戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
血だまりが出来、最後に監視カメラの破損が確認された場所にはすぐさまテープによるバリケードが張られた。
現場に落ちていた未来の物と思われるスマホは破壊され、彼女が直前まで身に着けていたバッグは血に濡れている。
その凄惨な現場を、響は呆然と見降ろしていた。
「まさか……未来とエルフナインちゃんが……」
「ッ!」
雷が近くの塀に拳を目いっぱい打ち付けた。装者の中で彼女は唯一探知能力を持っている。そうでありながら、未来とエルフナインを助け出せなかったことを悔いているのだ。
雷は錯乱した翼を気絶させ、戦線を離脱させてしまっていた。二人分の戦闘領域を受け持ってしまったため、レーダーを張る暇などなかったのだが、責任感の強い彼女がそれを許せるはずがない。
今は二人とも、血だまりが未来やエルフナインの物でないことを祈るばかりだ。彼女たちの目には呆然ややりきれない怒りの中に懇願の色が混じっていた。
ともかく、先ほど一戦終えたばかりの響たちを帰還させる。ここからは大人の仕事だ。
現場を取り仕切る緒川の元に、部下であるエージェントがやって来た。
「現場周辺から遺体発見の報告ありません」
「近隣の病院に負傷者が運び込まれた記録もありません。ですが、あの出血では……」
「ふむ……。捜査範囲の、さらなる拡大をお願いします」
「「了解です」」
緒川の指示にすぐ返事を返し、行動に移す。彼は壊された監視カメラを見上げた。
(手口は周到……入念に……)
丁寧に一つ一つ破壊されている監視カメラ。丁寧すぎたために逆探知することが出来たが、その前にあまりに広域に展開されたアルカ・ノイズに気を取られ、気付くことが出来なかった。恐らく、あの査察も仕組まれたことだろう。あれの所為で対応の初速が遅くなってしまった。
弦十郎に通信を繋ぐ。
『恐らく、偶発的に巻き込まれてしまったのではなく……』
「ああ、敵の仕組んだ罠にかかってしまったと考えるべきだな……」
『保護レベル、最高位指定の二人がそろって』
「錬金術によるバックアップスタッフと神の力の依代足りうると仮説される少女……」
錬金術の技術と知識を持つエルフナインは言わずもがな。未来は響と同じく神獣鏡の輝きを浴びたもの。つまり、バラルの呪詛が解呪されているのだ。
『調査部にて警護に努めてきましたが、査察による機能不全の隙をつかれてしまいました』
「敵の狙いは未来君、またはエルフナイン君。あるいは……」
『その両方という線も考えられますね』
「いずれにせよ今必要なのは情報だ。状況打開のためにも引き続きの捜査を頼む」
『まもなく鑑識の結果も出ます。調査部の全力をかけて、必ず』
緒川との通信が切れる。彼の声には、必ず状況打開に必要な情報を掴んで見せるという強い意気込みが感じられた。
「二人とも……無事でいてくれ……」
弦十郎の声には切実な思いが込められていた。
○○○
装者たちの控室。
ここではヒビキが自分のスマホを両手で握って見つめていた。
雷は背もたれにもたれて目を腕で覆い隠し、あの時どうすればよかったかを何度も思考し続けている。が、翼を放置しておくぐらいしか転換点が無かった。つまり、翼による街の破壊を許すか、今の現状かしかなかったのだ。思考の中では何度も未来の救出に向かおうとするのだが、現実で選択した結果が組織としてなにも間違ってはいないのが苦痛だった。
そんな思い悩む二人の頭にポンッと手がのせられた。
「?」
「え?」
二人はその手の持ち主の方を見る。クリスだ。
彼女は何も言わず、無言でうなずく。その彼女の気づかいに、二人の心が少しだけ軽くなった。
「ありがとう、クリスちゃん……」
「少しだけ、楽になった」
そう言ってクリスに向けて微笑んだ。
「それにしても…まさかというよりやっぱりの陽動だったデス!」
「あの時管制指示を振り切ってさえいれば……」
「月詠と暁は、私の状況判断が誤っていたとでも言いたいのか」
響、雷よりも厄介なことになっているのが翼だ。
そもそも状況判断といえるかどうか怪しいあの判断に、挙句の果てには街を破壊しかけて雷に気絶させられたのだ。彼女のプライドはズタズタである。
今の翼はキレたナイフのようなものだ。何気ない調と切歌の一言にも噛みついてしまう。
「え?!ええと、そうじゃなくてデスね……」
「ならばどういう……!」
何とか弁明しようとする切歌に翼がなおも噛みつく。だが、それはマリアの声に遮られた。
「いい加減にして!」
「誰よりも取り乱しそうなこいつ等が!自分の成すべきことに向き合おうと努めてるんだ!頼むよ先輩ッ……!」
「翼さん……」
「……」
ここまで言われてしまえば翼は押し黙るしかない。しかし、憤懣やるかたないという感情を隠しきれていなかった。翼の反応が気になったマリアが彼女に詰め寄る。
「どうしたの?らしくもない……」
しかし、マリアの差し出した手を、翼は無意識に払ってしまった。そしてすぐに、自分のしてしまったことを理解する。
「待ちなさい!話はまだ……」
マリアの呼び止めも聞かず、翼は彼女の脇を通り、退室した。
その後ろ姿を誰も呼び止めることが出来ず、見送るだけとなってしまう。
「何だか様子が…」
「ギザギザハートになってるデス……」
「そうね……でもこれ以上責めないであげて。翼自身わかってるはずよ」
「んな事言われなくたってな!」
クリスがテーブルを叩き、歯噛みした。フロンティア事変のおりに翼に救われた身として、今度は自分がと思いたいが、現実に何も出来ないことが悔しくてたまらなかった。
○○○
ノーブルレッドの新たなアジトとなったチフォージュ・シャトーの中枢部で、ヴァネッサとフランカは儀式の準備を進めていた。
機械の中央部にはシェム・ハの腕輪がはめ込まれ、その周囲をルーン文字が囲っている。
(腕輪から抽出した無軌道なエネルギーを、拘束具にて制御……これで私達は……)
手に持ったデバイスで調整しながら確認する。
「フランカちゃん。それはこっちにお願いね」
「510902!(はーい!)」
フランカがヴァネッサの指示に元気よく返事し、結構な重量をほこる機器類をサイコキネシスで軽々と持ち上げて配置する。
その姿を微笑ましく見つめていたヴァネッサにエルザからテレパスが入る。
『ヴァネッサ。ミラアルクの帰還を確認。お客様も一緒であります』
「ご苦労様。こちらの準備も順調よ。早速取り掛かりましょう」
『ガンス!』
「神の力は、私達の未来を奪還するために……!フランカちゃん、お客様の案内をお願いできる?」
フランカは大きく頷いた。錬金術の知識がない分、何かしらの形で役立てるのがうれしいのだ。お客様、つまり未来の事は、儀式の開始に必要ではあるが、命を取るわけではないとだけ聞かされていた。つまり、彼女にとって未来は、人間になってからのお友達第一号になる人なのだ。
フランカは出来るだけパナケイア流体の濁りを抑えるべく、どんな人かなぁと頬を緩ませながら彼女はトテトテと走り出した。
そこまで遠くはなかったので、フランカは直ぐに目的の場所に到着した。
「05126013216151?(お客様は?)」
「彼女ですよ、フランカ」
目をきらめかせるフランカにエルザは気絶した未来を指さした。
そして彼女はウキウキとした足取りで未来の元に駆け寄り、じっくりと顔立ちや髪型、背格好を観察した後、嬉しそうにテレポートで姿を消した。どうも嬉しさが勝って未来の状態を上手く把握できていないようだ。大方、眠っていると思っているのだろう。
フランカは脳に機械があるため、起きているだけで流体が濁ってしまう。能力を使えばなおさらだ。
それでも能力を使ったフランカに、ミラアルクが呆れる。
「全く、ただでさえ濁るのが速いってのに……」
「でも、人間に戻れる上に新しい友達もできると考えれば、その気持ちもわかるでありますよ」
「だな!あんなに小さいんじゃ仕方ないってもんだぜ」
二人は笑い合うが、すぐに表情を引き締める。
まだ幼いフランカには見せられない、見せたくないところだ。あの子には、あの子だけは幸せになって欲しいという願い。その為に二人は、心を鬼にする。
メンバーだけ見ればすごく微笑ましいノーブルレッドの面々。
初めてお友達が出来るかもとウキウキのフランカちゃんが可愛い(なお、その後)