戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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タイトルは初めて装者たちとパヴァリア幹部が前面衝突した回のオマージュです。


明日に咲く黄金の華

 一時間後きっかりに装者たちを乗せたS.O.N.G.のヘリは発信機が発する信号を追って四方を崖に囲まれたくぼ地へとやって来ていた。

 問題の雷の精密検査であったが、まったく異常は見られなかった。しかし、何が原因で起きたかはわからないので、常に警戒しておくようにとのことだ。彼女自身はあれ以来何ともないので、逆に不思議に思っている。この作戦が終わり次第、原因を探るつもりでいるらしい。

 ヘリのサーチライトが地面に立つノーブルレッドのメンバーを照らした。数字でしゃべる少女、フランカの姿は確認できない。

 ヴァネッサたちからすれば強力な反面、ただ立っているだけでパナケイア流体が濁ってしまう彼女を戦線に立たせたくないのだ。眠っていれば脳内の『ブレインズ・ジョウント』は起動せず、まだ幼い彼女を内外問わず傷つけたくないという判断だ。直ぐに戻れるようにテレポートの帰還ポイントは彼女のそばに指定している。

 翼がヘリから身を乗り出す。

 

「迎え撃つとは殊勝な!」

「行きますッ!」

 

 真っ先に響がヘリから飛び下りた。雷たちも彼女の後に続く。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir Tron」

 

 響がガングニールを纏うと同様に全員が各々のギアを起動させ、着地しようとした瞬間、突如地面が大爆発した。地雷だ。一つでは装者にとって大したものではないが、流石に何十個も同時起爆されてしまえば怯み、歌も止まる。

 

「何だとぉ?!」

 

 弦十郎にとっても読めない奇策だった。ノーブルレッドはすでに安全地帯であろう場所に避難していた。

 

「あえてこちらの姿を晒すことで降下地点を限定させるであります。あとはそこを中心に、地雷原とするだけで……」

「他愛無いぜ」

 

 これは発信機をしかけられ、逃げ出すアジトがない以上迎え撃つしかない彼女たちが打った策であった。更に控えている秘策に必要な最低人数と、その後に必要となる全血清剤がそろっているからこそ打てた乾坤一擲のものだ。

 威力は大きいとはいえ通常兵器。ダメージは負ったもののそこまで酷いものではなかったため、装者たちは立ち上がる。

 

「あたり一面地雷原なら……!」

「姉ちゃんが誤作動させればいいだけデス……!」

「いや、無理だ」

 

 雷が断言する。

 ヘッドギアに搭載された管制システムであるティアラで地雷原の配置と地雷の種類を把握したところ、電磁波では誤作動しない接触地雷であった。地雷の信管は確実性がウリである。まず誤作動しないだろう。

 当然、ギアの情報を掴んでいるノーブルレッドがケラウノス対策で用意した地雷だ。

 

「でも、一度爆発した所に地雷は埋まってないのデス!」

 

 一度爆発した着地地点に雷たちが集結する。が、この時点でノーブルレッドの手の内に入っていた。

 

「それもまた予測の範疇であります!」

 

 エルザたちは散開し、装者たちを三角形で囲うような位置に移動した。

 

「行くぜェッー!」

 

 三人は装者たちに向かって手を掲げる。すると、中心に複数の立方体が出現し、地面に落下した。そしてその立方体は隙間を無めるように組みあがっていく。

 

「フォーメーションを崩させれば!」

 

 雷が電磁操作を応用して飛翔し、脱出を試みるが頭上にいきなり立方体が出現し、それの落下に合わせて地面に叩きつけられた。立方体の出現からして、空から脱出することも不可能らしい。

 

「ぐッ?!」

「雷ッ?!」

「させるかよぉッ!」

 

       『MEGA DETH PARTY』

 

 クリスが腰部アーマーから小型ミサイルを一斉発射したが、この水色の立方体はかなり頑丈なのか傷一つついていない。

 

「馬鹿な?!雪音の火力で砕けぬとは!」

「そう、あれかし……」

 

 落下の速度が速まり、あっという間に周囲を囲まれてしまった。更に響達の意識が遠くなる。

 体感的にはアッというまだったが、装者たちはまるで迷路のようなところに閉じ込められていた。しかも一か所に集まっていたにもかかわらず、分断されてしまっている。

 

「レーダーも通信も効かない?!」

 

 特殊な空間であるためか通信も繋がらず、レーダーによる探知も不可能となっていた。これでは雷の特性を利用した遠隔ユニゾンが使用できない。

 調が叫ぶ。

 

「切ちゃん!姉さん!みんな!どこにいるの?!」

 

 声は壁に吸収されてしまっているようで、響いていないために他の場所に届くことはなかった。

 切歌が鎌を隙間に向かって振り下ろすが、衝撃が刃に返ってくるだけでほんの少しも通らない。

 

「刃が通らない…簡単には抜け出せないということデスか!」

 

 本部でもこの不可思議なものが解明できていないようだ。外側から見れば、巨大なピラミッドの中に響達は閉じ込められている。

 雷たちは己の信ずるほうへと走り出したが、何処まで行っても壁、壁、壁。脱出口などそういった物が全く見当たらない。

 

「名称・ダイダロスの真髄をここに……。怪物が蠢くは迷宮……神話や伝承、果ては数多の創作物による積層認識が、そうあれかしと引き起こした事象の改変、哲学兵装」

「怪物と蔑まれた私めら三人が形成する、全長38万kmを超える哲学の迷宮は、捉えた獲物を逃がさないであります!」

「それだけじゃないんだぜェ?!」

 

 ヴァネッサたちはさらに力を籠める。

 すると装者たちの背後に光が満ち、まるで彼女たちを追い立てるように迫ってきた。その進行速度はかなり早く、速度を上げる。

 

「な、なにこれぇぇッ?!」

「あ、あなた達?!」

 

 すると複数の通路が集まった場所にたどり着いた。誰もがこれでほかのところに逃げられると思ったのもつかの間、それぞれの通路から光に追い立てられた他の装者たちが現れたのだ。

 

「来るぞ!衝撃はだッ!」

「私の周りにッ!」

 

 逃げることは不可能なため、耐えきることに集中する。

 雷が周囲に最大出力の斥力フィールドを展開し、彼女の周りに響達が防御姿勢で衝撃に備える。

 

「「「ダイダロス・エンドッ!」」」

 

 四方八方からのエネルギーが一か所に集まり、高まった圧力がピラミッドの隙間から光を漏れ出させる。

 発動したヴァネッサたちもかなり体力を使ったのか、肩で息をしている状態だ。

 

「行き場のない閉鎖空間にてエネルギーを圧縮、炸裂させれば……」

「私めらのような弱い力でも、相乗的に威力を高め、窮鼠だって猫を噛むであります!」

「だが……敵はさすがのシンフォギア。簡単にはいかないみたいだぜ!」

 

 斥力フィールドによって何とか防ぎ切ることは出来たが、あまりの威力だったため全員が倒れ伏している。最大出力でコレなのだ。しかも、もうフィールドを展開することは出来ない。

 

「なら、もう一撃にて!」

 

 ならばと追撃を仕掛ける。もう雷たちに防ぐ手立てはない。絶体絶命のピンチだ。

 追い込まれた響の深層心理が弱音を吐く。

 

「勝てない……どうして……?サンジェルマンさん達の想いの籠ったこのギアで……」

「勝てない?ならば問おう。お前は何に負けたのだ?」

「サンジェルマンさん……!」

 

 いきなり現れたサンジェルマンに驚き、その身を起こす。

 

「誰に負けた?立花響」

「そうだ……負けたのは自分自身に……勝てないと抗い続ける事を忘れた私にッ!」

「私が手を貸す。だから忘れるな立花響!想いを通すために握る拳をッ!」

 

 自分が折れていなければ負けはないと、ようやく自分の強さに気が付いた響にサンジェルマンが手を伸ばす。

 そして響は己を鼓舞し、立ち上がる。

 

「忘れない……すれ違った想いを繋ぐために拳を開くことを!そしてッ!信じた正義を握りしめることをッ!」

 

 戦友となり、想いと願いを乗せたサンジェルマンの手を響はとる。

 

「ダイダロス・エンドッ!フルスロットル!であります!」

「今度は迷宮ごとぶっ飛ばすぜ!」

「この威力でなら……!」

 

 内部に照射されたエネルギーの出力と圧力に迷宮が耐えきれず、爆散する。核爆弾の原理に近いそれは、とてつもない破壊力を生み出した。

 煙が晴れ、そこには何も残っていない……はずだった。

 朝日を背負い、金の粒子の中に響は立っていた。手の甲に黄金の華を刻んで。

 

「だとしてもぉぉぉッ!」

 

 彼女だけではない。雷たち全員が無事だ。

 

「黄金の……バリアフィールド……」

「これは……一体……?」

 

 ギアが変化し、装甲が無くなってインナースーツだけとなっていた。

 疑問を浮かべる翼に響が振り返る。

 

「サンジェルマンさんが手を繋いでくれました!」

「なに?!」

「力を貸してくれたんです!」

 

 再びダイダロスの迷宮を展開しようとするノーブルレッドだったが、響は拳を手のひらに打ち付け、甲に描かれた花を展開する。そしてその花弁を殴り砕き、肩に巨大な剛腕として展開した。

 迫りくる立方体を一撃で粉砕する。

 エルフナインがこの力を解析する。

 

「賢者の石によってリビルドしたシンフォギアに秘められた力……ギアを構築するエネルギーを解き放ち、高密度のバリアを形成……」

 

 もう同じ手は通用しないと悟ったミラアルクはカイロプテラをブーメランのように変化させ、大きく振りかぶって投擲した。

 

「ダイナミックッ!」

 

 だが、響は黄金の拳で正面から受け流す。

 エルザが『テール・アタッチメント』を装着し、響に殴りかかったが彼女はそれを正面から受け止めた。そしてもう片方の腕でアタッチメントを掴み、ロケットパンチのように発射する。

 

「不味いであります!」

 

 動物的な勘で気付いたエルザは尻尾を切り離した。すると、しばらく拳は空を飛んだあと、空中で爆発した。

 飛翔した拳は響の肩にあるアームに戻ってくる。

 

「さらにエネルギーの大半を攻撃へと転化することで可能とする不退転機能!それは!シンフォギアとファウストローブの融合症例、アマルガム!」

 

 エルザはスーツケースから新たなアタッチメントを接続し、半球のようなもので体を覆って高速回転しながら突撃する。

 

「こんな所で諦めるわけにはいかないであります!」

「その通り!うちらはここで退くわけにはいかないんだぜ!」

 

 ミラアルクはカイロプテラを右腕に纏わせた。

 エルザの突撃はドリルのように拳を回転させた響にはじき返され、ミラアルクの拳は掴まれ、がら空きの腹部にボディーブローをもらってしまう。

 しかし彼女はその衝撃を利用して飛翔し、カイロプテラを両足に纏わせてドロップキックを繰り出すも迎撃され、殴り飛ばされてしまった。

 

「エルザちゃん?!ミラアルクちゃん?!」

 

 ヴァネッサは歯噛みする。そして崖から飛び下り、響の前に立った。

 

「それでも私達は神の力を求め欲する!神の力でもう一度人の体と戻るためにッー!」

 

 腕や足からミサイルポッドを展開し、一斉発射した。だが、響とサンジェルマンは止まらない。

 

「だとしてもッ!貫けぇぇッ!」

 

 爆炎を殴り抜いて突破し、ヴァネッサの顔面に拳を振るう。

 ヴァネッサは反射的に目を瞑った。だが、響の拳はいつまでたっても来ることはなかった。

 恐る恐る開けると、黄金の拳は当たる直前で止まっていた。

 

「どうして……」

「ほんとか嘘かはわかりません。だけどみんなと仲良くしたいと聞きました。だから……」

 

 響は黄金の腕を下ろし、自分の手を差し出した。その時、突然アラートが鳴り響いた。

 

『現時刻を以て装者全員の作戦行動を中止とする。日本政府からの通達だ!』

「先手を打たれたッ……!」

 

 雷が悔し気に歯を食いしばった。

 クリスが不満をぶちまける。

 

『どういうことだおっさん?!』

 

 本部は銃を持った特殊部隊に占拠されてしまっていた。いくら弦十郎でも人質を取られては動けない。

 指示に従う他になかった。




アマルガム、雷ちゃん使う予定がないんだよなぁ……。

フランカちゃんの睡眠時間は十時間です。パナケイア流体以外の負荷を取り除くにはこれぐらい寝ないといけません。

因みにダイダロスは雷ちゃんが『シンカ・雷帝顕現』を使えばぶっ壊せますがそんな暇はありませんでした。

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