戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
調神社に到着した装者一行、特に切歌が狛犬が兎に変わっているのを見て興奮を隠すことが出来なかった。彼女は「およー?!」と謎の鳴き声を上げている。
手を頭にくっつけて兎の真似をする。
「ここ、狛犬じゃなくて兎がいるのデス!……お?」
装者たちがそれぞれ兎に興味を示している中、調だけが浮かない顔をしていることに気づいた。いつも一緒にいた切歌もつられて浮かない顔になる。
雷たちは目的のために本殿に向かって行くと、至る所に兎や月の意匠が込められたところが見える。
「兎さんがあちこちに……!可愛いッ!」
「今のマリアが一番かわいい」
可愛いものに囲まれてハイテンションなマリアをニヤーっと雷が横目で揶揄う。マリアの顔が少し照れで赤くなった。最近雷にからかわれることが多くなったと思うマリアである。
「話には伺ってましたが、イヤー皆さん、お若くていらっしゃる」
いきなり背後から声をかけられた。
振り向くと眼鏡をかけた白髪の男性が立っていた。服装から見て恐らく彼がこの神社の宮司なのだろう。温和そうな笑みを浮かべている。
「もしかして、ここの宮司さん?」
「はい」
如何やら当たりだったようだ。
「皆さんを見ていると、事故で無くした、娘夫婦の孫を思い出しますよ」
突然の重い話に何とも言えない顔になる。
「生きていれば、丁度皆さんと同じくらいの年頃でしてなあ」
「ん?」
クリスが違和感に気づいた。
「オイオイ、アタシら上から下まで割とばらけた年齢差だぞ?いいかげんな事ぬかしやがって!」
「冗談ですとも!単なる小粋な神社ジョーク!円滑な人付き合いに不可欠な作法です」
ぽんと頭を叩いて笑顔を作る宮司。それに気にして損したというような装者たち。とは言え、そのジョークの内容はあまりにも現実的で具体的だった。
まあ、だからこそ一瞬騙されたのだが。
「初対面ではありますが、これですっかり打ち解けたのではないかと」
「むしろ不信感が万里の長城築くってのはどういうこった……」
クリスががっくりと肩を落とした。
しかし宮司はそんな彼女達に対して生き生きと先導する。
「では早速、本題に入りましょうか」
先を歩く宮司だったが、突然足を止めて振り向いた。
「ところで皆さんは、氷川神社群……。というのをご存じですかな?」
客間に通された奏者たちの囲う机の上に、折りたたまれた古い地図が広げられた。その中に赤い点と線で繋げられたオリオン座が描かれているのが目立つ。
マリアが真っ先に言及した。
「これは……オリオン座?」
「正しくは、ここ調神社を含む周辺七つの氷川神社によって描かれた鏡写しのオリオン座……とでも言いましょうか」
確かに宮司の言う通り、正座のオリオン座とは鏡写しになっている。
「受け継がれる伝承において、鼓星の神門。この門より、神の力が出づるとされています」
「憶測と推論に過ぎないが、それでもパヴァリア光明結社の目的と合致する部分は多く、無視はできない」
「神出づる門……ぉ?!」
神妙な空気が流れる中、響の腹の虫が主張を始めた。全員の「なんでこのタイミングで?」という視線が一世に響に向けられる。
「けたたましいのデス……」
「わ、私はいたって真面目なのですが……!私の中に獣がいましてですね……」
「では、晩御飯の支度をしましょうか。私の焼いたキッシュは絶品ですぞ」
まさかの洋食である。
「そこは和食だろ。神社らしく」
「ご厚意はありがたいのですが……」
翼がそこまでしてもらうわけにはと言おうとしたが、宮司がそれを遮った。
「ここにある古文書。全て目を通すには、お腹いっぱいにして、元気でないと。それに、穴が開きそうなほど見つめている子もいるのですから」
全員が宮司の視線の先を向くと、食い入るようにあごに手を当ててぶつぶつと呟いている雷の姿があった。その視線に気づいた雷が「え?」と、顔を上げてきょとんとしているのを見て、装者と宮司に微笑みが広がった。
○○○
夜。パヴァリアの錬金術師たちが隠れ蓑に使っているホテルの一室で、二つのワイングラスの片方にワイン、もう片方に牛乳を怪我から回復したプレラーティが注いでいた。
彼女は牛乳を注ぎながら悪態をつく。
「あのオタンチン……。詐欺師が一人でカッコつけるからこうなったワケダ……」
そして牛乳の入ったワイングラスを手に取り、テーブルに置かれたワインの入った方にチンと乾杯する。そうしていると、カリオストロから治療を受けている時の事を思い出した。
彼女は仲間に犠牲を強いること、何かを隠しているはずだと言っていた。彼女のそばにいたヨハンもそれに同意を示し、そして私達の中からサンジェルマンが生贄を選べるのかと疑問を口にしていた。
プレラーティは夜景の見える窓辺に立つ。
「女の勘ねぇ?……フン。生物学的に完全な肉体を得るため、後から女となったくせに、いっちょ前なことを吠えるワケダ……」
グイッと牛乳の入ったワイングラスを煽る。
「だけど……確かめる価値はあるワケダ……」
同じ月が照らす神社の縁側に、開いたノートを四つん這いになって唸りながら眺めている雷が居た。無意識なのか、ペンのお尻でぷにぷにと唇を突っついている。
彼女と同じようにこの時間起きているのは、本部へと状況報告を行っている翼と、昼間の訓練の事をまだ引きずっている調くらいの物だろう。
彼女の中にあるとある違和感を解消すべく、思考を回しているのだが、なかなかうまくいかない。
「……でも、何で来なかったんだろう……?」
「眠れないのか?」
「翼さん……いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
「?ならどうしたんだ?」
報告から帰ってきた翼が雷に声をかけた。
そこで今は二人だが、三人寄れば何とやら。というのを思い出し、口にしてみることにした。
「翼さんは、何で錬金術師との総力戦になった時にアダムが来なかったんだと思います?」
「装者全員とパヴァリアの錬金術師が全員揃った時の事か?」
「はい。あの時、アダムが現れて黄金錬成を使われていれば、空間転移といった移動手段を持たない私達は全滅してたはずなんです」
「確かにそうだな……」
翼が相槌を打つ。
「翼さんは悪く思うかもしれませんが、正直なところ風鳴機関よりも、直接対抗できるシンフォギアを消した方がいいと思うんですけど……」
当然あの絶大な力を持つ錬金術師だ。増長や慢心から気まぐれというのもあるだろう。
だが、イグナイトをピンポイントで狙い撃つようなメタを張る連中のボスが、シンフォギアをすべて破壊する絶好の機会をみすみす見逃すだろうか?そこが雷の疑念だった。
確実に何かある……女の勘がそう囁いていた。
「己の力を見せつけるため……っていうのも別にあの時じゃなくてもいいはずだし……」
「あるとすれば、バルベルデドキュメント……だな」
「え?……あ……!」
翼の他愛もなさそうに言った言葉が、雷の脳内に電撃のように突き刺さる。もしそうだと仮定するならば、と考えると、全てのパズルが一つの芸術のように組み合わさった。
ポカーンと口を開け、月を見上げていた雷に翼が首をかしげる。
そして彼女は翼の肩を掴む。
「解けた……」
「どうした、轟?」
「解けました!今までのが全部!ああどうして私は気づかなかったんだろう!」
「わかった!わかったから!少し落ち着くんだ!」
結構な力で翼は前後に肩を掴まれて揺すられていた。
解けなかった問題がようやく解けたのだ。雷は目をランランと輝かせている。
すると、突然通信機からコールが鳴った。翼が出る。
「錬金術師が?!」
『新川越バイパスを、猛スピードで北上中!』
『付近への被害甚大!このまま住宅地へ差し掛かるようなことがあれば!』
「了解しました!轟は解けたといったものをまとめておくんだ!」
「はい!」
翼がバイクにまたがり、ギアを纏って錬金術師を追う。そして彼女よりも早く調べが追いかけていた。高機動型のギアならヘリなしでも追いつけると踏んだのだろう。
「決断が速いのはしらちゃんの美点なんだけどなぁ……」
苦笑いを浮かべた後、興奮冷めやらぬ顔で勢いよく「ふひひ」とか「ぬふふ」とか気色の悪い笑い声を上げながらノートに記していく。全てをひっくり返す一手が打たれようとしていた。
謎が解けるとちょっとキモくなる雷ちゃん。キャロルの時も見られてないだけでこうなってた。