戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
いやすまない。所用で体力がヤバくてな……。幕間をぶっ込める雰囲気じゃなかったのでそのまま進行。
虫かぶり姫が面白くてヤヴァイ
極点のタイムカプセル
とある場所。かつてナスターシャが月と地球を接続した遺跡に似た場所に、二人の青年がいた。二人とも人型だが、肌の色や身に纏うもので人間ではないことがわかる。
石板のようなコンソールを操作する青年は髪が青く、精悍な顔つきをしており、胸からはおびただしいほどの血を流していた。
今にもこと切れそうな彼は、もう一人の、塔のような建造物に背中を預けた青年に声をかけられた。その青年は、青い瞳を持つ赤髪の、彼よりも厳格な顔つきをしている。
「本当にいいのか?」
「ああ……この役目を果たせるのは君しかいない……」
コンソールを操作する青年は息も絶え絶えだ。
だが、塔にもたれかかっている青年はそういう事じゃないと首を横に振り、目つきを鋭くする。
「我は最愛の女に別れの言葉ぐらいないのかと聞いている」
「伝える言葉も、猶予も、残されてはいない……」
「そうか……。ああ、我はお前に言い残したことがある」
「……」
最終設定を済ませた青年が遺跡のシステムを起動させ、水晶に流れる光の輝きが増し、建造物がうなりを上げる。
そのうなりを上げる建造物によりかかった青年の体が透け始め、膨大なエネルギーの雷が迸った。建造物はエネルギーを寄り掛かった青年から得ているのだ。
「貴様とフィーネ。最初はあ奴らと恋に落ちるなどと気に食わなかったが、ああいうのも悪く無いと、我も認めよう……」
「そう……か……」
青髪の青年が倒れ、こと切れた。
赤髪の青年も体が完全に消滅し、建造物の天辺からすべてを破壊する雷が放たれる。それと同時に月面に紋章が描かれた。
この日、人類はバラルの塔を天から降り注いだ雷によって破壊され、統一言語を失った。後に、人類は統一言語を破壊した雷霆に対し、こう名付けた。
『バラルの呪詛』と……。
○○○
国連直轄組織、S.O.N.G.。彼らが本部として運用している潜水艦は、極寒の地、南極にあった。
目的の場所にかじを取る潜水艦だが、情報を集めている藤尭が変化を報告する。
「到達不能極までの持続密度、フラクタル二千位!脅威レベル、三から四に引き上げ!」
「算出予測よりも大幅にアドバンス!装者たちの現着と、ほぼ同タイミングと思われます!」
緒川が弦十郎に進言した。
「情報と観測データを照合する限り、棺とは、やはり先史文明期の遺跡と推察されますが……」
「ううむ……」
「ボストーク氷底湖内のエネルギー反応飛躍!数値の上昇止まりません!」
エルフナインが如何やら『棺』と称されるものの反応を捉えたようだ。棺はエネルギーをすさまじい速度で上昇させているようで、このことからも『起動』したことがわかる。
「来るか!……総員、棺の浮上に備えるんだッ!」
弦十郎が指示を出し、それと同時に上空のヘリに待機していた装者たちがヘリの扉を開ける。雷、響、翼とクリスがS.O.N.G.の隊服を着て現れた。向かいのヘリには、マリア、調と切歌が乗っている。
そんな彼女達を、極寒の吹雪が襲う。
「さっむぅ~!凍れるぅ-!どこの誰だよぉ!南半球は夏真っ盛りだって言ってたのはぁ!」
「デースッ!」
「いくら南半球でもここまで来ればねぇ……」
体を縮こませて震える響と切歌を見て、彼女達に「南半球は日本と季節が逆だから今は夏」と教えた雷が苦笑いした。流石に南極まで来て南半云々に文句をつけられるとは思っていなかったらしい。
「夏だって寒いのが結局南極だ。ギアを纏えば、断熱フィールドでこのくらい……」
クリスのツッコミが響に刺さる直前、ぶ厚い氷を貫いて赤い光線が下から天に昇った。同様に空を覆う曇天に風穴を開けた。南極にあるまじき青空が見える。
「なかなかどうして……心胆寒からしめてくれる……」
そして光線の発生源である湖の中から、まるでロボットのような棺が浮上した。あれがS.O.N.G.のターゲットだ。
「棺とは一体……私の中で棺の定義が壊れそうだ……」
「切ちゃん!棺ってなんだけ?!」
「姉ちゃんが分からないものを聞かないで欲しいデース!」
「何時だって想定外なぞ想定内!行くわよ!」
F.I.S.三姉妹の漫才を母親役のマリアが締め、装者たちが降下する。起動聖詠を口し、ギアを起動、装着する。
「Voltaters Kelaunus Tron」
ギアが起動したことで特殊なフィールドが展開され、その中で純白のワンピース姿となった雷は、稲妻を体に纏わせながら体をターンして空高く上っていく。そして閃光が煌めき、その中からリビルドし、アゾースギアとなったシンフォギアを纏う彼女が残光と共に現れた。
同じくアゾースギアへと変化したシンフォギアを纏う装者たち。その中で一番の爆発力を持つ響が、腰のブースターを点火して棺に拳を振りぬいた。
棺は図体に似合わぬ反応で響の拳を迎撃する。
はじき返された響が雷たちの元に並び立った。
「互角?!でも、気持ちで負けてないッ!」
間髪入れずに棺が光線を放った。装者たちは回避するが、着弾地点から緑色の光が伸び、凍結した。
クリスが驚愕する。
「何なんだよあのデタラメは!どうする?!」
「どうもこうも……止めるしかないじゃないッ!」
「散開しつつ距離を詰めろ!観測基地には近づけさせるなッ!」
響が走り、調と切歌が氷上を滑る。そんな彼女達を超速度で雷が追い抜いて行った。雷の後ろで調がバインダーを展開し、切歌も鎌の刃を増やす。
『α式・百輪廻』
『切・呪りeッTぉ』
ザババの二つの刃は棺の足元を狙って放たれ、棺は体を振り子のように揺らしてその反動で跳躍し、回避する。が、それは雷たちのコンビネーションであり、氷と棺の間を潜り抜けた彼女は大ジャンプで棺を飛び越え、天地逆さまの状態で体をひねってオーバーヘッドを打ち込み、下から響が雷とは逆方向に拳を叩きこんだ。
これによって棺がひっくり返り、氷上に叩きつけられた。
そこを、クリスの小型ミサイルが襲い掛かる。
『MEGA DETH PARTY』
ミサイルの全弾直撃を喰らった棺だったが、爆煙の中から顔を出し、すぐに光線を発射して反撃した。
「聞かないのかよッ……!」
光線をジャンプで避けるクリスだったが、まったく手ごたえのない相手に歯噛みする。
本部では緒川が冷静に対象の状況を把握していた。
「接近する対象を苛烈に排撃……こんなものを、はたして棺と呼ぶべきでしょうか?」
「攻撃ではなく防衛……不埒な盗掘者を寄せ付けないための機能だとしたら、どうしようもなく棺というより他あるまい」
(だとすれば、棺に眠るのは、本当に……)
アダムの一件以降、様々な疑問疑念が発生しているが、そのうちの一つがあの中にあるのだろう。弦十郎はそう目星をつけた。
「指令!棺に新たな動きが!」
友里の一声で、思案の中から現実に引き戻される。
棺は全体からとげのようなものを作り出し、発射。ミサイルのように飛翔すると下は空中で変形し、光線を発射するビットとなった。
響が光線を弾きながら跳躍し、両足のアンカージャッキで宙を蹴ってマフラーを振り回して撃墜し、切歌がフィギュアスケートのごとく調を持ち上げ、バインダーを変形させた大型鋸付きのアームで斬り刻む。
「こちらの動きを封じるためにッ!」
「しゃらくさいのデスッ!」
「群れ雀なんぞに構いすぎるなッ!」
クリスがガトリング砲を放ち、撃ち落としていく。
雷が電磁波を利用した高速移動で空を舞い、すれ違いざまに稲妻で焼き落とした。
「だけど、いかんせん数がなッ……!」
「ならば、行く道をッ!」
翼が空から剣を落とし、棺への道を開く。
その道を響とマリアが駆ける。響のバンカーユニットと、マリアの銀腕が変形し、跳躍する。
「最速でッ!最短でッ!」
「真っ直ぐにッ!一直線にッ!」
変形した腕部装甲がドリルのように回転し、棺の胸に嵌められていた結晶体を破壊した。が、翼は油断しない。
「効いている!それだけだッ!」
その巨体に似合わぬ俊敏さで棺が跳ね、腕と思わしき部分で響とマリアを叩き落とした。二人が氷にぶつかる直前で雷が踵でブレーキを掛けながら滑り込み、受け止める。
「いっだぁいッ!」
二人分の重さに落下の速度、そして滑り込む際についた氷の硬さも相まって、ギアで守られているので大した痛みはないはずだったが反射的に声が出た。
地面に固まっている三人をカバーするために、調と切歌が響とマリアを抱き起し、翼が前に立った。
見ると棺が光線をチャージしている。二人いる防御能力を持っている装者のうちの雷は動くことが出来ず、もう一人のクリスが全力疾走する。
「来るぞッ!」
「間に合ぇぇぇッ!」
ギリギリ間に合ったクリスは翼の前で腰部バインダーを全開し、リフレクターを展開する。
光線とリフレクターがぶつかり合い、大爆発が起きる。四本の氷柱が光と共に現れた。
「リフレクターによるダメージの軽減を確認ッ!」
「棺からの砲撃、解析完了!マイナス五千百度の指向性エネルギー波……って、何よこれ?!」
「埒外物理学による……世界法則の干渉……。こんなの、現在のギア搭載フィールドでは、何度もしのげませんッ……!」
世界法則を超える埒外物理学。ならば、目には目を歯には歯を、埒外物理学には埒外物理学を。同じ埒外物理学を正面から叩きこむのみである。
雷の変身シークエンスは某キュアで月光な方をイメージしていただければ。因みにギアを纏う速度は一番早いです。流し目がエロい。
アゾースギアは白かった部分がグレーに、グレーだったところが一部金色になっています。それ以外の変化はあまりなし。コンバーターユニットはグレーです。