戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
南極でのミッションを終了し、日本に帰国した時の事。
「ちょっと雷!なによこれ!」
「あ、受け取ってくれたんだ」
「受け取ってくれたんだ……じゃないわよ!」
雷と響、未来が共同で暮らす寮室の前に、大小様々な大きさの段ボールが山のように積まれていた。未来が玄関の前でエプロンを巻き、お玉を片手にカンカンに怒っている。
雷はそんな彼女を気にしない気にしないと宥めながら、一番玄関から遠い段ボールをもって未来の脇を通って様々な蔵書が積まれた自室へと運び込んだ。響は頼まれていないにもかかわらず、なんとなくで運ぶのを手伝っている。
運び込んではまた外に出て、を繰り返す二人に、未来は遂に地震が発生したのではないかと勘繰るほどの大声で叫んだ。
「今度は何を買ったの?!ただでさえ雷の部屋は本で溢れかえってるのに!響も!何となしで手伝わないで!」
「ごめん未来。でも、数が多いしさ。雷だけにやらせるのは忍びなくて……」
「雷が勝手に買ってきた物でしょ!」
「それを言われちゃうと……」
「で、何を買ったの?!」
未来が雷に向きなおる。
未来は如何やら相談もなしに散財しているのが気に食わないようであった。恐らくは相談の一つでもあれば態度は全く違ったであろう。
雷は玄関先にあった段ボールをすべて運び終えた後、
「今から教えるよ」
と言って中くらいの段ボールを開ける。その中には、木目の美しいギターが一本、入っていた。雷はそれを取り出し、じゃーんと未来と響に見せつける。
「こんなの買いました」
「ギター?」
「もしかしてほかの段ボールの中身って……」
未来の鋭い眼光が雷に突き刺さる。だが雷はほんのりと笑って、言った。
「そ、全部いろんな楽器が入ってる」
「わ!ホントだ!こっちにはドラムが入ってる!」
「……」
響が一番大きな段ボール箱を開けて驚いていた。未来は雷が自分で稼いできたお金とは言え、いきなりこんな散財をしている事に耐えられなくなり、目を手のひらで覆った。とは言え買ってしまった物は仕方がないと何とか自分を言い聞かせ、すでにギターのチューニングを行っている雷に聞いた。
「何でこんなに買っちゃったの……?」
雷がチューニングの手を止めて真正面から、真剣な表情で未来を見つめ返した。
「私、歌を作ろうと思うんだ」
「歌?」
響が首を傾げた。
「うん。お父さんやお母さんが私にこれを託してくれたみたいに、私も何か託せるものが作りたいなぁって」
胸元のペンダント、ケラウノスを見せる。両親と同じように、自分も何かを後世に残したいということだ。
「南極で珍しく興奮してないなって思ったら、そんなこと考えてたんだ……」
「そ。あのミイラ見て、そう思った」
響が合点がいったとポンと手を叩いた。
未来は半分納得した。故に納得していないもう半分を聞く。
「買った目的は分かった。私は雷が夢を持てたことはうれしいし、心の底から応援する。でも、これだけ楽器を買う必要はないんじゃないの?パソコンだけでいいんじゃ……」
「私知識としては知ってるけど、楽器はあんまりひかないから。もっと理解した方がいいかなって思って」
未来はしっかりと目的をもって雷が買い物をしていた事を理解した。だが、無断で散財したという事実は変わらない。
「でも、私に内緒で散財したことは事実なので、今後通帳は私が預かります」
「あ……」
「そう言えば言われてたね……」
それはそれ、これはこれだ。
雷は次、散財すれば、未来に貯金通帳を渡すことを約束していた。すっかり忘れていたことを思い出し、肩をがっくりと落とした。
○○○
雷が歌を作ることを夢にしたというのは、装者たちの間に瞬く間に広まった。
世界的な歌手であるマリアに、日本を代表する歌女の翼、音楽家を両親に持つクリス。それに加えてただ姉に会いに来た調と切歌とが、一斉に雷の部屋に集まっている。
ただでさえ本の山で狭い部屋が楽器で圧迫され、そこに装者たちと未来が集合しているわけだからすし詰め状態だ。だが、彼女達はそんな状況を楽しんでいる。
何せ、少し前まで死ぬことを生きる価値としていた少女が、自分の生み出したものを残したいとまでになったのだ。マリアにいたっては感極まって涙を流している。
クリスが雷の弾くヴァイオリンに耳を傾ける。
「へぇ、結構様になってるな。どういう弾き方をすればどんな音が出るのかを理解してる感じだ」
「クリスにそう言ってもらえると嬉しくなるよ。本物を聞いたことがある人に言ってもらえると、自分でもどれくらいかがわかるから」
そう言って雷はヴァイオリンをケースの中にしまい、今度はエレキギターを取り出した。
何度か弾いてはチューニングを繰り返しながら、
「……早くしないと……。時間がないから……」
いつになく真剣に雷がつぶやいた。
それを聞いた調と切歌が首をかしげる。
「時間がない?」
「何かあるんデスか?」
チューニングに集中している雷の代わりに、涙を漸く拭き終えたマリアが答えた。
「ああ、大手レコード会社の作詞作曲した曲の募集締め切りが一か月後なの。雷はそれを目安にしてるんだと思うわ」
「……うん、そのつもり」
集中していたのか少し遅れて雷が返事した。
その返答を聞いて翼が腕を組み、
「そんなことをしなくとも、いい歌だと判断すれば、私かマリアが歌ってやるのに」
「雷の歌なら喜んで歌ってあげるわよ?」
「いや、身内のコネはちょっとね。自分の力で残したいからさ」
「そうか」
翼が短く納得した。
「なら、歌を良く知るものとして、先輩がレクチャーしてやろうではないか」
だからせめてと手伝うことにした。今後歌をつくることで飯を食っていくつもりなら、自分専属の作詞作曲者になってもらおうという少し買いかぶり気味の考えもあるが、音楽方面の先達として後発を育てたいという思いがほとんどだ。
「そうね。それがいいと思うわ」
「おお!二大スターの指導を受けれるなんて、レアだよレア!」
響が一番大興奮している。
雷は真剣な眼差しで、静かに二人を見つめた。二人はその意気や良しと頷き、
「まずはどういったコンセプトなのかだな」
「雷の実体験をもとに、どういうふうな曲にしたいのかのイメージとかあるかしら?」
雷は顎に手を当てて俯き、一瞬だけ思案した後、パッと顔を上げて答えた。
「イグナイトを克服して、みんなのところに帰ってこれたとき……かな」
「なるほど……。なかなかいいと思う。なら、二番に私達サイドの、轟が返って来てくれてよかった。という意図を込めることが出来れば完璧だ」
「でも、そこはあくまで出来ればだから、まずは雷の言った方で進めましょう」
二大スターによる指導は、日が暮れるまで続き、彼女達はお礼代わりにと雷の手料理をそろって食べることにした。
『』(タイトル未定)
現在制作中の歌。ダインスレイフの闇からみんなの元に帰ってこれた雷の喜びと、帰って来てくれた雷を迎える響たちの喜びがベースとなっている。
コツはつかんだようだが、どの様な歌になるかは不明。全ては雷のポテンシャルにかかっている。