戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
そういやそろそろこれを投稿して一年ですね。
ノーブルレッドとの全面衝突の末、日本政府の介入を受けたS.O.N.G.は彼女たちをあと一歩のところで取り逃がしてしまう。
手を取り合い、分かり合うことのできる可能性。彼女たちが贖罪し、人として罪を背負うことが出来る可能性。それらがすべてあと一歩のところで摘み取られてしまった。
ヴァネッサが飛行能力を持たないエルザを小脇に抱え、足裏からのジェット噴射で空を飛び、ミラアルクがカイロプテラで羽ばたく。
「預けるであります。シンフォギア!」
「離脱するぜ、ヴァネッサ!」
ヴァネッサの目は、名残惜しそうな、そんな目をしていた。
○○○
ギアを解除した装者たちは、日本政府が介入したというブリッジにいた。そしてそこで、制圧されたことが張ったりではなく事実であったことを知る。
「まさか……本当に……」
「本部が制圧されるなんて……」
「制圧とは不躾な。言葉を知らぬのか?」
「銃を突き付けて制圧ではないと?」
髭の生えた、見るからに悪人面の査察官は雷の物言いをあえて無視した。
制圧されたS.O.N.G.の指令である弦十郎が彼らが何故国際機関であるここに介入できたのかを口にする。
「護国災害派遣法第六条。日本政府は、日本国内におけるあらゆる特異災害に対して優先的に介入することができる、だったな」
査察官は下卑た笑みを浮かべながら護国災害派遣法第六条に関する書類を取り出した。
これは風鳴訃堂の後押しによってつくられた法律である。被害と混乱を最小限にとどめるものであるとは言えかなり乱暴で、引き金となった聖遺物を国際間ではなく風鳴機関。即ち、風鳴訃堂個人が保有することが出来るという物だ。
通称護災法と呼ばれるこの法律だが、訃堂自身が暴力的とも取れる権力を自由に振るえるようにあらかじめ拡大解釈の余地を大きく残している。
査察官、訃堂の尖兵が法を盾に要求する。
「そうだ。我々が日本政府の代表としてS.O.N.G.に査察を申し込んでいる。威力による制圧と同じに扱ってもらっては困る。世論がざわっとするから本当に困る!」
「どう見ても同じなんだけど……」
「あの手合いを刺激しないの……!」
因みにこの法律が可決されてから野党の反対が大きくなっている。この国をどこぞやらに売ろうとするような動きが目立つ連中であるが、流石にこればかりはと国民からも反対の意見が出ている。最も、護国の鬼を自称する訃堂が決めた法律だ。否決されることはないだろう。
「国連直轄の特殊部隊が、野放図に威力行使できるのはあらかじめその詳細を開示し、日本政府に認可されている部分が大きい!違うかな?」
「やられたッ……!」
「まさか、アマルガムを?!」
雷が歯ぎしりする。その意味にエルフナインが気付いた。
アマルガムと名付けられた先の戦いで初めて発現した決戦機能。この機能は前回の報告の際には存在しておらず、
査察官は気分がいいのか気持ちよさそうな顔をしている。
「ッ!」
「風鳴指令……。ここは政府からの要求を受け入れるべきかと」
「そうデスとも……って、え。えー?!」
「切ちゃん、今難しい話をしているから……」
調のさらっとした毒が切歌を襲う。
一方、それならば話は早いと錬金術師兼研究者であるエルフナインと、装者兼研究者の雷が無言でうなずき合い、二人してブリッジを飛び出して行った。
査察官はニヤニヤと笑いながら要求をのませようとする。
「後ろ暗さを抱えてなければ、素直に査察を受け入れてもらいましょうか?」
「ぬう……。いいだろう……だが条件がある。装者の自由と、ギアコンバータの携行許可。今は戦時故、不測の事態への備えくらいはさせてもらう!」
「折り合いの付け所か……。ただし!あの不明武装については、認可が下りるまで使用禁止とさせてもらおう!」
「ッ!勝手にしろッ!」
「では、勝手を開始する」
意外と交渉が通じるいあてではあったが、それでもアマルガムが封じられてしまうのがかなり痛手だ。まあ、それを可能な限り軽減するために雷とエルフナインの二人は動いたのだが。
「あれは……不明武装なんかじゃない……!拳を開く勇気なのに……!」
響にとってはそうかもしれない。だが、繋ぐのも手であれば、敵を殺すのも手なのだ。対外的に見れば、あれは敵を撃滅する正体不明の兵器でしかなかった。
○○○
激闘を終え、新たなアジトをあてがわれたノーブルレッドだったが、その場所は意外なところだった。
「灯台下暗しなのであります……」
「まさかここをあてがわれるとは思ってもみなかったぜ……」
「01821113503(ありがとう)」
「あんなこと言われたら、ノーとは言えないじゃない」
車の中で眠っていたフランカも合流している。ヴァネッサは彼女をS.O.N.G.預けようとしたのだが、どうしてもと言って聞かなかったので仕方なくつれてきたのだ。
今まで誰も手にかけていないフランカには、これ以上血に濡れた自分たちのそばにいてほしくなかった。しかし、いつかは人間に戻り、フランカの家族を探し出してみんなで彼女の書いた音楽を聴く。この夢をかなえたいと真剣な目で言う彼女を無下には出来なかった。
「護災法の適用以来、国内における特異災害の後処理は全て儂の管理下にある。裏を返せば、ここは誰も簡単に手を出せぬ聖域に他ならぬ」
闇の中から黒服を連れて彼女たちの雇い主、訃堂が現れた。誰かを傷つけ、自分だけは生き残ろうとするどす黒い心を読んだフランカは彼の事が大嫌いだった。鋭い視線を向けるが、その視線をヴァネッサが遮った。
彼女は上っ面だけの笑顔を作る。
「つまり、アジトとするにはうってつけという訳ですわね?」
「計画の最終段階に着手してもらおう。神の力を、防人が振るう一振りに仕立て上げるのだ。ここには、その為の環境を整えてある」
黒服の一人がシェム・ハの腕輪がしまわれたアタッシュケースを差し出し、エルザがそれを受け取った。
「設備稼働に必要なエネルギーも事前に説明してある通り。手筈はすでに進めておる」
もう一人の黒服の持ったアタッシュケースの中には、大量の輸血パックが冷却用の氷と共に入っていた。何かを察したフランカが更に顔を顰める。
血液パックの中の一つを訃堂は取り出した。
「だが、儚きかな……」
手に取ったそれを地面に叩きつけて踏み潰した。辺り一面に血の水たまりが広がっていく。目の前で食料よりも必要優先度の高いRhソイル式の全血清剤をつぶされたヴァネッサたちは驚愕する。
「ろくに役目をこなせぬものがいると聞く。おかげで儂の周辺で狗が嗅ぎまわるようになっているとも」
「それは……!ぐッ……!」
『狗』と呼ばれたことで、ヴァネッサたちの中でパヴァリア光明結社で蔑まれていた時のことを思い出していた。
四人とも全員は普通の人間だったが、理不尽と不条理に飲み込まれ、人ならざるものとされてしまった者たちだ。いつ折れてもおかしくなかった。それでもヴァネッサが折れなかったのは、共に居るエルザとミラアルク。そして、怖くても、痛くても、それでも夢を諦めようとしないフランカがいたからこそだった。
そしてアダムの死という地獄の終わりを知り、逃げ出した彼女達だったが、ソイル式の血液がなければ生きられない体となっていた。そこに現れたのが風鳴訃堂という男だった。
血液の提供とただの人間に戻るという願いの成就のために彼の計画への参加を受け入れたのだ。
その彼が厳命する。
「怪物ならば、怪物なりに務めを果たしてもらうぞノーブルレッド!」
ケースを持った黒服に顎で指示し、投げ渡させる。受け止めたミラアルクが舌打ちを打った。
「計画は走り出したのだ……。最早、何人たりとも止めさせぬ」
新たなアジトの場所は、チフォージュ・シャトー跡。かつて世界を解剖しようとした錬金術師、キャロルの居城であった。
実は作中一メンタルが強靭なフランカちゃん。
子供だからこそ、諦めず、夢を信じてつき進めるんですね。まあ、子供故に大人の対応とかは出来ていませんが。
フランカちゃんマジオリハルコン