戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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アメリカのお兄さん。出番を奪ってしまってすまない……。

何を思ったのか数字だけで言語つくってしまった……。


神殺しと雷帝

 災禍によって紅く染まる夜空を、神の力をその身に宿したティキが破壊した人工衛星が大気圏に墜ちたことを示す赤い光となりながら落下する。

 二人の親友があの紅く燃えている街のすぐ近くで戦っている。抗っている。

 それを知る未来は、二人の無事を祈った。

 S.O.N.G.本部は、装者が戦闘に介入できない今、人工衛星墜落の詳細を受け取っていた。

 

「シエルジェ自治領から通達……。放たれた指向性エネルギーらは、米国保有の軍事衛星に命中……蒸発させたと……」

「響君たちの状況は……?!」

「周辺のカメラはダウンしたままです。ですが、ダウンする直前に、雷ちゃんが響ちゃんを受け止めていた事と、『神を殺す』と、マイクが拾っています」

 

 これで、少なくとも防御能力に長けるケラウノスを使用している雷は無事で、彼女に受け止められたことから、響は戦闘続行に問題のない程度のダメージで済んでいるだろう。

 それはゴルゴダ作戦の発動を雷が決めたことからも明らかだ。

 弦十郎がひとまず胸をなでおろすもつかの間、友里が切羽詰まった様子で報告してきた。

 

「指令!各省庁からの問い合わせが殺到しています!」

 

 だが、いまは神の力に対抗すべく、ゴルゴダ作戦のサポートこそが最優先。故にほかの事は全て二の次三の次だ。

 

「すべて後回しだッ!放って……」

『どうなっている?』

「ッ」

 

 突如としてモニターに映された弦十郎の父、訃堂の問いに詰まる。マリアと調が彼らの間から退いた。

 

『どうなっているのかと聞いておる』

「これより、神の力に対抗する作戦を発動……」

『愚かなり!』

 

 今のところ唯一の手である作戦を、訃堂は斬って捨てた。向こうモニターに映らぬように、雷がどれほど考えに考えてこの作戦を作ったかを理解している職員や装者たちは強く、震えるほどに拳を握った。

 相手がどれほど偉いかを知っている。知っているからこそ、余計に腹が立った。

 

『たかだか小娘が考えた計画なぞ、人形で遊ぶ遊技となんら変わらぬッ!浅はかな!片腹痛いわッ!」

「ですがッ……!』

 

 訃堂はそれ以上の言い訳など聞きとうないわ。と言うように通信を切った。彼は深くいすに腰掛ける。

 

「やはり、この国を守護せしめるは、真の防人たる我をおいて他になし!」

 

 訃堂が登場したことで、本部の緊張状態も跳ね上がっていた。

 

「今の通信って……」

「この戦いに、風鳴宗家が動くということだ……」

 

 娘である翼が言うのだから間違いないだろう。

 

「モニターでますッ!」

 

 藤尭が叫んだ。如何やらカメラが回復したようだ。撮られた映像が映される。

 そこには地面に膝をつき、何時でも動けるように前かがみになった響と、彼女のそばで堂々と仁王立ちをかまし、不敵な笑みを浮かべる雷の姿があった。

 

「頼んだぞ、二人とも……!」

 

 誰かは分からなかった。だが、確かに、二人の勝利を願う声が聞こえてきた。

 

○○○

 

 未だに諦めを見せず、逆に一発かまさないと気が済まないというような二人の頭上をディバインウェポンとなったティキが浮遊している。

 

「ア、アダム……。ティギ、ガンバッタ……?ホ、ホメテエ、ェ、エ?」

「いい子だね、ティキはやっぱり」

 

 アダムがティキの顔のそばに浮遊する。優しい声をかける彼だったが、声色とは真逆の嫌なものを見る目を二人に向けていた。

 それに気づかない、気づけない、気づこうとしないティキは、アダムに褒美をねだる。

 

「ダッタラ、ハグヂテヨ……。ダキヂメテクレナイト……ヅダワラナイヨ……」

「山々だよ、そうしたいのは。だけどできないんだ、手に余るそのサイズではね」

「イケズゥ……。ソコモマダ、ツキナンダケドネ?」

 

 そんなことを言うティキに、複数発の高威力の弾丸と、様々な属性を纏った斬撃が撃ち込まれた。ヨハンとサンジェルマンが、何か策のあるらしい装者たちから気をそらすべく、攻撃しているのだ。

 

「全力の銃弾でッ!」

「時間稼ぎ位できればいいが……!」

 

 だが、全ては無駄だ。

 ダメージは全て平行世界に押し付けられる。神の力の前には無力に等しい。

 反抗の炎を瞳と心に灯しながら、二人は銃とサーベルを落ろす。

 

「それでもか……」

「気にすらしていない……」

「え?!それだけでいいの?!」

 

 響のすっとんきょうな声が、シリアスな雰囲気を破壊した。この場にいるもののみならず、カメラ越しに状況を確認している本部の面々も含めて一瞬思考が止まる。

 ただ二人、全てを把握していた雷と、真実を知るアダムだけが動いた。

 

「ッ君たちは特に気に食わない。手ずから僕が始末しよう!君たちだけは入念に……」

 

 アダムが雷たちの前に降下する。

 だが、その瞬間、雷も同時に動いた。

 

「ヨハンッ!サンジェルマンッ!」

 

 彼女の声を聞き届け、短い間の共闘だが既に戦友としての勘が芽生えていたヨハンとサンジェルマンが、何をすればいいかと問うまでもなくアダムと装者たちの間に割って入る。

 そうすることで、しゃがんでいた響の姿が、アダムの視界から消えた。

 

「うおぉぉぉぉッ!」

 

 響が咆哮を上げ、クラウチングスタートの体勢からまるでロケットのように駆け出した。当然、脚部のアンカージャッキをフル稼働させたロケットスタートだ。

 

「何ッ?!」

 

 アダムが反応するが、もう遅い。既に響は彼の脇を駆け抜け、ティキの元へと向かっている。彼をその場に縛り付けるのは錬金術師たちの戦いだ。

 

「あなたを行かせるわけにはいかないッ!」

 

 胸にAppleの旋律を浮かべながら、雷が口を開く。

 

「何故アダムが黄金錬成を直接戦闘する装者が集合した時でなく、直接は無害な風鳴機関に打ち込んだのか?それは、そこにあったバルベルデドキュメントに『神殺しの力』が記載されていたからに他ならない……」

 

 ケラウノスの灰色だったボディースーツが金色に染まっていく。

 

「でも、ただ記載されていた程度ではそんなことはしなくてもいい。何故なら、聖遺物は世界中に散らばっていて、そこには贋作もあるからだ……」

 

 各部ユニットが完全に展開され、彼女の周囲に大出力の斥力が放たれる。危険を察知したティキが光線を放ったが、フィールドに弾かれてしまった。

 

「でも、お前はそうしなかった。何故なら、すでに私達の手にその力があるのだから!」

 

 雷の予想だにしなかった一言に、検証目的で知らされていた職員以外の全員。つまり、装者たちが驚愕する。

 襟のユニットから稲妻がマフラーのように伸びる。

 

「その聖遺物の名は『ロンギヌスの槍』。二千年の時を超え、神を殺したという人々の思いが積層して得た力を持つ槍。かつて、ドイツ軍が徴集していたモノ……」

「まさか、それはッ!」

 

 腰のマントが稲妻に変化する。雷光が形となった。

 

       『シンカ・雷帝顕現』

 

 空間を斬り裂くような速度で雷が飛翔。そして告げた。

 

「またの名をッ……!」

「ティキッ!」

「アダジ、ガンバル……!」

 

 錬金術師と交戦しているアダムが焦りを見せながらティキに命令した。神殺しを殺せと。当然、彼女は命令通りに光線を照射する。

 響がティキによって破壊され、宙を舞う瓦礫の上を駆けながら叫ぶ。全ての思いを背負った魂の叫びを。

 

「撃槍ッ!ガングニィィィィルッ!」

「行かせるものかッ!神殺しッ!」

 

 高速で跳躍し、ヨハンとサンジェルマンを振り切ったアダムが響に向かって帽子を投擲した。が、雷帝となった雷の稲妻が貫き、焼き尽くす。

 

「やらせない」

「またその輝きかッ……!神殺しとその力……。どおしていつもッ!」

 

 そして空中にいる彼は雷の踵落としによって撃墜され、地面に叩きつけられる。そして替えの帽子をかぶり、撃墜された衝撃でちぎれた左腕を剣のようにした。文字通りの手刀である。

 ヨハンとサンジェルマンがアダムと切り結ぶ。

 

「潰えて消えろッ!理想を夢想したままでぇッ!」

((行けッ!行けッ!))

「「そのまま行けッ!立花響ッ!」」

 

 雷が響の道筋を妨げる光線を叩き落とし、彼女は瓦礫の上を駆けて肉薄していく。

 

「乗りすぎだッ!調子にッ!……ッ」

 

 よそ見をしていたアダムにサンジェルマンが斬り込んだ。

 

「私は進むッ……!前に前にッ!ここで怯めば、取り戻せないことに後ずさるッ!」

 

 アクロバティックな動きでアダムをほんろうしながら剣戟を見せていたサンジェルマンと、ヨハンがスイッチした。師弟関係ならではの、戦友とはまた違う息の合い方だ。

 

「先に生きるものとして、若者たちの道を切り開くッ!今だッ!」

 

 斬撃に分解能力を付与することでアダムの防御力を削りながら隙を作った。

 

「屈するわけにはァァッ!」

「ぐぅうううッ?!」

 

 ヨハンのおかげですべてのエネルギーを込めた全力の砲撃をアダムに放った。防御力を崩られていただけでなく、ほぼ無防備で攻撃を受けてしまったために後方へ吹き飛んだ。

 そして響も、ティキの目前にまで迫っていた。ティキが自己防衛のために拳を振るう。

 

「アダムヲコマラセルナァァァッ!」

 

 ティキの拳と、バンカーユニットを全力稼働させた響の拳がぶつかり合った。神殺しの力が、ティキの拳を粉砕する。腕を粉砕された彼女は醜い悲鳴を上げた。

 再生能力を発動させるも、まったく元に戻らない。

 

「ディバインウェポン復元されず!」

 

 友里の報告は、喜びよりも驚きが上回った。

 

「効いてるわ……」

「……おい待て。ゴルゴダ作戦ってまさか……!」

 

 薄々気が付いてきた常識人クリスが、油を刺していないロボットのような動きで背後の弦十郎の方を向いた。

 彼は腕を組み、肯定するように笑みを浮かべている。

 

「その通りッ!響君!思いっきりぶん殴れッ!」

『はいッ!』

 

 威勢のいい響の返答が返ってくる。クリスは何とも言えない顔になったが、らしいと笑みを浮かべる。

 ドアが開き、治療を終えた切歌が戻ってきた。

 

「切ちゃん!」

「姉ちゃん!響さん!あたしの分まで行っちゃうデス!」

『うん!』

『ああ!』

 

 ここまで繋いだ立役者である切歌の声援を受け、雷と響。神殺しと雷帝。二人の装者が前へと進む。

 最後の抵抗に暴れまわるティキだったが、超電磁の嵐と鎖によって空間に縫い付けられ、身動きすら取れなくなる。

 

       『超電磁トルネード&超電磁アンカー』

 

 それだけでなく、稲妻を受けたところが破壊され、動けば動くほど継続的なダメージも与えていた。拘束とスリップダメージ。二つの要素がティキの動きを完全に封じ込める。

 響がアンカージャッキで空間を蹴って加速し、バンカーユニットを変形させてドリルのように突き進む。

 アダムが叫ぶ。

 

「神殺しとまれェッ!」

 

 ユニットの回転数が引きあがる。

 

「八方極遠に達するはこの拳ッ!いかなる門も打開は容易いッ!」

 

 サンジェルマンとヨハンが事の行く末を見つめる。

 するとアダムが機転を利かせた。

 

「!ハグだよ、ティキ!さぁ、飛び込んでおいで!神の力を手放してッ!」

「アダムゥダイスキィィッ!」

「響ッ!敵のコアを滅ぼせぇッ!」

「うおぉぉぉッ!」

 

 だが、もう遅い。さらに放たれた超電磁の鎖によって空間に固定され、響が雄たけびを上げながら貫いた。ティキの体を包むコアは粉々に砕け散り、コアを失ったディバインウェポンは光となって消えていく。

 錬金術師たちは成し遂げたことに感嘆した。

 

「ここ一番でやっぱり!」

「ばっちり決めてくれるのデス!」

 

 本部では調と切歌が喜びをあらわにしている。

 一方、躯体を半分に切断され、ほとんどの機能を失っているティキだったが、この状態になってもアダムにハグを要求し、手を伸ばし続けている。

 だが、アダムはガラクタを見るような目でソレを見降ろした。

 

「恋愛脳め……いちいちが癇に障る……。だが間に合ったよ」

 

 アダムが空を見上げた。ティキから分離した神の力が宙を漂っている。

 

「間一髪……。人形を、神の力を付与させるための……」

 

 足元に転がる喋るガラクタを蹴り飛ばした。そして、切断され、手刀として振り回した自身の左腕を見つめ、歪んだ笑みをこぼした。

 

「断然役に立つ!こっちの方が!」

 

 神の力を左手に付与させるべく、アダムはたかだかと持ち上げる。

 

「付与させるッ!この腕にッ!その時こそ僕は至る!アダム・ヴァイスハウプトを経た、アダムカダモンッ!新世界のひな型へとッ!」

 

 高らかに宣言するが、神の力はアダムを通り抜けた。

 

「どういうことだ……?」

 

 アダムは愕然とし、神の力が流れていった後ろを向く。そこにいるのは……、

 

「何……これ……」

「何で……私達のところに……」

 

 響と雷、二人のシンフォギア装者だった。

 力を宿した粒子が二人の中に入り込み、響が叫んだ。

 

「うああぁぁぁあぁッ?!」

「響ッ?!」

 

 光の中から、光のすじが伸び、近くにあったビルとビルの間に光の塊が固定される。その光は鼓動し、胎動していた。

 その下には、金色に光り輝く二メートルほどになる巨大な結晶が稲妻を放ちながら生えていた。

 

「宿せない筈……汚れ無き魂でなければ神の力をッ……!」

「生まれながらに、原罪を背負った人類に宿ることなど……!」

「本来はあり得ないはずッ……!」

 

 だが、それでも、目の前に起きたのだ。鼓動とも胎動ともとれる音と光の明滅。稲妻を放ち続ける巨大な結晶。

 化け物を殺せば化物に近づく。それは、神であっても変わらないようだった。




さて、雷ちゃんはいつバラルの呪詛が解呪されたのでしょう?

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