戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
夕暮れ時、未来はたった一人で親友二人が翼と一緒にいたことを思い返しながら「ふらわー」へと足を運んでいた。自分の隣を仲のよさそうな三人組が通っていく。それをしり目に見ながら何故、私の横に二人はいないんだろうと表情を曇らせる。
リディアンからずっとその調子で、ふと顔を上げるといつの間にか店の目の前に到着していた。がらがらと今時珍しいガラス戸を開けると、顔なじみになったおばちゃんが包丁を動かしていた手を止めて声をかけてくれる。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
「おや?いつも人の三倍は食べる子と小玉の半分も食べない子は、一緒じゃないの?」
「今日は・・・私一人です」
「そうかい」
何時もの子とは、言うまでもなく響と雷だ。いつも三人で、しかも個性的な集まりだからセットで覚えられていたのだろう。カウンター席に座ってベーシックなお好み焼きを注文すると、おばちゃんが背を向けて鉄板で調理を始める。
「じゃあ、今日はおばちゃんがあの子たちの分まで食べるとしよかねぇ~」
「食べなくていいから焼いてください」
「あらっ、あははは!」
気分の沈んでいる未来を励まそうとしているのだろう。小粋なジョークを交えて話を振る。未来が下を向きながら言葉をこぼす。
「お腹空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きを食べたくて、朝から何も食べてないから」
その言葉を聞いておばちゃんがお好み焼きの調理を再開しながら未来に言い聞かせるように言う。
「お腹空いたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」
おばちゃんの言葉に今までの雷と響に対する自分の行動が思い返される。
(そうかもしれない・・・。私が勝手に思い込んでるだけだもの。ちゃんと話せば、きっと・・・)
「ありがとう、おばちゃん」
自分をその考えに至らせてくれたおばちゃんに感謝を述べる。おばちゃんはうれしそうに笑う。
「何かあったら、またいつでもおばちゃんのところにおいで」
「はい!」
来た時とは打って変わって、未来の顔には晴れやかな笑顔が浮かんでいた。
○○○
病院の屋上で雷と響、翼の三人はベンチに腰かけて会話に花を咲かせていた。雷や響は言わずもがな、翼からは今まで感じていた見えない壁のようなものが消えて距離が縮まったようだ。その証拠に、二人のことを呼ぶときに名字から「さん」が消えている。先ほどから響が「うーん」と唸りながら考え事をしている。いきなり雷が響のほうを見ていた顔を翼に向けて叫んだ。
「翼さん下がって!響の頭が爆発する!響の頭は長いこと考えると爆発するようにできてるんです!」
「えっ?!そうなの?!」
「雷?!翼さん!私の頭そんな風になりませんよ?!」
雷の冗談を翼が真に受けてあわてて響に確認する。再び雷が響のほうに顔を戻してにんまりと笑いながら話を戻す。
「で、何を考えてたの?」
考えていた時と同じ顔に戻して響が答える。
「アームドギアの事。使い方がすぐに思いつかなくて・・・」
長い鍛錬で刀を使いこなす翼や、形のない稲妻をイメージで動かしている雷と違っていきなり槍を使え、といわれてもそんな簡単に使い方が思いつくわけがない。響が翼に詰め寄る。
「知ってますか翼さん!お腹空いたまま考えても、ロクな答えが出せないってこと!」
「何よそれ?」
「『ふらわー』ってお好み焼き屋のおばちゃんの受け売りなんです」
「そう!掛け値なしに名言ですよ!」
響は両手を銃の形にしてポカンとした表情の翼に向け、雷の手を取って勢い良く立ち上がって足踏みをし始める。
「そうだ翼さん!私達、『ふらわー』のお好み焼きをお持ち帰りしてきます!お腹いっぱいになればギアの使い方もひらめくと思いますし~。翼さんも気に入ってくれると思います!」
「私は胃腸が弱くてそんなに食べれないんですけど、ほっぺが落ちるほどおいしいんですよ!」
「え、あ、ちょ!待ちなさい!立花!轟!」
翼の制止を無視して響と手をつながれた雷は下に降りる階段へと駆け出していく。その二人の後姿を見て、翼は楽し気に微笑んだ。
二課でネフシュタンの少女が観測されたため、周囲への避難勧告と雷、響の装者二名に現場に急行することが通達された。その連絡を受け、「ふらわー」に行く事を中断して二人は現場に走っていく。
「響―!雷ー!」
「未来・・・」
「ッ?!」
「お前らぁ!」
二人に手を振る少女がいた、未来だ。横からの敵意に二人は咄嗟に振り向き、駆け寄ってくる未来に大声で伝える。
「来ちゃだめだ!ここは・・・ッ!」
「未来!」
二人と未来の間を少女の鞭が通り抜け、その衝撃で地面がえぐれ、未来が吹き飛ばされる。少女が鞭を戻しながら言葉をこぼす。
「しまった!あいつらの他にもいたのか!」
吹き飛ばされた未来の頭上に、ボロボロになった車が落下してくる。雷と響が同時に歌った。
「Voltaters Kelaunus Tron」
「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」
「未来を・・・!傷つけたなあぁぁ!」
『雷刃抜拳・桜花』
「ぐうッ!」
ギアを纏った雷の怒りと稲妻を乗せたこぶしが未来を傷つけた少女に突き刺さり、響は未来に落下してくる車をはじき返す。未来はそんな二人に呆然としている。
「響・・・。雷・・・」
「ごめん・・・」
そう言い残し、響は少女を攻撃し続ける雷に少し遅れて合流する。安定しない精神状態で未来を傷つけないように距離を取っていたようだ。未来が無事だと伝えたら怒りが収まったあたり、如何やら完全に不安定になってるわけではなく、軽度のものだったらしい。
二人は頷き合い、市街地から離れるために走り始め、ネフシュタンの少女がそれを追撃する。ある程度距離をとったところで二人は足を止めて少女と対面する。鞭による攻撃を響がクロスガードで防いだ。
「どんくせえのがやってくれる!」
「どんくさいなんて名前じゃない!」
響が少女の反応なんて気にせずに反論する。
「私は立花響、十五歳!誕生日は九月の十三日で、血液型はO型!身長は、この間の測定では一五七センチ!体重は・・・もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで好きなものはご飯アンドご飯!あと・・・彼氏いない歴は年齢と同じぃ!・・・ほら雷も!」
「え、私もぉ?!わ、私の名前は轟雷、年齢は響と同じ!誕生日は六月の五日で血液型はAB型!身長は一五五センチで体重はまだ秘密!趣味はじしょ「それ以外で!」・・・読書で好きなものは胃腸に優しいもの!彼氏は今は別に求めてません!・・・これでいい?!」
「うん!大丈夫!」
響のテンションに乗せられて雷も自分のプロフィールを盛大に暴露する。かなり恥ずかしかったのか顔が真っ赤だ。そんな二人の様子に少女が引いたまま口を開く。
「な、なにをトチ狂ってやがるんだお前ら・・・」
「私達はノイズと違って言葉が通じ合えるんだからちゃんと話し合いたい!」
「なんて悠長!この期に及んでぇッ!」
少女が二人に鞭をふるい、二人は跳んで避ける。そんなことが何度も繰り返される。
(こいつ!ケラウノスはともかくガングニールの動きが変わった!覚悟か?!)
「話し合おうよ!私達は戦っちゃいけないんだ!だって、言葉が通じていれば人間は・・・!」
響が訴えかけ、雷は何があってもいいように戦闘態勢を維持している。少女が絶叫した。
「うるせぇッ!分かり合えるものかよ人間が!そんなふうにできているものかぁッ!気に入らねえ!気に入らねえ!気に入らねぇ!わかっちゃいねえことを知ったふうに口にするお前がぁッ!・・・お前とギアを引きずってこいと言われたがもうそんなことはどうでもいい!お前らをこの手で叩きつぶす!今度こそお前らのすべてを踏みにじってやるぅッ!」
「私だってやられるわけには!」
「吹っ飛べッ!」
『NIRVANA GEDON』
響がネフシュタンの鞭の先から発生した球体を受け止める。それを見越していたのかもう一発を打ち込む。
「もってけダブルだぁ!」
「響下がって!」
「!わかった!」
先にはなった球体と二発目が接触し、大爆発が起こる。しかし、その爆発から雷の展開した斥力フィールドが二人を守りきった。一度響が受け止めたのは響が入るフィールド範囲を増やした分、展開に時間がかかったからだ。
「お前なんかがいるから!私はまた・・・!ッ?!」
「はぁぁぁぁ!」
爆発で待った土煙の中、響がアームドギアを構築するエネルギーを貯めるが制御しきれず吹き飛んでしまう。
「響!」
「大丈夫!」
吹き飛んだ響を雷が受け止める。響は拳を握りしめ、どうすればアームドギアを展開できるか考える。そして、エネルギーを雷の稲妻みたいにそのままぶつけるという解決策を思いつき、右手にエネルギーを集中させる。
「この短期間に、アームドギアまで手にしようってのか?!させるかよぉ!」
それを阻止すべく放った少女の二本の鞭を右腕一本で受け止め、握りつぶしながら思いっきり引っ張る。その勢いで少女の体が引っ張られて宙に浮くと、響が腰のブースターを点火する。頭の中に弦十郎の教えと自分の心情が重なり合う。後ろから雷の援護が入る。
「行くよ響!」
「うん!」
『超電磁トルネード』
強力な磁気を放つ稲妻の嵐によって空間に少女の体が固定され、響の拳が胸に突き刺さる。固定されているので後ろに吹き飛べず、衝撃を逃がすことが出来ない。ネフシュタンの鎧が完全に粉砕された。
○○○
「響・・・。雷・・・」
二人の戦う姿に、未来は涙をこぼした。
見られてしまいましたね・・・