戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
(恐らく)衝撃の展開まで、あと二話。
雷と響、二人の拳によってアダムの神の力を吸収し、変容した左腕は完全に破壊された。破壊されたことによって内包していた神の力は霧散し、それを欲するアダムは情けない声を上げながら必死にかき集めようとするが、その指は空を切るばかりだ。
アダムが神の力に気をやっていた影響か、装者たちを拘束していた氷が砕け散る。その様子は、役目を終えて本部へと帰投している特殊車両隊も確認していた。
雷、響の二人が着地する。響は地面に膝をついていた。
(サンジェルマンさんの歌は、胸に届いていた……。だけど……何もできなかったッ……!私はまたッ……!」
地面に叩きつけられようとした響の拳を、雷が優しく受け止める。驚いた顔で、雷の顔を見上げる。その顔は、優しく、悲しげに笑っていた。
「サンジェルマンの歌が響に届いたように、響の歌がサンジェルマンに届いていたんだ。君が彼女を変えたんだ」
そう言って、未だ魂の輝きを見せる空を見上げた。彼女の頬に、うっすらと涙が伝う。その悲しみは、友を失った悲しみだった。
響もまた、涙を流した。
○○○
藤尭が反応兵器の顛末を報告する。
「フォールアウト、EMPともに確認できません……」
「あらゆる不浄を払う、ラピス・フィロソフィカスの力……!」
「ファウストローブだけでなく、命までも賢者の石に見立てて、反応兵器の被害を……。ですがその代償としてッ……!」
「ああ……、この国を守ったのは、理想に殉じた錬金術士だ……」
彼女達は、命を賭して守ってくれた。その絆に報いるべく、響は立ち上がる。そして雷と同じく、空を見上げた。
「ありがとう……サンジェルマンさん……。だけど、望んだのはこんな結末じゃない……!もっと話したかった、分かり合いたかったッ……!」
「分かり合えたと思うよ、響なら。確証はないけど、胸の中に歌がある限り」
「雷……」
「分かり合いたかったぁ……?」
胸に手を当て、微笑む彼女に響の胸が温かくなった。だが、そんな二人に横槍を入れるものがいる。千年の計画を完全に破壊されたアダムが、彼の左足に抱き着く、上半身だけとなったティキを引きずりながらやって来た。
「ア、アダム、ワタシハダキ……ムシロダキアイタイヨ……アダム、ム……。ダイスキ……」
まだそんな恋娘の戯言を繰り返すティキが煩わしくなったのか、アダムは彼女を背中から踏み砕く。これによって、ティキは完全に機能を停止した。
ティキを踏み砕いたアダムが、二人のほうに向きなおる。
「分かり合えるものか!バラルの呪詛がある限り。呪詛を施したカストディアン、アヌンナキを超えられぬ限りぃッ!」
「だとしても……!」
響が小さく震える心の声を呟き、雷の目が見開かれ、彼女の胸が高鳴りを上げる。雷自身が発生させる静電気が、彼女の髪を持ちあがらせた。
アダムが指を立てて告げる。
「だが一つになれば話は別だぁ。統率者を得ることで……無秩序な群体は完全体へとぉッ!」
「だとしてもッ!」
響の叫びがアダムの持論を切り裂く。
「分かり合うために手を伸ばし続けたこと!無意味ではなかったッ!」
「何も知らぬ奴が吠えるなッ!貴様に叩きこんでやる、私達の想いをッ!」
背中を合わせ、アダムに反論する二人の元に、一人ではないと翼とクリスがやってくる。二人だけではない。マリア、調、切歌。装者全員が集結した。
「ああ!この馬鹿どもの言う通りだッ!」
「お前が語ったように、私達の出来は良くないッ!」
「だから!なんちゃらの一つ覚えで、何度だって立ち上がってきたデスッ!」
「諦めずに、何度でもッ!そう繰り返すことで、一歩ずつ踏み出してきたのだからッ!」
「たかだか完全を気取る程度で……!」
翼が切っ先をアダムに向けて締める。
「私達不完全を、上から支配できるなどと思うてくれるなッ!」
「どおしてそこまで言える?大きなことを、大きな顔で!」
アダムが残っている右腕でアルカ・ノイズ召喚ジェムをばら撒いた。ばら撒かれたジェムは地面にぶつかって砕け、召喚陣が展開されてそこから無数のアルカ・ノイズが姿を現す。
「人でなしには分からないッ!」
響が叫びながら拳をアルカ・ノイズに叩きつけ、アンカージャッキを地面に打ち込んで体を固定して地面を殴り抜いた。撃ち込まれた拳を中心に衝撃波が走り、アルカ・ノイズが砕け散る。
雷が八尾の龍を召喚し、それぞれアルカ・ノイズを喰い破らせながら斥力を利用した高速の連打で複数を一瞬にして灰燼と帰させた。
『八卦乃雷電龍』
翼は二刀の刃を連結し、忍術を使って炎を刃に纏わせながら回転させ、脚部ブースターを点火して加速するすることで一気に斬滅する。
『風輪火斬・月煌』
クリスはアームドギアを二丁拳銃に変化させ、至近距離での銃撃戦でアルカ・ノイズを撃ち抜いていく。
マリアが携える短剣を蛇腹状に、さらにそれを節々で切り離して複数の短剣に変え、高速回転させたそれで竜巻を起こしながらアルカ・ノイズに突撃する。
調は空中で一回転して自身を覆う鋸を展開して鎌を横に構えた切歌を乗せ、鎌のブースターで縦と横の高速回転でアルカ・ノイズをみじん切りにする。
「どうしてこんなにも、争いが続くのデスか?!」
「何時だっていつだって、信念と信念のぶつかり合い!」
「正義の選択が、争いの原因だとでもいうのかよッ!」
「安易な答えに、歩みを止めたくはないッ!だがッ!」
翼と調、切歌が斬り裂き、響が殴り、クリスが乱射し、雷とマリアが大砲撃を発射する。大小を問わず、凄まじい速度でアルカ・ノイズが殲滅されていく。
「装者七人によるユニゾンで、フォニックゲイン上昇!」
「だけど、エクスドライブを起動させるにはまだほど遠く!」
「ぬう……!」
マリアが短剣を振るう。
「それもこれも、相互理解を阻むバラルの呪詛!」
下から気配を感じたマリアが跳躍する。その感覚通り、地面をドリルのようにアルカ・ノイズが掘り進んできた。その大型を、雷が横合いから回し蹴りで砕き折る。そしてそのまま脚部から雷光を放ち、地面を踏み抜いて加速した。
「だとしてもですッ!」
アルカ・ノイズを殴り抜いた響はアダムに肉薄する。が、流石は完成された存在と言うべきか、響の攻撃を全て余裕をもって回避していく。
「使わないのかい?エクスドライブを。いや、使えまい。ここにはないからね、奇跡を纏えるだけのフォニックゲインがッ!」
アダムの放つ光弾を避け、弾き、響が一発叩きこもうと振りぬく。しかしアダムはその拳を掴み、彼女を空中に放り投げた。
「乗るなよ?調子に!」
空中にいる響に光弾を発射する。彼女はバンカーユニットとアンカージャッキの衝撃で空を蹴って回避していく。だが、アダムは響の方に気をやりすぎていた。
腕のない左側から雷が斥力で加速した拳を振るう。アダムがこれを防ぐために体を反転させ、防御陣を張った。彼に決定的な隙が生まれる。
響が空中で両腕のバンカーユニットを最大展開して加速、アダムも手のひらを向けるも完全な防御陣の展開は不可能。現状における全力の一撃が叩きこまれ、大爆発が発生した。
本部でも確認している。
「届いた!でも……!」
「ああ、敵は統制局長。アダム・ヴァイスハウプトだ!」
爆炎が消え、響の拳は受け止められていた。それも切断されていたはずの左腕で。
「左腕ッ?!うぁっ!」
「響ッ!ぐッ?!」
響はそのまま殴り飛ばされ、そのまま横に薙ぎ払うようにして雷を横から殴り飛ばす。不意打ちではあったが二人は歴戦の装者、空中でバランスを取り、地面に着地する。
自分たちを殴り飛ばしたアダムのほうを向くと、彼のなかったはずの左腕が生えていた。
しかも生えていただけではない。左腕だけが、肉の塊のように醜くうごめいていた。
「そうさ。力を失っているのさ、僕は。だから、保っていられないのさ、僕は……。僕の完成された美形をぉぉぉッ!」
叫びと共にアダムが纏っていた服がはじけ飛び、赤と紫の炎に包まる。そして内部から人の姿を破壊するように巨大な人型が出現した。
「知られたくなかったぁ、人形だと……。見せたくなかったぁ、こんな姿を……!だけど頭に角を頂くしかないじゃないかッ!僕も同じさぁ負けられないのはッ!」
「みんなッ!」
ディバインウェポンを思わせるような異形へと変化したアダムは、周囲一体に赤い稲妻と衝撃波を放ち、自らが召喚したアルカ・ノイズを消し去り、装者たちを退けさせる。
雷も対抗して出力全開で斥力フィールドを放ち、ヘッドギアのティアラで操作して全員を対象にして包み込んだ。
そして放射が止み、フィールドが解除される。
変容、いや、真の姿をさらしたアダムと装者七人が対峙する。
「人の姿を捨て去ってまで……!」
「何をしでかすつもりデスか……!」
頭部と思われる位置にある複数の目をぎょろつかせ、静かな怒りと共に口にする。
「勤まるものか、創られた端末風情が……。わからせてやる……より完全な僕こそ支配者だと……。その為に必要だったのさ、彼らと並び立てる神の力は……」
アダムの姿が消え、彼の計画をへし折った響の目の前に出現した。彼女の鳩尾に拳を叩きこもうとする。が、それよりも雷が響とアダムの間に割って入り、その拳を受け止める。
殺意を全開にし、見開いたその瞳で、アダムを正面から見つめる。
「完全に先はない……。だから捨てられたんだよ、貴様は」
「気に食わないんだよ、君の存在が。初めて目にした、その時からね……」
もう片方の腕で雷を殴り飛ばし、返す拳で響を殴り抜いた。二人が吹き飛ばされる。
翼は連打を身をかがめ、ジャンプして避けていくが角による鋭い頭突きを腹部に喰らってしまう。
「巨体に似合わないスピードでッ?!」
調が予想外のアダムの速度に驚愕する。すると突然、背後で電話の呼び鈴がなった。
二人は思わず振り返る。
「何でこんなところに電話がッ?!」
それに気を取られた瞬間、アダムによって切歌と調がまとめて殴り飛ばされた。
アダムが咆哮を上げる。
「おまけに、悪辣さはそのままデス……!」
地面に這いつくばったまま、切歌が言った。
「くそったれぇぇッ!」
「よくもッ!」
クリスがガトリングを発射するが固い皮膚に弾丸は弾かれ、背後から斬りかかったマリアだったが、アダムの長い尻尾に巻き取られてクリスのほうに投げ飛ばされる。
クリスはマリアを受け止め、抱きかかえるが、自由な身動きを封じられ、そのまま横殴りに飛ばされた。
響と雷が地面に這いつくばる。
「力負けている……!」
(まだだっ!立花響ッ!)
(吾輩が認めたものが、この程度なわけがないだろう?)
「ヨハン……?」
サンジェルマンとヨハン、二人の声が聞こえた気がした。二人はその声の聞こえた方を向くと、壊れた二つのスペルキャスターが落ちていた。
立ち上がって拾いに行こうとする雷と響だったが、先にアダムに拾われてしまう。
彼は拾い上げた二つのスペルキャスターを握りつぶした。
「何をするつもりだったのかなぁ?サンジェルマンとヨハンのスペルキャスターでぇぇッ!」
握る部したスペルキャスターから抽出したエネルギーを、二人に向かって発射した。発射されたエネルギーを響が正面から受け止め、後退する彼女の体を雷が支える。
「ファウストローブを形成するエネルギーを使ってッ?!」
「やはり、エクスドライブでないと……!」
絶望が広がる。しかし、それを二つの絶唱が斬り裂いた。
「この歌はッ?!」
雷の隣にマリアも並び、三つのアームドギアが変形してフォニックゲインを束ねる形へと最適化される。さらに翼、クリス、切歌に調も加わって七つの絶唱が行われた。
「S2CA・へピタコントラクトを!」
「応用するってんなら!」
「その賭けに……!」
「乗ってみる価値はあるのデスッ!」
思いと手がつながり、絶唱が共振し、互いに増幅し合う七重奏へと変化する。
「無茶だっ!フォニックゲイン由来の力じゃないんだぞッ!」
「このままではギアが耐えられず、爆発しかねませんッ!」
この土壇場でエルフナインが、ギアの爆発を回避する方法を考案、実行する。
「その負荷は、バイパスを繋いでダインスレイフに肩代わり、触媒として焼却させますッ!」
「それだけでは抑え込むことは出来ないぞ?!」
「なら、本部の全エネルギーを使ってヨハンさんのスペルキャスターにはめ込まれたラピスにアクセスし、フォニックゲインに置換しますッ!」
サンジェルマンから受け取っていたラピスの設計図を使い、シンフォギアにアクセスするのと同様にヨハンのスペルキャスターアクセスするというのだ。
彼女たちと一時期共闘態勢をとっていたからこその裏技だ。
「それしかないならやって見せるッ!それが銃後の守りよッ!」
「四の五の言う余裕もなさそうだッ!」
本部の演算能力をフルで使い、ダインスレイフを介するバイパスの形成と、ラピスへのアクセスを同時に敢行する。どちらかが失敗すれば、敗北は免れないだろう。
だが、それをやり遂げるのが大人というものだ。
「本部バックアップによる変換とコンバートシステムを確立ッ!響さんッ!」
「バリアコーティングぅぅぅッ!リリィィィスッ!」
バリアコーティングが解除され、ダインスレイフ由来の呪いによるエネルギーに包まれる。呪いからくる激痛に、叫び声を上げながらも耐え続ける。
「何をしようとッ……?!」
「抜剣ッ!」
「「「「「「「ラストイグニッションッ!」」」」」」」
その身を包む呪いに亀裂が走る。
「ほどがある悪あがきにッ!受け入れろ完全をッ!」
宙にアダムが浮遊し、大錬金陣を展開して黄金錬成を発動する。
そして手のひらに展開された小型の太陽を装者たちに投擲した。大爆発が発生し、焼き尽くされた街をさらに焼き尽くす。
「補って来たぁ錬金術で……!いつか完全に届くために、超えるためにッ!」
「「だとしてもぉぉぉッ!」」
雷と響、二人が叫び、七人の装者たちがミサイルに乗って太陽から脱出する。彼女たちの纏うギアは変化していた。
純白のエクスドライブではない。ダインスレイフの最後の炎。その炎によって精錬し、打ち直した新たなるギアへとリビルドした。
逆襲が、開始される。
(この後の展開を思い返しつつ)この展開読める人いるのかなぁ。
因みにアンケートの数字はちゃんと意味を持っています。これらの数字をある法則性に沿って変換すると、両方とも三文字の日本語になるので、適当な数字ではありません。