戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
アルカ・ノイズ殲滅の指令を受けた翼と響、雷は、ペンダントを手にしてシンフォギアを起動させる。
「Imyuteus Amenohabakiri Tron」
翼はアゾースギアとなった天羽々斬を身に纏い、抜刀してすれ違いざまに斬り捌いていく。まとまったアルカ・ノイズには脚部スラスターを吹かし、一気に加速して一閃した。
ビルの上から砲撃型の砲弾が降り注いだが、翼はこれを素早く回避した。発射台となっているビルを回り込んでその場にいたアルカ・ノイズを両断しつつ、外壁を蹴って屋上まで跳び上がる。
刃を振るい、その剣筋に沿って幾本ものエネルギーの剣が生み出され、放たれた。
『千ノ落涙』
放たれた剣は願いを違わずにアルカ・ノイズを串刺しにしていく。
ガングニールとケラウノスの装者である響と雷はたがいに背中合わせとなり、響がバンカーユニットをスクリューのように回転させ、そのまま大きく振り上げた。
「ぶっとべぇッ!」
そしてそれと同時に雷が電撃を放ち、高速回転する竜巻に稲妻が合わさる。周囲一帯にいるアルカ・ノイズを稲妻がからめとり、刃のような風を放つ竜巻がそれを飲み込んだ。合図すらない阿吽の呼吸。息の合ったコンビプレーに二人は拳をこつんと打ち付ける。
そんないい雰囲気を、無粋な通信が壊す。
『SG-00並びにSG-01、SG-03'に通告。不明武装の認可はまだ降りていません。くれぐれも使用は控えたし』
「まだ私達のレポートは読んでないのかい?それより、周囲の策敵をしっかりしてほしいものだね」
雷のギア、ケラウノスはレーダーによる探知能力があるが、特定条件下を除いて本部との通信がしっかりつながっている場合は使う必要がない。戦闘をしながらでは精度が下がるのが当たり前のことで、使うよりも先に友里や藤尭から報告が来るからだ。
しかし、今は自分でレーダーを展開し、代行官に索敵しろと要求している。暗に貴様は無能だと言っているのだ。
「本部!付近一帯の調査をお願いします!アルカ・ノイズがただ暴れてるなんてことおかしいです!きっと!」
響はアルカ・ノイズが暴れていながら錬金術師がいないことを懸念する。ただのノイズならともかく、召喚者が必要なアルカ・ノイズでこれはおかしい。
だが、この無能な代行官からの報告は答えに達するものではない。
『現在、装者周辺にアルカ・ノイズ以外の敵性反応は見られません。SG-r03'はこちらの指示に従ってアルカ・ノイズの掃討に専念されたし』
「ッ?!雷!」
「とっくの昔にやってる」
戦闘が始まるよりも前に使っていた雷は響に戦闘を任せ、レーダーの感度を引き上げた。
自前でやることに決めた雷たちの元に翼がやって来た。
「立花!避難誘導が完了するまでは本部からの管制に従うのだ!」
「でもッ……!」
「探知完了。今のところ錬金術師の反応はないから、多分探知エリアの外か、出すだけ出して消えたかのどちらか。ノイズ自体は東側の方が多いけど、生みだしてくる大型航空型がまだまだいる」
管制がロクでもないからやってると翼の指示を言外に切り捨て、今のところ識別できた情報を伝える。
それが気に食わないのは代行官だ。
「SG-00並びにSG-03'。これ以上指示に従わない場合は行動権を凍結し、拘束されることに……!」
本部ブリッジの扉が開き、そこから弦十郎たちS.O.N.G.の正規メンバーがやって来た。
弦十郎が持っていた令状をつきつける。この令状は八紘から受け取ったものだ。
「査察は中止だ!令状はここにある!」
緒川が拳銃を構え、ブリッジ全体を見渡した。
「該当査察官、見当たりません!」
「ッ……!鼻が利く……!」
経歴が後ろ暗い連中の一人である下卑た査察官はいないようだ。
しかしそれはそれ。オペレーター席に友里と藤尭が座った。
『戦闘管制引き継ぎます!雷ちゃん、もうレーダーはいいわよ』
『天羽々斬、敵中心部へと吶喊!』
脚部ブレードを展開し、逆立ちの状態でコマのように回転しながら斬り進む。
翼の胸の中にはやはりあの時のことが蘇っていた。
「剣たる者には使命がある!弱き人を守るべき強い力を備えている!もう二度とあのような惨劇を……!」
アルカ・ノイズを全て斬り倒し、正面を見つめると、残存しているアルカ・ノイズの中にミラアルクの姿があった。ミラアルクがニヤリと残忍に笑い、翼の目に殺意の輝きがともる。
「そこにいたかッ……!貴様ァァァッ!」
刀を大剣に変形させ、蒼いエネルギーの斬撃を放つ。それは周囲のアルカ・ノイズごとミラアルクを両断し、そのまま背後にあった車まで切断した。
「翼さん?!」
その光景を見てしまった雷が驚愕する。例の一件で精神状態が不安定だったとはいえ、たかだかアルカ・ノイズ程度にあの威力はあまりに過剰だ。何時もの翼ならば、後ろの車まで破壊するような真似はしない。
とするならば、ノーブルレッドの存在だ。雷は瞬間的にレーダーを展開する。しかし、どこを探してもそれらしい反応は見つからなかった。少なくとも、翼の周りには影も形も見当たらない。
そして再び翼の方を向くと、アルカ・ノイズ一体に大剣を大振りに構えていた。あれでは目の前のビルを破壊してしまう。
「翼さん!それは偽物です!」
「ハァァッ!」
錯乱に近い状態の翼には雷の声が届かなかった。
彼女はそのまま大剣を振り下ろし、ビルごとアルカ・ノイズを切り捨てた。今度は周囲に出現したアルカ・ノイズに対して刃を振るっているが、その太刀筋は荒い。
「このままじゃ……!」
このままでは周りの被害が甚大だと判断した雷は躊躇いなく行動に移す。腰だめに構え、体をひねって居合い抜きの体勢をとる。そして一気に踏み込んで瞬く間に翼との間合いを詰めた。そのまま稲妻を刀の形に形成して振り抜き、的確に首を狙う。
『武御雷』
一切の躊躇なく抜かれた電光の刃は翼の首に吸い込まれ、そのまま彼女の意識を刈り取った。
「がッ?!」
「翼さんは錯乱状態にあり!回収後、メディカルチェックをお願いします!」
『なんですって?!わ、分かりました!』
この戦いは、アルカ・ノイズよりも、装者である翼による被害の方が大きかった。
最後の一体を倒した響はギアを解除し、別れた未来に電話を入れる。が、一向に電話がつながらない。呼び出し音が何度も繰り返されるばかりだ。一向に繋がらない電話に響の焦りが募る。
「何で……?!何でつながらないの?!」
○○○
未来は今、電話に出られるような状態では到底なかった。彼女はエルフナインの手を引きながら、後を追ってくる本物のミラアルクを振り切ろうとする。しかし、当然の事ながらミラアルクのほうが速い。彼女は監視カメラを一つづつ潰しながら後を追う。
「あっ?!」
「エルフナインちゃん?!大丈夫?!」
角を曲がったところでエルフナインが躓いて転んでしまい、ついに追いつかれてしまった。
「エルフナインってのは、そっちのどんくさい方だろう?そうちょこまかと逃げ回ってくれたもんだぜ……!」
「ッ!友達には手を出させない!」
未来がミラアルクの前に両手を広げて立ちふさがった。
「駄目です!未来さん!」
エルフナインが叫ぶ。
すると、ミラアルクの背後から聞き覚えのある男の笑い声が聞こえてきた。
「クックック、こうも簡単に本部の外に連れ出せるとはなぁ?」
「何であなたが……」
その男は査察官その男であった。彼女たちは知る由もないが、八紘が足を掴み、弦十郎たちが捕縛しようとしている男である。
「確保を命じられたのはエルフナインただ一人。さ~て、あんたの扱いはうち一人決めあぐねるぜ」
『ピンポンパンポン。ミラアルクちゃんに連絡です』
「ヴァネッサ」
フランカを介していないということは、彼女が通すことを拒むような血に汚れたことである。その隙に未来が背後のエルフナインに呼び掛ける。
「逃げて!エルフナインちゃん!」
「未来さん、いけません!」
何故か立ち上がろうとしないエルフナインと何故か彼女を引っ張り起こさない未来である。
そんな隙にミラアルクとヴァネッサの通信が終わってしまった。
「ああ、了解したぜ……悪く思わないで欲しいぜ!」
「エルフナインちゃん!」
「未来さん逃げてください!」
ミラアルクは爪の一本を鋭利に伸ばし、振り上げた。
彼女の隣では査察官が気色悪く身じろぎしている。見たくもない顔色を見るにかなり興奮しているようだ。
「う~ん!テレビではすっかりお目にかかれなくなったシーンに私!あちこちの昂ぶりを抑えきれない!」
「未来さん逃げて!」
ミラアルクの爪が振り下ろされ、噴水のように真っ赤な血が噴きあがった。
○○○
何度も未来をコールしている響の元に、本部からの通信が入った。
『不自然に監視カメラが破壊されてるの!今からルートを送るから、それに沿って追ってください!』
「了解しました!」
響はルートに沿って駆け出す。もしかしたら未来とエルフナインが何者かに追われているかもしれない。そうであるならば、とさらに走る速度を上げる。
「未来!どこ?!未来!」
あと少しで最後だ。無事でいてと何度も祈る。
だが、目の前は行き止まり。そして道路に広がる真っ赤な血だまり。響の呼吸が荒くなり、目の前が真っ暗になる。
「未来……?未来ぅぅぅッ!」
響の叫びが曇天に吸い込まれていった。
翼に教わった技で翼を倒す雷ちゃん。
フランカちゃんにゴア表現はダメです。まだ十三歳ですので。