戦姫絶唱シンフォギアST~Scratched thunder~ 作:兵頭アキラ
アタッシュケースの中に、一つの聖遺物が収められていた。
その聖遺物の名はアンティキティラの歯車。かつてパヴァリア光明結社統制局長、アダムのそばにいた、ディヴァインウェポンとなったオートスコアラー、ティキが体内に埋め込んでいたものである。
少し前、ヴァネッサと彼女の召喚したアルカ・ノイズとの研究施設での戦闘後、瓦礫の山の中から緒川が発見したものだ。少しばかり欠けていたが、貴重な情報源であるため、調査のためにS.O.N.G.が信頼する機関に預けてあったのだ。
調査員がケースの中身を緒川に見せた後、確認を終えたとして閉じ、ロックをかける。
「調査結果はこの中に納めています」
「確かに受領いたしました」
複数の部下のエージェントを連れた緒川はそれを受け取り、本部へと帰還すべく車に乗り込んだ。
それを上空から、カメラやマイクのような物体が緒川たちを捉え、観察している。しかし、いくら忍者である緒川といえど、空高くにある飛翔物体に気づくことは出来なかった。
緒川は弦十郎に音声通信を繋ぐ。
「証拠物品と共に、これより帰投します」
簡潔に報告した後、発進した。カモフラージュのための複数台の車もそのすぐ後に続く。
その会話をはるか遠くから盗撮しているものがいた。ノーブルレッドのリーダー格、ヴァネッサだ。彼女は盗聴器であった飛翔物体から情報を収集している。
(疑いはまだしも、証拠となるものを持ち帰られるのはまずいかもね)
盗み聞いた情報を即座に統合し、答えを導き出す。そして彼女はミラアルクとエルザにテレパシーを繋ぐ。こういう荒事の場合、彼女達はフランカを参加させない。彼女の手を血で染めるわけにはいかないからだ。
「二人とも。聞こえて?警戒監視網にてS.O.N.G.の動きを捉えちゃった。私達と風鳴機関の繋がりもバレたみたいだけど、どうしよう?」
即座に返答が返ってきた。二人は丁度、エルフナインを強引に説得しようとしていたところだったが、その役目をミラアルクに任せ、エルザが通信に出る。
『位置は把握してるでありますね?!だったら迷うことはありません』
「やっぱそうよね。ここはお姉ちゃんとして強襲しかないわね!」
ヴァネッサはチフォージュ・シャトーを支える鉄骨の上にいた。彼女は地面に背を向けて飛び下り、空中で足裏のブースターを点火して反転、飛翔した。
その間にミラアルクから続きのテレパシーが届く。
『神の力の具現化はうちらで進めとく。そっちは任せたぜ』
自分たちと訃堂を繋ぐ証拠を抹消すべく、ヴァネッサは空を飛ぶ。
『間違いないのだな?』
そんな時、緒川は弦十郎に今の状況で伝えられる可能な限りのことを通信で報告していた。今回はかなり身内に踏み込んだ調査情報だ。間違いが許されないだけに弦十郎の動きは慎重だ。
しかし緒川の得た情報は確実なものだった。
「はい。技研による解析の結果、廃棄物処理場で回収した物品は119.6%の確率でアンティキラの歯車とのことです」
『冤罪ロジック構築可能な数値で、本物と立証されてしまったか……』
「先立っての事故で失われたはずの聖遺物が、敵のアジトにて発見される……」
百パーセントを超える数値。つまり、様々な可能性を鑑みても、確実に本物ということである。しかも歯車は、元々S.O.N.G.の研究施設で調査していたものだ。
『あの件に関して保管物品強奪の報せは受けていない。遺失を装い、横流しされたと考えるならば……』
「護災法施行後、国内の聖遺物管理は風鳴機関に一括。指令の懸念通り、やはり鎌倉とノーブルレッドには何らかの繋がりがあると見て……ッ?!」
緒川が急に言葉を詰まらせる。
『どうしたッ?!』
「敵襲です!恐らくは、証拠物品を狙ってと思われますッ!」
ライトで照らされた道路の先にヴァネッサが立っていた。
彼女は妖艶な動きでジャケットのファスナーを下ろし、胸部に格納された二連ミサイルランチャーを露出させ、発射した。三台いた車のうち、緒川の乗っていたものと一台が回避に成功する。しかし、最後尾を走る三台目が反応に遅れ、直撃を喰らって爆発した。
回避に成功した二台がヴァネッサの脇を通り抜ける。
彼女はファスナーを上げながら振り向いた。
「せっかく誘ったのにつれないわ」
脚部をホバー移動用に変形させ、道路を高速で疾走する。そして指先の機関砲を展開し、追撃した。緒川の車はよけることが出来たが、後ろを走っている車はまともに銃撃を受けてしまい、タイヤが破裂した。そのままハンドル操作を受け付けずにスリップし、ひっくり返ってエンジンが破裂した。
ヴァネッサの後ろから爆発音が聞こえ、炎によって明るくなる。
最後の一台となった。彼女は完全に破壊するため、両肘からミサイルを発射する。しかし、直線にしか飛ばないため、緒川のテクニックで避けられてしまった。お代わりと言うように両ひざからも発射するが、今度はガードレールを使った曲芸のような操作でひっくり返った車の頭上をミサイルが通過する。
ミサイルで駄目なら今度は体ごとだ。ヴァネッサは跳躍し、緒川の運転する車を眼下に見据える。
「行かせない……!スイッチ・オン!コレダー!」
ヴァネッサの掛け声と共に左足が槍のように変形し、外装が展開して電撃を放つスパイクが三本展開された。そして右足を曲げて上に向け、ブースタによる加速で急降下蹴りを打ち込む。
回避は不能。そう思われた。が、確実に直撃するはずの攻撃は当たらなかった。緒川の車が突如分身したのだ。
『忍法 車分身』
足を通常の状態に戻し、着地する。
「どういう事?!」
まさか忍法で車ごと分身するとは思うまい。しばらく走った後、分身が解け、一つに戻った。ヴァネッサには追撃の意志よりも驚きの色が強かった。
「現代忍法……?」
驚きのあまり足を止めている間に、呼ばれていた応援に追いつかれてしまった。背後からやって来た眩い明りに向かってロケットパンチを打ち込む。
その明りの中から雷とマリア。装者二人が飛び出した。
雷が跳躍しながらケラウノスを起動させる。
「Voltaters Kelaunus Tron」
マリアと共にシンフォギアを纏った雷は腕部ユニットから稲妻をボウガン状に展開し、雷の矢を連続で発射する。
『雷乱神楽』
ヴァネッサはそれを全速後退することで回避したが、ティアラによる電磁操作を受けて地面へ着弾する直前で方向転換し、彼女に向かってホーミングし始めた。
「何ですって?!」
このままでは避けてもきりがないと判断し、それを電磁バリアで受け流す。
「隙だらけッ!」
バリアの展開によって動作が止まってしまった隙をマリアが突くべく肉薄する。が、その背後では先ほど飛ばした両腕が機関砲の指先をマリアに向けていた。ワザと隙を作り、隙をつこうとしているのだ。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「せいやッ!」
雷とマリア、二人のコンビネーションはもっともバランスと連携に優れている。マリアが突撃し、その隙を雷が埋めた。マリアの背後を狙う両腕を蹴り上げ、その勢いで反転して蹴り落とした。
「読まれてた?!」
「であッ!」
「ッ!」
マリアの短剣による振り下ろしがバリアによって動けないヴァネッサに直撃し、大きく後退させる。後退しながら彼女はアルカ・ノイズ召喚ジェムをばら撒いた。
無数のアルカ・ノイズを召喚するが、二人にはとるに足らない相手だ。
マリアが短剣を蛇腹剣に変形させる。そして鞭のようにしなやかに操ると、その剣の上を雷が雷速で駆け抜けた。稲妻が檻のように展開した剣の間を駆け巡り、ノイズを焼き尽くしていく。
『 Silver Lobo†Prison』
前衛と後衛が阿吽の呼吸で切り替わり、今度は雷が肉薄する。が、ヴァネッサは腕を頭上の高速を走るトラックに腕を発射し、ギリギリのところで離脱した。
本部から報告が入る。如何やら緒川の安全圏への離脱が確認できたようだ。
トラックの上に乗りながら、ヴァネッサは一人呟いた。
「証拠隠滅は失敗……。こうなったら装者の足止めくらいしておかないとね」
ヴァネッサの後をマリアが車伝いに、雷が走って道路を駆け抜けて彼女のすぐ後ろの車のルーフに着地した。
「また一般人を巻き込むつもり?」
「ご名答」
「そうは……させないッ!」
マリアの声には怒りが込められていた。ヴァネッサは躊躇うことなく指先の機関砲を発射する。マリアは短剣を蛇腹状に変形させ、放たれた弾丸を全て斬り飛ばす。
「それが、アガートラームとケラウノス?妹共々あなた達、よくもまあその輝きを疑いもせず纏えるわね?」
「どういう意味?!」
「託された輝きを疑うものかッ!」
突然、ヴァネッサの口から放たれた言葉は二人の足を止めるのに十分だった。言葉の意味が気になり、思わず二人は聞き入ってしまう。
「アガートラーム……。イラク戦争の折、米軍が接収した聖遺物の一つ。シュルシャガナやイガリマと異なり、出自不明故に便宜上の呼称を与えられた得体のしれない謎のギア……。ケラウノス……。同じくイラクから出土した出自不明の聖遺物。その在り方ゆえに便宜上の呼称を与えることで制御下に置いた、本来存在しないギア……」
「「ッ」」
「なんてね?」
初めて聞く事実に世迷言と断じれず、一瞬の硬直を生んだ。その隙をついてヴァネッサが両肘からミサイルを発射する。
二人に直撃し、吹き飛んだ。
「きゃぁぁッ?!」
「わぁぁッ?!」
吹き飛ばされるも二人はお互いの手を取っていた。雷が何とか電磁操作による空中制動でマリアを受け止め、真下にいた車の上に着地する。
「搦手に引っかかっちゃった……。マリアッ!」
「ええ……!これ以上好きにはさせないッ!」
「世界のは手を見せてくれッ!」
如何やらこの車の運転手もなかなか覚悟が決まっているようだ。
しかし、だいぶ距離を置かれてしまった。これでは何をされても対応に時間がかかってしまううえ、阻止にかかるのも難しい。
「それじゃあ、こういうのはどうかしら?」
ヴァネッサはトラックから飛び下り、両肘両ひざからミサイルを四発、高速道路に向けて撃ち込んだ。道路が破壊され、寸断される。
雷はマリアにオーダーする。
「相手任せる!」
「相手任された!」
マリアが跳躍してヴァネッサの方に飛び移り、弾雨を避けながら距離を詰める。雷たちの乗っていた車は落ちてしまったが、他の車はギリギリで止まれたようだ。
マリアが短剣を振るうが、ヴァネッサはジェット噴射で上空に逃げる。彼女は余裕しゃくしゃくといた様子だ。
「あなた達が不甲斐ないから、余計な被害者出ちゃったかも?」
「残念でしたぁッ!」
突然破壊された所から雷が竜と共に飛び出し、空中で体をひねって跳び蹴りの体勢を整え、竜の咢と共にレールガンの要領でヴァネッサに蹴りを喰らわせた。不意打ちである上に圧倒的な速度。避けることも防御することもできない。
「がぁッ?!」
『雷竜降咢撃』
痛烈な一撃をもらったヴァネッサは吹き飛び、防音壁に叩きつけられた。片腕が完全に使い物にならなくなっている。
落下した車はと言うと、超電磁の竜巻によって空間に固定され、運転手は無事だ。車も細心の注意を払って固定したため、ある程度のパーツ交換ですぐに元通りだろう。
「チェックだ!」
「未来とエルフナイン、連れ去った二人の居場所を教えてもらうわ!」
ヴァネッサを追い詰めた二人だったが、突然、夜であるというのに太陽のような輝きが照らした。更に研究施設で採取された不協和音も流れてくる。
「チフォージュ・シャトー?!」
「マテリアライズ……?だけど……早すぎる!」
「やっぱりこの歌……私の胸にはアップルのようにも聞こえて……」
マリアとヴァネッサが思案を巡らせる中、雷が胸を、心臓を抑えてうずくまった。
「アァァアァァァッ?!」
「雷ッ?!」
マリアが思わず駆けより、崩れ落ちるように倒れ込んだ彼女を受け止める。そして、眉を顰めた。
(体が熱い……。まるで、熱した鉄のように……)
「本部!雷の様子がおかしい!至急……」
『バイタルの変調は確認しているッ!すでに救援を手配したッ!』
雷の体は異常なまでに体温が上昇していた。マリアはすぐさま本部に救援を要請したが、すでに手配されていた。彼らの行動は迅速だ。しばらくすれば到着するだろう。
ギアが解除された。
雷を回復体位で寝かせ、マリアはヴァネッサに注視する。出来ることなら到着まで安心させるために抱き締めていたかったが、目の前のことを解決することを先決した。
道路に横たわりながら、雷の意識が朦朧としてくる。
(からだが……とける……いたい……あつい……きもちいい……)
心臓の音は爆発するような巨大な音を立て、全身が溶けるような感覚に陥っていた。最初は燃えるように熱く、痛かったが、段々と心地よくなってきていた。
そしてぼんやりとした表情の雷は、眠るように意識を失った。その瞬間、輝きの中心から、銀色の繭のようなものが出現した。
さて、どうなりますことやら。