戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
というか私のスマホさん、登録してるのにその人のライブがあるならなぜ最終日の終わるギリギリに「やってるよー!」とか言ってくるんだ……。そういうのはせめて二日くらい前にしてくれ……。
賢者の石攻略の手を見つけたというエルフナインの報告を受けて、装者たちはS.O.N.G.本部に集合していた。当然、弦十郎をはじめとする大人たちも集まっている。彼女のラボのモニターには響の顔写真と金色の謎の鉱石が映されていた。
マリアがエルフナインに問う。
「これは……?」
「以前ガングニールと融合し、いわば生体核融合炉と化していた響さんより錬成された、ガーベッジです」
「あ~!あの時のかさぶたぁ?!」
「こんな鉱石みたいなかさぶたがあってたまるか」
「えへへ~」
雷は響がこの何処からどう見ても石にしか見えないものをかさぶたと認識していたことに呆れていた。
「とは言え、これにさしたる力はなかったと聞いているが……」
「世界を一つの大きな命に見立てて作られた賢者の石に対して、このガーベッジは、響さんという小さな命より生み出されています。つまり、その成り立ちは正反対といえます。今回立案するシンフォギア強化計画では、ガーベッジが備える真逆の特性をぶつけることで、賢者の石の力を相殺する狙いがあります」
「つまりは、対消滅バリアコーティング!」
ようやく見えた突破の光明に、藤尭が興奮を隠せないでいる。彼は戦線に立つことが出来ない分、後方から見ることしか出来ないことにやきもきしていたのだ。もちろん、後方支援という必要かつ重大な仕事を担っていることは実感しているが、それでも装者たちが手も足も出ず、そんな時に協力することが出来ないというのに腹が立っていた。
故に、藤尭は人一倍喜んでいるのだ。
「そうです。錬金思想の基本である、マクロコスモスとミクロコスモスの照応によって導き出された回答です」
「問題があるとすれば、対消滅時に発生する不和をどこにやるかなんだが……」
雷の指摘は対消滅する際に発生するバランスの崩れをどうやって処理するかだった。わかりやすく言えば、酸性の塩酸とアルカリ性の水酸化ナトリウムを中和した際に発生する『塩』である塩化ナトリウムをどこにやるか。である。細かく言えば違うだろうが、要はそういう事だ。
雷はその瞳をエルフナインに向けるが、彼女は見つめ返すばかりだ。
その目を見て、雷はだよねと思う
「そうだった、理論構築は私の仕事だった。任せてよ」
「流石にボクも初めての試みですから、何回か回数を重ねて完成させましょう」
「出来るだけ少なくね」
「……そういや向こうには『賢者の石』って名前があるんだ。これはこの馬鹿から生み出されたんだ、さしずめ『愚者の石』ってとこだな」
「愚者はひどいよクリスちゃーん……」
響はそんなことを言っているが、雷、調、切歌は口元を抑えて笑っている。発言者のクリスの他、翼、マリアは腕を組んで「うんうん」と頷いて納得していた。
「うむ!賢者の石に対抗する、愚者の石!」
「ちょ?!師匠までぇ?!」
弦十郎がクリスのネーミングに納得する。彼の場合は、存在の正反対さがちょうどよかったから。というのが納得した理由だ。
「それで、その石は何処に?」
「深淵の竜宮……。こんな時に必要になるとは……」
かつて魔法少女事変で作戦の分岐点となった深淵の竜宮にしまわれていたガーベッジこと愚者の石だったが、性質が全く使い物にならなかったため秘匿性の低いエリアに入れていたのだが、ここなら別にいいだろうと雷が戦闘区域に選定していたのだ。
つまり今頃海底に沈んでいるということである。
S.O.N.G.は海面に浮かぶ作業船に乗り込み、沈んだ無象不要の聖遺物をある程度纏めて引っ張り上げていた。瓦礫の撤去のために作業用潜水艇にマリア達が乗り込んでいる。
「愚者の石の捜索は、まさに泥の中から一粒の砂金をさらう作業だ。長丁場んなるが頼んだぞ!」
『了解!』
一方、クリス達は作業船の海底カメラを使って状況を確認していた。マリア達が至近距離で見ているものを、クリス達が全体で見ているのだ。
「あちゃー……」
「思っていた以上に……」
「ぺちゃんこですよぉ……」
調と切歌の言葉をよそに、クリスはレイア戦を思い出していた。雷の策ではあったとはいえ、彼女はここまでしてしまったのは自分の所為だと思っていた。
マリアが潜水艇のアームからくみ上げた残骸から探知機を使ってクリス達が愚者の石を探していると、同じくそれを探していた男性職員の悲鳴が聞こえてきた。
アルカ・ノイズが出現したのだ。
すぐさま切歌がシンフォギアを起動させる。
「Zeios Igalima Raizen Tron」
同じくギアを起動させたクリス、調と共にアルカ・ノイズを蹴散らし、非戦闘員の避難を促す。
「大丈夫デス!早く非難を!」
「ふふふ!大丈夫なんて、簡単に言ってくれるじゃない?!このお気楽系女子!」
するとファウストローブを纏ったカリオストロが強襲してきた。
カリオストロはターゲットを切歌にしたようだ。
「誰がお気楽デスとぉ?!」
「きまってるでしょ?!」
カリオストロの放った光線を屈んで避けるが、目的は後ろの非戦闘員だった。光線は彼らの胸を貫き、光に変える。
「あらら、誰のせいかしら?」
切歌は肉薄しようとするも光線に弾き飛ばされ、後方にいたクリスごと吹き飛ぶ。
「切ちゃん!クリスさ……ッ!」
プレラーティも参戦し、けん玉の巨大な玉を調に叩きこんだ。光の意図でつながれた玉を巻き戻して剣に刺し、不敵な笑みを浮かべる。
「ダインスレイフを抜剣出来ないシンフォギアなんて、チョロすぎるワケダ」
「ここでぶち壊されちゃいなさい」
「連中の狙いはシンフォギアの破壊?」
「愚者の石ではないのデスか?!」
となるとつまり、彼女達は自らの有利を相殺されてしまう愚者の石の存在を知らないということだ。であれば問題はない。
「だったら派手にいくぜぇ!」
目くらましを兼ねてクリスがミサイルをばら撒く。
一方、海中にいるため、錬金術師の襲撃を受けていないマリア達の情報が伝わる。
「海上施設が攻撃を受けている?!」
「何だと?!」
「すぐ浮上します!」
『そのまま作業を続けてください!』
加勢に加わろうとする響達だったが、友里がそれを止める。
「奴らは愚者の石の事は知らないようだ。回収作業のことが知られれば、邪魔されかねない」
『でも……賢者の石の力が相手では……!』
「ユニゾンです。切歌さんと調さんの歌を重ねれば……」
「抜剣せずとも対抗できるッ!」
「だったら埒をこじ開ける!」
クリスはアームドギアをガトリング砲に変形させ、カリオストロに一声発射した後、全速で距離を詰めていく。
カリオストロは水のベールを展開して弾丸を止めたものの、防御可能領域よりも内側に来られ始めたため、ベールが砕かれてしまった。
「ふん!」
目の前で向けられていたガトリング砲が真ん中から割れ、威力重視の弓と矢に変化する。
(ベーゼ可能なゼロレンジ!だけど、あーしの唇は安くない……)
問題なく避けたカリオストロだったが、目の前を赤の矢だけでなく緑の鎌が通り過ぎるのを目撃する。そう、クリス達の本当の狙いは切歌を調のもとに飛ばしてユニゾンを狙うことだったのだ。
「ドッキンハート?!」
ロケットのような矢に鎌を引っかけて切歌が飛翔する。そして倒れた調に追撃をかけようとするプレラーティの目の前に着弾し、彼女を退かせた。煙の中から、切歌が調に手を伸ばす。
「さーて!いっちょやらかすデスよ!」
「切ちゃん!」
調は笑顔でその手を取った。
プレラーティが立ち上がる前に肉薄し、鎌を振り回してコマのように回る。
『災輪・TぃN渦ぁBェル』
プレラーティは防御陣で押し返すが、その死角から調がヨーヨーを投擲した。二つのヨーヨーは空中で合体し、一つの巨大な二枚刃の鋸となってプレラーティを追尾する。
彼女はそれをけん玉の柄で軌道をそらすが、切歌が飛ばした刃を避けるために無理に移動し、バランスを崩してしまう。
ユニゾンによってフォニックゲインが上昇していき、イグナイトなしでプレラーティを圧倒していく。
「うだつの上がらない詐欺師まがいだった私達に!完全な肉体と真の叡智!そして理想を授けてくれたのはサンジェルマンなワケダッ!だからッ!彼女のために負けられないわけだぁッ!」
「プレラーティッ?!」
装者たちにも戦う理由があるように、錬金術師たちにも戦う理由がある。プレラーティはそれを叫び、倒れる自身を鼓舞した。
カリオストロが苦戦する彼女に駆け寄ろうとするが、クリスの矢によって分断されてしまう。
「楽しいこと気持ちいい事だけではッ!理想には近づけないワケダぁッ!」
たとえそのような思いがあっても、装者たちも背負っているものがある以上負けられない。調と切歌は跳躍し、二人のアームドギアを合体させて刃のついた車輪を形作った。
『禁合β式・Zあ破刃惨無uうNN』
二人は手を繋ぎ、スラスターを全力でふかして突撃する。
「理想のためにッ!」
プレラーティも玉を飛ばして迎え撃った。
「な……にッ……?!うァァァッ!」
二つの力が拮抗し合うが、徐々にプレラーティが押され始め、ぶつかり合っていた玉は三つに両断された。
あまりの威力に吹き飛ばされ、海中に落下する。光の柱が上がった。
それを確認したカリオストロが引き際を見誤らずに、
「ここまでにしてあげるわ!」
跳躍した後、テレポートジェムで姿を消した。
夕日が装者たちを照らす。
調と切歌が手を取り合った。
「重ね合ったこの手は……」
「絶対に離さないデス!」
「そういう事は家でやれ……」
潜水艦内では、ひとまず見えた所為かに緒川が珍しくガッツポーズした。
「やってくれましたね!」
「ああ、今日のところはな……」
指令として、こんな時にこそ緊張感を緩めない弦十郎は先を見据える。
それが正しいと示すように、パヴァリア光明結社のアジトには余裕があった。特に、統制局長アダムの余裕が。
プラネタリウムのように星空を投影するティキをしり目に彼がシャンパンを傾ける。そばにはサンジェルマンとヨハンがいた。
「順調に言っているようだね?祭壇の設置は」
「はい。ですが、中枢制御に必要な大祭壇の設置に必要な生命エネルギーが不足しています」
「じゃあ生贄を使えばいいんじゃないかな?」
「え……」
「あの二人のどちらかを……。十分に足りるはずさ、祭壇設置の不足分だってねぇ……。完全な肉体より錬成される生命エネルギーならば……」
「局長ッ……!あなたは、どこまで人でなしなのかッ……!」
「選択してもらおうか、君の正義を……」
黙って二人の会話を聞いていたヨハンだったが、彼女はこの世で最もサンジェルマンを知っている人物だ。サンジェルマンがどうするかなんて手に取るようにわかる。
そして知ってるがゆえに、ヨハンはアダムに向けて目を細め、冷ややかな視線を浴びせた。
一にも二にも書いて練習あるのみ!邁進邁進!