戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
暇潰しに日間ランキングを確認してみれば、この作品が結構上位にあったことに、正直戸惑っています。
これも皆さまのおかげですね!最終章に入りましたが、気を緩めず、頑張っていきますよ!
夕焼けがリディアンの校舎をオレンジ色に染め上げる。
生徒たちは各々友達と共に下校したり、部活動に励んだりと様々な日常を送る中、ピアノの美しい旋律に乗り、響がリディアンの校歌を歌っていた。ピアノの奏者は未来だ。
雷は創世たちと共にドアの隙間から中の様子を見つめている。
響が歌い終わると、その歌を聴いていた先生が深く息を吐き、もたれかかっていた壁から体をはがした。彼女はパンッと手を叩き、
「はい。合格です」
「ホントですかぁ?!やったぁぁ!」
「良かった……」
ピアノを弾いていた未来に響は何度もピースサインを向ける。そしてドアの方を向き、雷にもピースサインを向けた。雷もピースサインを返す。
そんな上機嫌の響に、先生がくぎを刺す。
「立花さん?!調子に乗らないの。合格とは言いましたが、学ばなければならない技術はまぁだまだ多あっくさんあります!」
「面目……次第も……ございません……」
響がしょぼくれる。
「ですが、聞き入ってしまう歌声です。きっと立花さんは、心で、歌っているからなのでしょうね……」
「心……胸の歌……先生!」
先生は目を瞑り、自分の胸に手を当てる。たしなめることもそうだが、ほめて伸ばすことも教師の仕事だ。
しかし、それで再び調子に乗ってしまうのが響である。彼女はうれしさのあまり先生に抱き着こうとした。が、彼女は上手く体を翻して響を回避する。
「はい。これにて居残りテストは終了。色々あるとは言え、次の試験はすっぽかさないように」
居残りテストの対象は響だけだ。何故なら、このテストは前後半に分かれて行われ、運良く雷は後半部分。即ち任務のあった日である響のテストの日とは別日で行われていたからだ。
響の居残りテストが終わった雷、響、未来は、三人そろって自分たちの家へと帰っていく。が、今回は特別だ。帰路につく前に大型ショッピングモールに足を運ぶ。
「誕生日プレゼント、いいのが見つかってよかった」
「クリスちゃん喜んでくれるかなぁ?」
「喜んでくれるよ、きっと」
もうそろそろでクリスの誕生日会が開かれるのだ。三人はそのためのプレゼントを購入し、笑い合いながらモールの中を歩いて行く。
すると、通路にあるテレビモニターに気になるニュースが流れていた。
それは、日米共同で行われる宇宙開発プロジェクトの事だ。その目的地は、月。装者である雷と響とは切って切り離せないものだ。
響がモニターを見上げてボソッと呟く。
「月へ……」
雷が懐かしいものを見るように月の映像を見上げた。
いつの間にか立ち止まっていた二人に対し、未来が少し離れたところで声を張る。
「遅ーい!もうどうしたの?」
「うわぁゴメン!」
「すぐ行くから!」
大急ぎで未来のところに向かう。何時もの、少女たちの会話に戻っていた。
響のおごりでたい焼きを買い、三人は観覧車に乗って食べながら夜景と語らいを楽しんでいた。
「それにしても、胸の歌には何度助けられたかわからないよ」
「ほんとほんと」
「今度は助けてくれないかもしれないよ~?」
にや~ッと雷が笑ってたい焼きを口に運んだ。因みに雷は尻尾から先に食べる派だ。
「ええ?!それは困る!……でも、なんだか最近、特別なぐらい普通の毎日。普通って幸せなんだって実感するよ……」
「しばらく任務続きだったものねぇ……」
「去年まではそれが日常だったのにねぇ……。響を除いては」
「そうだよ!響ってば、困っている人がいればあっという間に飛び出してばかり」
未来が響を見つめ、恥ずかしくなった彼女は頭をかいた。そんな響を見て未来が悪戯っぽく笑う。
「私が困っている時も助けに来てくれるのかしら?」
「そんなの当たり前だよ!未来だったら、超特急で行くよ!」
「じゃあ、私が誰かを困らせたら響はどうするの?」
「え?」
響は直ぐに答えることが出来なかった。だが、彼女の代わりにたい焼きを全て平らげた雷が、唇の食べかすを親指でふき取った後、答える。
「そこは私が何とかするよ。私と響の想いを、どうやってでも未来に届けて改心させて見せるから!」
「雷ぁ!」
なかなか答えが出せなかった自分と違ってスッと返答できる雷に響が抱き着いた。その勢いでゴンドラが大きく揺れる。
「ちょっと響!」
「あはは!ごめ……ッ?!」
「何事?!」
そんな姦しい彼女達の背後で爆発音が聞こえてきた。慌てて音のした方を向くと、大きな船が爆発、炎上していた。
「響……雷……」
「「うん……!」」
三人はゴンドラから降り、階段を駆け下りていくと、目の前で緒川の乗ったS.O.N.G.の車が停車した。
「響さん!雷さん!乗ってください!未来さんも一緒に!」
雷たちを乗せた車は港に停泊しているS.O.N.G.本部潜水艦に向かって走り出した。
本部ブリッジには他の装者たちも集合しており、モニターにはさっき爆発していた船の消火活動の映像が映されていた。
「大型船舶に偽装したS.O.N.G.の研究施設にて、事故が発生した。
「海上の研究施設……デスか?」
「もしかして、街中では扱えないような危険物を対象に?」
如何やらあの船は、S.O.N.G.所有の物だったようだ。
「ああ、そこでは先だって回収した、オートスコアラーの残骸を調査していたのだ」
弦十郎の言っているオートスコアラーとは、アダムが保有し、ディバインウェポンとして運用されたティキの事だ。
「破壊されたアンティキティラの歯車と、オートスコアラーの構造物からは、パヴァリア光明結社、ひいては、アダム・ヴァイスハウプトの目的を探る解析が行われていたの……」
「先ほどの爆発事故は、機密の眠る最深奥に触れたための、セーフティーと考えられますが……」
「ティキと呼ばれたあのオートスコアラーには、惑星の運航を観測し、記録したデータをもとに様々な記録したデータをもとに様々な現象を割り出す機能もあったようです」
友里、緒川、エルフナインの説明を受け、装者たちが何が行われていたのかを飲み込んでいく。
モニターには地球の3Dモデルが映され、ティキが割り出した目的地の座標が映された。
「これは……南極大陸」
「爆発の直前、最後にサルベージしたデータが南極の一地点を知らせる座標でした」
南極に該当する場所に赤いマークが付けられる。
「ここは南極大陸でも有数の湖、ボストーク湖。付近に位置するのはロシアの観測基地となります」
「湖ってどれぇ?一面の雪景色なんですけど?」
「雪どころか氷だよ。そもそもその辺に映ってるのほとんどがボストーク湖だよ、つまり氷の下」
なぜこんなことも知らないんだ……。と少し呆れながらも、雷はまるで先生のように響に教えた。
「地球の環境は一定ではなく、たびたび大きな変化を見せてきました。特に近年その変動は著しく極冠の氷の多くが失われています」
「まさか、氷の下から何かが出てきたってわけじゃないよな?」
クリスがフラグを立てる。
大体、こういう時の予感は当たるものだ。つまり、あたりという訳だ。
「そのまさかよ。先日ボストーク観測基地の近くで発見されたのが、この氷漬けのサソリです」
「照合の結果、数千年前の中東周辺に存在していた種と判明。現在では絶滅していると聞いています」
明らかに引っ掛かりを覚えるサソリの生息地に、真っ先にマリアが反応した。
「何故そんなものが南極に?」
「詳細は目下調査中……。ですが、額面通りに受け止めるなら、先史文明期に、何らかの方法で中東より持ち込まれたのではないでしょうか?」
「……つまり、何も分かっていないと?」
「言わないでくれないか……」
雷の物言いに藤尭が渋い顔をする。要は今は絶滅した中東のサソリが南極にて発見されたが、何故ここに居るのか分からないということだ。
ついで緒川が情報部が集めたことを報告する。
「それだけではありません。情報ぶは瓦解後に、地下へと潜ったパヴァリア光明結社の残党摘発に務め、さらなる捜査を進めてきました……」
モニターの画像が氷漬けのサソリから、情報部の集めたパヴァリアの残党にかかわるものに切り替わる。
「得られた情報によると、アダムは、専有した神の力をもって、遂げようとした目的があったようだな」
「アヌンナキを超えるとは言ってたけど……」
「この星の支配者となるため、時の彼方より浮上する棺を破壊……」
「何デスとッ?!」
「でも……時の彼方からの浮上って、南極とサソリと符合するようで気味が悪い……」
調が言うように確かに気味が悪い。知的探求心が抑えきれない一人を除けばだが。
一通りの報告を終えた弦十郎がイスから立ち上がる。
「次なる作戦は、南極での調査活動だ。ネタの出所に結社残党が絡む以上、この情報自体が罠という可能性もある!作戦開始までの1週間、各員は準備を怠らないでほしい!」
「了解(デス)!」
装者たちの声がそろう。
雷と響の中に、昇滅していくアダムの残した言葉が蘇った。
「砕かれたのさ、希望は今日に……。絶望しろ明日に!未来に!」
雷が憎々し気に舌打ちを打った。
故に今、雷たちは南極で棺と交戦しているのだ。
そろそろオリキャラ登場ですね。