戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~   作:兵頭アキラ

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一年ってすごいですね。
高校生の時は好きで嫌いな人の曲を聞いたときにモチベーションが上がると思っていたのに、今は嫉妬心と焦っているだけってわかるんですもの。
なお、食欲減退するほどの模様。


いえない言葉

 風鳴翼の父、風鳴八紘の元に一本の電話が入る。

 その電話は彼の部屋に備え付けられている固定電話からではなく、ポケットに入っている電話からだ。つまりこれは、公務的なものではなく私的なものであると分かる。

 八紘は画面を一瞥した後、ためらうことなく通話ボタンを押した。

 

「そろそろだと思ってはいたが、盗聴は大丈夫か?」

『御用牙時分から昵懇の情報屋回線を使わせてもらっている』

 

 電話の相手は弟でありS.O.N.G.指令の弦十郎だった。

 彼は日本政府の査察を許している間にこの事件の裏側を八紘と協力して探っているのだ。足を掴まれないように公衆電話から特殊回線を使うという二重の守りだ。

 

「もちろん、念の入れようは十重に二十重だ」

 

 この二重の守り以外の他にも様々な守りを施してはいる。

 そのことに安心した八紘は深く息を吐き、座っている椅子に深くもたれかかった。息を吐いたのは、この事件の裏に潜む者が当たって欲しくない弦十郎の予想が当たっていたことが関係してもいる。

 

「お前の読み通りだ。今回の一件、正式な手続きの査察ではあるが、担当職員の中に不明瞭な経歴の物が含まれているようだ」

『そうか……』

「そして、巧妙に秘匿されてはいるが、『鎌倉』の思惑と思しき痕跡が見受けられるな」

『ッ』

 

 弦十郎からすれば事前の雷の予測を知らされていたとはいえ、事実であると突きつけられれば怯みもする。

 対外的には彼自身の予測となっているのは、雷という少女が神の力と融合し、制御下に置いていたという要因からだ。それ以外にも様々な裏事情が彼女にはある。つまるところ、これ以上、訃堂に目をつけられるのは不味いという判断だ。

 

「こちらも米国と例の交渉が佳境だった故、後手に回らざるをえなかったのだが……」

「兄貴……結社残党のノーブルレッドを擁しているのは、やっぱり……」

『早まるな弦』

 

 矢面に立つ組織であるS.O.N.G.を率いているうえで敵対するであろう『鎌倉』に対する性急さに八紘がくぎを刺す。八紘としても分からなくはないが、政治に関わっている以上そういう早とちりは手痛いしっぺ返しとして返ってくるという経験則だ。

 

「全てがつまびらかとなるまでは疑うな。私とて信じたいのだ。風鳴訃堂は曲がりなりにもこの国の防人。何より私達の父親ではないか」

『ああ、だがしかし……』

 

 しっぺ返しもある。だがそれ以上に、父親である訃堂をできれば疑いたくはないという情があった。

 先を急ぐ弦十郎を引き留め、八紘は立ち上がる。

 

「私は人を信じている。最終的に信じ抜く覚悟だからこそ、いかなる手段の行使すらもいとわない!」

「八紘兄貴……」

「だから私は、政治を自らの戦場としているのだ」

 

 八紘は信じている。この事件の首謀者である疑いはないと。だが、だからこそ、見える見えざるを関係なしに隅々まで調べ尽くすのだ。

 雪が深々と降る街が見える窓辺に立った。

 

「今は関係悪化している米国とも協力体制を必ず実現してみせる。ふ……月遺跡共同調査の提案も、その膳立てにすぎん。なおも拗れるなら、我が国への反応兵器発射事実を切り札に国際社会からの孤立を恫喝させてもらうさ』

『そいつは応える。やっぱすげえな、八紘兄貴は。兄貴の中でも一番おっかない」

 

 そういう弦十郎だが、笑を隠しきれてはいなかった。そのおっかない兄貴が味方となっているのだ、これほど心強いことはない。

 

「前線は託すぞ弦。計画が綻びを見せるのは、いつだって走り始めてからだ。この先にチラつく尻尾を逃さず掴めば、必ず真実は明らかになる。疑うのはそれからでも遅くない」

「ああ……ありがとう、ばあちゃん」

「またいつでもおいで」

 

 弦十郎は公衆電話の受話器を下した。

 そして刺していた特殊回線への鍵となるデバイスを抜き取り、元スパイの情報屋であるタバコ屋のおばあちゃんに返却した。

 

○○○

 

 久々の休みをもらった雷と響は日々の疲れを癒すべく未来と風呂に入っていた。

 響が潜っていた湯から顔を出し、雷は長く、少し癖のある髪をいつもより丁寧に洗っていた。その為、雷の頭は泡だらけになり、まるで爆発したかのようなアフロになっている。

 

「せっかくお休みをもらったのに、しょんぼりな感じね……」

「うん……。色々ありすぎてさぁ……」

 

 未来が二人の表情を目ざとく気づいた。

 響が湯船にもたれかかった。雷は頭から湯をかぶって一気に泡を洗い流し、髪の毛から水を絞って巻き付けてタオルで固定した。

 査察が入っている間、装者たちは特別待機という名の厄介払いにあっていた。彼女たちは先にバーカウンターに座り、ノートパソコンのキーボードを叩いていた雷とエルフナインの隣に座っていく。

 雷たちは今回の査察の原因であるアマルガムの情報を今分かっている範囲だけではあるが、開示できるようにまとめているのだ。

 

「一部を除く関係者に特別待機って……」

「物は言い様ってやつだ!とどのつまりは、査察の邪魔をするなって事だろ!」

「ますますもって気に入らない!」

「一番気に入らないのは私達だよ!さっき初めて見た、ほとんど情報が無いのを開示しろだなんて……」

 

 雷がモニターを見たまま、ぶつぶつと愚痴をこぼした。自主的にやっているとはいえ、やれと命令されてやっているのとほとんど変わらない状態なのだ。やる気の度合いが異なる。

 

「だが、それが正式な申し入れであるならば、私達に拒否権がないのも文民統制の原則だ。致し方あるまい……」

「というかタイミングが良すぎる!何でアマルガムが発現した丁度にこれたんだ……?」

「雷さん!」

「ああ、ゴメン」

 

 タイプする手を止め、天井を見上げて考えていた雷だったが、今はまとめるのが先だとエルフナインに咎められ、作業に戻る。分からないものをまとめるというのは結構な重労働なのだ。

 調が頬に手をついたまま呟く。

 

「休息をとるのは悪い事じゃないと思うけど……」

「だからって、はしゃぐようなお気楽者はここには誰一人いないのデス!」

 

 と言って、切歌はカウンターを『冬旅行』と書かれた雑誌でバンバンと叩いた。翼を除いた装者とエルフナインの視線が彼女に突き刺さる。

 切歌が慌てて弁明した。

 

「違うのデス!この本はたまたまそこにあっただけで……まったくもって無関係デス!」

「ふう……何とか終わりました……」

「あとは私がしとくから、エルフナインは先に休んでて」

「分かりました。雷さんの分も入れときますね」

「アリが十匹」

 

 雷とエルフナインの作業が終わったようだ。アマルガムは錬金術寄りの機能のため、エルフナインに負担をかけていたと思った雷が先に休憩を促す。

 彼女はマグカップに雷に暖かいコーヒーを淹れた後、自分用にココアを淹れ、ほっと一息をついていた。

 

「エルフナインちゃんってお休みはいつも何してるの?」

「お休みの日は気晴らししてます」

 

 休みということでいつ休んでいるのか分からないエルフナインに響が聞いた。彼女はカップから口を離し、天井を見上げる。

 

「ダイレクトフィードバックシステムを応用して、脳領域の思い出を電気信号と見立てる事で……」

「あ~!今はやめてとめてやめてとめて!」

 

 エルフナインの気晴らしとは言えない気晴らしに響が待ったをかけた。

 

「それは気晴らしじゃなくて割としっかりめのお仕事か何かだよ多分!」

「なんと!だったら僕は、お休みの日に何をしていいかわからないがっかりめの錬金術師か何かです。多分……」

「だったらぼくは……じゃないだろ全く。そういう事なら、暇潰しにしてくれるうってつけにくっついて数日過ごしな」

 

 エルフナインと翼を除いた全員の視線が今度は響に集中した。

 

「うってつけって、私ぃ~?!」

 

 と、いうことがあったのだ。

 そのことで響が悩んでいると、急に少し冷めた湯が顔面にかかった。

 

「ちょせぇ!ちょせぇいちょせぇい!」

「もってけダブルだぁ!」

「わ?!どうした?!無体なぁ?!」

 

 いきなり未来が水鉄砲で響に湯を発射した。いつの間にか雷が未来の隣で湯につかっており、彼女も便乗して両手で使う用の水鉄砲を響に向けて発射する。

 

「「クリスの真似!」」

 

 二人は銃を構えてどや顔でキメる。響が顔を拭いた。

 

「そうだっけぇ?クリスちゃんてそんなんだっけ?」

 

 そして響がニヒッと笑い、雷と未来の二人に突撃してくすぐりだした。響もクリスの真似をしている。彼女が聞いたらどのような顔をするだろうか。

 ひとしきりはしゃいだ後、未来が響に聞いた。

 

「で、せっかくのお休み、どうする?」

「どうって、どうしよ……」

 

 響が湯船に体を預ける。

 そこで雷が指を一本立てて提案した。

 

「この間言ってたあれでいいんじゃない?」

「あれ……?あ!」

 

 次の日、響と雷、未来、翼に本日の主役、エルフナインを呼んで街へ繰り出していた。四人は全力で楽しんでいるが、やはりというべきか翼の表情は暗い。

 そして本日のメインディッシュであるカラオケに入り、熱唱するエルフナインに雷が満面の笑顔でタンバリンを振っていた。曲に合わない気がしないでもないが気にしてはいけない。

 しかし、一方で一向に暗い表情のままの翼を未来が気に掛ける。

 

「響、何がどうなってるの……?」

「お可笑しいなぁ……。最近しょげてる翼さんを盛り上げるつもりだったのに……」

「すまない……。突然予定が空いたが故、立花の申し出を受け入れてはみたが……私に余裕がないのだろうな。今は歌を楽しむよりも、防人の技前を磨くべきだと心が逸る。焦るんだ……」

「翼さん……」

 

 内心を吐露する翼だが、その後ろではエルフナインの歌がサビを迎え、雷のテンションも最高潮になっていた。

 

「あの日以来、震えが止まらない……。弱き人を守れなかった、自分の無力さに……。全てが自分の所為なのだと……」

「わー!かっこいいよー!エルフナインー!」

「楽しいです!これもまた休日の過ごし方!たまにはいいですねこういうのも!」

 

 残念なことにエルフナインと雷は翼の話を全く聞いていなかった。そもそも二人はこういったところにほとんど来たことが無いため、ハマりすぎていたのだ。

 

「響は勝手すぎるよッ!」

「何もそんないい方しなくても……」

「何事ぉ?!」

 

 未来が響に叫んだ。雷のテンションが高い。

 

「って……あれ……」

「おいおい、どうして二人が……」

 

 流石の翼も慌てている。自分の話をしていたのに、いきなり未来が響を怒鳴りだしたのだからこうもなろう。因みにエルフナインと雷は全くついて行けていない。

 

「翼さんの事私にも相談くらいしてくれてもよかったじゃない!それにもっと別の方法だって……」

「私だって私なりに考えて……」

「私なりにじゃなくて、翼さんの事も考えたの?!雷もだよ!どうして私に相談してくれないの?!」

「わ、私は……焦っても何も生まないから、一度立ち止まろうって……」

「じゃあ未来は、翼さんの気持ちがわかるの?!」

「響?!」

 

 売り言葉に買い言葉。未来に否定されてしまった響は冷静さを失い、雷が説明していたにもかかわらず怒鳴ってしまった。

 未来が押し黙り、心の底から吐き出すように言葉をこぼす。

 

「分かるよ……。だって私、ずっと自分がライブに誘ったせいで大好きな人を危険な目に遭わせたと後悔してた……。それからずっと危険な目に遭わせ続けてる自分を許せずにいるんだよ?ごめんって言葉……ずっと隠してきた。それがきっと、その人を困らせてしまうとわかってたから……」

「未来……何で……」

 

 突然、本部からコールがかかってきた。

 響はバッグから通信機を取り出す。

 

「響です。雷、翼さんとエルフナインちゃんも一緒です」

『現在、査察継続中につき、戦闘指令は、査察官代行である私から通達します』

「へぇ?!どちら様ですか?!」

 

 コールに出ると、聞き知らぬ女性の声が聞こえてきた。曰く査察官だそうだが、響は状況を完全に失念していた。

 

『第32区域にアルカ・ノイズの反応検知。現在、当該箇所より最も近くに位置するSG-00、SG-01とSG-03'はただちに現場へと急行し、対象を駆逐せよ』

 

 五人は大急ぎでカラオケ屋を出る。そしてアルカ・ノイズの存在を目視し、雷が避難を促す。

 

「二人は安全なところへ!」

「うん!行こう!エルフナインちゃん!」

「未来!」

 

 未来がエルフナインを連れて避難しようとするのを響が呼び止めた。

 

「また、後で……」

「うん……。響も、気を付けてね。雷も、嫌な予感がするから……」

 

 二人は無言で頷いた。

 

「行くぞ立花!轟!」刃の曇りは、戦場にて払わせてもらう!」

「「はい!」」

 

 巨大な航空型アルカ・ノイズが小型のアルカ・ノイズを投下した。装者たちがこれを迎撃に向かう。

 これが罠であるともわからずに……。




雷、家庭事情で行けない。+エルフナイン、行ったことが無い。=ノリノリ


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