戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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最も記憶に残る話って何度も頭で考えちゃったり、読み返そうと思うけど、二度と読みたくないものだと思う。


血を求める者たち

 九死に一生を得た走り屋は胡坐をかき、思わず手を合わせた。

 

「天使だ……!ここは地獄で極楽だぁ!」

 

 しかし喜ぶのもつかの間、背後にセグウェイに乗ったようなアルカ・ノイズが迫ってきている。あともう少しでノイズの解剖器官が走り屋に触れる寸前で響の正拳が突き刺さり、アルカ・ノイズを赤いプリマ・マテリアへと帰した。

 

「そう言うのいいから!はやく逃げて!」

 

 響に逃げろと言われてからも、走り屋の男は手を合わせている。が、最後まで拝み終えたようだ。満足げに立ち上がり、そそくさとその場から走り去って控えていたエージェントに保護された。

 空を飛んでいたミラアルクが響をターゲットに定め、急降下でドロップキックを繰り出した。改造によって取り付けられたバイオブーステッドユニット『カイロプテラ』を両足に纏わせ、剛脚化することで破壊力を高める。

 

「邪魔はさせないぜェ!」

 

 急降下によって高い威力を持ったミラアルクのドロップキックを響がクロスガードで受け止めた。受け止めた衝撃が走り、響の背後のアスファルトがひび割れが入る。

 

「イチイバルとガングニール、一名の救助に成功!」

「付近住民の避難を急ぎます!」

 

 何とか一名を助け出すことが出来た。

 つまり三人のうちの二人を助け出すことが出来なかったということだが、それでもゼロ人よりははるかにましだ。それに加えて生存者がいるということは、何故、彼らが敵対組織に追われているのかを知ることが出来るということだ。確定をすることは出来ないが、ある程度の推察をすることは出来る。

 ミラアルクがカイロプテラを腕に纏わせた。全力ではないとはいえ、フランカのサイコキネシスを振り切るほどの力で同じくパワー自慢の響と取っ組み合いを繰り広げる。

 響の心中にないものねだりが募る。

 

(正面切っての力比べ……こんな時ッ……!)

「分かるぜェ?今イグナイトモジュールがあればって考えてるんだろう?」

「なッ?!」

 

 心に思っていたことを覗かれ、不意を突かれたことで一瞬だけ力が抜ける。ミラアルクはその隙をついて力を強め、抑え込み始めた。

 

「決戦機能を失って、戦力ダウンしたって調べはついてるんだぜェ?」

「くぅッ!だからって負けるわけにはッ……!」

 

 ミラアルクの煽りに対して響は力み、力づくで押し返す。響の心理がミラアルクの手中に乗った。

 吸血鬼の魅了の目を模した不浄なる視線『ステインドグランス』の怪しい輝きが響の瞳に入り込む。だが響には効果が薄いのか、彼女はかぶりを振ってそれを振り払い、さらに力を込めた。

 そして一瞬だけ抜くことでミラアルクを前のめりにさせて彼女の腕を振り払い、回し蹴りを繰り出した。しかしミラアルクは腕を払われた瞬間に跳躍し、カイロプテラを翼に戻して空中に離脱した。

 響が瞬きを繰り返し、違和感を再度認識する。

 

「な、なに?!いまのは?!」

「流石に虚を突かないと、目くらまし程度か!……エルザ!ヴァネッサが戻るまでは無茶は禁物!フランカが動けない以上即座のテレポートは出来ない!アジトで落ち合うぜ!」

「ガンスッ……!ここは一つ、撤退でありますッ!」

 

 撤退するべくエルザは懐からテレポートジェムを取り出したが、ここで仕留めるつもりのクリスの放った矢が彼女の手からジェムを叩き落とした。

 

「ッ?!」

「エルザッ!」

 

 ミラアルクが片方のカイロプテラを腕に纏わせ、クリスの真上にあった柱を殴り砕き、彼女に瓦礫を降り注がせた。

 なんとか直撃は避けたものの、巨大な瓦礫によって射線を断たれてしまった。遠距離攻撃を持たない響では逃走する二人を追撃できないためクリスがやらなければならない。

 そこで響が機転を利かせ、バレーのレシーブのような体勢をとった。

 

「クリスちゃん!」

 

 クリスは直ぐにその意図を汲み、響に向かって駆け出した後彼女の両腕に足を掛けた。すると響が勢いよく腕を振り上げ、その勢いを利用してクリスが跳躍する。二丁のボウガンを連結してロングライフルにし、ヘッドギアをスコープに変形させて空中で構えた。

 クリスの瞳が道路を疾走するエルザを捉える。

 

       『RED HOT BLAZE』

 

 赤い高エネルギーを内包した弾丸がエルザに放たれた。

 弾丸は着弾した瞬間に大爆発を引き起こす。煙が晴れた後、クレーターに残っていたのは何かが入ったアタッシュケースだけだった。クリス達は、敵対組織を取り逃がしてしまったようだ。

 アタッシュケースは本部に回収され、解析されている。

 

「回収したアタッシュケースの解析完了!」

「結果をモニターに回します」

 

 モニターにはに映されたケースの中には、複数の保冷剤と四袋ほどの赤い液体が充填された袋が入っていた。

 

「まさかの……ケチャップ?!」

「この季節にバーベキューパーティーとは、敵もさるもの引っ搔くものデス!」

 

 調と切歌が何やら素っ頓狂なことを言っているが、当然答えは違う。特に雷は、かつて病院通いだったので見慣れたものだ。成分輸血が主流になっている昨今だが、かつて手首を切って自殺しようとした際に成分輸血では全く足りないため使ったことがあるのだ。

 

「何言ってるの二人とも。あれは全血清剤だよ。最近は成分輸血が主流だからあまり見ないけど」

「それ以上に気になるのは、その種類です」

 

 エルフナインが振り返った。

 

「Rhソイル式……。百四十万人に一人という、稀血の判明しています」

「まさか……輸血を必要としているとでも言うの?」

 

 雷が顎に手を当て、これまでの出来事と今現在起きたことを総括して推察を進める。

 そうしていると、生存した走り屋から聞き取り調査を終えた緒川がブリッジにやって来た。

 

「被害者からの聞き取りが終わりました。埠頭にて、少女たちと黒ずくめ男の二人組を目撃し、麻薬の取引現場だと思ったようです」

「つまり、パヴァリア光明結社の残党を、支援している者がいるということか」

「考えられるのは、これまで幾度となく干渉してきた米国政府……」

「それはない」

 

 藤尭の意見を、雷が真っ先に斬って捨てた。彼的にはそれなりに考えて出した意見なのだが、それはすでに雷が通った道だ。

 

「その根拠は?」

「まず一に、残党が米国に雇われているなら、米国空母を襲撃する理由がない事。その二、基本的に海外から血液を輸入しない事。その三、米国は神を殺すために反応兵器を撃ったこと。……つまり、支援者は国内で。Rhソイル式という稀血を取引材料に出来るほどの量を持ち。神の力の威力を知り。そして神の力を研究、運用できる大組織に限られます」

「確かに……言われて見ればそうだ」

 

 これが雷が現時点で導き出した答えだった。

 そしてすぐに、米国が雇い主ではないことを証明する報告が本部に届く。

 

「米国、ロスアラモス研究所が、パヴァリア光明結社の残党と思わしき敵性体に襲撃されたとの知らせです!」

「これで、雷君の言う通り米国が支援者という線は消えたか……」

 

 残された監視カメラに向かって、褐色肌の、ライダースーツを着た女性、ヴァネッサが怪しく微笑んでいた。

 

○○○

 

 ノーブルレッドのアジトでは、先の戦闘で負傷したエルザと、ソイル式血液の不足から意識を失ったフランカが横たわっていた。エルザの呼吸は荒く、逆にフランカの呼吸は最低限の回数にとどまっている。

 フランカは改造部位が脳であるため、ソイル式血液でないと脳に酸素と栄養を送り込めず、不足すると自動的に意識を失うことで休眠するようになっていた。

 ミラアルクが彼女らの隣に立つ。

 

「わたくしめの不始末であります……。あの時、死んでもケースを手放さなければ……」

 

 エルザが隣のベッドで眠るフランカの方を向いた。

 ミラアルクは少しフランカの方を向いた後、エルザの方を向く。

 

「何言ってんだ、死んでら元も子もないんだぜ?」

「ですが、血液を必要としているのは、ミラアルクだって同じことであります。それ以上に、これ以上血液が不足していると、フランカが本当に死んでしまうであります……」

「戦わなければ、しばらく力も持つはずだ。それにフランカも、後二、三日は持つってヴァネッサが言ってたろ?それまでには何とかしてみせるぜ」

 

 安心させるためにミラアルクはエルザの頭を撫でてあげた。普段は最年少のフランカに姉ぶっているエルザだったが、今回ばかりは別だ。うれしそうに頬を綻ばせている。

 その顔を見て、ミラアルクは固めていた決意をさらに強くする。

 

(ウチはどんな手を使ってでも、フランカとエルザ、ヴァネッサを……!)

 

○○○

 

 今だ療養中の翼を除いた装者たちは全員集合し、政治的な意見を聞くべく弦十郎の兄、八紘と通信を繋いでいた。

 

「昨日の入電から丸一日、目立った動きはなさそうだが兄貴はどう見てる?」

『ロスアラモス研究所は、米国の先端技術の発信地点。同時に異端技術の研究拠点でもある。米国を一連の事件の黒幕と想像するにはやはり無理がありそうだ』

「米国の異端技術って……」

 

 調が反応した。米国の異端技術を研究しているといえば、あそこしかない。マリア、調、切歌。そして雷にかかわりの深い場所だ。

 

「ああ。断言はできないが、ロスアラモス研究所は、かつてF.I.S.が所在したと目されている場所だ」

『かつての新エネルギー、原子力の他エシュロンといった先端技術も、ロスアラモスでの研究で実現したと聞いている』

「そんな所を襲ったってことは、やはり何か大事なものを狙ってデスか?!」

 

 切歌の問いに八紘が電話越しに応える。

 

『伝えられてる情報ではさしたる力もないいくつかの聖遺物、そして……』

「これって……!やっぱそうくるのか!」

 

 八紘のパソコンに映された画像が、リンクしていた本部のメインモニターにも映される。

 モニターに映された画像には少し前の任務で米国に移送された、アヌンナキのミイラが腕につけていた腕輪が機械に繋がれているものだった。

 現時点で解明していることを八紘が伝える。

 

『極冠にて回収された先史文明期の遺産。腕輪に刻まれた紋様を、楔形文字に照らし合わせると『シェム・ハ』と解読できる箇所があるそうだ』

「シェム・ハ……。シェム・ハの腕輪……?」

「って、もろ最重要アイテムじゃないですか?!」

 

 しっかりと聞いていた雷だったが、最も重要な聖遺物が奪われていることに突っ込んでしまった。

 そのことをしっかり把握している八紘は「その通りだ」と短く返事し、当面の行動方針を伝える。

 

『君たちの任務は当面、腕輪の奪還と残党の拿捕になりそうだ。私は事件解決に向け、米国政府には引き続き協力を要請していく。これが私の戦いだ』

「恩に着る!八紘兄貴!」

 

 八紘との通信が切れた直後、ドアが開き、奥から復調した翼が現れた。




フランカはサイコキネシスとパイロキネシス、テレポートにテレパシーにクレアボヤンス、サイコメトリー、アポート、念写、極近未来のプレコグニションが現在使用できる。なお、これらは全て本人の性質から対人使用において出力が減衰する。

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