戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
あと誠に勝手なのですが、感想を数字言語で書くのは嬉しいんですけど解読がしんどいのでやめてクレメンス……。せめて訳をください……。
鎌倉からS.O.N.G.に通信が届く。如何やらアヌンナキの遺骸が日本ではなく、米国の手中にあることに訃堂は怒り心頭のようだった。
彼は、世界が怖じるほどの力を見せつけたディバインウェポン、その力の根源である神の力の源が自国にないというのが気に食わないのだ。
訃堂が弦十郎に怒鳴る。
『報告書には目を通した、政治介入があったとはいえ、先史文明期の貴重なサンプルの調査権を米国にかすめ取られてしまうとは、何たる無様ッ!』
「反応兵器の使用をはじめ、今日までの騒乱に様々な横槍を入れてきた米国に対し、一層の注意を払うべきでした……!」
『さらには、パヴァリア光明結社の残党をのさばらせおってッ!』
アダム亡き後のパヴァリアの残党の拿捕を主導していたS.O.N.G.の痛いところをつかれてしまった。結構な期間がありながら、まだ残党が残っており、しかもそれがシンフォギアに対抗しうる存在だったともなると、返す言葉もない。
「それについても対応中であり……」
『お前にも流れる防人の血を辱めるなッ!』
弦十郎の言い分を聞こうともせず、一方的に訃堂が通信を切った。言い訳など聞きとうない。結果で示せ。ということなのだろう。
弦十郎は通信が切れた後、椅子に深く腰掛けて息を吐いた。流れるようにネクタイを緩める。
そのタイミングを見計らって、友里がカップに注がれた湯気立つ暖かいコーヒーを差し入れた。
「指令。温かいもの、どうぞ」
「ああ。温かいものどうも。すまないな」
弦十郎はカップを受け取り、友里に礼を言う。
「鎌倉からのお叱り。今まではほとんどなかったのに、ずいぶんと頻度が増えましたね……」
「うむ……。そうだな……」
藤尭の言葉に同意を示し、弦十郎は静かにカップを傾けた。
○○○
夕暮れに染まる街の道路はおびただしい数の車に埋め尽くされていた。
それもそのはず、今日は翼のライブの日。アリーナへと向かう車で長蛇の列が出来ているのだ。この調子なら、いっそのこと歩いて行ったほうが速いだろう。しかし悲しいかな。歩いて行けば確実に間に合わず、ライブを「観る」という観点からすれば、車内で生中継を見る方が得策なのだ。
そんな状況であるため、大の翼ファンである響が嘆く。
「久々のライブだよ?!翼さんの凱旋公演だよ?!だけどこんなんじゃ間に合わないよぅ!」
「だからVIPチケット貰おうって言ったのに……」
「どうしようもないだろ!道路が混雑してんだから!」
クリスと調、切歌の乗った車が響と雷、未来の乗った車と横並びになる。
響の言った通り翼の久々のライブ。確実に混雑するのは目に見えていたため、雷は翼にVIPチケットをもらおうとしたのだが、響が一ファンの意地として断っていたのだ。今更になって、響は何故断ってしまったのかと、過去の自分が恨めしくなっていた。
響の嘆きをよそに、調が切歌と顔を合わせる。
「マリアも急に来られなくなるなんて……」
「ツイてないときは何処までもダメダメなのデス……」
「いや、そうでもないかもよ」
ここに居ないマリアを憐れむ二人だったが、窓と道路越しに雷が話しかけてきた。調と切歌はクリスに場所を変わってもらい、窓から顔を出す。
「どういう事?」
「いや、ここにマリアが居ないのなら、居るところは一つだけでしょ」
「「??」」
二人してかわいらしく首を傾げた。如何やらわからないようだ。そんな彼女達を、雷は窓枠に腕を、その上に顎を乗せ、微笑ましく眺めていた。
○○○
響達の想いをよそに、翼のライブは予定通りに進行する。
席は当然満席であり、観客の歓声がアリーナいっぱいに広がる。そしてその大きさは、次の瞬間もう一段跳ねあがることとなった。
何故なら、翼のライブに、スペシャルゲストとしてマリアが参戦したからだ。
「そんなこと無理よ!出来ないわ!」
「いつか、私と歌い明かしたいといったな?」
「でも、私には……」
マリアが翼の練習を見に来たあの日、「マリアも一緒に歌う」という翼の突飛な提案を彼女は受けていた。
マリアは自分にはそんな資格がないとそっぽを向く。
「私は歌が好きだ。マリアはどうだ?」
マリアも歌が好きだ。だから、翼の提案を承諾した。
少ない練習時間でありながらも、マリアは翼に追いつき、元々一人で行うはずだった演出を二人の物に昇華させた。
歌声と完全に調和した近未来的な光の演出が、翼とマリアの魅力を数倍にも引き上げる。
マリアのサプライズ出演に加え、翼とマリアの歌う完璧な一曲目に観客のボルテージは上がりっぱなしだ。
マリアは観客に手を振りながら、この何度感じても飽きない感情を思う。
(アーティストとオーディエンスが一つにつながる、溶け合ったような感覚……!まるであの日に、故郷の歌が起こした奇跡のような……)
アリーナが歓声に包まれる。だがそれは、後に絶望の悲鳴へと変わった。
歌と光に包まれた楽園が、悲鳴と血で染まる地獄と化す。空一面に、アルカ・ノイズを召喚する召喚陣が展開された。
観客たちはまだ気づいていないが、装者である翼とマリアが真っ先に気づいた。
「これは……?!」
翼の中に、奏を失ったあの日のライブが思い出される。そしてついに、アルカ・ノイズが姿を現し、大型が客席に小型のアルカ・ノイズを産み落とした。
「やめろぉッ!」
翼の叫ぶ。が、それを踏みにじるようにアルカ・ノイズは観客に攻撃を開始し、次々と分解していく。赤いプリマ・マテリアが血のように宙を舞う。
アリーナが悲鳴に包まれる。その中を翼とマリアが駆けた。
「Imyuteus Amenohabakiri Tron」
天羽々斬とアガートラームを纏った彼女達は並走して正面のアルカ・ノイズを切り捌いた後、二手に分かれて行動を開始する。だが、それでも数が足らず、翼たちがアルカ・ノイズを倒すよりも早く、逃げまどう観客たちが分解されてしまう。
「皆さん落ち着いてください!こちらの指示に従って!」
緒川が女性を守りながら我先に逃げようとして逃げられなくなっている観客に声を張るが、その声が届くことはなく、まとめてアルカ・ノイズに分解された。
「パヴァリアの……残党……」
流石の緒川もアルカ・ノイズ相手では手も足も出ない。
アルカ・ノイズの出現は響達にも通達された。
「スタジアムにアルカ・ノイズって……、だってそこは翼さんの?!」
『はい!ピックアップ用のヘリをそちらに向かって飛ばしています!装者の皆さんは到着したヘリに搭乗後、直ちに現場に急行してください!』
「エルフナイン!私は単独で先行する!」
『任せます!』
飛行能力を持ち、最も機動力に長けたケラウノスを持つ雷が響の耳元からタブレットを引き寄せ、一言告げてから車を飛び降りた。出来るだけ人目のつかないところに走りながら、
「ライブを襲撃するなんて、遺骸へ急襲といい、一体何が狙いだ?!」
次なる敵の目的を掴むべく、現状の証拠から思考を回し始めた。
翼は刃を振るうがそれでも一向にアルカ・ノイズの数が減らない。ついにアリーナのタワーが崩落し、そこから場違いな笑い声が聞こえてきた。
笑い声の主はライトに照らされ、コウモリの羽のようなもので空を飛ぶ、吸血鬼を思わせる少女だった。
「アハハハ!恐れよ!怖じよ!ウチが来たぜぇ?!ここからが始まり、首尾よくやって見せるぜッ!」
地上から翼の蒼い斬撃が放たれるが、少女はこれを躱し、同じ地面に着地する。
「ウチの標的はお前だぜ?!風鳴翼ァ!」
「パヴァリアの残党……!歌を血で……汚すなァッ!」
一直線に猛スピードで接近する。
少女は背中の羽根を腕に纏わせて剛腕に変え、振るわれた刃を受け止めた。
「大人しくにじらせてもらえると助かるぜ……!」
「戯れるなッ!」
少女の言葉を切って捨て、押し切る。少女は斬られる直前で後ろに後退した。
「翼!深く追いすぎないでッ!」
マリアが警告するが、過去のトラウマに蝕まれている翼の耳には届かない。
コウモリの羽で三次元攻撃を行う少女と翼の刃が火花を散らす。が、実力は翼の方が上のようだ。すれ違いざまの一瞬で斬撃を加え、少女は飛んでいた勢いそのままに瓦礫に激突する。
翼は追撃をかけ、とどめを刺すべく舞い上がった土煙の中を突っ切るが、目の前に現れた、逃げ遅れた少女を盾にされてしまった。切っ先が寸前で止まる。
「何?!」
「やってくれるぜ風鳴翼ァ。弱く不完全なうちらではかなわないぜ」
「弱い……?」
この場でもっとも弱きもを盾にしているものの言いぐさかと翼の目つきが鋭くなる。
「そう、弱い……。だからこんなことをしたって、恥ずかしくないんだぜェッ?!」
少女の振りかぶられた腕が金縛りのように止まる。少女はそれに抗おうとしているのか腕が震え、冷や汗が頬を伝った。
「やめるんだぜ……。こうでもしないと、ウチは家族を守れないんだぜ……!」
通常の腕では足りないと見たのか羽を巻き付けて剛腕にし、硬直を強引に振り切って盾にしていた観客の少女を貫いた。
翼の目の前で、胴に大穴が空き、顔を血で濡らした少女が崩れ落ちた。彼女の体を中心に血の海が広がっていく。
翼は目の間で起きたことに耐えきれなくなった。
「う、うあぁぁぁあぁぁッ!」
「刻印、侵略ッ!」
少女の瞳のステンドグラスが翼の目にも映る。
「貴様ァァァッ!」
怒りのままに吠え、刀を振るうが精細さを欠いたその刃が少女に当たることはなかった。
「総毛立つ!流石にここまでだぜ!」
「そのその不埒ッ!掻っ捌かずにはいられようかぁッ!」
「落ち着きなさいッ!ここにはまだ、逃げ遅れた者がいるのよッ?!」
闇雲に刃を振るい、周りが見えなくなった翼をマリアが抑える。
宙に舞った少女はアルカ・ノイズに背を向け、
「そろそろしまいにしようぜェ?」
指パッチンを合図に背後のアルカ・ノイズがロケットのように地面に向かって加速、落下した。いくつかは空を飛んで現着した雷によって撃墜されたが、それでも数の方が多い。
アリーナが、崩壊した。
「錬金術士の追跡……不能……」
「十万人を収容した会場が……崩壊……。生命反応は……」
言葉が、続かない。
弦十郎は何も言わず、机に拳を振り下ろした。
ようやく、響達を乗せたヘリが到着した。だが、もう遅い。
(守れなかった……。大切なモノばかり……この手からすり抜けていく……)
防人が、刀を地面に落とした。剣が、手折られる。
ミラアルクがなんか不自然でしたね?
実はフランカちゃん、かなりキーポジションにいます。タイトル含めてすべて伏線のこの作品の最終オリキャラ。色々詰め込んでます。