そろそろ胸の高さを超してきたころ、両手が塞がっているために新しく取ることが出来ないことにやきもきしているとスーツを着た女性がその本を掴み、一番上に乗せた。
「これでいいかな?」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、ケラウノスの装者さん?」
そう呼ばれて初めて女性の顔を見た。白髪に赤のメッシュが特徴的なパヴァリアの錬金術師の一人、ヨハンだった。
にっこりと笑ったヨハンは雷の両手に積まれた本の上にそのまま手を置き、少しだけ力を籠める。雷は彼女から距離を取ることが出来なくなった。
動くことが出来ない雷は目の前で微笑むヨハンを睨みつける。
「何のつもり……?」
「いえ特に。ただ吾輩も読書家なものでね。面白そうな本を探しているだけさ。ただまあ、貴女に少し興味があるのは確か。これからお茶でもいかがかな?」
雷は舌打ちを打った後、周りに目を向ける。人でごった返していた。要はここに居る人全員を人質に取られたようなものだ。雷に拒否権はない。
「……わかった」
「ありがとう」
彼女たちはレジをすました後、ヨハンの案内で知る人ぞ知るような喫茶店に入っていった。二人はテーブル席に着き、おすすめのコーヒーをヨハンが勝手に注文した。
「そんなに緊張しないで、ここの味を楽しんでくれたまえ。ここに来てから吾輩の行きつけの店なんだ」
「敵同士で茶を楽しむ趣味は生憎なくてね」
「おやおや……じゃあ、君が吾輩たちの味方にならないかい?」
「っ」
ヨハンを一蹴した雷が受けた返しは衝撃的なものだった。
言葉に詰まっていると、両腕を机の上に乗せ、手の甲に顎を乗せて蠱惑的に微笑む。
「君の頭脳は錬金術師に向いている。今は錬金術のれの字も知らないだろうが、吾輩が師事すれば必ず高位の錬金術師となれるだろう。戦闘の腕も申し分ない。ケラウノスをファウストローブにすれば今よりもさらに強くなれる。サンジェルマンの大願を成就させるために手を貸してほしい」
「……」
「もちろん、君にも利益はあるよ?吾輩の権限でパヴァリアが所有する貴重な書物は閲覧し放題だし、君の体を綺麗することを約束しよう。……どうかな?」
楽しげに語るヨハンだったが、届いたコーヒーを雷が一口飲む。そしてホッと一息つき、目を細めて答えを待ち望むヨハンを見つめた。
「少し前の、私が嫌いだった私ならすんなりと付いて行ったと思う。でも今は、みんなと一緒にいるこの私が好きだし、この体の傷も、一生治らない傷も、今の私に至るためだと受け入れることが出来た。だから……この話は丁重にお断りだ」
「神の力もあるよ?」
「もう結構。この話はここで終わりだ」
「あ、そう」
それを聞いてヨハンは小さく笑い、残念そうなそぶりを一切見せず、逆にうれしそうな表情を浮かべた。その表情に雷は面食らってしまう。
「良かったよ。これで味方になるような君なら期待外れだ。面白くない。……と、この話はここまで。ここからは純粋に読書好きの同志として語り明かそうじゃないか」
雷が何とも言えない表情を浮かべる。敵に連れてこられて何されるかと身構えていたら「趣味について語り合おう」である。
そしてどうも目の前に座る錬金術師は敵対の意思を見せていないので、雷もそれはそれとして熱く語り合った。
○○○
弦十郎は異端技術に関する資料をありったけかき集めてエルフナインの元に届けていた。荷台に山のように積まれている。
「異端技術に関する、資料らしい資料は、かき集めてきたつもりだ。他にも、必要なものがあったら何でも言って欲しい」
「はい……ありがとう……うわっ」
「大丈夫か?!根を詰めすぎちゃいないか……?」
疲労がたたり、エルフナインが倒れてしまった。そのせいで資料の一部が山から崩れ落ちる。
「ご、ごめんなさい……。でも、キャロルから貰った体です。二人で一人。だから二人分頑張らないと……ッ!」
エルフナインに崩れた資料の中の一ページが目に入った。何かを感じた彼女は床に散らばった資料の中からそれを引っ張り出し、まじまじと見つめる。
「どうした?」
「これは……」
資料の中には、響の顔写真と未知の鉱石が映されていた。これこそが、賢者の石を突破する一手だった。
○○○
街一番のホテルの中にある巨大なジャグジーに、シャンパン片手に浸かっているアダムの姿があった。因みに帽子だけかぶったままだ。ティキも同じく入っており、サンジェルマン達は傍らで立っている。相変わらずヨハンは不在だ。
「確かに言ったはずだよ?僕は。シンフォギアの破壊をね」
「申し訳ありません」
「フン。前はいいところで邪魔したくせに」
「いけ好かないワケダ」
「きこえてるわよ!さんきゅうれんきんじゅつしども!アダムのわるくちなんてゆるさないんだから!」
自分に向けられた悪口を聞き流し、シャンパンをグイッと煽る。そして空になったグラスを脇に置いた。
「アスペクトは遂に示された……、ティキが描いたホロスコープにね」
「ならば、祭壇設置の儀式を……」
「この手で掴もうか、神の力を」
自らの計画に必要な場所を示したティキをアダムが持ち上げる。愛する人に持ち上げられたティキは無邪気な子供の様に笑った。
「やーん!ティキとんでっちゃーう!」
「完全世界の実現のために……」
ティキを肩に乗せ、ジャグジーから上がったアダムの後姿をサンジェルマン達は見ていた。カリオストロが愚痴る。
「嫌味な奴。あんなのが結社を統べる局長ってんだから、やり切れないね」
「そうだね。だけど私達が付いて行くのは、アイツでも結社でもないワケダ」
そう言ってカリオストロとプレラーティは隣に立つサンジェルマンを見上げた。サンジェルマンも彼女たちのほうを向き、嬉しそうに微笑む。
「二人とも……」
「吾輩も、サンジェルマンの大願のために付いて行くよ」
「ヨハンさん……」
いつの間にか帰還していたヨハンも混じっていた。
「サンジェルマンは祭壇設置の任務がある以上、シンフォギアは吾輩たちに任せてくれたまえ」
「ありがとうございます。して、貴女は先ほどまで何方に?」
「いや、ちょっと……ね?」
唇の前で指を一本立てた。相変わらずキザなふるまいが似合う人だとサンジェルマンは思う。
雷たちが一歩進むたびに、サンジェルマン達も一歩進んでいた。
楽しく趣味について話せて満足げなヨハンさん