戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
鬼滅の刃の進行チャート表が完成したぞ。相変わらずシンフォギアは重要ポイント以外アドリブじゃがな。
カリオストロとの戦闘の後、クリスとマリア、弦十郎たちはシミュレーションルームの待合室でエルフナインに頭を下げられていた。頭を下げる彼女の傍らではペンダントを二つ手のひらに乗せた雷が恥ずかしそうに頭をかいている。
「ごめんなさい!対消滅の際に生じる反動の所為でギアのメンテナンスになってしまって……」
「出来る限り少なくしたつもりだったけど、ここまでとは思わなかったや……」
「気にしないの。むしろ急ごしらえでよくやってくれたわ。ありがと」
「おかげで、抱え込まなくていい蟠りもスッキリ出来たしなあ」
使用者であるクリスとマリアの反応で二人は安堵する。すると二人の頭にクリスが手を乗せた。雷の方が彼女よりも少し背が高いため撫でづらそうにしている。
「頼もしいちびっこと後輩だ!」
「クリスさんだって~……」
「そう言ってくれると助かる」
エルフナインがクリスも小さいという主張を「アタシは大きいぞ」と楽し気に一蹴する。雷がアハハと笑った。
そんな朗らかな空間が広がっている待合室と異なり、目下ユニゾンの特訓が行われているシミュレーションルーム内では少々良くない空気が流れていた。
翼が二刀流にスタイルを変え、調も両手にヨーヨーを掴んで投影されたアルカ・ノイズと相対する。
二人の間に打ち込まれた攻撃を二手に分かれて回避し、体当たりしてきたアルカ・ノイズを翼が蹴ることで調のほうに打ち出す。
「呼吸を合わせろ!……月読ッ!」
「は、速いッ?!」
が、どうも二人のスピード感やタイミングが合わないらしく、さっきからしょっちゅうこのようなことが起きているのだ。
倒れた調に翼が歩み寄る。
「大丈夫か?」
「切ちゃんとなら……合わせられるのに……」
「調君は、翼のリードでも合わせられずか……」
進展のない両者の現状を見て弦十郎がつぶやく。
見る限り調には切歌ではないとユニゾンすることが不可能と考えているらしく、その思い込みが彼女と翼の間に不和をもたらしている。彼女と関係の深いマリアや雷なら切歌以外にも合わせることが出来るだろうが、これでは真にユニゾンできるとは言えない。
結局、目の前のアルカ・ノイズは調の発射した小型鋸に斬り裂かれた。
「こんな課題、続けていても……は?!」
突然背後につむじ風が発生し、そこからいきなり緒川が姿を現した。印を結んでいることから忍術を使ったのであろう。
「緒川さん……?」
「微力ながら、お手伝いいたしますよ」
「そのワザマエは、飛騨忍軍の流れをくんでいる!力を合わせねば、影さえ捉えられないぞ!」
実際、まだギアの出力が低かった時とは言え雷でも彼を攻撃射程に入れるのに時間がかかったのだ。
高機動能力の低いシュルシャガナで、翼とのユニゾンに対する不信感のある状態では翼の言う通り影もつかめないだろう。
丁度響とのユニゾン特訓を行っている切歌がビルの上から調を応援する。
「調!無限軌道で市中引き回しデスよ!」
「うん!」
「出来れば、お手柔らかに」
調は元気よく答え、バインダーをアーム上に変形させる。どの口が言っているのか分からないが、眉をㇵの字にした緒川がゆっくりと構えを取った。真っ直ぐに彼を見つめる。
歌と共に振るわれる大型の鋸を、緒川は軽やかに避けていく。
「隙だらけッ!」
着地の際の隙をつき、跳躍していた調が脚部から展開した大型鋸を飛び蹴りの要領で緒川に突き立てる。が、彼は前後にゆさぶりをかけた瞬間移動で文字通り消えるようにこれも回避した。蹴りの威力で地面が崩れる。
「嘘ッ?!」
「僕はここに」
緒川は調の背後にある街灯の上に立っていた。いつでも背後から攻撃が出来るという証左である。
後ろにヨーヨーを投げ放つが、すでにそこに緒川はいない。道路の上を消えたり現れたりしている。
「追いかけてばかりでは、追いつけませんよ?」
「はやるな月読!」
翼が焦れば相手の思うつぼだと忠告する。
(切ちゃんはやれてる。誰と組んでも……。だけど私は、切ちゃんでなきゃ……!)
調の耳には届かなかった。自分には切歌しかいないという思い込みで雁字搦めになっている。表情が更に力む。
(一人でも、戦えなきゃ!)
一人で緒川を捕まえるためにヨーヨーを投擲する。
周りが見えていない調に翼が並走する。
「連携だ月読!動きを封じるために……!」
「だったら面で制圧!逃がさないッ!」
跳躍することで三次元攻撃を可能とし、バインダーを展開して小型鋸を雨のように発射した。
切歌が焦る。
「駄目デス調ッ!むしろ逃がさないと!」
遂に事故が起きる。鋸の一つが緒川の体を両断した。調と翼、待合室のマリアとクリス、雷が驚愕する。雷の隣で見ているエルフナインは手で目を覆っていた。
「どえらい事故デス……っ」
するとポンという煙と共に両断された緒川が太い木と入れ替わり、スーツの上着だけが残されていた。
「思わず空蝉を使ってしまいました」
声の聞こえる方に調は驚きの表情を浮かべたまま振り向く。彼は調の背後におり、無事だ。傷一つない。
「力はあります。後はその使い方です」
「っ……」
調がそのままへたり込んだ。シミュレーションが終了し、少し離れた場所にいた切歌と響が慌てて駆け寄る。
「調ちゃん!」
「調、大丈夫デスか?」
(あれは……何時かの私だ……)
翼には、調の姿が奏を失ってからの自分が重なって見えていた。
待合室にいた面々はブリッジに戻っている。
「これで、各装者のユニゾンパターンを試したことになりますが……」
「調さんだけが、連携によるフォニックゲインの引き上げに失敗しています」
「思わぬ落し穴だったな……」
普段冷静な調が最もユニゾン適性が低いとは誰も想像できなかった。特に切歌とよくユニゾンによって出力上昇を行っている分、そっち方面には一日の長だと考えていたのだが、逆に切歌とでないとという固定概念が出来ていたようだ。
彼女と異なり切歌は誰とでも平均以上の数値を出している。意外と彼女の方が柔軟だったらしい。
そんなことを悩んでいると、通信を知らせるコールが響いた。
「指令。内閣府からの入電です」
「繋いでくれ」
メインモニターに八紘の顔が映し出される。
「八紘兄貴、何かあったのか?」
『ああ、神社本庁を通じて情報の提供だ』
「神社本庁といえば、」
「各地のレイライン観測の件かもしれない」
重要そうな単語に雷が耳を傾ける。
『曰く、「神出ずる門の伝承」……』
「神……パヴァリア光明結社が求める力……」
いきなりの重要ワードに全員が沈黙する。
『詳細については、直接聞いてほしい。必要な資料は送付しておく』
それだけ伝えて通信が切られてしまった。
弦十郎がイスに深く腰掛け治す。
「どうしますか、指令?」
シミュレーションルームを映すモニターに見える落ち込んだ調の顔。それを見て、弦十郎は決めた。
「気分転換も、必用かもしれんな」
○○○
オレンジの光で照らされたトンネルの中を、マリアが運転するS.O.N.G.所有の車が走る。
後部座席に座る響が身を乗り出し、クリスの持つタブレットのモニターに映るエルフナインに質問した。
「埼玉県の……調神社?そこに何かあるの?」
『多くの神社はレイライン上にあり、その神社も例外ではありません。更に、神出ずる門の伝承があるとすれば……』
「つまり、指し手の筋を探ることで、逆転の一手を打とうとしているわけね?」
マリアが将棋で例える。
すると後部座席から何やら袋菓子を開ける音が聞こえてきた。不思議に思ったクリスが後ろを向くと、切歌が嬉しそうにポテトチップを口に運んでいる。
「つーか特訓直後だってのに元気だなぁ?」
「もちろんデスよぉ~褒め殺すつもりデスか~?」
「どういう理屈でそうなる?!」
特訓でうまくいかなかった調が夕暮れの外の景色を見つめている。彼女は昔、レセプターチルドレンとして集められた時のことを思い出していた。あの時初めて声をかけてくれたのが切歌だったのだ。
思い出に浸っていると、横から切歌に声をかけられたことで現実に戻ってくる。
「どうしたデスか調?鋸じゃないから車酔いデスか?」
「ううん……。何でもない……」
雷をバイクの後ろに乗せた翼が窓越しに調を見つめた後、並走して目的地に向かって行った。
雷さんはエルフナインに装者のほうを優先してくれとラボを追っ払われました。その時には車の座席決めが決まっていたので翼さんの後ろです。