戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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少女庭国はいいぞ。


裏側に潜むもの

 翼のライブの出来事は新聞の一面を飾り、報道番組でもメインに組み込まれるなどでずっと報道され続けている。ただ、流石にアルカ・ノイズの事を言うわけにはいかないため、報道管制によってこの事件は「ステージに仕掛けられた爆発物」によるものだとされた。

 被害者は七万人越えと、サンジェルマンが長きにわたって集めた命を一夜にして超えてしまっている。

 未来は何度も見た映像に見る気を無くし、テレビの電源を切った。

 

「……」

 

 未来は左右に目をやる。

 左側では、ソファーに寝転がり、腕を枕にして、これほどの大事件を起こした理由を今までに起きた少ない事例をもとに、ざっくりとだが敵の目的を推察する雷が。右を向けば響がタブレットに耳を当て、

 

「うん、そうだよ」

「あ……」

「私は全然!平気へっちゃら!ホントだってば!……また今度アパートにも顔出すから、心配しないで」

 

 彼女の父、洸と電話をしていた。

 彼も父親としての矜持を取り戻したようで、まだ親同士の関係修復とまで入っていないものの、娘である響との関係は良好だった。

 響が通話を切ると同時に、未来が声をかけた。

 

「おじさんとおばさんたち、結局、まだ一緒に暮らしてないの?」

「時々一緒、大体別々って感じかな」

 

 響が振り向いて言った。

 

「何年もほったらかしにしてきた蟠りは簡単にはなくならないし、お互い、上手く伝えられない思いもあるみたいだし……」

「うん、あるかもね……。上手く伝えられない思いって……。誰にでも……」

「まあ、子は鎹っていうし、響がいるなら時間の問題だと思うよ?」

 

 少し空気が沈む中、雷がゆっくりと起き上がった。

 二人の間に亀裂があっても、何かのきっかけで何とかなる。彼女はそう言っているのだ。その言葉にはかつて離れ離れになり、敵対していたF.I.S.との関係から強い説得力があった。

 

「そう……だといいな……」

「上手くいくよ。きっと……」

 

 雷は片膝を立て、それを腕で抱えるようにして顔を傾けた。未来と響は、彼女に触れると消えてしまいそうな、儚い雰囲気を纏っているように感じられた。

 少したってから、雷と響は本部メディカルルームに足を運んでいた。雷の小脇にはバインダーが抱えられており、その中には雷と響が神の力に取り込まれていた間の通信記録が収められている。当然、その内容も記録されていた。

 オートでスライドドアが開き、足を運び入れると、装者たちが全員集合しており、マリアも点滴を打ってはいるが座れるほどに回復している。

 

「マリア!」

「もういんですか?!」

「私はピンシャン!」大丈夫だと言うようにウインクをした。しかしすぐに表情を暗くし、「それよりも……」向かい側にまだ眠ったままの翼に目をやった。

「翼さん……」

 

 翼はあれからずっと眠ったままだった。

 この状態は雷がかつて鎮静剤を打った時の逆で、起きるのを拒んでいる。そういう状態だった。

 あの惨劇の中で当然のように無傷な緒川が容態を説明する。

 

「脳波に乱れがあるものの、身体機能に異常は見られません……。ですが……」

「悪夢を超える現実に、まるで意識が目覚めることを拒んでるみたいだ……」

「無理もないデス……。だって、あんな……」

 

 この場にいた全員の脳裏にミラアルクの凶行が蘇った。目の前で罪のない少女の命を、しかも背中から胸を貫くといった凄惨性の高く、ショックの大きい方法で奪ったのだ。否が応でも記憶に刻み込まれるだろう。

 それを間近で見ていたマリアは、点滴をぶら下げている支えを強く握った。

 調が敵の状態と事件の規模から疑問を口にする。

 

「解体された結社残党の仕業というには、規模も被害も大きすぎないかな……?」

「何者かの手引き……。例えば強力な支援組織の可能性も……あるいは……」

「姉さんは何かわかった?」

 

 さっきからバインダーをぱらぱらとめくり続けている雷に、調が聞いた。何時ものように相手が何者なのか、いるとすればその背後にいるのは何なのかを、既に彼女は気づいているのではないかと期待を込めていた。

 雷が開いていたバインダーをパタンと閉じて顔を上げる。そして首を、横に振った。

 

「まだ……分からないかな」

「まだ。というと、ある程度推察はついているのですか?」

 

 緒川がくいついたが、雷は頭に手を当ててはにかむ。そして一瞬だけ、誰にも気づかれないように翼の方に目をやった。

 

「情報が少なすぎてまだ何とも。ある程度はつかんでますけど、それ以上となると相手が尻尾を出していないので難しいです。まだ待たないといけないとしか……」

「そう、ですか……」

 

○○○

 

 とある場所。遺骸を強奪すべく襲撃し、ライブの惨劇を生み出したパヴァリア残党、ノーブルレッドのアジト。そこでは金髪の少女フランカが、ライブを血の海に変えたミラアルクに怒りと悲しみの混じった形相で詰め寄っていた。

 彼女は目に涙をため、痛ましいほどに叫ぶ。

 

「33503223401994115352231993342311?!(どうしてあんなことしたんですか?!)」

「ああしないとみんなを守れないからだぜ……」

 

 ミラアルクは真っ直ぐにフランカを見つめる。だが、フランカはそんな彼女が気に食わなかった。

 あの時、ミラアルクの体が一瞬硬直した原因はフランカにあった。彼女は元々人が傷つくことを嫌う優しい少女だ。

 ただでさえアルカ・ノイズによって引き起こされた惨劇で身を引き裂かれるような思いをしていたというのに、家族が血に手を染めることに耐えきれなかった彼女は、サイコキネシスで強引に動きを止めさせたのだ。しかし、ミラアルクのパワーで突破されてしまい、結局彼女は手を血で汚すことになってしまった。

 フランカの超能力は脳に埋め込まれた装置『ブレインズ・ジョウント』によって行使されるのだが、人を傷つけることが大嫌いな彼女が対人で存分に使いこなせるわけもなく、ミラアルクを止めることが出来なかったことを悔いているのだ。

 

「33465……(でも……)」

「フランカちゃんも大人になればわかるわ」

「00310440021……(ヴァネッサ……)」

 

 ヴァネッサと呼ばれたリーダー格の女性がうつらうつらとし始めたフランカを抱きとめる。耳ではヘッドホンから大音量の音楽が流れているものの、まったく眠気が阻害できていない。そしてそのまま目を閉じ、彼女の体から力が抜ける。ヴァネッサはだらんと脱力したフランカを支えた。

 ヴァネッサは悲しい目でフランカを見つめ、エルザとミラアルクに指示を出した。

 

「そろそろ時間ね……。お願いしてもいいかしら」

「ガンス……!」

「分かったぜ」

 

 指示、というよりもお願いを受けた二人は、目的の場所である港に向かって行った。

 そして到着した二人は、すでにそこにいた黒服の男たちからトランクケースを受け取る。

 エルザが中身を確認し、ミラアルクに確かに目的の物だと合図した。

 ミラアルクはピースサインををして手の甲を相手に向け、指で自分の顎を挟む独特のポーズを取った。

 

「アザマース!」

「確かに受け取ったであります。受領のサインは必要でありますか?」

 

 取引ということなので誠意をもって応答しているエルザとミラアルクだったが、男たちは如何やら化け物然とした二人を気味悪がっているようだ。

 

「いや、上からの指示はここまでだ……。俺たちもすぐに戻らなければ……!」

「別に生まれた時から怪物ってわけじゃないんだぜェ?取って食ったりなんてするもんか」

「こんな体でもわたくしめらは人間……。過度に怯える必要は……ッ?!ガルルル……!」

 

 突然、隠していたエルザの狼のような耳がツンと立ち、威嚇の唸り声を上げた。彼女のテリトリーに部外者が入り込んでいた。

 見られた以上は生かして返すわけにはいかないとすぐさま二人は部外者の走り屋を追跡する。完全に始末すべく、アルカ・ノイズを召喚した。

 本部では、アルカ・ノイズ出現の反応を検知していた。

 指令室に切歌と調、マリアが駆け込んできた。

 

「状況はどうなっているデスか?!」

「湾岸埠頭付近に、アルカ・ノイズの反応を検知!」

「防犯カメラからの映像に、パヴァリア光明結社からの残党も確認しています」

 

 セグウェイに乗ったアルカ・ノイズに、走り屋の二人が分解された。

 

「人的被害、なおも拡大中!」

「急がないと!」

「すでに現場には、響君とクリス君を向かわせている!」

「二人とも、頼んだわよ!」

 

 装者三人を乗せたヘリが現場に急行していた。

 何とか逃げていた走り屋だったが、命のかかっていることに対する緊張と恐怖からハンドル操作を誤ってしまい、勢いよく転倒してしまった。

 エルザとミラアルクが走り屋の前に立つ。

 

「お前らが仲間を……!」

「気合の入った運転技術でありました」

「だけど、赤旗振らせてもらうぜェ?」

「いやだぁ!神様ぁ!天使様ぁ!」

 

 万事休すかに思われたその時、上空から歌が聞こえてきた。

 

「Killter Ichaival Tron」

 

 イチイバルを纏っったクリスが降下しながら二丁のマグナムを発射し、的確にアルカ・ノイズを撃ち抜いていく。

 弦十郎から借りた映画の影響で拳銃を使っての近接戦闘はお茶の子さいさいだ。幾何学的に配置されたアルカ・ノイズに対して一撃で、的確なタイミングで弾丸を撃つ。

 弾切れを起こしても素早くリロードし、弾幕が途切れることはない。リロードタイムに放たれたエルザのしっぽを使った噛みつき攻撃を難なくバックジャンプで回避する。着地先にいたアルカ・ノイズを撃破し、エルザの方へ視線を向けたが、死角から航空型アルカ・ノイズが強襲してきた。

 しかし、クリスは避けるそぶりすら見せない。

 何故なら彼女には信頼できる仲間がいるからだ。響が真下からアルカ・ノイズを蹴り上げ、撃破する。そして二人は言葉を交わすことなく頷き合い、お互いが倒すべき相手へと向かって行った。




フランカちゃんは他のノーブルレッドメンバーより血液の消費量が多いです。そして脳に血液を消費する装置があるため、他メンバーよりも命にかかわります。

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