戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
クリスは自宅にある、両親の仏壇の前に立ち、手を合わせていた。
この仏壇を買った時はまだS.O.N.G.ではなく、特異災害対策機動部二課だった時であり、その時の初任給で買ったものだ。
近づくものに噛みつく様な狂犬じみていた昔とは異なり、彼女の表情は年頃の少女と何ら変わらない。
手を合わせ終えたクリスは優しいまなざしを両親の遺影に向け、
「それじゃ、ガッコに行ってきます」
と、告げて玄関に歩き出した。
仏壇のそばには、少し前にあった自身の誕生日会の時に撮った集合写真が飾られている。最初はぶつかり合った響と雷。初めてできた友達として支えてくれた未来。面倒の見がいのある後輩と尊敬する先輩。そして、その真ん中で赤くなる、仲間を知った自分。
その写真はクリスにとって、かけがえのない宝物だ。
「えっくしぶ!」
クリスは通学路を歩きながら、かわいらしいクシャミをした。冬の制服に学校指定のコート、赤い手袋に同色のマフラーと完全装備だが、それでも寒いらしい。
かじかむ指先を口元に当て、呼気で温める。
「この寒さはプチ氷河期どころじゃないぞぉ……」
「クーリスちゃーん!」
「おはよう」
「寒そうだねぇ」
クリスの背後から、響、未来、雷が顔を出した。三人ともイメージにぴったりと合う色のマフラーを巻いている。
めんどくさいやつが来た……。と、言いたげなクリスのそばに、ニヨニヨと頬の緩み切った笑顔を浮かべた響が近づいた。
「寒いよねぇ~、でも温かいよねぇ~。お似合いの手袋!」
「ッ!」
「おっと、昨日も見た光景」
昨日と寸分狂わず同じことをしている響。とくれば返ってくるレスポンスも昨日と同じだ。
クリスがバッグで響の頭を思いっきり叩く。
「毎朝毎朝押しつけがましいんだよ馬鹿ァッ!」
「調子に乗りすぎ、はしゃぎすぎ」
「だってさ、一緒に選んだあの手袋、クリスちゃんに喜んでもらってるみたいだから!」
「はう?!」
未来にたしなめられても響の嬉しさは留まるところを知らない。その嬉しさから放たれる感情の右ストレートが、クリスに鋭く突き刺さった。
図星をつかれて顔を赤くしたクリスがそっぽを向く。
「手袋して休まず登校してくれるし!」
「言われて見れば、推薦で進学も決まってるのにね」
「おやおやぁ、その顔の赤さは寒さのせいでありませんなぁ」
雷が揶揄う。
クリスが反論しようと勢い良く振り向いた。
「う、うるさいなぁ!アタシは!みんなより学校に行ってないから、その分をだなぁ……」
勢いづいて反論していたクリスだったが、一瞬で真剣な表情に切り替わる。
「だけど、そろそろ暢気に学校に通っているわけには、行かないのかもしれないな……」
○○○
海沿いのアリーナで今度行われるライブの練習を行っている翼だったが、引っ掛かるところがあるのか、あまり調子が良くない。今だって、現場監督からの評価がよくなく、首を横に振らせてしまっている。
そんな彼女を、マネージャーである眼鏡をかけた緒川と、なぜかスーツを着てサングラスを掛けたマリアが見下ろしていた。
「何かに、心を奪われているのですね……」
「ん?!そ、そうね。任務の合間に陣中見舞いしてみればこの体たらく……。凱旋ライブの本番は三日後だというのに」
如何やら翼だけではないようだ。
マリアは慌ててサングラスの位置を調整し、自分の事は棚に上げて翼に厳しく当たる。緒川はそれが優しさからくるものだということを知っているため何も言わない。ただ、「マリアさんも同じように何かに心を奪われているのに、素直じゃない」と、苦笑いを浮かべた。
こつこつと、近づいてくる足音が聞こえてきた。翼だ。
緒川がねぎらいの声をかける。
「お疲れさまでした」
「世界に再び脅威が迫る中、気持ちは分かるけどね?でも、ステージの上だってあなたの戦う場所でしょ」
マリアがサングラスに隠れて見えないが、真剣な眼差しを翼に向ける。
翼もそのことは分かっていた。だが、それでも、思わず目をそらしてしまう。
「それはそうだが、南極からの帰還途中で、あんなことが起きたのに、果たしてここは、私の立つところなのだろうか……」
南極からの帰還途中、洋上で起きたことが記憶の中から蘇る。
アラートが艦内に鳴り響く中、翼、マリア、クリス、響、そして雷がブリッジに駆け込んだ。
リーダーである翼が、
「状況は?!」
「洋上にアルカ・ノイズの反応を検知ッ!」
「米国空母、トーマス・ホイットモアが襲撃を受けています!」
「ボスの狙いなら部下も狙うよね」
「回収された遺骸を狙って?!」
「こっちの申し出を無下にしやがるから……!」
クリスがパンッと手のひらをに拳を打ち付けた。
「警戒待機していた調と切歌は?」
「先行しています」
マリアは一番の年長らしく、冷静に情報を聞き出す。彼女たちは自他ともに認める最も爆発力のあるコンビだ。キャロルやアダムといった規格外でなければ大抵の相手と渡り合えるだろう。
そんな二人が、ロケットに乗り込んで炎上する空母に飛翔した。
ロケットの外装が割れ、中から調と切歌が現れた。高高度から空母に向かって落下する。
調が切歌に向けて、リンカーを二本あるうちの一本、突き出した。
「リンカーを忘れるなんて!」
「よく気が付いたデス!早速このポカを返上するデスよ!」
二人は空中で引き寄せ合い、抱き合って調が切歌、歌が調とお互いの首筋にリンカーが充填された注射器を押し当てる。
そして二人は抱き合ったまま、シンフォギアを起動した。
「Zeios Igalima Raizen Tron」
緑の鎌のシンフォギア、イガリマを起動した切歌は降下しながら鎌を振り回し、引っ掛けるようにして刃で斬り裂く。そしてそのまま着地した彼女は大きく振りかぶり、ブーメランのように三枚に増えた刃のうちに二枚を投擲する。
『切・呪りeッTぉ』
高速回転する二枚の刃はノイズの群れを一気に刈り取っていき、リーチの長い得物でありながらそれを器用に振り回し、攻撃を避けながら鎌を突き立てる。
同じくギアを纏った調はシュルシャガナの無限軌道で縦横無尽に甲板を滑り、バインダーが変形したアームに備わった鋸を、脚部鋸の回転を生かした連続ターンで振り回す。そして敵陣深くに切り込んでいき、フィギュアスケートの要領でスピンを決め、スカート鋸のようにして一気に切り裂いた。
『Δ式・艶殺アクセル』
切歌が甲板で暴れまわり、縦回転で迫ってくるアルカ・ノイズを空に打ち上げ、そこを跳躍していた調が横回転で空中からの落下速度も併せて切断した。息の合った、見事なコンビネーションだ。
「アルカ・ノイズが相手であれば、調さんと切歌さんの敵ではありません」
「ああ。だとすれば……」
近くにアルカ・ノイズを召喚した錬金術師がいるということだ。
調の射出した小型鋸はアルカ・ノイズを的確にとらえ、応戦していた米兵に掠ることなく命中させる。切歌も刃と石突を利用して倒すと、海中から巨大なアルカ・ノイズが出現した。
超大型アルカ・ノイズは腕を振り、艦橋を破壊する。その崩落に切歌が巻き込まれたが、鎌を振り回してコマのように回転して空中へ脱出。超大型の腕から放たれる光線を肩のブースターで避け、二発目を鎌に乗ってサーフィンするように乗り切り、腕を切りつつジャンプ。刃を足に装着してエネルギーを纏わせ、ブースターを点火して急降下した。
『断突・怒Rぁ苦ゅラ』
超大型のどてっぱらに大穴を開けて貫いた。
背中に爆発の熱を感じ、着地した切歌だったが、横合いから何かの直撃を喰らった。不意打ちであったため、踏ん張ることもできずに容易に吹き飛ばされる。
「切ちゃん?!」
二人は攻撃が来た方に視線を向けると、どことなく狼を彷彿とさせる容姿をした少女がいた。切歌に攻撃を加えたアームのようなものが、彼女の持つトランクに消えていくのが確認できた。
「あれが……アルカ・ノイズを召喚した……」
「「「「「錬金術士ッ!」」」」」
「やはり出てきましたね……」
「ああ、この一連を裏回しする、パヴァリア光明結社の残党だ!」
ヨーロッパを中心に、世界中に根を張る秘密結社、パヴァリア光明結社。その根は、想像以上に深く、広く、強い。
AXZ編あたりから切りどころが分からなくなってきたでござる。